ヒトイヌ科３年３組の山田さんはおさんぽイヤイヤ中 (Pixiv Fanbox)

　私が通う山之中女子学園には、他に類を見ない学科がある。 　それは、ヒトイヌ科。 　人でありながら犬として扱われ、犬として愛玩されるための技術を身につけるためのコースである。 　なぜヒトイヌ科が、公に認められて学園に存在しているのか。詳しい理由はわからない。 　とはいえ、かねてよりこの国には一定数のヒトイヌを飼いたい人がいて、ヒトイヌとして飼われたい人もいたのだろう。山之中女子学園には昔からヒトイヌ科があり、全国から学園生が集まっている。 　そんなヒトイヌ科学園生のひとりが、山田さん。 　小麦色に日焼けした肌にベリーショートの髪型と童顔、学園のヒトイヌスーツが体操服を模したものであることとも相まって、一見すると陸上部の中学生にも見える愛らしい女の子だ。 　ともあれ、私が山田さんの飼育係になったのは、１年生の１学期。以来２年と半年、山田さんから指名され、私も希望して、彼女の飼育係を続けている。 　山田さんは、手のかからない素直なヒトイヌだった。 　いや、ほかのヒトイヌがどうなのかは知らないが、少なくとも山田さんの飼育に手間がかかることはなかった。 　ところが、３年の２学期が始まった頃から、山田さんがわがままな態度を示すようになった。 　それは、おさんぽの途中でイヤイヤをすること。 「３年生のこの時期、こうなる子が多いのよ。通過儀礼のようなものと思って、気長に付き合ってあげて」 　担任の先生に相談すると、意味ありげな笑顔を浮かべてそう言われた。 　とはいえ、私は山田さんがそうなる理由も、そうなったときの対処法も知っている。 「どうしたの？　もう歩きたくないの？」 　この日もおさんぽの途中、上体を起こして四足歩行を拒否した山田さんの前にしゃがみ込むと、私は彼女の顔を覗き込んだ。 　あいかわらずの、かわいさだ。 　愛くるしいヒトイヌ姿を間近で見ていると、ついつい苛めたくなる。 「きちんと歩かないと、こうしちゃうよ？」 　目を細めて告げ、私は山田さんのヒトイヌスーツの胸、ふたつの膨らみの頂点付近に設えられたファスナーのつまみに手をかけた。 　そして、彼女の目をしっかり見て、ファスナーをゆっくり引き下げる。 　すると、できた開口部から、山田さんの乳首がこぼれ出た。 　ぷっくり膨れて屹立したそこには、金色に輝く金属製のリング。乳首ピアスが肉を穿ち、取りつけられていた。 　もちろん、私がそうしたくて嵌めたものである。 　おさんほイヤイヤ期が始まった頃は、ピアスつき乳首を露出させるだけで山田さんは歩行を再開していた。四つん這いになれば、そこを他人の目から隠せるからだ。 　だが最近は、ピアスつき乳首晒しも効かなくなってきた。 　それは、山田さんが羞恥心を失ったからではない。その証拠に乳首を露出させられた彼女は、恥ずかしさに眉をハの字に歪め、頬を朱に染めている。 　にもかかわらずイヤイヤを続けるのは、私に訴えたいことがあるからだ。私からのある言葉を、彼女は期待しているのだ。 　そのことを知っていながら、私は彼女が期待する言葉は口にせず、新たな装具を取り出した。 　ヒトイヌ呼吸制御マスク。 　山田さんの顔を拘束するハーネスに密着させて取りつけ、開口リングギャグの口と鼻を覆い、マスクの犬の鼻を模した部分に穿たれた小さな穴からしか呼吸できなくする責め具である。 「これ、つけちゃうよ？」 　マスクを見せて告げると、山田さんが一瞬怯えたような表情を見せた。 　しかし、かわいい抵抗はやめない。 「うふふ……そんなに苦しい目に遭いたいの？」 　そこで薄く嗤い、私は呼吸制御マスクを取りつけた。 　すると小さな呼吸孔からシューと息を吐き、山田さんは表情を蕩けさせた。 　そう、山田さんは私に苛められたいのだ。同時に、私は山田さんを苛めたいのだ。 　それは、今に始まったことじゃない。山田さんはヒトイヌ科に入学したときから、私は彼女の飼育係になったときから、ずっとそうだった。 　その関係を、私は卒業まで続けるつもりだ。 　山田さんが期待する言葉――卒業したら正式の飼い主となり、生涯飼う――を口にすれば、彼女は満足してイヤイヤをやめるだろう。 　実のところ、長く飼育係を務めた学園生とヒトイヌは、卒業後結ばれることが多い。相談したとき担任の先生が意味深に笑ったのは、その事実を知っていたからだ。 　でも、私は山田さんの望みをすぐには叶えてあげない。卒業式当日まで誓いの言葉を口にせず、イヤイヤする彼女を苛め続ける。 　あらためて心に決め、私は蕩けておとなしくなった山田さんのリードを引いた。