小説 きみを飼いたい・黒(後編) (Pixiv Fanbox)
Published:
2022-10-07 09:00:00
Imported:
2023-04
Content
全寮制の山百合学園では、基本的に違うクラスの者どうしを寮の同室にする。
つまりルームメイトである私と明里は、クラスメイトではないということだ。
そのことに一抹の寂しさを感じることもあるが、授業中の会えない時間には、彼女への思いをより深くする効果がある。
明里について、深く考える時間を与えられているようにも思える。
マゾヒスト、被虐性愛者、マゾ。
愛する相手から肉体的・精神的に支配され、苦痛をともなう責めを与えられることで、性的満足を得る者。
おそらく、明里はマゾだ。
はじめは、単にネコだと思っていたが、それだけではない。
『きみを飼いたい』
ただ受け身で愛されることを好むのではなく、支配されることで悦ぶ性質を持っているから、私の言葉を受け入れてくれのだ。
だからこそ、首輪を嵌められ、つながれたリードの端を私に握られて、明里は蕩けてしまう。
そんなマゾの彼女に首輪を嵌め、支配し飼うことで昂ぶる私は、きっと――。
佐智と会えない授業中、彼女のことを考える。
首に愛しい女性《ひと》の支配の証がないことを淋しく感じながら、佐智のことに思いを馳せる。
サディスト、加虐性愛者、サド。
愛する相手を肉体的・精神的に支配し、苦痛をともなう責めを与えることで、性的満足を得る者。
たぶん、佐智はサドだ。
ただのタチではなく、加虐で昂ぶる性向も持っているのだ。
『きみを飼いたい』
その言葉は、あたしを支配したいという欲求の発露なのだ。
だからこそ、首輪を嵌め、リードを握り、高揚もあらわに佐智は妖しく嗤う。
そんな彼女に首輪を嵌められ、支配され飼われることで蕩けるあたしは、きっと――。
「あっ、ふ、あっ……」
私の下で、明里が悶える。
ギチッ、ミチッと彼女の四肢を縛《いまし》める革が鳴く。
季節はもう夏。壁のフックにかけられた私たちの制服は、白い生地の夏服に変わっていた。
あれから――明里を飼うと宣言し、首輪を嵌めてから――愛しい彼女に嵌める拘束具は、少しずつ増えていった。
手枷、足枷、それらをベッドの脚につなぐ、革のベルト。アルバイトを禁止された学園生の身には、とても大きい出費だ。
だが、惜しくはない。
マゾの明里をより悦ばせるための装具を、私が惜しむわけがない。
サディスト、加虐性愛者、サド。
愛する女性《人を》支配し、責めることで昂ぶる性向を、私ははっきり自覚していた。
(今、きっと私は……)
嗜虐的な笑みを浮かべていることだろう。
四肢を縛められた明里の乳首を弄りながら、加虐の悦びに瞳を輝かせていることだろう。
「んっ、あ、あふぁ……」
明里の艶声が、少しずつ大きくなる。
ギチッ、ミチチ……。
身悶えによる革鳴きに、切れめがなくなる。
「あふぁ、あっ、あッ……」
手枷足枷につないだベルトを、ベッドの脚に結ばれて、抗えない状況での愛撫にマゾの明里が高まる。
だが、サドの私は、明里が気持ちよくなるだけでは満足できない。
「声、大きいよ。隣の部屋に、聞こえちゃうよ」
耳元でささやくと、明里がピクリと反応した。
「明里の気持ちよさそうな声、聞かれてもいいの?」
さらに告げると、明里は口をつぐんで声を出すまいとした。
そこで、耳たぶを唇で噛む。
「はっ、ひッ……」
すると、明里が甘い吐息を漏らした。
さらに耳たぶから首すじへと舌を這わせると、縛しめられた身体をピクッと震わせた。
「い、いじわるぅ……」
明里の唇が恨みごとを紡ぎだすが、嫌がっているわけではない。
「あっ、ぅん……や、やめてぇ……」
ほんとうに、やめてほしいわけでもない。
形ばかりの拒絶の言葉は、明里の羞恥心が言わしめたものだ。
どれほど肌を重ねようと、初々しい羞恥心を失わないのが、彼女の美点のひとつ。
そして支配され責められて高まるマゾの明里は、恥ずかしさにも官能を煽られる。
「ふっ、んっ、うっ……」
高まる性感に抗い、必死で声を抑える。
ギシッ、ギチッと革を鳴かせ、押し寄せる快感に耐える。
その愛らしい肢体に、私も昂ぶる。
「うっ、あっ……ぁあッ」
再び、明里の口から声が漏れた。
「ひっ、あっ、あぁあッ」
もはや、抑えたいのに抑えられないといったところか。
「うっあっ……さ、佐智、おねがい……」
明里が蕩けきった瞳で私を見ておねだりしたのは、声を出せなくするための措置だ。
「いいわよ、いつものようにしてあげる」
そう答えて私が取り出したのは、愛用のハンカチ。もちろん洗濯済みの清潔なものだが、それには私の匂いが染みついている。
「アーンして」
ハンカチをかざして告げると、明里が口を開けた。
その口に、丸めた布塊をねじ込む。
「ぁ、ん……」
口中を満たしたそれを、明里が噛みしめたところで、胸への愛撫の再開。
「んっ、ん……」
声が漏れないようにと始めたそれは、思いもよらぬ効果を生み出していた。
「もう、声は漏れないよ。明里がなにを言っても、誰にも伝わらないよ」
その効果を最大限活かすため、明里に声をかける。
「ねぇ明里、気持ちいい?」
愛撫を続けながら、耳元でささやく。
「んぅんんん……」
すると、明里がうめき声をあげた。
「なにか言った? わからないよ」
そう答えたが、明里がなにを言ったか、私にはわかっている。
『気持ちいい』
なにを言っても誰にも、もちろん私にも伝わらないと思って、悦びを認めたのだ。
「ねぇ、気持ちいい?」
「んぅんんん(気持ちいい)っ」
ふだんの明里ならけっして口にしない言葉を。羞恥心から認めない自らの高まりを。
「わからないわ。気持ちいいの?」
「んぅんんん(気持ちいい)ッ!」
伝わらないと思い込み、声高らかに悦びを叫ぶ。
それから、明里の高まりはさらに急になった。
悦びを認め口にすることで、肉体と精神の昂ぶりを否応なく自覚したせいだ。
「んっ、んっ、んッ!」
甘くうめきながら、明里が一直線に高まる。
「んッ、ん、んんッ!」
手足に力を込め、ギチッ、ミチッと革を鳴かせる。
(ここが、頃合い)
そう判断し、体勢を変える。
四肢を広げた明里の横に側臥し、佐智の肩と胸の境いめあたりに頭を乗せ、乳首への愛撫は続けながら自らの股間へともう一方の手を伸ばす。
するとそこは、触れるだけで水音が聞こえるほど潤っていた。
「あ、ふ……」
ジーンと広がる快感に蕩けながら、明里の乳首を弄っていた方の手も下に移動。
自分で触っているのと同じ場所に指を這わせると、彼女のそこは私以上に潤っていた。
「明里、一緒に……」
声をかけながら、明里の入り口に沿って撫でる。同じ動きで、自分のそこもさする。
「い、一緒に……イこう」
その言葉に、蕩けきった明里がうなずいた直後、私の指が女の子のいちばん感じる場所を通過した。
快感神経を集めて作られた快楽器官、陰核《クリトリス》。
「……ンッ!?」
蜜にまみれた指でそれを擦られて、明里が目を剥いた。
「……ひッ!」
私も悲鳴じみて喘いだ。
ものすごい快感。圧倒的な快楽。
一瞬で飛びそうになる。意識を持っていかれそうになる。
(で、でも……私がイッちゃうまえに、明里を……)
気持ちよく、イカせてあげなくてはならない。
わずかに残った思考能力でかろうじて考え、ぷっくり膨れて自己主張する明里の陰核をキュッと押す。
「んッ、ンむンんんッ!」
口にねじ込まれたハンカチを噛みしめ、明里が縛めの身をこわばらせた。
ギシッ、ミチチッ。
革を鳴かせ、身体をビクンと跳ねさせた。
(明里、イッたんだ)
そのことを確認したあと、彼女にしたように自分の陰核を押すと――。
「ひッ、クぅんんんッ!」
少し遅れて、私も絶頂した。
たどり着いた性の高みから――いや、佐智に連れてきてもらった恍惚の世界から――ゆっくりと下りてくる。少しずつ、醒めてくる。
まだ、拘束は解かれていない。腕も脚も、わずかに曲げる程度にしか動かせない。
私の肩から胸にかけてに頭を乗せ、佐智はぐったりしたまま、ときおり身体をピクッと震わせている。
(あたしたちは……)
一緒にイッたんだ。佐智にイカせてもらったんだ。
その愛しい女性《ひと》を、ギュッと抱きしめたいのに、四肢を拘束されてできない。
そのことが、せつない。
けれども、今はそれでよかった。
あたしを拘束したのは、佐智だから。
彼女に望まれて、あたしは自由を奪われているのだから。
そのうえ、あたしに身を寄せる彼女の体温を感じていられるのだから。
あたしは、幸せ。
できることなら、このままこうしていたい。
佐智に自由を奪われて、身も心も支配されて、ずっとずっと飼われていたい。
(でも……)
それが許されるのは、朝がくるまで。
朝になると、あたしは拘束を解かれる。首輪も外される。
精神《こころ》は彼女にしっかりつなぎ留められていても、肉体《からだ》をつなぐ頸木《くびき》を失なう。
もちろん、手枷足枷はおろか、首輪もずっと着け続けることはできないことはわかっている。
それでも佐智との関係が深まるにつれ、マゾの私は、一緒にいられないときも彼女の支配を実感していたいと思うようになっていた。
明里の願望はわかっていた。
はじめは会えない時間が会えたときの悦びを増すためのスパイスになると考えていた私も、次第に彼女と同じ願いを持つようになっていた。
明里を、もっと強く支配したい。
一緒にいられないあいだも、彼女を飼っていると実感していたい。
それを実現するための装具を、私は知っていた。
同時に、それを嵌めるには私に、そして明里にも、覚悟が必要なこともわかっていた。
その覚悟を示すために、彼女にも迫るために。
私は明里の胸から顔を上げた。
長かった夏休みが終わった。
できることなら、ふたりで寮にいたかった。帰省するとしても、お互いの家を行き来して一緒にいたかった。
でも、佐智はそれを許さなかった。
あの夜――彼女が覚悟を示し、あたしが覚悟に応えた夜――そう決めたから。
佐智は夏休み中、彼女のお婆さんの店で、アルバイトをした。
それは、佐智があたしに嵌めたいと願い、あたしが嵌めてもらうと決めた装具が、革の拘束具より高価な代物だから。
もちろん、あたしも手伝いたかった。
だが、学園の規則はアルバイトを禁止している。家業の手伝いは例外で、佐智がお婆さんの店で働くのはいわばグレーゾーンだが、あたしがすると規則違反。
それ以上に、佐智には飼い主としての矜持があった。
ペットのあたしに嵌める装具は、自分自身の力で用意しなくてはならないという、強い思いがあった。
飼われる立場で飼い主の矜持、強靭な意志に逆らうことはできず、愛しい女性《ひと》とひと月にわたって別々に過ごした。
そして、休み明け。
その装具を購入するための詳細なサイズ測定を行ない、体型が変わらないよう摂生に努めて、さらに1カ月。
制服が白い夏服から再び紺色の冬服に変わった頃、その装具――貞操帯が、届いた。
私が新たな装具――貞操帯を取り出すと、下着姿になった明里が、緊張した面持ちでコクリと喉を鳴らした。
首輪のときも、手枷足枷を嵌めたときも、見せなかった反応である。
それは、彼女も貞操帯の意味を知っているからだろう。
夏休み前に貞操帯を嵌めると予言してからならふた月、休み明けにはそれを誂えるための測定をしてからでも1カ月、貞操帯についての知識を得るには充分すぎる時間があった。
それでも明里は、貞操帯を拒まなかった。意味を知ったがゆえの緊張で喉を鳴らしただけで、拒否するそぶりも見せなかった。
そのことを嬉しく思いながら、取り出した貞操帯をいったん置き、まず拘束具を嵌めていく。
首輪。すっかり明里の肌に馴染んだそれを首に巻き、首が絞まらない程度にきつく締め込む。
手枷。きっちりと手首に嵌め、両手を後ろに回させて金具で接続する。
足枷。しゃがんで取りつけてから、明里を見上げて声をかけた。
「パンツ、脱がせるね」
明里がコクンとうなずくのを待って、スポブラとお揃いのボクサーショーツに手をかける。
パンツを脱がせるとき一瞬片足立ちの不安定な姿勢になるが、優れたバランス感覚と身体能力を持つ明里なら後手拘束のままでも平気だ。
それでも一応、バランスを崩したらすぐ支えられるよう、注意しながら片方ずつ足をショーツから抜かせる。
そのとき、クロッチ部分に小さな染みができているのを、私は見逃さなかった。
(貞操帯を嵌められる意味を知っている明里は、きっと……)
そのことをも期待しているんだ。
そうと確信しながら、ショーツを小さくたたんで置くと、あらためて明里に命じる。
「脚を開いて」
「は、はい……」
緊張のためか、昂ぶりのせいか、それとも羞恥心からか。丁寧語で答えた明里が、おずおずと脚を開く。
「もう少し広く」
さらに告げ、肩幅より少し広い程度に開かせたところで、足枷どうしを金属製のバーでつなぎ、脚を閉じられなくする。
そうして準備を整え、私はあらためて貞操帯を手に取った。
真ん中が低く、サイド部分が高い、三次元のカーブを描く横ベルト。おしゃもじ形の前部分と、丸く膨らんだ位置で円形にくり抜かれたところがある後ろ部分が組み合わされた縦ベルト。
ふたつの金属製ベルトで構成された貞操帯を、佐智が私に見せる。
横ベルトの高くなったサイド部分は、腰骨の出っぱりの上端付近にあたる位置だ。対して中央部が低くなっているのは、屈んだりしたとき、お腹を圧迫しないようにとの配慮だ。
縦ベルトの後ろ部分の穴は、お尻の穴をクリアするため。前部分に本体から少し浮かせて、南京錠を介して取りつけられている金属板に無数に穿たれた小さな穴は、小水の排泄孔。
本体の女の子の場所にあたる位置は幅1センチほどの溝になっており、排泄はできるが異物の挿入はできない構造。その上に別の金属板を取りつけることで、そこに触れることすらできなくする。
まさに、お股の拘束具。性器の監獄。
それを嵌められ、閉じ込められてしまうと、あたしの性器は自分のものではなくなる。佐智に管理され、彼女の所有物になってしまう。
「うふふ……」
薄く嗤って、沙智が縦にふたつ並んだもののうち、上側の南京錠に小さな鍵を差し込んだ。
カチリ。
小さな金属音とともに解錠。後ろ側の蝶番を支点に、貞操帯が3つに分かれた。
「嵌めるよ」
その言葉にうなずくと、佐智があたしの腰に手を回した。
愛しい彼女に、抱きつかれるような体勢に、ドキリとする。身体の奥に生まれていた熱が、わずかに大きくなる。
これからお股を封印されようとしているのに、肉を昂ぶらせてしまう。
たぶん、佐智もそのことに気づいている。でもあえて指摘せず、貞操帯の横ベルトをあたしの腰まわりに這わせていく。
あたりまえのことだが、革の首輪や手枷足枷より冷たく硬い。
人の力ではどうにもできない頑丈な金属が、あたしの肌に密着する。
カチッの小さく聞こえた音は、おへその何センチか下で、横ベルトが組み合わされた音だ。
片方の小さなピンをもう片方の穴に嵌めただけで外れないのは、サイズがぴったりだからに違いない。
つまりそれは、隙間がまったくないということ。横ベルトが肉の薄い腰骨部分に引っかかり、下にずれないということ。
詳細に正確に測定されたこと、サイズが変化しないよう節制に努めていたことの成果を感じていると、佐智が広げた脚のあいだにぶら下がっていた、貞操帯の縦ベルトを手に取った。
「うふふ……」
あたしを見上げて妖しく嗤い、佐智が縦ベルトを持ち上げていく。
横ベルトよりいくぶん細い、縦ベルトの後半部分がお尻の肉を割って密着していく。
円形にくり抜かれた部分が、肛門まわりにむにっと押しつけられる。
同時に、熱く火照り始めた媚肉にも触れる。
「ひっ……」
冷たく硬い金属が女の子の場所に触れ、小さく悲鳴をあげてしまった。
「は、ひ……」
おしゃもじ形の部分の中央に切られた溝から媚肉がはみ出す感触。
とはいえ、痛みはない。不快な感覚もない。硬くても滑らかな金属板が、繊細な場所を傷つけそうな予兆もない。
身体が火照る。顔が熱い。
「はふ……はふ……」
緩く開いた口で呼吸してしまうのは、沙智に完全支配される身の上に昂ぶっているせいか。
「うふふ……うふふ……」
佐智の嗤いが妖艶さを増していくのは、彼女もあたしを完全支配することに高揚しているためか。
そう、あたしは貞操帯で完全支配される。
最後部が腰骨上部のそれは、愛用のボクサーショーツで隠れてしまう。多少はシルエットが浮きでるだろうが、その程度の違和感を、他人はいちいち気にしない。その上から体操着のハーフパンツや練習着のショートパンツを穿けば、もう誰にも気づかれない。
つまり、体育を含めて授業中も、部活のあいだも、嵌めっぱなしでいられる。
佐智がそうすると決めるまで、あたしが貞操帯から解放されることはない。
そうと思い知り、コクリと喉を鳴らしてところで――。
カチリ。
横ベルトに縦ベルトが組み合わされたところに南京錠がかけられ、あたしのお股は完全に封印された。
1年365日、あたしは四六時中、佐智に飼われ、所有され、支配され、管理される存在に堕ちた。
(了)