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「おはようございます」  今朝も、調教係のメイドが現われた。  あれから――。  アナルディルドでイキ狂わされたあと、最後のポニーガール装具、尻尾つきアナルプラグを嵌められ、屋敷裏の厩舎に放り込まれた。  そこは、まるで馬小屋だった。いや、馬奴隷たるポニーガールの厩舎だから、馬小屋そのものなのだろう。  2メートル四方の部屋には天井がなく、木の屋根と梁が剥き出しだった。  入り口の壁は、すべて両開きの木製扉。残り三方は高さ2メートルほどまでがコンクリートの打ちっ放しで、そこから上は明かり取りの窓になっている。  床もコンクリートだが、厚く干草が敷き詰められているため、直接見られない。  夜間、入り口の両開き扉は外から閂をかけて施錠され、中から開けることはできない。  以来、6日。昼間は二種ポニーガールとしての調教を受け、夜は疲れて泥のように眠る日々を過ごしている。 「すでに用は足しているようですね」  床に敷き詰められた干草のようすを見て、調教係メイドが満足げにうなずいた。  床の干草は、単なるクッション材ではない。その中で暮らすポニーガールの小用トイレも兼ねているのだ。  よほど大量でないかぎり、排泄された小水はすぐ干草に染み込む。排泄後気になるなら、別の場所から干草を持ってきて被せばいい。  ポニーミトンで馬の前足に変えられた手でも、その程度のことはできる。  美麗との勝負として、約束のうえで二種ポニーガール調教を受ける身だからと諦めて、真琴は屈辱の小水排泄を受け入れた。  ただ問題は、大きいほうだ。  さすがに、寝間を兼ねた馬小屋の中でするわけにはいかない。  そもそも、就寝前に股間ベルトは外されているが、真琴の肛門は尻尾つきアナルプラグで栓をされたまま。  ポニーミトンの手では干草を移動させられても、内部を広げられて固定された尻尾つきアナルプラグを抜くことは不可能。  だから、大きいほうは夕方、調教で汗みずくになった身体を洗うときに併せて、調教係メイドの監視の下で行なわれる。  はじめの頃、自力で排泄《だ》せず、浣腸された。  2日前から、浣腸されなくても排泄できるようになった。  それをメイドは二種ポニーガールとしての進歩と褒めてくれたが、恥ずかしさと屈辱感で、それどころではなかった。  ともあれ、調教期間は今日で終わり。  なんとか精神は正常な状態を保っているし、今日1日耐え忍べば、朱莉と一緒にここを出ることができる。  そう考え、気を引き締めて調教係メイドの前に立つ。 「まずは朝の給餌です」  するとそう言って、メイドが運んできたバスケットの中から、樹脂製のボトルを取り出した。  馬銜を外してもらえない真琴の食事、いや餌は、このボトルのなかの流動食である。  それを1日5回、水分補給も兼ね、小分けにして与えられる。そのほかにも、水分補給は随時行なわれる。  そのことにも、もう慣れた。同時に慣れるにつれ、それら残酷な日常は、二種ポニーガールの体調に配慮されたものだと気づいた。  小水で汚れた馬小屋の干草は、歩行調教のあいだに新しいものに交換され、清潔な状態が保たれている。  大きいほうを監視の下させるのは、健康状態が排泄物に反映されるから。  自力で排泄できないとき浣腸が使われるのは、緊張状態に置かれると便秘になりがちだから。1日1度の快便は、健康維持の要なのだ。  餌として供される流動食は、味にまでは配慮されていないものの、多種多様な食材を混ぜた完全栄養食。  それを1日5回小分けで与えるのは、コルセットでお腹を締めつけられているから。  とはいえ、それら処置が配慮と呼べるのは、馬に対しての場合。真琴が人として尊重されているのではなく、調教師や厩務員が競走馬を大切に扱うように、真琴は二種ポニーガールとしてメイドたちに配慮されているのだ。  そのことを痛感させられた光景を、今日も真琴は目にすることになる。  口中に流し込まれた規定量の流動食を飲み下し、追加の水分補給と口中の洗浄を兼ねて水を飲まされたあと、馬銜を嵌められる。 「それでは、本日の……最後の二種ポニーガール調教を行ないます」  そしてそう言うと、馬銜の両端につないだ手綱を取り、調教係メイドが宣言した。  カッ、カッ、カッ。  手綱を取られ馬小屋を出て、舗装された道を歩く。 『ポニーガールには、厳格に定められた姿勢と歩法があります』  初日に告げられた、メイドの言葉。 『顔は少し上向きで、視線は前方やや上に固定。頭のてっぺんを天井から吊られたような意識で背すじを伸ばし、肘を90度に曲げて手を前に掲げてください』  それは、ポニーガールの基本姿勢のことである。  歩法はその姿勢を保ったまま、太ももと地面が水平以上になるまで脚を高く上げ、同じ動作でわずかに前方に下ろす。  イメージとしては、前進するというより、上下動する感じ。  その動きのなかで、基本姿勢を守ったまま身体全体を前に傾けることにより、前に進む。歩くペースを上げるときは、脚の動きを速くするのではなく、前傾する傾きを強くして、結果として歩幅を広くすることで行なう。  二種ポニーガールが参加させられるポニーガール競技とは、その姿勢の美しさや、手綱の指示に忠実に従っているかを審査する採点競技なのだ。  欧米の好事家のあいだで密かに定着していたポニーガール競技が本邦にも紹介された当初は、所有者の嗜好に基づき容姿のみで選抜される一種に対し、二種ポニーガールは体力本位で選ばれていた。  しかし今は、容姿と体力を高い次元で両立した者が、二種ポニーガールに適しているとされる。  体力のみを基準に選ばれた元二種の多くは、優秀な成績が上げられず、三種ポニーガールに降格させられていた。  ともあれその意味で、真琴は二種ポニーガールに最適だ。  彼女が朱莉を取り返しにやってきたとき、ポニーガールの名伯楽たる美麗は、その資質を見抜いていた。  真琴を一流の二種ポニーガールにしたいと考え、調教勝負を持ちかけた。  とはいえ、それは真琴の想像にすぎない。  美麗のほんとうの思惑を知らないまま、調教は今日で終わりと信じ、真琴は基本姿勢と歩法を守って歩く。  調教係メイドに手綱を取られて。  カッ、カッ、カッ。  一定のリズムで、蹄鉄が舗装路を叩く音を響かせ。 「はふ、はふ、はふ」  馬銜を噛まされた口から、熱を帯びた吐息を漏らしながら。  歩くことで生まれる快感は、初日より大きくなっていた。  その理由のひとつは、胸と股間のベルトに加え、尻尾つきアナルプラグを挿入されているから。  真琴の肛門はメイドの手で開発された。そのうえ美麗の言葉で『そこが一番感じる』と思い込まされ、実際にアナルディルドの抽送でイキ狂わされた。  その性感帯が、1歩進むたびにプラグで擦られるのだ。その刺激で、真琴の肉が昂ぶるのは当然。  さらに、ポニーガールの歩法が、通常の歩きかたより脚の動きが大きいことも影響している。  太ももが地面と水平以上に高く上げることで、お尻の筋肉にも力が入る。お尻の筋肉は括約筋にもつながっているから、そこにも力が入る。結果、アナルプラグを肛門できつく食い締め、より強く擦られてしまう。 「はふ、はっ、ぁうん」  そのせいで、じき吐息に甘みが混じるようになる。  すっかり覚え込まされた快楽に、肉体が反応し始める。  ベルトが食い込む媚肉からは、すでに熱い蜜が溢れていた。 「ぁう、あっ、ぅあん」  馬銜の隙間から噴き出す涎は、もう気にならない。 (ポニーガールとは、そういうものだから……)  ふとそう考えて、ハッとする。  メイドたちが涎を気に留めないのと同じ理由で、真琴も涎が垂れて当然と考えてしまっていた。 (彼女たちと同じように、私も……)  自分の身分が、二種ポニーガールであると認識し始めているのか。 (あと1週間、いえ3日も……)  約束の調教期間が長ければ、その認識は真琴のなかで定着していたかもしれない。ポニーガール暮らしに馴らされたこととも相まって、このまま二種ポニーガールになることを受け入れたとしても、なんら不思議はない。  そのことに震えあがりながら、馬小屋から続く接続道路から、調教施設の周回路へ。  乗り込んだ日は夜だったので見えなかったが、美麗の屋敷の裏手は、広大なポニーガール牧場になっていた。  二種ポニーガール用調教施設と、三種ポニーガールが強制労働させられる農場その他。  歩行調教中、そこで使役されるポニーガールの姿を見て、真琴は三種がなぜ『労働用』ではなく『苦役用』なのかを理解した。  農耕にしろ輸送にしろ、そもそも労働をポニーガールに委ねることは、きわめて効率が悪い。  にもかかわらず、三種ポニーガールが田畑を耕すための唐鋤《からすき》と呼ばれる農機具や、大量の荷物を載せた荷車を引かされているのは、苦役を課すこと自体が目的なのだ。  その証拠に、二種調教施設に隣接する農場では、三種ポニーガールが耕した土地を、その日のうちに重機で踏み固め、翌日また同じ場所を耕させたりしている。  カッ、カッ、カッ。  蹄鉄の音を立てながら、歩法を守って歩く調教用周回路のすぐ横でも、昨日と同じ畑で同じ三種ポニーガールが、唐鋤を引かされていた。  1年365日、くる日もくる日も苦役を課されているからだろう。その三種ポニーガールは、脚の筋肉が異様に発達していた。対して上半身は女性らしい肉付きで、アンバランスな印象がある。  身に着けるポニーガール装具は、一種二種のものとほぼ同じ。ただし、色は茶色をペースとした地味なもの。ヘッドハーネスも額の幅広ベルトやブリンカーが省略された簡易型で、馬銜は金属にシリコーンゴムを巻いたものではなく、木の棒が使われている。  なにより残酷なのは、ポニーガールとしての登録許可と番号、三種の身分を示すタトゥーが、両肩に彫られていることだ。 (これでは、もう……)  10年間の年季が明けても、元の真っ当な生活には戻れないだろう。  畑を唐鋤で耕す三種ポニーガールの瞳から光が消えているのは、そのせいですべてを諦めきっているのだろうか。あるいは、真琴がなりかけたように、自分が三種ポニーガールであると完全に認識してしまったのか。  かつて多くの降格組が生まれたように、彼女もまた二種から三種に落とされたポニーガールなのだろうか。それとも、もともと三種として登録され、肩にタトゥーを彫られたのち、ここにやって来たのか。 (かわいそうだけど……)  自分は絶対、二種から三種に落とされたくない。  そこで、もう一度ハッとした。 (そもそも、私は……)  二種ポニーガールにもならないのだ。  そう考えて気持ちを立て直し、手綱を取られて周回路を歩く。  頭のてっぺんを空から吊られているようなイメージで、背すじをピンと伸ばして顔は水平より少し上向き、視線も顔の向きに合わせて固定。  はじめの頃は、不安定なポニーブーツの足下が見えないことに不安感を覚えた。しかしもう、すっかり慣れた。  肘を90度に曲げて蹄鉄を前方に晒すように掲げて固定。そのまま太ももを乳面と水平以上の高さまで上げ、上げたときと同じ動作でわずかに前方に下ろす。  日常したことのない動作に、当初は少なからずとまどった。だがすでに、馴らされた。  カッ、カッ、カッ。  厳格に定められたポニーガールの基本姿勢とポニーガール競技の歩法を守り、蹄鉄が地面を叩く音をリズミカルに響かせる。 「はふ、はっ、はぁ」  陽光の下、不自然な歩法で歩かされる身体が熱い。 「はぁ、ぁう、あぅん」  敏感なところをベルトとプラグで刺激され、淫らな肉も熱い。  カッ、カッ、カッ。  そんな状態でも、真琴は歩行のリズムを乱さない。それほどまでに、二種ポニーガールが板についてきた。  調教係が手綱をクイっと扱いた。  スピードアップの合図だ。  言葉ではなく手綱の指示で、真琴は歩行のペースを上げる。  基本姿勢と歩法を維持しつつ、身体全体の前傾をわずかに強める。それで前に倒れないよう足を出すように。  カッ、カッ、カッ。  蹄鉄の音のリズムは変えずに、歩幅を広くすることでスピードを上げる。  それが、性的に高まるペースも上げさせた。  歩幅が広くなることで、媚肉がより強くベルトに擦りつけられる。尻尾つきプラグが、さらにきつく肛門を抉る。 「あぅ、あぅ、あぅん」  馬銜を噛まされた口から漏らす吐息は、もはや艶声にしか聞こえない。 「あふ、あふ、あふぁ」  胸から上が濡れ光るのは汗なのか、馬銜の隙間から噴き出す涎なのか。 「あふぁ、あっ、ああっ」  ベルトが食い込む媚肉から溢れた蜜は、内股をベトベトに濡らしている。  蕩ける。高まる性感に、頭が蕩ける。  蕩けて、ぼうっとしてくる。  カッ、カッ、カッ。  それでも、蹄鉄のリズムは変わらない。  カッ、カッ、カッ。  基本姿勢にも歩法にも、いっさい乱れない。 「この子、ほんとうにすごい……今日が最後なんて、もったいない」  調教係のメイドが、感嘆して思わずつぶやくほどの完璧さで、真琴は二種ポニーガールとして歩く。  そのメイドのつぶやきは、真琴には聴こえていなかった。いや正確には、耳に入っていたが、蕩けきった脳まで届いていなかった。  ブルリ、真琴がその身を震わせる。  ベルトとプラグの刺激による、小さな絶頂。軽くイッた状態。  一瞬意識を飛ばすが、基本姿勢と歩法は保たれる。蹄鉄のリズムも狂わない。  もはや意識を失った状態でも正しく歩けるほど、それは真琴の身体に染みついていた。 「あっ、はふぁ、ふぁあっ」  カッ、カッ、カッ。 「あっひっ、あぁあアッ!」  カッ、カッ、カッ。  そして小さな絶頂を繰り返しながら、周回路を2周。午前中の歩行調教を終える時間がきたところで、馬小屋の前で待っていたメイドが、美麗からの呼び出しを伝えた。  美麗が待っているという初日のあの部屋に、二種ポニーガールの歩法を守ってたどり着く。  すると彼女の隣には、ひとりのポニーガールがいた。  真琴が着けられているのと形は共通で、色違いの黒いポニーガール装具。コルセットにプリントされた文字はPGⅠ、すなわち一種ポニーガールを表わす記号だ。  馬銜を噛まされ、涎を垂らしていてもなお、色白で愛らしい顔立ち。華奢でスラリと細い手足。胸のベルトで押し潰された乳房は、真琴のものよりふたまわりも大きい。 (朱莉……)  愛しい彼女のポニーガール姿から目を離せずにいると、調教係のメイドが、真琴の馬銜を外した。  ゴポリ、と涎が溢れる。顎を濡らした涎が、糸を引いて胸へと落ちる。  二種ポニーガール暮らしで涎を垂らすことに馴らされていた真琴は、恥じらいもせず強い視線を美麗に向ける。 「すっかり二種ポニーガールが板についたわね」  美麗がそう言ったのは、二種ポニーガールの歩法を守っていたからだろうか。立ち止まってからも、基本姿勢を崩さないためか。はたまた、垂れる涎を気にしなかったゆえか。 「でも、ポニーガールに堕ちたというわけじゃなさそうね」  そして、そう付け加えたのは、真琴が強い意志を持って美麗を見返しているからだ。 「いいわ。調教勝負は、あなたの勝ち。約束どおり、ふたりとも解放してあげる」  そこで、美麗が唇の端を吊り上げ、朱莉の馬銜を外した。  ゴポリ、と涎が溢れ、真琴のときと同じように、顎を濡らしてから胸へと糸を引いて落ちる。 「ぁ、う……」  そのさまを真琴に見られたからだろう。恥じらいを見せる朱莉の肩を抱き、美麗が告げた。 「朱莉、あなたはもう自由、真琴のところに戻ってもいいのよ」  もちろん、朱莉は自分の元に帰ってくる。  確信する真琴を、朱莉が見つめる。  そのどこか迷いのある視線に、真琴は違和感を覚えた。 (私のところに戻りたいけど、ポニーガールとしての暮らしにも未練がある? そこまで、調教に心を蝕まれている? いえ、違う……)  真琴は気づいた。  朱莉は、涎を垂らすさまを見られて恥じらった。  自分はそれを見られても恥ずかしいと思えないほど、ポニーガール暮らしに馴らされていたのに。 (つまり、朱莉は……)  真琴ほどの厳しい調教を受けていない。 (いえ、それどころか……)  ポニーガールとしての調教を、まったく施されていないのかもしれない。  思い起こせば、朱莉のポニーガール姿を見たのは、今が初めて。  彼女を調教していると口にしたのは、美麗だけ。  真琴より先にここに連れてこられたはずなのに、踵のない厚底超ハイヒールのポニーブーツを履かされて、立っているのがやっとという感じ。  美麗が朱莉の肩を抱いているのも、バランスを崩して倒れないよう支えているようにも見える。 (でも、どうして……?)  わけがわからずとまどっていると、朱莉が思いきったように口を開いた。 「真琴……ごめん」 「えっ……」 「あなたのところへは、戻れない」 「そ、それは……どういう……?」 「美麗さま、すみません。ご意志に逆らうことをお赦しください」  そう前置きして、朱莉が訥々と語り始めた。  ことの発端は、長引く不況で朱莉の両親の事業が行き詰まったことだった。  藁にもすがるつもりで資金の融資を受けた先が悪徳業者につながっており、返済が滞ったところで、たちのよくない連中が朱莉の家に乗り込んできた。  目的は、朱莉の身柄。  評判の美人だった彼女を、借金のカタにポニーガールとして売り飛ばそうとしたのだ。  その窮地を救ったのが、朱莉の遠縁に当たる美麗だった。  裏の世界にも顔が効く美麗は、借金を肩代わりするとともに、オークションに出品寸前だった朱莉を引き取った。  とはいえ、朱莉はすでにポニーガールとして登録されており、それは10年間は取り消せない。  そこで、もともとポニーガール牧場のオーナーだった美麗は、愛玩用の一種ポニーガールとして朱莉を手元に置き、10年後に身分を回復させるつもりでいた。  その矢先、真琴が乗り込んできた。 「美麗さまは、私のことを大切に思ってくれていた。だから、真琴の覚悟を試そうとなさったの」  10年間は元の身分に戻れない朱莉を、そのあいだ慈しみ守りとおす覚悟が真琴にあるか、二種ポニーガール調教に耐えさせることで試そうとしたのだ。  見事調教に耐えきり覚悟を示せば、朱莉を委ねる。耐えきれず堕ちてしまえば、そのまま二種ポニーガールとして所有し、10年後朱莉とともに身分を回復させるつもりで。 「その証拠に初日以外、真琴を快楽で堕とす調教は行なわれていないでしょう?」  そのとおりだった。2日めからの調教は、二種ポニーガールの境遇に馴らすためのものばかりだった。  その調教に、覚悟のある者なら耐えきれる。同時に、覚悟を覆すための、狡猾な手練手管は使われていない。 「そのうえ、美麗さまはあえて悪役を演じられた。ご自身が諸悪の根源であるかのように振る舞い、真琴を鼓舞したの」 「ま、まさか……嘘だ……」 「ううん、嘘じゃない。美麗さまはけっして違法な手段でポニーガールを入手しない。それどころか、ほかのオーナーに酷い扱いを受けて傷ついたポニーガールを引き取り、肉体と精神の回復訓練をしたりしてるのよ」  歩行調教中、いつも見かける三種ポニーガールがそうなのだろうか。だとすれば、一見非道に見えた彼女の境遇は、以前のもっと悲惨な環境から美麗のポニーガール牧場の正当なやり方に、少しずつ馴らしていく過程のものだったのかもしれない。 「そのうえ、美麗さまは年季を全うしたポニーガールの、その後の身の振りかたまでお世話しているわ」  余人の話なら、にわかには信じられなかっただろう。しかし語ったのは、真琴が心の底から愛する朱莉だ。それにこの話が正しいのだとすれば、彼女がいまだ本格的な調教を受けていないことにも納得できる。  真琴に仕掛けられたポニーガールの罠は、朱莉のことを第一に考えた優しい罠だったのだ。 「もちろん、私もほんとうは真琴のところに戻りたい。一緒になりたい……でも、わかって。ここまでよくしてくれた美麗さまを、裏切ることはできないの」  言いきった朱莉からは、真琴と同じ覚悟が感じられた。 (なにを言っても、朱莉の覚悟は揺らがない。彼女は、美麗に受けた恩義をけっして忘れない。そもそも、そういう朱莉の人柄に、私は惹かれたんだ。でも……)  朱莉を取り戻し、一緒に暮らしたいという、真琴の覚悟も揺らがない。  ふたりに、ともに譲れない覚悟があるなら、真琴が選ぶべき道はふたつ。  おとなしく引き下がり、朱莉の年季が明けるのを10年間待つか、あるいは――。  真琴は、新たな決意とともに、美麗に向かって口を開いた。 「私もポニーガールになります……いえ、朱莉と同じポニーガールにしてください」  絶句する朱莉。  面白いことになったと、薄く嗤う美麗。 「ま、真琴……なにを言って……」  先に口を開いた朱莉を、美麗が制した。 「お待ちなさい、朱莉。真琴はいったん決めたことを、容易には覆さない子。そのことは、あなたが一番よく知っているでしょう?」  そして、真琴に向かって口を開いた。 「いいわ。真琴もわたくし所有のポニーガールにしてあげる。ただし同じポニーガールではなく、朱莉は一種、あなたは二種。それでよければね」 (了)

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