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ポニー学園物語 3.ポニーのご褒美  ポニー調教は主に午前中行われ、午後は休養に充てられる。  それは、ハードな拘束と調教を受けるポニーの体力面を考慮して。同時に調教師が午前中の調教の成果を午後評価し、翌日からの課題を洗い出すためである。  とはいえ、調教初日の私の午後は、別の予定があった。 「成果は上々よ。明日からは、ほんもののポニーブーツに換えられそうね」  手綱を引かれて馬房に戻ると、藤島調教師が私にフェイスハーネスからハミだけを外した。 「ん、あ……」  ハミが口から離れたところで、口中に溜まっていた涎が糸を引いた。 「ぅ、あ……」  その涎を吸い取ろうとしてうまくいかず、涎の糸がプツリと切れて顎を濡らす。 「あっ、や……」  それがまた恥ずかしくてうつむくと、藤島調教師が目を細めてほほ笑んだ。 「ミワ号のそういうところ、好きよ」 「えっ……ぅおえ(それ)は?」  長時間ハミを噛まされていたせいで、うまく動かせない口で訊ねると、藤島調教師が背後に回り込みながら答えてくれた。 「調教中は溢れる涎を気にしないほど集中していたのに、調教が終われば、ちょっと垂れるだけで恥ずかしがるところ。気心が知れても、羞恥心を失わないところ」  それもまた、私が陸上競技に打ち込んでいたからだろう。  試合でも練習でも、極限まで自分を追い込んだとき、アスリートは人目を気にしなくなる。逆に気にしていると、勝つことはできない。 「いわゆる、脳内麻薬というものかしらね……」  私がそのことを告げると、藤島調教師は得心したように口を開いた。 「調教中、ポニーのなかにも、そうなる者がいるわ。もしかしたら優れたアスリートと優秀なポニー、共通するところがあるのかもしれないわね」  そしてそう言って、藤島調教師はアームバインダーの編み上げ紐を解いていく。 「アームバインダー、きつかったでしょう?」  そのとおりだった。  ただ腕を拘束されるだけではない。胸を反らせ、肩を後ろにすぼめ、肘と肘をくっつけた状態で、上半身を固めてしまうアームバインダーは、想像以上に私の体力を削っていた。  まず感じたのは、上半身の異様なまでの不自由さ。  腕を背中にくっついた棒のように拘束されたせいで、歩くときに腕の反動を使えない。そのうえで、不自然に足を高く上げるポニー基本歩法で歩き続けたせいで、疲労の蓄積は尋常ではない。  次に感じたのは、肩の痛み。  ふだんはけっしてしない姿勢を強制的に持続させられ、1時間ほどで肩が痛み始めた。陽が高く上がり、調教が終わる頃には、痛みは耐えがたいものになっていた。 「馴れていけば、痛みは和らぐわ。1年もすれば、数日着けたままで過ごせるようになる」  そうなのだろうか。にわかには信じられないが、藤島調教師が気休めの嘘を言うはずがない。とはいえ、超厳重なな拘束具に馴れてしまうというのも、恐ろしい気がする。  そんなことを考えているうち、腕がアームバインダーから解放された。 「開放感がすごいと思うけど、急に動かさないほうがいいわ。初めて腕が肩にくっついたつもりで、ゆっくり慣らすこと」 「はい、わかりました」 「それじゃ、昼食を用意してくるわね」  その忠告にうなずくと、藤島調教師はほほ笑んでうなずき、馬房を出て行った。  扉に鍵をかけずに立ち去ったのは、馬房から脱走しても、島から出る手段が船しかないからか。その船さえ押さえておけば、逃げられる恐れはないと考えているのか。  いや、そればかりではないだろう。  外部から鍵をかけるという行為は、心理的に『閉じ込められた』という感覚を生む。そう思い知らせるだけで、逃亡しようとする気持ちをくじく効果がある。  朝の調教の成果を見て、藤島調教師は、もうその措置の必要がないと感じたのだ。  それは喜ぶべきことなのか、悲しむべきことなのか。  床に敷き詰められた干し草の上に立ちすくみ漠然と考えながら、ネックコルセットのせいで首は動かしにくいから、身体ごと回転して馬房のなかを見わたしてみる。 (こんなに、広かったっけ?)  昨日ここに放り込まれたときは、極度の緊張感と日没後の暗さで気づかなかった。朝目覚めたときは、身だしなみを整えるのに忙しくて、ゆっくり眺める余裕がなかった。  それが、気持ちが落ち着いたところであらためて見ると、馬房は思いのほか広かった。  部屋全体は、約6メートル四方のほぼ正方形。家具等はないから、よけい広く感じる。  壁はコンクリートの打ちっぱなし。入口のドア以外に窓などはないが、換気と明かりとりのためだろう、壁と天井とのあいだに20センチほどの隙間がある。細い子ならその隙間から外に抜けられるかもしれないが、高さ3メートルはありそうな天井近くまで、よじ登る手段がない。  その天井は木製。傾斜があるのは、屋根の形に沿っているのだろう。コンクリート造なら必要ないはずの太い木の梁が縦横に走り、その梁を支えるように、部屋のほぼ真ん中に丸い柱がある (ひとりじゃもったいない……かな?)  馬房の広さにそう思いながら洋式便器とその横の洗面台へと視線を移したところで、昨夜首輪の鎖を繋がれた壁のリングが目に止まった。  そこには1メートルほどの間隔で、ふたつリングがあった。そのうちのひとつの上に、今朝まではなかったプレートが取り付けられていた。  そこには私の顔写真――おそらく女矯連の事務所で撮られたもの――に、私の番号0039とミワ号という名前。その下に小さく元名と経歴が書かれていた。  そしてその横のリングの上にも、プレート取り付け用と思しき金具が。 (もしかして、ここは本来ふたり部屋?)  それを見てふと思ったところで、藤島調教師が戻ってきた。 「はい、どうぞ」  そう言って彼女が運んできたのは、サンドイッチ。  夜はパンとスープ。朝はパンとミルク。食事がいずれも軽食である理由が、今ならわかる。  それは、コルセットだ。  ここの食事のメニューは、ウエストを中心に胸の下からお尻のすぐ上までをきつく締めあげるコルセットを装着し、お腹いっぱい食べられない状態を前提に決められているのだ。 「きつい調教のあとだから足りないかもしれないけど、3時にはおやつもあるからね」  そして総カロリーが足りないぶんは、おやつで補充するのだろう。 「ちょっと待ってね。コルセット着けてても座りやすいようにしてあげる」  いったんふたりぶんのサンドイッチを受け取り、彼女が床の藁をかき集めて椅子のような形に整え、その上にバンダナを敷いたところでひとつを返す。  今日の藤島調教師は、ほんとうに親切だ。いや親切というより、面倒見がいいというべきか。  おそらく、それは今日にかぎったことではなく、明日からも続くだろう。また藤島調教師だけではなく、ほかの調教師も、自分が担当するポニーを親身に世話しているのだろう。  それはまさしく、調教師と調教される馬の関係。  しかしポニーとしての自覚が完全ではない私は、それが藤島調教師との個人的な関係ゆえのものと、私だからそうしてくれるのだと思ってしまった。  とはいえ、それで私が彼女に甘えたりするわけではない。  陸上部でコーチに節度をわきまえて接していたように、藤島調教師に親近感を抱いても、上下関係をわきまえて接する。  厳しい部活の経験から上下関係をすんなり受け入れたように、親近感を持ちつつ節度をわきまえて接することを自然に受け入れる。  そうしてふたり並んでサンドイッチを平らげ、飲みものを飲み、しばし歓談してから、藤島調教師が私に告げた。 「さて、お昼からは最後のポニー装備、お尻の尻尾を着けてあげるわ。あと、予定外に調教が進んだことのご褒美もあげなきゃね」  食事のあとアームバインダーの代わりに、私は新たな拘束具を見せられた。 「拘束用ミトンよ」  その言葉どおり、拘束具は手のひらを一体で包み込む手袋、ミトンに、手枷が取り付けられたような形状だった。  ふつうの防寒用のミトンとの違いは、手を収納する部分が、極端に小さいこと。 「手をグーにして」  藤島調教師がそう言ったのは、そのためだ。実際グーを握った手に拘束用ミトンを着けられると、私の手は指を開くことができなくなった。  つまり、もうなにも手で持つことはできない。  そのことを思い知らされたところで、藤島調教師が馬房の真ん中の柱を抱くように、拘束用ミトンどうしをつないで拘束された。 「な、なにを……?」  されるのだろうか。 「言ったでしょう?」  背中にぴったりとくっついて、藤島調教師が私を後ろから抱きしめた。 「尻尾を着ける前に、ご褒美をあげるのよ」  そして腋の下から前に回した手で、私の胸に触れた。 「ひゃっ!? な、なにを……?」 「こういうの、期待していたんでしょう?」 「そ、そんなこと……ないです」 「嘘。おっぱい先っちょ、ぷっくり膨れてるよ?」  わかっている。女の子がエッチな気分になったとき、そうなることも知っている。  でも、今は違う。私はエッチな気分になんかなってないし、乳首が膨れているのは、そこが外気と人目に晒されていたせいだ。 「それを、期待しているって言うのよ。まだ自分では気づいていないでしょうけど、おまえは裸身を外気と人目に晒して、感じる体質なの」 「そ、そんな……」 「違うと思う?」  言い合うあいだにも、藤島調教師の指が、乳首の上でサワサワ揺れる。  円を描くように、触れるか触れないかの強さで乳輪を撫でながら、ときおり乳首の上をスッと通過する。 「違いま……ひうっ!?」  そのたび、身体をピクンと跳ねさせてしまう。 「ううん、違わないわ。競技のとき、レース用のセパレートユニフォームの中で、乳首が今と同じようになってることはなかった?」  あった。でもそれは、気分が高揚していたからだ。特に私の場合は、気分の高揚しすぎて力みを生み、本番で力を出しきれなかったほどだ。 「ええ、気分が高揚していたのは、間違いないでしょうね。でもその高揚は、緊張感がもたらしたものなの? それとも、性的な興奮がもたらしたものだったの?」 「き、緊張感です……」 「ほんとうに? ほんとうにそうだと言いきれる? そもそも、ミワ号は緊張感がもたらす高揚感と、性的興奮による高揚感を区別できる?」 「そ、それは……」  自信を持って答えられなかった。  できると断言できるほど、私には経験がなかった。高揚感を抱くほど、性的に興奮したこともなかった。 「うふふ……嘘がつけないのね。そういうところも好きよ。もっともっとご褒美あげたくなっちゃう」  そんな私の耳元で囁きながら、藤島調教師は嵩にかかって乳首を責める。 「ふつうなら、またご褒美が欲しくなるよう、調教師はポニーを最後までイカせないんだけど……今日のミワ号は特別」 「えっ、最後までイカせるって……ひあっ!?」  訊き返そうとしたとき、藤島調教師が耳たぶを唇で噛んだ。 「ひっ、あっあっ……」  ゾワリと妖しい感覚が噛まれたところから広がると、それまで軽く撫でるだけだった乳首を、指でつままれた。 「はっ、あひゃ……!?」  それで乳首からもゾワリとした感覚が生まれ、乳房全体に広がった。 「うふふ……さっきは膨れていただけだったのに、今はコリコリに硬くなってるわよ。やっぱり、始めから性的に興奮していたんだね?」 「違う……違います……」 「違わないわ。だって今は、はっきり性的な興奮を感じてるんでしょう?」 「そ、それは……ですが……」 「そこは違うと言わないのね? 嘘がつけないミワ号、大好きよ」 「あ、いえ、それは……ふぁ、はっあっ……」  慌てて取り繕おうとしたところで、藤島調教師がつまんでいた乳首を指でこねた。 「あひっ、はふぁ……」  自分でも驚くほど甘い吐息を漏らしたところで、反対側の乳首もつままれた。 「嘘をつくと言う行為は、調教師への反抗とみなされるものだけど……」  そこで、藤島調教師がドキッとすることを口にした。 『反抗すれば罰せられる。従順に従い、調教師の期待以上の成果を示せば褒美を与えられる』  その言葉と鞭の痛みと失禁の屈辱を思い出し、ご褒美が一転、罰になるかもと恐怖した。 「嘘がつけないミワ号のことだもの。見られて感じていたと認めないのも、けっして嘘をついているんじゃない。反抗しているわけでもない。自分が見られて感じる体質だと、気づいてなかっただけ。そうよね?」  その言葉は、罰を恐れる私にとって、助け舟だった。  同時に、調教をより進めるための、罠でもあった。  流されやすい性格の私は、反抗したと捉えられ、罰せられるのが怖くて用意された助け舟に乗り込んでしまう。 「は、はい……」  そして、そう答えてしまったことで、間接的に『私は見られて感じる体質』と認めてしまったのと同じ。次にそれを否定しようとすれば、今しがたの肯定が、嘘だということになってしまう。  実のところ、私が見られて感じる体質なのかどうかはわからない。  にもかかわらず、私は見られて感じる体質の女の子――いや、ポニーとして振る舞わなくてはいけなくなった。 「うふふ……ミワ号は、見られて悦ぶポニー。そうよね?」 「は、はい……私は見られて悦ぶポニーですぅ……」  そして繰り返し認めることで、『見られて悦ぶポニー』という作られた事実が、精神に刷り込まれていく。  ほんとうにそうなのかわからないのに、自分が『見られて悦ぶポニー』だと、思い込まされていく。 「見られて感じて、ぷっくり膨らませた乳首を愛撫されて……もう気持ちよくなるしかないね」  実際に乳首を弄られて性的な昂ぶりを感じながらそう言われ、それしか道はないと思わせられる。  そうなると、快感が大きくなるペースは速い。 「ひうっ、あっあっ……」  両胸の乳首をつまんでこねられ、ビリビリ痺れるような快感が広がった。 「あっ、あひゃあっ……」  片方の乳首を押しつぶされて、広がった快感が背すじを駆け抜けた。 「ひっあっ、あぁん……」  押しつぶされた乳首をピンと弾かれて、快感が肉体の芯に達した。 「うふふ……ますます蕩けてきたわ。ミワ号は見られて悦ぶだけじゃなくて、乳首が感じるポニーなのね」 「はふぁ……ふぁい、私は見られて悦ぶだけじゃなく、乳首で感じるポニーですぅ」  そして藤島調教師に誘導されて、私の感じるポイントが増えていく。  同時に、言葉の最後に『……なポニーです』と言わされることで、快感に蕩け始めた脳に、ポニーの自覚が植えつけられていく。 「見られて悦ぶだけじゃなく、乳首で感じるポニーのミワ号、大好きよ。もっともっと、かわいいポニーになってね」 「はふぁあいぃ……わたしぃ、先生に好かれるかわいいポニーになりますぅ……」  そこで、私は藤島調教師を無意識に『先生』と読んでいた。  それは、陸上部でコーチを『先生』と呼んでいたからか。快感で蕩ける脳が、藤島調教師のことを信頼できる指導者として、無意識に認識したからか。  わからない。わからないが、その呼びかたを藤島調教師も気に入ってくれた。 「先生か……うん、いいわね。ミワ号、これからも私のことを先生と呼びなさい」 「はふぁあいぃ……わらひ、せんせいのことをせんせいと……あれ、おかひい……かな?」  とはいえその時点で、すでに私の脳は乳首の快感に完全に冒され、自分がなにを口走っているのかわからないほど蕩けきっていた。 「うふふ……ミワ号、もうなにがなんだかわからないほど、気持ちよくなってるのね?」 「はひいぃ……わらひ、きもひぃいれすぅ……」  藤島調教師になにを言われても、受け入れ、認めてしまう。  柱を抱いて、藤島調教師に抱かれて、乳首を弄られながら、前後不覚に陥っていく。 「気持ちいいなら、イッちゃおうか」 「はひぃ……きもひぃいから、イッちゃいましゅう」 「乳首を弄られながら、ポニーのミワ号、イッちゃおうか」 「はひ、はひぃ……ポニーのわらひ、ちくび……」  そこで、なにかが来た。  乳首から乳房に広がり、背すじから肉体の芯にも移った快感が、そこをも蕩けさせる。蕩けて生まれた熱が、私の女の子の部分から、ジュンと溢れる。 「はひゃ……なにか、なにかきてりゅうう!」 「それが、女の子の絶頂よ。ポニーのミワ号が得られる、最上級のご褒美よ」 「あひゃ、あっ……ポニーのわらひぃ、ぜっちょう……」  蕩けたものが溢れ、下半身全体まで蕩ける。蕩けて、力が抜ける。 「そうよ、ミワ号はイッちゃうの」  柱を抱いたままガクンと力が抜けた私の身体を支えながら、藤島調教師が耳元でささやく。 「はふぁあ、わらひ、イク?」 「そうよ。ミワ号は、イッてるの」 「はひゃあぁ……わらひ、わらひぃ……」  もう、なにもわからない。かろうじて理解できたのは、自分がイッているということだけ。 「あひゃあぁあッ! イクッ、イッちゃうウッ!」  柱を抱くように拘束された身体が、ビクンと跳ねた気がした。  柱を抱いたまま、藤島調教師に抱かれたまま、際限なくどこまでも落ちて、いや堕ちてイクような。 「アフぁあああッ! イクっ、イグイグイッッ!」  これ以上ないほど、みじめな境遇のはずなのに、これさえあればほかになにもいらないと思えるほど、大きな幸福感に包まれて。 (す、ごい……コレ、すごい……)  圧倒的な快感の奔流に押し流され、受け止めきれないほど大きな幸福感に押しつぶされ、たしかにコレは最上級のご褒美だと感じながら――。 「はひゃあ、ぁあぁあァアあああんッ!」  あられもなく性の悦びを叫んで、私は意識を手放した。

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