Home Artists Posts Import Register

Content

 これより、逃走ポニーガール追跡ゲームを行ないます。  参加者の皆さまにおかれましてはすでにご存じのこととは存じますが、視聴者の方のため、あらためてゲームについて説明を。  ルールはきわめてシンプル。逃走するポニーガールを追いかけ、捕獲するだけ。  成功の報酬は、捕獲したポニーガール。各国政府公認のわが国際ポニーガール協会にて、当該ポニーガールのオーナーとして登録、永遠に所有権・支配権が保証されます。  参加者が追跡を開始するタイミングは自由。ポニーガールが通過して10秒後であれば、逃走開始直後でもいいし、他の参加者が脱落してからの後半参加でもかまいません。  逃走ポニーガールには、公式のポニー装備を装着したうえで、軽度の拘束を施しています。  それゆえ、一見すると早期に参加したほうが有利に思えるかもしれませんが、一概にそうとは言えません。  ポニーガールの多くは、アスリート出身。陸上競技経験者ではなくとも、もともと卓越した身体能力を有しています。おまけに調教済みですから、ポニー装備で走ることにも馴らされています。  対して、追跡者は協会所属のオーナー有資格者。けっしてアスリートでも、元アスリートでもありません。加えて警備担当職員と同じ黒スーツ制服を身につけておりますので、追跡に最適なスタイルではないのです。  さらに、ポニーガールはこれがゲームだと知らされていません。自由の身分を求め、公式競技のようにポニーの歩法走法を守ることもなく、本気で逃走します。追いついても、完全に取り押さえるまで、抵抗を試みる場合もあるでしょう。  開始直後に追跡を開始し、ほかの参加者をだし抜いて早期の捕獲を目指すか。それともほかの参加者が脱落し、逃走ポニーガールが消耗してから追跡を開始するか。その判断もまた、勝負の分かれめです。  さて、このたびの逃走ポニーガールは、東洋の神秘の国・日本出身の元水泳選手。国際大会の出場経験はありませんが、ポニーガール候補の奴隷として売られる数ヶ月前に、年代別の国内大会で上位に入った一流のアスリートです。  もちろんその経歴も、各参加者に知らされています。それを踏まえて、どういう戦略でゲームに臨むかも、見どころのひとつと言えるでしょう。  なお、途中で特別なアトラクションも用意しておりますので、そちららもお楽しみに。  それでは、ゲームの開始です。 「迎えの車が来るまで、ここで待機しなさい」  そう告げ、白衣姿の女医が診察室を出ていった。 「おぇあ(これは)……」  最初の、そして最後の好機《チャンス》かもしれない。  この好機を逃せば、私はオークション会場に搬送され、売られ、奴隷の身分から一生抜け出せなくなる。  私はポニーガール。  名前は――いや、今はそんなことはどうでもいい。  囚われ、ポニーガール牧場という名の奴隷調教所に連れてこられてから、私は人としての名前を剥奪された。  オークションにかけられ、売られ、新しいオーナーの所有物になってから、ポニーガールとしての名前が与えられる。そう教えられ、J69という記号で呼ばれて調教を受けてきた。  そして今日が、その日である。  これまで、常に閉じ込められ、監視されてきた。  馬房と呼ばれる独房の扉は、外から閂をかけられ、施錠されていた。  そこから出され、調教を受けるときは、複数の目があった。  ポニーガールに『手を出していない』ことを客に示すためだろう。ここの職員は全員女性。役割によって服装が分けられている。  ポニーガールを躾ける役目の調教師は、乗馬服に似た細身のパンツにブーツ、それにジャケットのスタイル。  馬房を清掃したり食餌を運んだり、ポニーガールの身体に触れない雑用を担当する牧童は、地味な作業服。  先ほど部屋を出ていった白衣の女は、ポニーガールの健康管理を行なう医師だ。  そして私が心のなかで、黒スーツ団と呼んでいる連中。  お揃いの黒いスーツを身にまとい、サングラスで視線を隠した彼女たちは、施設の警備を担っている。レスリングか柔術、人体を効率よく制圧する格闘術を身につけているうえに、スタンガンを携行している。  実際に調教初期の頃、調教師に反抗を試みた私は、駆けつけた黒スーツ団にあっさり取り押さえられた。  おそらくこの施設で、もっとも警戒しなくてはならない連中だ。  とはいえ、今ここに黒スーツ団はいない。部屋にいないというだけでなく、出荷前の健康診断のために連れ込まれた医療棟に、黒スーツ団はいなかった。 (おまけに……)  私は、口に噛まされた馬銜《はみ》につながれた手綱の先を見た。  ひとりで放置されるとき、いつもならそれは、壁に設えられた金属製リングに固く結ばれる。だが今は、L字のフックに引っかけられているだけ。 (さらに……)  首を回し、白衣の女が出ていった扉を見た。  馬房なら放り込まれたあと、中から開けられないよう、扉に閂がかけられた。だが診察室のスライドドアは、施錠されていない。  それを開ければ、医療棟の廊下。左に行けば牧場に戻る。連れてこられ、入所前の検査を受けたときの記憶では、右に行けば施設の外。  フックから手綱を外すだけなら、指の自由がまったくない、ポニーグローブの手でもできる。  スライドドアを開けるだけなら、ポニーグローブどうしを短い鎖で接続されていても可能だ。  同じ鎖でポニーブーツどうし、金具で太腿の枷どうしをつながれ、脚の動きも制限されているが、全速力でなければ走れる。 (今なら、逃げられる!)  そう判断して意を決し、フックから手綱を外す。スライドドアのハンドルにポニーグローブを引っかけ、横に動かす。  先ほどと変わらず、廊下は無人だった。  カッ。  そこに蹄鉄が打ちつけられたポニーブーツが、硬い床を叩く音。  カッ、カッ。  その音で逃走がバレないか、不安感に囚われる。  カチャ、カチャ。  太ももの枷どうしをつなぐ金具が鳴る。  チャラ、チャラ。  ポニーグローブどうし、ポニーブーツどうしをつなぐ鎖も鳴る。  ふだんならまったく気に留めない音も、今はやけに大きく感じる。  とはいえそれは、超ハイヒールの歪なポニーブーツを履かされたうえに、動きを制約された脚でも、ふつうに歩けるからだろう。  初めてポニーブーツを履いた女性なら、私も調教初期の頃は、歩くこと自体に集中して音を気に留める余裕はなかったに違いない。  それはすなわち、私がポニーガールの装備に馴らされている証。  言いかえれば、私の肉体はすでに、ポニーガールの身分に堕とされているのだろう。 「ぁう……」  馬銜を噛まされた口から、ゴポリと涎が溢れた。 「あぅん……」  股間のベルトに敏感なところを擦られ、蕩ける快感が駆け抜けた。  媚肉をかき分けて食い込むそれは、ただの革ベルトではない。  よく舐めされた上質な革は、角を丸く面取りされており、摩擦で繊細な肉を傷める恐れはない。媚肉の位置に合わせ無数に打ち込まれた小さい鋲も、けっして鋭利ではない。  だがそれだけに、痛みを与えず快楽だけをもたらすのだ。  そして、蕩けるような快感を生むのは、股間のベルトだけではない。  歩を進めるたび、乳首ピアスに吊るされた金の飾りが揺れる。揺れる飾りに引かれ、ピアスそのものが乳首の肉を内側から刺激する。股間ベルトほどではないにせよ、それが乳首の快感で私を蕩かせる。  脚を動かすたび、馬の尻尾を模した毛束が取り付けられた、アナルプラグに肛門をこじられる。それで、媚肉や乳首のものとは違う、妖しい快楽に襲われる。 「ぁう、あぅん……」  口から溢れた涎と、媚肉から吐き出された粘液が、身体を伝って床に垂れる。  だが、そんなことを気に留める余裕はない。  いや、日々の調教で涎と愛液を垂らすことに馴らされた私は、すでにそれを恥ずかしいと感じられなくなっていた。  その意味では、肉体のみならず私の精神も、ポニーガールに堕とされていたのかもしれない。  だがそのおかげで、私は逃走の好機を逃さずに済んだ。  ポニーブーツや拘束に慣れていない者なら、まともに歩けない状況で、逃走しようとは思えなかっただろう。  ポニーガールの装備がもたらす性の刺激と、それによる羞恥に馴らされていない女性なら、逃走の好機を逃していたに違いない。  カッ、カッ。 「ぁう、あぅん……」  カチャ、カチャ。 「あふ、ぅうん……」  チャラ、チャラ。  ポニーガールの音と艶のある声を廊下に響かせながら、突き当たりの扉の前。  診察室のものと同じように、ポニーグローブの手を引っかけて扉を開く。  ここに着いたときは、夜だった。連れてこられるあいだ、ずっと目隠しをされていた。  それが、今は昼。遮眼帯《ブリンカー》で側方視界は制限されているものの、正面はよく見える。  そこには見慣れない風景が広がっていた。  はるか遠くに、なだらかな山。それ以外は、終わりの見えない真っ平な草原。 「おぅあ(ここは)……?」  あきらかに、日本国内ではない。  逃げ出したところで、逃げきったとしても、助かるかどうか――。  そこで、誰かが叫ぶ声。外国語なのですべてはわからなかったが、ポニーガールという言葉と、私を呼ぶJ69という記号だけは聞き取れた。  見つかった。しかも黒スーツ団に。  ここで捕まっても、逃走を企てたという事実は変わらない。 (だったら……!)  やれるだけ、やってみるのみ。  そう考えて、いや考えるまでもなく、私は地面を蹴って走る。  ギギギ……。  金属どうしが擦れて軋む音をたてながら、私の逃走を止めようと正面のゲートが閉まり始めた。  脚を動かせる範囲で、腕を振れる限界まで、力いっぱい身体を動かし、閉じきる寸前でゲートをすり抜ける。  ガチャン。  背後でゲートが閉じる音。  早く開けろと言っているのか、黒スーツ団がわめく外国語。  僥倖だ。これで10秒くらいは時間が稼げる。  そのあいだに黒スーツ団――ほんとうは逃走ポニーガール追跡ゲームの参加者なのだが、私はそのことを知らない――を少しでも引き離すべく、不自由な身体で草原を貫ぬく土の1本道を駆ける。  きつく締め込まれた、股間ベルトが媚肉に食い込む。身体が上下動するたび、ピアスの飾りが揺れて乳首を苛める。筋肉に力が込められるほどに、アナルプラグが肛門を抉る。  それら刺激が、性の快楽を煽る。  だが、今はそれどころでない。 「あふ、あぅ、あう……」  馬銜の隙間から涎を噴き出しながら、力いっぱい走る。 「あう、あっ、ぁあッ……」  ベルトが食い込む媚肉から粘液を垂らしながら、めいっぱいの速力で。  そのうち、背後でゲートが開く気配。黒スーツ団が、いっぺんに放たれる。  彼女たちには、格闘技の心得がある。走力については未知数だが、一般人以下ということはないだろう。それにスタンガンを携行しているから、追いつかれたらおしまい。  放たれたのがいつもの黒スーツ団ではなく、ゲーム参加者であることを知らない私は、不自由な身体を精いっぱい使って走る。  後ろを振り向いて距離を測る余裕もなく走る、走る。 「あふ、あふッ、あふッ……」  身体が熱い。息が苦しい。でも、立ち止まることはできない。 「ぁう、ぁうッ、ぁんッ……」  快感が駆け抜ける。肉が蕩けそうになる。だが、速力を弱めることはできない。 「あふッ、あッ、あぅんッ……」  涎とともに吐き出される声は、自分でもわかるほど艶を帯び始めた。 「あぅん、あふッ、あひッ……」  汗と体液が入り混じり、下半身はもうベトベトだ。 (そ、そういえば……)  これだけ走っているのに、黒スーツ団が追い上げてくる気配がない。それどころか、何人か脱落している気配もある。とはいえ、途中で補充されているのか、追跡者の人数そのものは減っていないようだが。 (ど、どうして……?)  体力的には一般人を凌駕しているはずの、黒スーツ団が追いついてこないのか。なにもない1本道の途中で、どうやって補充されているのか。  とはいえその頃には、肉体のみならず精神も蕩け、ものごとを深く考えられなくなってきていた。  そんな状況でも、よろめくこともなく走り続けられるのは、ポニーガール調教のおかげ。  肉を昂ぶらせるしかけ満載のポニーガール装備を身につけ、馬車を引いて走ることに馴らされる調教が、私を走り続けさせていた。 「あひッ、あっ、あっあッ……」  もう、走ること以外考えられない。 「あっ、あっ、あっ、ヒあッ……」  なにも考えられず、わからないまま、ただただ走り続ける。  そのときである。  轟音をたてながら、なにかが猛追してきた。  車か。そういえば診察室を出ていくとき、女医は迎えの車が来ると言っていた。その車が、追ってきているのか。  いや、違う。聞こえてくる轟音は、自動車が発するものではない。  そう思って首だけ回すが、射眼帯のせいで確認できなかった。  わずかに速度を緩め、さらに首を回して後ろを見、息を飲んだ。  巨大な鉄輪をふたつ組み合わせた物体が、火を噴き、土煙をたてながら追ってくる。  パンジャンドラム。  記憶の片隅にあった自走地雷が追ってくることに愕然としながら、前を見て加速。  しかし、拘束の身ではさして速度を上げることはできず、恐ろしい自爆兵器が迫ってくる。 「あヒッ……ぉう(もう)、ぉう(もう)……」  限界。  それでも気力体力をふり絞り、数十メートルを走ったところで、足がもつれた。  体勢をたて直すことができず、そのままもんどり打って倒れた。  反射的に手をついたこと、地面が柔らかい土だったことが奏効し、ケガはない。  だが、もう立ち上がる体力がない。立ち上がって走る気力も尽きた。  覚悟を決めて目を閉じたところで、轟音が私の横を通過した。薄く目を開けて見ると、パンジャンドラムは道を逸れ、草原で転倒して火を噴いていた。 (助かった……)  そう思ったのは、パンジャンドラムの餌食にならずに済んだという意味。  もはや立ち上がることが、いや立ち上がろうとすることすらできない私の肩に、ひとりの黒スーツがスタンガンを押し当てた。  調教ポニーガールJ69――まだ人だった頃の名は九藤沙智《くどう さち》――は、わたくしの幼なじみでした。  両親の教育方針で小中と一般の公立校に通ったわたくしは、そこで沙智に出逢い、彼女に友人としてのもの以上の感情を抱くようになっていました。  しかし高校からは、ふたりの道は分かれました。わたくしは伝統ある名門女子校へ、沙智は水泳競技の強豪校へ、それぞれ別々の道へ進んだのです。  そんな折、わたくしは沙智が国際ポニーガール協会に、調教ポニーガールとして囚われたことを知りました。  その経緯を、わたくしは知りません。知ろうとも思いません。  ただ、国際ポニーガール協会は、ほとんどの先進国の政府が公認する正式の機関です。そこで調教された者は、全世界公認のポニーガールになり、生涯をその身分で暮らすことになります。  そして協会にオーナーとして登録されれば、ポニーガールを所有・支配することが、公式に認められます。  もちろん、成人と同時に協会員となり、ポニーガールオーナーになる資格をすでに得ていたわたくしも。  沙智の調教が完了し、逃走ポニーガール追跡ゲームに供されると知ったとき、わたくしは迷うことなく参加を決めました。  同時に、全参加者中最後に、沙智の気力体力が尽き、動けなくなったところで追跡を開始しようと考えました。  沙智ならば、私の知る彼女ならば、絶対に参加者全員を振りきると確信していたからです。  さらに、パンジャンドラムのアトラクション。  ほんとうのパンジャンドラムは、いったん走りだすと、どこに向かうかわからない暴走兵器。しかし協会のそれは、オートジャイロとAIで繊細に制御され、正確に逃走ポニーガールを追跡します。  そしてポニーガールに迫ったところで、自動的に道を逸れ、距離を取ったところで自爆します。  沙智ならその自走地雷から、気力体力の限界まで逃れようとするでしょう。  だから全参加者を振りきり、パンジャンドラムに追われて力尽きたところで追跡を開始すれば、わたくしでも彼女を捕獲できる。  その判断は、正解でした。  地面に倒れたまま動けない沙智の傍らにしゃがみ込み、私は彼女の肩にスタンガンを押しつけます。  それから、悲鳴をあげて失神した沙智の手綱を手に取って。 「調教ポニーガールJ69を捕獲いたしました」  スーツに取りつけられたピンマイクを通し、わたくしは沙智のオーナーになると、世界に向けて宣言したのです。 (了)

Files

Comments

No comments found for this post.