小説版『幼なじみはポニーガール』と表紙用イラスト (Pixiv Fanbox)
Published:
2019-06-12 12:47:45
Edited:
2022-04-06 06:51:44
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短編小説『幼なじみはポニーガール』の表紙イラストの大サイズ、および文字なし版です。
かねてより懸案だった温室効果ガスによる地球温暖化は、いよいよ深刻になっていた。
その抜本的対策として、各国は二酸化炭素排出ゼロ条約を締結。内燃機関の生産や使用はもちろん、生産時や廃車時に大量の二酸化炭素を発生させるという理由で、EVの生産も禁止された。
条約締結を受け、温暖化防止のための人馬法、通称ポニーガール法。その法律が施行されたのが6年前。
以来街には、自動車やバイクに代わり、ポニーガールやポニーボーイが溢れるようになった。
とはいえ法律が施行され、ポニー用駐馬場が街に整備されても、ポニーの頭数は圧倒的に足りなかった。
それもそのはず、繰り返し改正された動物愛護法により、牛馬を労働に使役することは禁じられている。そのため乗用車やタクシーはもちろん、トラックに頼っていた物流までポニーが担わなくてはならないのだ。通常の募集だけで足りるわけがない。
そのポニー不足解消のため経済界の強い要請により、私こと鞍田サキ《くらた さき》が中学を卒業した年、新たなポニーガール法が成立した。
その名は、ポニー徴用法。
以来、18歳の時点で一定の要件を満たさない者は、強制的にポニーガール・ポニーボーイとして徴用されるようになった。
そして月日が経ち、学力でポニー徴用免除の資格はもちろん、返済不要のS級奨学金をも得た私は、都会の大学に進学し――。
「……!?」
都会に出て1年が過ぎた頃、偶然通りがかった小さなポニー販売店の前で、私は息を飲んだ。
「ま、まさか……」
特徴的な紅い髪のポニーガールを見つけ、4年前の記憶が蘇った。
「に、ニーナ……」
馬乃ニーナ《まの にいな》。中学まで同じ学校に通った、幼なじみで親友の、勝気で陽気な女の子である。
部活が強制だった田舎の中学で陸上部に入り、ニーナはそこで頭角を現わした。短距離種目の県記録を次々と塗り替え、スカウトされて陸上競技に力を入れている県外の高校に進んだ。
その後、私が県内の進学校に進み、勉学ひとすじの生活になったこともあり、ニーナと交わることはなくなったが、高校でも陸上競技で活躍していると思っていた。
私が勉学で徴用免除の資格を得たように、ニーナも陸上競技で有資格者になったと信じていた。
それなのに――。
「ポニーをお探しですか?」
顔にはあの頃の面影があるものの、身体つきはすっかり変わってしまったニーナを呆然と見ていると、ひとりの女性が声をかけてきた。
「掘り出し物ですよ。あのポニーに目をつけられるとは、お目が高いですわ、お嬢さま」
販売店の従業員か、あるいは店の規模からして経営者か。ネイビーのスーツをビシッと着こなした女性にお嬢さまと呼ばれ、一瞬キョトンとするが、それは私のことだ。
一部上場企業の部課長クラスの収入に匹敵すると言われるS級奨学金を受け取るようになり、田舎娘だった私は、相応の身だしなみを整えることを覚えていた。
そのせいだろう。私のことを資産家の令嬢かなにかと勘違いした女性が、ニーナを売り込もうと言葉を続ける。
「こちらのポニーは、高校時代陸上部で活躍した元選手で、脚力は抜群です。馬車の牽引はもちろん、お嬢さまなら騎乗することも可能です」
「で、でも……」
それなら、私と同じように徴用免除されているのではないか。ニーナなら、そうなっているのが当然だ。
その思いから疑問を口にすると、販売店の女性の表情がわずかに曇った。
「実は……」
なにかを見抜かれたと思ったのか、声を潜めて話し始めた。
「このポニー、1年生のときには抜群の活躍をしたのですが、先輩や指導者たちと対立し、競技大会に出してもらえなくなったのです」
つまりそれで、徴用免除対象になれるだけの成績を納められなかったのだ。
「とはいえ練習は地道に続けていたようで、能力的には一流のアスリートのままです」
それゆえに、女性はニーナを掘り出し物と表現したのだ。
「その性格のせいで、公設ポニー調教所の調教師も、1年の調教期間を要したようです。とはいえ調教に長い時間をかけたぶん、ポニーとしての躾は完璧ですよ」
(ニーナらしい……)
その話を聞き、私はそう思った。
陸上競技で進学した者が競技大会に出られない。それがポニー徴用への片道切符であることは、火を見るよりもあきらか。
おそらく出場禁止を命じた指導者たちは、恫喝のつもりだったのだろう。それでニーナを脅し、従わせようとした。
しかし、勝気で正義感の強い彼女は屈しなかった。
ポニー徴用の運命を覚悟してまで、自らの信念を貫いた。
(なんて強い……)
勉学に打ち込んだ第一の動機が徴用免除であった私は、その強さを羨んだ。
(どうして、そんなに強く在れるの……?)
羨むと同時に、疑問が生まれた。
疑問に答えが見出せないまま、私の中に正体不明の暗い感情が芽生えた。
「わかりました。このポニーを買います」
その気持ちを抱いたまま、販売店の女性に告げる。
「ありがとうございます!」
女性の表情が華やいだと同時に、ニーナが私を見た。
「……!?」
ひと目で私が誰か気づいただろう。髪色に似た紅い瞳が見開かれた直後。
「あぃ(サキ)……」
ニーナが。ポニーガール用の轡――馬具になぞらえて[[rb:馬銜 > ハミ]]と呼ばれる――を噛まされた口でつぶやき、ゴポリと涎をこぼした。
「それでは本日中に人馬局で登録を済ませ、ナンバープレートを取得して明日納馬させていただきます」
書類一式にサインし、携帯端末で支払いを済ませると、販売店の女性がにこやかに笑って告げた。
ちなみにポニーガールには登録時、騎乗装備か馬車牽引装備が標準で付けられるが、私は迷わず騎乗用を選んだ。
騎乗と牽引では、圧倒的に牽引のほうがポニーの身体的負担は少ない。ポニーとして使役されるニーナのことを思えば、馬車を選ぶべきだ。
とはいえ、私は馬車を持っていない。ニーナに加えて馬車まで新調するには、資金が不足している。
いや、正直に言おう。
そのときの私は、ニーナに乗るつもりも、馬車を引かせるつもりもなかった。
徴用され、耐用年数が過ぎるまで公式にはポニーガールの身分から解放されることのないニーナを、ポニーとして使役せず、親友として一緒に暮らすつもりだった。
それは、私が彼女に対して、抱き続けてきた思い。
中学まで、私は一生ニーナと親友でいると、勝手に決めていた。同じ高校に通い、同じ大学に進み、その後も変わらず交わっていきたいと考えていた。
だが、その望みは叶わなかった。
早々に県外の高校への入学を決め、私は事後報告を受けただけだった。
以来、私はニーナに関する思いを断ち、勉学に打ち込み、徴用免除とS級奨学金を手に入れた。
しかし、ニーナのことを完全に忘れることはできなかった。連絡することもできたのにしなかったのは、断とうとしても断ち切れない未練を、心の奥底に封印しようとしたからだ。
それほどまでに、私のニーナへの思いは強かった。
そして今、かつての親友を、生涯共に在りたいと思っていたニーナを手に入れようとしている。
「ついに、ニーナが私のものに……」
感慨深くつぶやきながら、中学の卒業式直前にふたりで撮った写真の彼女を指でなぞり続けた。
その夜は、なかなか寝つけなかった。
翌朝は、いつもより早く目が覚めた。
それは、鞍田サキ所有のポニーガールとして登録されたニーナが、うちに来るからである。
そのせいで私は、遠足の日の子どものように、ワクワクしていた。
自主休講を決め込み、ニーナを住まわせるために自宅の一室――S級奨学金の財力を活かし、私はキャンパス近くのこじんまりとした新築の単身者向け戸建て賃貸住宅を借りていた――を片づける。
その作業が一段落したところで、インターホンが来客を告げた。
モニターを確認すると、昨日の販売店の女性。
「お買い上げいただいたポニーの納馬に参りました」
その声に応えて玄関から出ると、手綱を引かれてニーナが立っていた。
4年前よりずっと肉付きがよくなった身体をギチギチに締めあげるボディハーネスは、ポニーガール共通の装備。
露出させられ、上下からベルトで絞り出された乳房も、昔よりずっと大きい。
その先端の乳首まで肥大したように見えるのは、それを貫いて穿つ極太のニップルピアスのせいか。
巨大な南京錠で施錠されたピアスには、金属製のリングを介してナンバープレートが取りつけられている。
「こちらが、ポニーのキーでございます」
そう言って女性がわたした鍵は、各種装具のものだ。
踵のないハイヒールのようなポニーブーツも、それと同じ意匠のポニーグローブも、ニーナをポニーに貶める拘束具めいた装備は、その鍵で施錠されている。
ただし、ナンバープレートを固定するピアスの南京錠だけは、人馬局によって鍵穴を封印され、勝手に外すことはできない。
それが外されるのは、私がニーナを手放すとき。あるいは耐用年数が過ぎて廃馬にされ、彼女の人としての身分が回復されるとき。
さらに視線を上に移すと、LEDのヘッドライトと橙色の頭幅灯を内蔵したブリンカー(遮眼帯)。それを支えるヘッドハーネスと口に噛まされた馬銜、そしてニーナの表情は、搬送用のフェイスカバーに隠れて見えない。
ちなみに、ポニーのプライバシーに配慮する意味で、走行時以外、戸外ではフェイスカバーを取り付けることが義務付けられている。
実のところ、それはポニーへの配慮というより、徴用法に反対した勢力を言いくるめるための方便。実際はポニーの視界を完全に遮ることにより、不意の逃亡を防ぐ意味あいが強い――。
ニーナを見つめて考えていると、販売店の女性が声をかけてきた。
「ポニーをどこにつないでおきますか?」
「あ、外で乗るのではなく、家の中で住まわせるつもりなので……」
「あ、なるほど……そういう……」
その問いに答えたとき、なぜか女性が唇の端をわずかに吊り上げた。
「こちらは当店のサービス品でございます。騎乗時、そして乗るとき以外でも、存分にお使いください」
そして意味ありげな笑みのまま、サービス品だという乗馬鞭と手綱を私に手わたした。
「事前に存じあげていれば、他にもサービス品をご用意させていただいたですが……」
彼女の表情と言葉の意味がわからないまま、人馬局発行の登録証も受け取り、ポニーガールのニーナは私のものになった。
販売店の女性が去ったあと、ブリンカーに取り付けられたフェイスカバーを外す。
するとニーナの顔があらわになった。
紅い髪紅い瞳は昔と同じ。しかしあの頃の面影が残る顔には縦横斜めにハーネスのベルトがかけられ、表情は歪められている。
特に酷いのは、口だ。
唇を割り裂くように噛まされた馬銜は、ただの棒ではなかった。近くで見ると、それは口中でヘラのような形になっており、舌を下顎側に押さえつけているようだ。
そのせいで、ニーナの発声はきわめて不明瞭にされている。口中に溜まった唾液を飲み込むことも難しく、開きっ放しの唇の端からダラダラと涎を垂れ流さざるをえない状態。
「かわいそうに……」
それを見て、心の内に生まれた思いを口にしたときである。
ニーナの紅い瞳が、私を睨みつけた。
「ぁんえ(なんで)……?」
歪められた口でギリギリと馬銜を噛み、搾り出すように不明瞭な言葉を吐き出した。
『なんで』
たしかにニーナは、そう言った。
だとすれば、続く言葉はなんだったのだろう。
なんで、自分を買ったのか。
それは、ニーナをみじめな境遇から救いだしたかったからだ。
なんで、かわいそうなんて言ったのか。
それは、心の内からそう思い、憐れに思ったからだ。
(でも……ほんとうに、そうなの?)
そこで私のなかに、疑問が生まれた。
ニーナを買うと決めたとき、私には彼女に乗るつもりも、馬車を引かせるつもりもなかった。ポニーとして使役せず、親友として一緒に暮らすつもりだった。
はたしてほんとうに、そうなのだろうか。
私が買ったからといって、ニーナをみじめな境遇から救いだせるわけではない。ポニー徴用法で定められた耐用年数が過ぎるまで、彼女の身分はポニーガール。公的には人の形をした馬としてしか扱われない。
病気や怪我の治療等のやむを得ないとき、あるいは入浴等のメンテナンス時しか、ポニーの装備を外すことは許されない。
労働に使役する以外は、愛玩目的でしか――。
そこまで考えたところで、販売店の女性が見せた表情を思い出した。
『あ、外で乗るのではなく、家の中で住まわせるつもりなので……』
彼女がその表情になる直前、私が吐き出した言葉も。
つまり販売店の女性は、私がニーナを愛玩馬として買ったと思ったのだ。
裏を返せば、彼女が即座にそう考えるほど、愛玩目的でポニーガールを買う人が多いということだ。
そのことに気づいたとき、自分自身の黒い感情の正体もわかった。
(ニーナを私のものにしたい)
その思いは、親友に対してのものではなかった。
(私のものにして、思うさまに愛でてみたい)
それが、ほんとうの気持ちだった。
そして今、私がそうしても、咎める人はいない。
コクリ。
そう気づいた私の喉が鳴る。
左手でニーナの手綱を握ったのは、考えた末の行動ではなかった。
右手で乗馬鞭を取ったのも、無意識の行為だった。
「来て」
そうしようと考えないまま、熱に浮かされたようにニーナの眼前に鞭をかざし、手綱を引いて命じる。
するとなぜか、私を睨んでいたニーナの紅い瞳が蕩けた。
「あぃ(はい)……」
しおらしく答えて、手綱の指示に従い、ニーナはポニーブーツの足を高く上げた。
それはポニーの歩法。
背すじをピンと伸ばし、太ももと地面が水平になる高さまで膝を上げて歩く。
さすがに騎乗時やギャロップ以上の速さで馬車を引くときは不可能だが、ポニーにはこの歩法を守って歩くことが求められる。
『調教に長い時間をかけたぶん、ポニーとしての躾は完璧ですよ』
ニーナがその歩法を完璧に身につけていることを知り、販売店の女性の言葉を思い出しながら、手綱を引いて廊下を進む。
カッ、カッ、カッ。
硬い床をブーツの底の蹄鉄が叩く音。
高校まで住んでいた地方ではまだ普及してなかったが、都会では欧米流の家の中でも靴を履いて過ごすスタイルが主流になりつつある。
(それは、家の中にポニーを住まわせるために始まったことなのかもしれない……)
漠然と考えながら、ニーナのために用意していた部屋に連れ込む。
そこは、和風に表現すると四畳半ほどの窓のない部屋。居室としては居心地が悪く、単身者の物置部屋には広すぎる。壁には用途不明のフックが取り付けられ、中からではなく外から鍵をかけられるようになっている不思議な部屋。
昨日までは、片隅に冬物の服などを置いていたのだが――。
そこまで考えて、ふと気づいた。
(ここは、もともとポニー部屋として作られた部屋ではないのか。だとすれば……)
新築の単身者向け戸建て賃貸住宅に、ポニー部屋が設えられているということだ。
この家を借りられるような比較的裕福な単身者には、家の中にポニーを住まわせる人が多いということだ。
そして、販売店の女性がニーナを家の中で住まわせると聞いてすぐ勘ぐったように、それは愛玩目的でポニーガールを所有するという意味。
そしてニーナもまた、同じように考えている。
あるいは、彼女が受けたという1年に及ぶポニー調教には、愛玩ポニーとしての調教も含まれていたのかもしれない。
だからこそ、かわいそうと言った私の言葉をお為ごかしと感じ、睨みつけたのだ。
さらにおそらく、ニーナは私に愛玩されることを望んでいる。
だからこそ、家の中に向かって手綱を引かれたとき、瞳を蕩けさせたのだ。
コクリ。
そうと気づいて、もう一度喉を鳴らす。
自分のなかの黒い感情が、ますます大きくなる。
(ニーナを私のものにして、思うさまに愛でてみたい)
その欲望を、抑えきれなくなる。
(ニーナもまた、私のものにされて愛玩されたいと思っている)
そう確信しながら、ニーナの手綱を壁のフックに結びつけ、馬の前足を模して整形されたポニーグローブを鞭で軽く叩く。
それからここに手をつけという意思を込めて壁を叩くと、ニーナは素直に従った。
「いいと言うまで、動いちゃダメだよ」
そう命じて観察すると、背中の騎乗用シートを取り外すためのリリースレバーを見つけた。
そのレバーを引き、シートを外す。軽金属のフレームに薄いクッション材が貼られた、[[rb:鎧 > あぶみ]]も一体のそれは、私でも難なく持てるほど軽量だった。
外したシートを傍らに置き、あらためてニーナを見る。
ポニーのグローブやブーツ、ヘッドハーネスと違い、身体のハーネスのベルトは施錠されていないようだ。
(手が使えなければ、自力で脱ぐことはできないのでしょうが……)
それなら、ヘッドハーネスも施錠しなくていいはずだ。グローブさえ着けてしまえば、ブーツだって鍵をかける必要はない。
頭に浮かんだ疑問はいったん片隅に追いやり、さらに観察を続ける。
シートが取り付けられていた腰まわりのベルト――その太さからして、コルセットと呼ぶべきか――は、特に頑丈そうな造り。
それが胸や肩のベルトと組み合わされて、上半身全体で騎乗者の体重を支えるようになっているようだ。
(これなら、乗っても平気なのかも……)
ハーネスの構造を知ってそう感じ、ニーナに乗ってみたい衝動も覚えるが、今はそれよりやりたいことがある。
ひととおり観察し終えたところで、壁にポニーグローブの手をついたニーナに、後ろからぴったりくっついて抱きしめる。
「あぅ……」
すると、ニーナが馬銜の隙間から吐息を漏らした。
「ねえ、ニーナ……」
そのことがなぜか嬉しく、ポニーブーツのせいでずいぶん背が高くなったニーナに後ろからささやく。
「もうニーナのこと、離さないよ」
熱に浮かされたように、この4年間抱き続けてきた思いの丈をぶつける。
「ニーナは一生、私のものだ」
そして強い意思を込めて告げると、ニーナが小さくうなずいた。
つまり、ニーナも同じ気持ちということだ。
それでますます嬉しくなって、後ろからハーネスに締めあげられた身体をギュッと抱きしめる。
「あうん……」
そこで、ニーナの吐息に甘みが混じった。
「あぅうん……」
お腹になにか当たるのを感じながら腕に力を込めると、吐息の甘みが強くなった。
「ニーナ、好きだよニーナ……」
ようやく気づいたほんとうの思いを口にしながら、ニーナをギューっと抱きしめる。
「あぅ、あぅん……」
呼応するように、愛しのポニーガールも吐息を漏らす。
吐息を漏らしながら、馬銜をかまされた口から涎を垂らす。
垂れる涎も気に留める余裕すらなくなるほど、ふたりして高揚していく。
温かい。
ニーナの背中は、温かい。
この温もりを、もっと感じたい。服越しじゃなく、直接自分の肌で。
そう思ったときには、服を脱ぎ始めていた。
そのために、いったんニーナから離れないといけないが、背に腹はかえられない。
ブラウスとスカートに続き下着も脱ぎ捨て、思い立って手持ちのなかで一番ヒールの高い靴を履く。
その姿であらためてニーナの後ろに立つと、それでも彼女のほうが背が高かった。
「脚を開いて」
そうさせることで身長差を調整しようと、内股を鞭で軽く叩く。
「あぅ、あう……」
すると甘く喘いで、ニーナはポニーブーツの脚を左右に開いた。
そこで、お尻の肉を割るように締め込まれたポニーハーネスに取り付けられた、髪と同じ色の尻尾が目に止まった。
後ろから抱きしめたとき、お腹に当たっていたのはこれだと気づき、その尻尾をつかんでみる。
「あぅん……」
すると、ニーナがくるおしくうめいた。
(どうして……?)
尻尾に触れるだけで、こんな声を出すのだろう。
(そういえば……)
お腹で尻尾を押したときも、彼女は同じような声を出した。
(それは、なぜ……ッ!?)
疑問を感じながら観察して、ハッとした。
尻尾はベルトから直接生えているわけではなかった。
尻尾の根元は黒いゴム製の土台になっており、そこにベルトが取り付けられていた。
そして、その土台は――。
「ねぇ、ニーナ?」
そのことを確認したくて、尻尾をつかんだままニーナの耳元で口を開く。
「これ、お尻の中に入ってるの?」
すると一瞬遅れて、ニーナが小さくコクンとうなずいた。
「これ、こうされると気持ちいいの?」
つかんだ尻尾をグリグリ抉りながら訊ねると、もう一度うなずいた。
やはり、彼女が受けたという1年に及ぶポニー調教には、愛玩ポニーとしての調教も含まれていたのだ。
その調教により、肛門でも感じるよう、躾られているのだ。
『調教に長い時間をかけたぶん、ポニーとしての躾は完璧ですよ』
つまり、肛門の性感開発も完璧だということ。
その開発をした調教師に軽く嫉妬しながら、ニーナの尻尾をつかんで抉る。
「あぅ、あぅうぁ……」
喘き声に艶が増してきた。
馬銜を噛まされた口から涎が垂れる。
ハイレグショーツのような三角形の小さな革にかろうじて隠された股間から、エッチなお汁が溢れる。
あまり性的な経験がない私にもはっきりそうとわかるほど、ニーナは昂ぶっている。
その昂ぶりに煽られて、私も高揚してきた。
「ニーナ、かわいいよ。私のニーナ……」
うわごとのように口走りながら、もう一度後ろから抱きしめる。
「あぅう、あぅん……」
尻尾に下腹部をぐいぐい押しつけると、それで肛門を抉られたニーナが甘く喘いだ。
「あぅん、あっあっ……」
片手の指を先端をニップルピアスに穿たれた乳房に食い込ませると、喘ぎ声に艶が増した。
「あっ、あっぅうん……」
もう一方の手で馬銜を噛まされた唇に触れると、私の指が涎まみれになった。
それも、また嬉しい。
愛しいニーナの涎だもの、汚いなんて思わない。
それどころか、むしろ――。
「ニーナ、私を見て」
彼女の唇を吸いたくなって、身体の向きを変えさせる。
彼女の背を壁に押しつけるように、ブリンカーのあいだに顔を差し込む。
「好きだよ、ニーナ」
「あぅう……」
そのとき、ニーナがなにを言おうとしたのかは、はっきり聞き取れなった。
しかし、きっと『私も』と言おうとしたのだ。
その証拠に、馬銜を噛まされた口に唇を重ねても、彼女は拒もうとしなかった。
拒むどころか、積極的に受け入れようとさえした。
ニーナの口は馬銜に支配されている。口中に押し込まれたヘラ状の部分で、舌の自由すら奪われている。
そんな不自由な状態でも、ニーナは私を受け入れようとしてくれている。
そのことでますます嬉しくなり、私もポニーガールとしてのニーナを受け止め、求める。
グローブやブーツ、ヘッドハーネスが施錠式になっているのに、身体のハーネスに鍵がかけられていないのは、脱がせる手間を少なくするためだろう。
ハイレグショーツ状の股間を覆う革にファスナーが設えられているのは、そこをオープンにして挿入するためだろう。
しかし、私はポニーガールとしてのニーナを受け止めた、求めた。
そして、私は男性ではない。股間をオープンにして挿入すべきものが、私にはない。
だから、私はポニーガールのまま、ニーナを愛することができる。
ポニーガールの彼女を、ありのまま愉しませ、悦ばせることができる。
「ああ……ニーナ、かわいいよ……」
うわごとのような私の言葉に、ニーナがますます昂ぶる。
『かわいそう』と言ったときには私を睨んだ紅い瞳が、『かわいい』と言われて情欲に蕩ける。
そうだ、ニーナが私に求めたのは、同情ではなく愛情なのだ。どうあがいてもポニーガールの身分から逃れられない自分を、ありのままで愛して欲しかったのだ。
私が4年間ニーナを想い続けていたように、彼女もまた、私を想っていたのだ。
そう気づくと、もう抑えられなかった。
欲望の赴くまま、愛しいポニーを壁におしつけたまま、私は――。
4年間心の奥底に閉じ込めてきた思いすべてを、ニーナにぶつけた。
[pixivimage:75101703-1]
「お待たせ、やっと講義が終わったわ」
コイン駐馬場の地面に膝をついてうずくまるニーナに、私は声をかけた。
しかし、私のポニーは答えない。
ニーナは人ではなく、ただの馬。その自覚を彼女がしっかりと持っていることを確認しつつ、顔を隠すようにブリンカー(遮眼帯)に取り付けていたフェイスカバーを外す。
するとハーネスに締め上げられた顔があらわになった。
愛らしいその顔を見ながら、機械に歩み寄り清算ボタンを押し、財布から小銭を出して投入。
個人商店や屋台ですら携帯端末で清算する方式が主流になった昨今、なぜかコイン駐馬場だけは現金主義が生き残っている。
ニーナに乗るようになった当初、そのことにとまどいを覚えたものだが、今はもう慣れた。
そう、結局私はニーナに騎乗するようになった。
それは、彼女をポニーとしての使役したくなったからではない。一瞬でも長く、ニーナとともにありたかったからだ。
その思いを込めて愛しきポニーを眺めながら、表示されていた金額の硬貨を投入し終えると、ニーナのの手綱をつないでいた金具が解除された。
「さあ、帰ろう」
フリーになった手綱を左手で取り、右手に乗馬鞭を構えて告げると、ニーナがわずかに不満そうな表情を見せた。
それもそのはず、このコイン駐馬場には、ポニーガールを愉しませるためのしかけがある。
その愉しみを中断させられることを、彼女はほんのすこしだけ残念に感じているのだ。
とはいえ、私のニーナはポニーの躾が行き届いている。所有者たる私への絶対服従が身に染みている。
そして私は、コイン駐車場のしかけがもたらすもの以上の愉しみと悦びを、彼女に与えることができる。
「続きは、帰ってからよ」
私に鞭を突きつけられて命じられ、そのことを思い出したのだろう。
「あぅ……」
噛まされた[[rb:馬銜 > はみ]]の端から涎をこぼして応えると、ニーナは特徴的な紅い瞳を蕩けさせた。
(了)