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「鬼は外」  節分の豆まきととき、一般的にはそう言うらしい。  だが私、鬼守樹咲《おにもり きさき》が住む鬼籠《おにかご》村では違う。 「鬼は内」  それが、節分の祭りにおけるかけ声だ。  そもそも鬼籠村では、節分に豆をまいたりしない。鬼を弱体化させる効果のある豆を投げつけ、追い払うなんてもってのほかだ。 「鬼は内」  そう言って呼び寄せた鬼を、鬼籠村では鬼捕《おにとり》と呼ばれる捕獲係が、御馳走でもてなす。  豆を使うのは、そのとき。  豪華な料理にすり潰した豆を混ぜ、おびき寄せた鬼を弱体化させて、牝鬼だけを捕らえるのだ。  そうして捕縛された牝鬼は、鬼守の家で大切に保管される。  古より重罪人に施す菱の縄目を打ち、施錠した土蔵に監禁する。  その土蔵の鍵を管理し、牝鬼の飼育をするのが、鬼守家の務めだ。  なぜ、そんなことをするのか。  それは村が外敵に襲われたとき、飼育している牝鬼に、襲撃者を撃退させるためである。  本来なら、より力が強い牡鬼を使役するほうが効果的だが、牡の鬼は凶暴すぎる。捕らえて村に招き入れたのち、暴れられたら手をつけられない。  そこで、牝鬼だけを捕らえ、牡鬼は豆で記憶を消して放逐するようになった。  戦乱の時代が終わり、村が襲われることがなくなっても、伝統は粛々と続いている。  もちろん、飼育している牝鬼に村を護らせるためには、従順に従うよう躾け調教する必要がある。  その躾と調教は、鬼を従わせる力を持つとされる、鬼守家の娘の役目。  調教係が娘なのは、男だと牝鬼に欲情して処女を奪う行為に及ぶ恐れがあるから。牝鬼は処女を喪失すると、同時に鬼としての力も失なうと信じられている。  また鬼守家の娘も、処女でなくなったり、生娘のままでも20歳を過ぎれば能力を失なう。  そんな村のしきたりに則り、躾の道具を手に、私は今日も牝鬼の土蔵に入る。  昨年の節分に捕らえてからまる1年。そのあいだ、若い牝鬼は一度も菱の縄目を解かれていない。縄の轡も、食事のとき以外ずっと噛ませたまま。  ともあれ、この牝鬼の調教は、ほぼ完了している。  囚われの身の彼女は、期待と不安の入り混じる紅い瞳を潤ませ、私を待っている。  私が来年20歳を迎え、鬼守の娘としての力を失なっても、もう逆らったりしないだろう。  その牝鬼に鼻孔に金属製のフックをかけ、角に紐を結んで鼻を吊り上げる。  角は、鬼の誇りである。はじめ、辱めを与える責めに角を利用されることを、若い牝鬼は嫌がった。  だが調教が進んだ今は、その屈辱的な行為でも、調教への期待感をいっそう膨らませるようになった。 「ぁあ……」  縄の轡を咬まされた口から甘い吐息を漏らした牝鬼を見下ろし、私は目を細めて告げた。 「さあ、今日も気持ちいいことしよっか?」

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