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「ふぅ……やれやれだわ」  新任の上司たる貴屋真有紀美《きやま ゆきみ》を送り出し、自室の椅子に深く腰かけると、真祖の魔法少女にして魔法少女特別対策班班長、黒咲弥美《くろさき やみ》はひとつ息を吐いた。 「でも彼女には、とても大きい野心がある。その野心をうまくくすぐり、利用すれば、私の野望が実現に近づく……」  そうつぶやくと、弥美は唇の端を吊り上げて嗤った。  弥美が有紀美に語った言葉は、すべて真実というわけではなかった。  それは、魔法少女と魔巣拘斗についてのこと。 『魔巣拘斗の姿は、同類と魔法少女にしか見えません。その声は、仲間と魔法少女にしか聞こえません』  その言葉は、事実だった。だが続く言葉は、ほとんど嘘だった。 『魔巣拘斗は、自らの魔法少女の前では、小動物のような愛らしい姿に擬態しています』  それは違う。魔巣拘斗は、擬態などしていない。 『魔巣拘斗は、自分が覚醒させた者以外の魔法少女には、醜悪な真の姿を見せていると?』  弥美が肯定した有紀美の問いは、ほんとうは当たっていない。魔巣拘斗の真の姿は、けっして醜悪なものではない。  魔法少女が、真の姿を見せたほかの魔巣拘斗や、自分以外の魔法少女と戦っているわけでもない。当面の敵を倒したあと、その矛先が人類に向くということもない。 『我々はいまだ、魔巣拘斗出現の予知はおろか、出現したこと自体を感知できないのですから』  魔巣拘斗出現を予知できないのは事実だが、弥美は出現したことを感知できる。 「そもそも……」  薄く嗤ったまま、弥美はひとり言《ご》ちた。 「資質ある娘を魔法少女として覚醒させる魔巣拘斗も、ほんとうは魔法少女。自らの力で能力に覚醒した、真祖の魔法少女……」  そこで弥美が椅子から立ち上がり、入り口とは反対側の書架に歩み寄った。 「長年、私は探してきた……」  書架から一冊の本を取り出し、その奥に設えられたスイッチを押す。  すると書架がゆっくりと横に移動し、鋼鉄の扉が現われた。 「そして、ついに見つけた……」  つぶやきながら、弥美が扉に設えられたキーパッドに暗唱番号を入力する。  ぶ厚い鋼鉄の扉が、スライドしてゆっくり開く。 「見つけて、捕らえた……」  捕らえた者が、この部屋にいるというのか。 「戦闘を中心にあらゆる魔法に長けたゼネラリストの真祖たる私とは違い、ほかの娘を眷属の魔法少女として覚醒させる能力に特化した、覚醒スペシャリストの魔法少女。いわば魔巣拘斗の真祖を……」  その娘が、ここに閉じ込められているのか。  部屋の中には、逆海老反りを強いられた若い娘を象ったような、鋼鉄のオブジェが天井から吊られているだけなのに。  もしそのオブジェの中に人が閉じ込められたら、苦しい体勢に1時間も耐えられないだろう。  顔の部分に縦に並んだ小さな穴のうち、上側の緑色のLEDランプ近くのものが呼吸孔だとすれば、生きていくのにギリギリの空気しか取り込めないに違いない。  下側の赤いランプつきのほうが食餌用なら、固形物は注入できず、流動食しか与えられない。 「うふふ……」  瞳に妖しい光をたたえ、弥美が鋼鉄のオブジェの前に立った。 「そろそろ、仕上がってるかしら……」  どこか恍惚としたような表情でオブジェの表面を撫で回し、それから手のひらに収まる程度の小さな端末を取り出す。 「快楽の虜にしたあなたを堕とし、私に絶対服従の奴隷とする。そのうえで、集めた魔法少女候補をあなたの力で覚醒させる。そうして、私の魔法少女部隊を編成する。そのために……」  そう言いながら、弥美が端末を操作すると、オブジェからピッと小さな電子音が聞こえた 「今、顔だけ解放してあげる。顔を見ながら、陥落の言葉を聞いてあげる」  そして端末をポケットにしまい、人型オブジェの顔にあたる部分の側面に設えられていた、親指の爪ほどの大きさのピンを外す。  すると、仮面のような部分が、オブジェ本体から離れた。 「ぉ、う……」  直後、オブジェ本体と仮面の隙間から、人のうめき声のような音が聞こえた。 「おぅ、ぉご……」  仮面が本体から離れるにつれ、うめき声が大きくなる。  その下から、人の――若い娘の顔が現われる。 「ぉお、ぅごぉ……」  その娘が目を白黒させながら、獣のように低くうめく。  それは彼女の口に赤いホースが、ふたつの鼻孔に緑色のチューブが、それぞれねじ込まれていたからだろう。  その色からして、同じ色のLEDが灯る仮面の穴に、ホースとチューブはつながっているのだ。  仮面が20センチ以上顔から離れた。  しかし、ホースとチューブは、まだ娘の口と鼻から抜け落ちない。 「ねぇ、引きずり出されるの、つらい?」  苦しげにうめく娘に、弥美がいやらしく訊ねる。 「うふふ……まだ喋れないか?」  それは、ホースがいまだ、彼女の口中を占拠しているから。 「でも、喋れても答えてくれなさそうね?」  そう言ったのは、娘が一瞬、弥美を睨んだからだ。 「これに閉じ込めて、すでにひと月。まだ、そんな目ができるのね……大好きよ、苛めがいがあるわ」  そして、弥美が妖しく輝く目を細めた直後――。 「ぉごぉおおッ!?」  ホースとチューブを一気に引きずり出された娘が、再び目を剥いてうめいた。 前編 「魔法少女特別対策班班長、黒咲弥美です」  そう名乗った女が白根光梨《しらね ひかり》のもとを訪れたのは、長い夏の休暇が終わり、学校が再開されてすぐの頃だった。 「あなたの同級生が魔法少女になったことについて、お話をお聞きしたいのです」  そのことは、知っていた。少なからず驚いた。  だが、自分には直接関係ないと思っていた。 「ご同行いただけますか?」 「えっ、なぜ?」  だから、とまどった。  しかし、拒否することはできなかった。 「任意で同行いただけないなら、強制連行という形を取らざるをえませんが」 「そんな……私がなにをしたというんですか!?」  言葉は慇懃だが、有無を言わせぬような態度に思わず抗議すると、弥美が薄く嗤った。  その直後、雷に打たれたような衝撃に襲われ、光梨は意識を失った。 「ん……」  低くうめいて、光梨は目覚めた。  いや、正確にはうめいたわけではない。うめいたつもりの彼女の声は、空気が細いところを通過するときの、シューという音にしかなっていなかった。  目を開けても、なにも見えないまっ暗闇。  音も聞こえず、匂いも感じられない。 「シュ、シュー……ッ!?」  わけがわからず、パニックに陥り叫ぶが、やはり言葉は声にならなかった。 「シューッ、シューッ!」  空気の通過音をたて、全身に力を込めるが、逆海老反りの歪《いびつ》な体勢で固められた身体は、ピクリとも動かせなかった。 「シュシュー(なにコレ)ッ、シュシュー(なにコレ)ッ、シュシュー(なにコレえ)ッ!」  声をかぎりに叫び、いや叫んだつもりで、力のかぎりに暴れても、なにも起こらない。  やがて息がきれ、力つき、身体から力を抜く。  そこで、耳孔に直接語りかけるような女の声が聞こえた。 「お目覚めのようね」  声の主は、すぐにわかった。  口調は変わっているし、声質も若干違う気がするが、これは黒咲弥美と名乗った女の声だ。  耳穴になにかを押し込まれているような感覚からして、マイクで拾った彼女の声を、イヤホンで聞かせているのかもしれない。  そうと理解した直後、不意に視界が復活した。  だが目に映る光景は、とうてい自分の目で見たものとは思えない。  黒咲弥美と鎖で吊られた鋼鉄のオブジェを、斜め上の高い視点から見下ろす映像。  まるで、天井付近に設えられた監視カメラの映像を、VRのゴーグルで見せられているような――。 「まるで、じゃないわ。このあなたをホッグタイの姿勢で固める鋼鉄の拘束装置、その裏側の目にあたる部分に仕込んだモニターに、監視カメラの映像を映しているのよ」  耳孔に直接声が聞こえると同時に、映像のなかで弥美の口が動いた。  とはいえ、その言葉はまったく理解できなかった。  カメラの映像を見せられているのは間違いないだろうが、弥美の側に鎖で吊られたオブジェの中に、自分が閉じ込められているとは信じられなかった。 「信じられない?」  あたりまえだ。オブジェのような鉄塊と同じ姿勢を強いられていることは感じているが、その中に自分がいるとは思えない。 「だったら……こうすれば、わかってもらえるかしら?」  声が聞こえた直後、弥美の手が鋼鉄オブジェの頭を小突いた。  コンコン。  同時に、頭にかすかな振動が伝わる。 (えっ……まさか、ほんとうに?)  自分は鋼鉄のオブジェに閉じ込められているのか。  そう考えて戦慄した直後、弥美の手がオブジェの顔に触れた。 「こうしたら、もっとよく理解できるかしら?」  直後、息を吸い込めなくなった。 「……!?」  突然の呼吸制限に驚愕するが、それは一瞬。  すぐに息を吸い込めるようになったところで、弥美の声が聞こえた。 「うふふ……今ね、あなたの呼吸孔を指で塞いだの」  つまり、光梨の呼吸孔は、鋼鉄オブジェの顔にあるということだ。  もう、疑いようがない。これで、確定した。  光梨は弥美の前で天井から鎖で吊られた、人型オブジェの中に閉じ込められている。  たしか弥美はホッグタイと言ったか。両手を背中に回してまっすぐ伸ばし、折りたたまれた脚と束ねて縛られたような状態で、背すじを反らした姿勢を強制されたまま。 (でも、どうして……?)  とてつもなく凄惨な状態に陥っているのに、耐えがたい苦痛を感じないのか。 「それは、あなたが魔法少女だからよ」  それは違う。  魔法少女になったのは同級生であり、光梨ではない。 「うふふ……やっぱり、まったく自覚していないのね」  光梨が心のなかで否定すると、弥美が嗤って答えた。  そして、上司たる有紀美にすら知らせていない、魔法少女と魔巣拘斗の、そして光梨自身の真実を語った。 (ま、まさか……そ、そんなこと……) 「信じられない?」 (あ、あたりまえ……) 「じゃあどうして、ふつうの娘なら1時間と耐えられないような超拘束下で、あなたはさして苦痛を感じていないの?」 (そ、それは……) 「そもそも、うめき声が音にすらならない状態で、なぜ私と会話できているの?」 (……ッ!?)  言われて、ハッとした。 「さっき塞いだ呼吸孔につながるチューブは、鼻孔を経て気道の奥深くまで挿入されている。声帯を震わせる前にチューブを通過するから、叫ぼうが喚こうが声は出ないというわけ」  それもまた受け入れがたい事実だが、たしかに思っただけで会話が成立している。 「そんな状態で会話が成立しているのは、あなたがすでに、真祖の魔法少女として覚醒しているから。それゆえ、同じ真祖たる私のあいだで、念波による意思疎通ができるの」 (で、でも……あなたの声は……) 「マイクで拾った音声を、イヤホンで聞かせてると思ってる? 残念、あなたの耳穴を占拠しているのは、音を聞こえなくするだけの遮音耳栓。その証拠に……」  直後、弥美の手が再びオブジェの頭を小突いた。  コンコン、と響いてくる振動。しかし、叩く音はまったく聞こえない。 「ね、マイクで拾って聞かせているなら、硬い鋼鉄を叩く音が聞こえるはずでしょう?」  たしかに、そのとおりだ。  聞こえているのは、念波によって伝えられる弥美の声だけだ。  光梨が真祖の魔法少女、ほかの資質ある娘を眷属の魔法少女として覚醒させる能力を持つ、魔巣拘斗の真祖として覚醒したことは間違いない。  弥美が告げたように、だからこそ歪な姿勢で全身を固められていても、さして苦痛を感じないのだ。  自覚しないまま魔巣拘斗の真相として覚醒してしまったせいで、身の回りにいた資質ある同級生を、知らず知らずのうちに魔法少女にしてしまっていたのだ。 「とはいえ、あなたはまだ覚醒したばかり。捕らえて監禁している魔法少女候補の娘はぶ厚いコンクリート壁を何枚も隔てた先にいるから、今のあなたの力では、覚醒させて私を襲わせることは不可能よ」  そんなことはわかっている。そもそも光梨は、どうやって同級生を魔法少女にしたのかもわかっていない。  ただ事実を突きつけられたことで、驚き、とまどい、混乱しながらも、自分が真祖の魔法少女だと理解させられただけ。 (でも、なぜ……)  弥美はこんなことをするのか。  覚醒した光梨を捕らえ、監禁したのか。 「その理由は、おいおい説明してあげるわ……」  薄く嗤って弥美が小さな端末を操作した直後、光梨の視界が再び闇に閉ざされた。  その直後である。 「……?」  お尻の穴に、違和感を覚えた。 「ようやく気づいたようね? あなたの肛門には、排泄管理用の器具が挿入されている。それをいまから、セットアップしていくわ」 (えっ? 排泄管理? 挿入? い、いったい……?)  わけがわからずとまどっているうちに、お尻の違和感が増してきた。  そこに挿入されていたなにかが、どんどん太くなっていることをはっきり感じ取れるようになってきた。 (どうして……なぜ、気づかなかったの?)  それは、弥美の深謀遠慮のせいである。  目覚めてもなにも見えない状況でパニックに陥らせ、それを視覚を取り戻させることで落ち着かせる。  間髪入れず驚愕の事実を次々と突きつけ、違和感を覚えられるだけの心理的余裕を与えない。  そして、それが一段落したところで、再び視覚を遮断する。  人は情報の大半を、視覚から得ている。それを奪われてしまうと、圧倒的に情報が不足する。その情報不足を補うため、本能的に聴覚触覚などほかの感覚を研ぎ澄ませる。  結果、肌感覚は鋭敏になる。  それでようやく、異物の存在を感じたのだ。  とはいえ、光梨はそのことに気づけない。  弥美も、あえて教えない。  気づけず教えられないまま、肛門の異物は太さを増していく。肛門がこじ開けられる。 「……ッ、……ッ」  きつい、苦しい。これ以上拡げられてしまうと、肛門が壊れてしまいそうだ。  だが、そうと訴えることはできない。 「シュッ、シュッ」  光梨にできるのは、肛門を強制的に拡張される苦痛に、浅く短い呼吸をくり返して耐えることのみ。  いや、ほんとうは耐える必要すらなかった。  頭のてっぺんからつま先まで、ピクリとも動かせないほどガチガチに固められた光梨は、挿入された器具による強制肛門拡張を拒めないのだから。  どれほどきつくても、苦しくても、悲鳴をあげても、泣き叫んでも、声は空気の通過音にしかならないのだから。 「そろそろ、このあたりが頃合いかしらね」  肛門拡張の苦痛が極限に達したところで、弥美の声が聞こえた。  同時に拡張が止まるが、それで光梨の苦痛が終わるわけではない。 「今、挿入されていた排泄管理器具の括約筋にあたる部分のバルーンを膨らませ、肛門に隙間なく密着させたの。これから肛門の内と外でもバルーンを膨らませ、器具を完全に固定するわね」  弥美がそう言うと、お尻の圧迫感がさらに増し始めた。 「肛門の中、直腸には痛覚神経がなく、痛みは感じない。でもさすがにこのサイズになると、猛烈な圧迫を感じるでしょう?」  そのとおりだ。肛門を限界まで拡張されたうえ、内と外でもバルーンを膨らませ、挟み込まれることで、苦痛はどんどんどん増していく。 「でもそれは、一過性のもの。馴らされてしまえば、これがふつうになるわ」  そうなのだろうか、馴らされてしまえば、この苦痛を感じなくて済むのだろうか。  もっとも、そうなることも恐ろしいが。  そして、光梨に対する凄惨な措置は、まだまだ用意されている。 「肛門用排泄管理器具のセットアップ完了……これから、もうひとつの排泄管理器具もセットアップするわね」 (えっ……?) 「うふふ……あたりまえでしょう? 排泄の穴がふたつあること、忘れちゃった?」  弥美が愉しそうに告げた直後、前の排泄穴も強烈な圧迫感に襲われ始めた。 「尿道でも、同じことをしているの。器具の構造は少し違うけれど」  それは、肛門と尿道の違いによるものだ。  肛門は慎重に馴らしていけば。直径10センチ近くまで拡張できる。しかし尿道は、そういうわけにはいかない。 「だから、肛門の器具の基本構造は、金属製のパイプの周りに拡張用バルーンと固定用バルーンを取りつけたもの。対して尿道用では、挿入した極細かつ柔軟なチューブを、セットアップ時に膨張させたのち、硬化させて固定する仕組み」  弥美が告げるあいだにも、チューブが尿道内で膨張していくおぞましい感覚。  とはいえ、肛門用ほどの猛烈な圧迫感が生まれる前に、膨張は終了。あっけなく硬化・固定されて、ふたつの排泄管理器具のセットアップは終了した。 「これであなたは、私の許可なく排泄できなくなった。私がさせたいと思ったとき、いつでも排泄させられるようになった……」  つまり、光梨は身体の自由と言葉に加え、自分の意思で排泄する権利をも奪われたということ。  それは女性として、人としての尊厳を奪われた状態である。  そうと知り、愕然とする光梨。 「でもね、あなたに対する措置は、これで終わりじゃないの」  弥美の声が聞こえた直後、乳首の上でなにかが蠢いた。 「……ッ!?」  視覚を奪われたせいで鋭敏になった触覚で、そのことを感じとる。 「乳首用性感管理装置……ローションで湿らされたシリコーンゴムのブラシで、乳首を擦っているの。素材はきわめて柔らかいし、潤滑されているから、まるで触手で弄られているようでしょう?」  触手で身体を弄られた経験のない光梨には、それがどういう感触なのかわからない。だが、そこに妖しい感覚が生まれているのは間違いない。 「しかも性感を高めることに特化したAIで繊細に制御されているから、オンナにはたまらない責めよ」  弥美があえて言いきったのもまた、光梨を堕とすための深謀遠慮のひとつ。  最大の情報源たる視覚を奪われた人は、ほかの感覚を研ぎ澄ませて情報不足を補おうとする。触覚が鋭敏になるだけではなく、聴覚も研ぎ澄まされる。  そして聴覚はもともと、視覚に次いで重要な情報源である。視覚を奪われた今、聴覚は光梨のなかでもっとも優先度が高い。  つまり耳で聞いたことを、そのまま信じてしまいやすい状態。 「あなたも、きっと性感管理装置の虜になる……」  そんな状態に陥っている光梨の精神に、弥美の言葉が少しずつ刷り込まれる。 「そして、取りつけられた性感管理装置は、乳首用だけじゃない……」  刷り込みながら、次なる装置を起動させる。 「……ッ!?」  次に奇妙な蠢きを感じたのは、排泄管理器具が装着された尿道の少し上。女の子の快感神経を集めて作られたような小さな豆、陰核《クリトリス》だった。  ただし、その動きは乳首のものより穏やか。かつ繊細。  それは、陰核が乳首より、さらに敏感な場所だから。 『性感を高めることに特化したAIで繊細に制御されている』  弥美の言葉のとおり、性感管理装置は設えられたされた場所の感度に応じ、刺激の種類を変えているのだ。  加えて、AIには拘束装置に設置されたセンサーで把握した脈拍や呼吸、血圧等により、官能の高まり具合を察知。それに合わせて蠢きの強さを変えるのだが、そちらはまだ機能していない。  とはいえ、その機能が発揮されるもの、時間の問題だろう。  乳首と陰核を繊細に優しく愛撫する装置は、性体験に乏しく未開発の光梨の肉体を、少しずつ昂ぶらせる。  ゆっくりではあっても、確実に官能を高めていく。 「シュッ、シュッ、シュッ……」  少しずつ、呼吸が荒くなってきた。 「シュッ、シュッ、シュッ……」  肉の芯が、熱を持ち始めた。  その熱が、密となって肉壺に浸み出す。  いまだ何者の侵入も許したことのないそこから、媚肉に溢れ出す。  もはや、官能の高まりはあきらか。  そのことを自覚させられながら、いっそう肉体を昂ぶらされる。 「うふふ……気持ちよさそうねぇ」  昂ぶりを念波で察知した弥美に指摘されながら、さらに高められる。 (んぅ、んっ、んんッ……)  漏らす吐息に、甘みが混じり始める。 「シュッ、シュッ、シュッ……」  しかし、聞こえるのは呼吸孔を通過する空気の音のみ。  熱く火照る肉の奥が融け、密となって処女地から溢れる。  だが、光梨の昂ぶりは、弥美以外の者には伝わらない。  もしこの場に誰かがいても、監視カメラの映像をあとから見ても、光梨の官能の高まりに気づく者はいないだろう。  そもそも、鋼鉄のオブジェの中に人が閉じ込められていると、考えもしないに違いない。  瞼の裏に焼きついた光景を思い出しながら、暗闇の中で肉体を昂ぶらされる。  匂いはいっさい感じられず、口中を経て食道に達するホースの味しかわからず、弥美の声しか聞こえない状態で、官能を高められる。 「シュッ、シュッ、シュッ……」  空気が通過する音。  トプン、トプン。  媚肉が熱い蜜を吐き出す。  そこで、なにかが媚肉に押し当てられた。  いまだ何者も侵入したとのない入り口が、わずかにこじ開けられた。 「シュッ……!?」  驚き、小さく声にならない悲鳴をあげる。 (ひッ……!?)  オンナの本能が察知した破瓜の予感に、恐れおののく。  しかし、そこまでだった。  媚肉をこじ開けた異物は、中の粘膜に触れたところで侵入を止めた。  そしてそこで、緩く弱く震え始める。  乳首と陰核に加え、光梨の入り口でも肉の玩弄を開始する。  そこから、官能の高まりが急になった。 (ど、どうして……?)  こんなみじめきわまりない状況で、かつて経験したことがないほど昂ぶるのか。 (わ、わたし……わたしは……)  いまだ性体験のない、処女なのに。  それはもちろん、性感管理装置のせいである。  オンナを高めることに特化したAIが、処女を昂ぶらせるのに最適の刺激を与えているからである。  加えて、光梨は自分の状態を弥美に指摘されている。  肉体を昂ぶらされ、官能の高まりを自覚したうえに、聴覚で刷り込まれているのだ。  こうなると、もう抑えられない。 「シュッ、シュッ、シュッ……」  呼吸がますます速く荒くなる。  苦しい、苦しい、息が苦しい。  だが、肉の昂ぶりは治まらない。苦しさは自覚しているのに、官能は高まり続ける。  頭がぼうっとしてくるのは、吸い込める空気が足りていないのか。それとも、官能の高まりで蕩けているのか。  わからない。わからないうえに、考えることすらできなくなっていく。  異性との、いや同性との性体験もないままに、光梨は性の高みへと否応なく追い上げられていく。  そこで、弥美の声が聞こえた。 「1回、イッとく?」 「シュッ(えっ)……シュッ(イク)?」  言葉の意味がわからず、思わず空気音で訊き返したときである。  なにかが、来た。  いや、光梨のほうがたどり着いたと言うべきか。 「シュッ(んッ)、シュッ(ああッ)!」  意識せず、歓喜の声が漏れる。  そうしようとしていないのに、身体がこわばる。  こわばった身体が、ビクンビクンと跳ねる。  とはいえ、光梨の声は音にすらなっていない。いかに身体をこわばらせようと、こわばる身体を跳ねさせようと、鋼鉄で固められた肉体は震えもしていない。  そんな凄惨な超厳重拘束に囚われたまま、光梨は――。 「うふふ……おイキなさい」  弥美の言葉に弾かれ、絶頂の世界に飛ばされた。

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