小説版 貞操帯強制女装メイドの年季明け 後編 (Pixiv Fanbox)
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2021-07-09 10:34:15
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2023-12-31 23:32:55
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「ふう……」
羽根はたきを手にお屋敷の中を掃除しながら、ひとつ息を吐く。
あれから――ボクがお屋敷の最底辺使用人のメイドとして働き始めた。
金髪に近い色に染めていた髪は、黒髪に戻された。
眉以外の体毛を永久脱毛処理され、全身ツルツルにされた。
耳のピアスを外せと言われることはなかったが、装飾性のない黒のチタン製に交換させられた。
身につけることを許された衣類は、変態的な革の下着とメイド服のみ。
はじめ男の身でありながら、メイド服姿で働かされることに、羞恥と屈辱を感じていた。
しかし奥さまはもちろん、お屋敷の使用人全員に最底辺メイドとして扱われるうち、恥ずかしさと悔しさは失せていった。
先輩メイドによるおしっこ回収作業にだけには、今でも忸怩たるものがある。
とはいえ、毎日数回繰り返されるうち、それにも少しずつ馴らされてきた。
新米の最底辺メイドだからか、大した仕事は命じられず、やらされるのは毎日羽根はたきを使っての掃除だけ。
正直なところ、仕事そのものは楽ちんだった。楽すぎて、退屈なほどだった。
(これなら……)
2年間耐えられる。矯正プログラム期間をやり過ごし、前科なしにリセットされて社会復帰できる。
そう思うようになった頃から、別の問題がボクを悩ませるようになってきた。
ペニスと睾丸を封印する、貞操帯本来の機能がもたらす苦悩。
完全に搾りつくされたことに加え、羞恥と屈辱にまみれていたこともあり、1日め2日めは感じなかった。
3日め4日め、最底辺メイド暮らしに少しずつ馴らされてくるにつれ、気になり始めた。
5日め6日め、はっきり意識するようになった。
貞操帯で封印されたペニスの、勃起の兆候。
この状態で勃起させてしまうと、どれほどの苦痛に襲われるのか。
経験したことはないが、それがかつて感じたことのない苦しみだろうとは、容易に察しがつく。
その心配が、いよいよ切実なものになってきた7日め。ボクが最底辺メイドになってちょうど1週間。
その日がやってきた。
まずは、日課のおしっこ回収。
「スカートをめくりなさい」
いつものように命じられ、素直に従う。
カチリ。とチューブを接続されるかすかな震動が、今朝はペニスへの刺激となる。
「ん、ぅ……」
それで低くうめいたところで、ノズルのロックが解除される。
今朝にかぎっては、回収が開始されても膀胱が軽くなるだけで、排泄の実感がないのが救いだ。
今なら、尿道内を小水が通過する感触だけで、勃起させてしまいそうだから。
そして回収作業が終わり、朝食を摂ったところで、指導係の先輩メイドが口を開いた。
「それでは、行きましょうか」
「えっ、どこへ?」
いつものように羽根はたきで掃除させられるのだろうと思っていたボクが訊ねると、先輩メイドは相変わらずの無表情で告げた。
「奥さまのところです」
「ど、どうして……?」
「それは、わたくしにはわかりません」
それは、おそらくほんとうなのだろう。
「そもそも、わたくしどもが奥さまのご命令に理由を求めることなど、あってはならないのです」
そう言われて、ハッとした。
奥さまへの絶対服従。そのルールはボクのみならず、お屋敷の使用人すべてに適用される。
だから、先輩メイドは理由の如何にかかわらず、その指示に従った。
そして、ボクには奥さまへの絶対服従に加え、メイドたちへの相対的服従も厳命されている。
本来なら、ボクに許されるのは『かしこまりました』と答えて従うことのみ。奥さまの指示を伝えた先輩メイドに理由を問うことすら不遜な行為なのだ。
そのことをあらためて思い知らされながら、いささかの緊張感とともに、ボクは1週間ぶりに奥さまの前に引き出された。
そこは初日に連れ込まれた応接室ではなく、ふだんボクには立ち入りが許されていない、奥さまのプライベートスペースだった。
地下の懲罰室のような陰惨さはないが、どこか共通する湿っぽい雰囲気がある。空調が効いていて湿度が高いわけではないのに、なんとなく湿りけのようなものを感じる。
それは、部屋に窓がないからか。ほかの場所のとは違い、調度品は壁際に置かれた棚と、中央付近に不自然に立てられた柱だけしかないせいか。それとも、この日の奥さまから漂う色香が、そう思わせるのか。
あの日と違い、奥さまは下着かと見紛うような――実のところほんとうに下着姿なのだが、それがあまりにも豪奢なものであるゆえ、ボクの目には下着と映らなかった――露出の多い格好をしていた。
「メイド服を脱がせ、柱に縛りつけなさい」
そんな奥さまが椅子に腰かけて脚を組み、細巻きのタバコを咥えると、お付きのメイドがすかさず火を点けた。
そしてひと口、紫煙を吸い込むあいだに、指導係の先輩メイドがボクの服を脱がせにかかる。別のメイドが、革の手枷足枷と大量のベルトを運んでくる。
(きっと、あれで……)
ボクを柱に縛りつけるのだ。
罰を受けなければならないようなことはなにもしていないのに、縛られてなにかをされるのだ。
そうとわかっているのに、ボクは抗おうとしなかった。
抵抗はおろか、縛る理由も、縛ってなにをするのかを訊ねることすらしなかった。
いや、できなかった。
ボクを含め使用人は全員、奥さまには絶対服従だから。ボクにかぎっては、メイドたちにも相対的服従だから。
反抗心を折られ砕かれ、屈辱と羞恥に馴らされるうち、ボクは承服できないことにも従う心を植えつけられていた。
メイド服を剥ぎ取られ、柱を背に立たされる。
待ち構えていた別のメイドに両手を取られ、柱の向こうに回される。
そのまま革手錠――革の手枷を短い鎖でつないだ拘束具――を嵌められ、柱を背にして立つ状態を強制させられた。
そこからは、複数のメイドの手で、一気呵成に拘束された。
二の腕ごと、胸の上のほう。革のオープンブラの下端に重ねるように、胸の下。お腹。肉をくびらせるほどきつく、ベルトで締めあげられる。
足を軽く開かされ、柱の側面に置かれ、脚も幾本ものベルトで縛られる。
そして額にもベルトが巻かれて頭も柱も固定され、両手で抱えて運んできた革ベルトがすべて使用されたところで、ようやく拘束が終わった。
動けない。
上半身は柱を背負うように、下半身は足を開いて柱の側面に置かれて、数えきれないほどのベルトを締められた。
そのせいで、身体を少し反らした状態で、頭の先からつま先までピクリとも動けない。
「ど、どうして……」
これほど厳重に拘束するのだろう。
苦しさのあまり口にしかけた疑問を、ボクはすんでのところで飲み込んだ。
全員が絶対服従すべき奥さまが命じ、ボクが相対的服従しなくてはならないメイドたちが拘束したのだ。
最底辺メイドたるボクが、疑問を抱くことは許されない。
そう考えるともなく言葉を飲み込んだボクから、メイドたちが離れていく。
指導係の先輩メイドも含め、全員が部屋を出ていく。
そしてふたりきりになったところで、奥さまが椅子から立ち上がった。
「うふふ……」
そして薄く嗤いながら、動けないボクに歩み寄る。
「ここで、これから、なにが行なわれるか、メイドたちには伝えていない。あなたの指導係には前もって教えているけれど、口外しないよう命じてある……」
つまり、彼女がほかのメイドに訊ねられても、けっして話さないということだ。ここでこれからなにが行なわれるのか、指導係の先輩メイド以外が知ることはないのだ。
とはいえボクは、なんとなくわかっていた。
それは、奥さまの表情。
ほかのメイドたちと違い、奥さまだけはボクの前で表情を見せる。そしてその表情には、あきらかに性的な高揚が浮かんでいる。
そしてこの状況で、性的な昂ぶりを感じさせる表情でやることは限られている。
そう判断したボクの考えは甘かった。
「うふふ……」
瞳に妖しい光をたたえ、奥さまのが小さな鍵を取り出した。
そして片手でつまんだその鍵、貞操帯のマスターキーを見せつけながら、もう一方の手でボクの頬に触れた。
「ピアス、好きなのね?」
そして妖しく輝く目を細め、耳のピアスに指を這わせた。
「えっ……?」
「片耳にふたつも着けているんだもの、きっと好きなのね」
そうじゃなかった。特に好きというわけではないが、周りに着けている者が多かったから、なんとなく自分もそうしただけだ。
とはいえ、そうと答えると、奥さまの言葉を否定したと取られるかもしれない。
そのことが、反抗と判定されるかもしれない。
そう考えて否定も肯定もできずにいると、奥さまの手が移動し始めた。
至近距離でボクを見つめながら、その指は耳から首すじへ。
ゾクゾクと妖しい感覚を生みながら、鎖骨をなぞり、それから胸へ。
乳輪の周りを触れるか触れないかの強さでな撫で。
「いやらしい乳首ね。もう固くなってる」
そう言って、スッと乳首の上を通過させる。
ゾワリ、と妖しい感覚が大きくなった。
「んっ、ふ……」
思わず艶を帯びた吐息を漏らすとともに、地下懲罰室での責めを思い出した。
(こ、この感覚は……)
性の快楽だ。
肉体にそのことを教え込まれたボクの乳首を、奥さまが大胆に弄る。
片手でつまんだ鍵を見せつけながら、もう一方の手で乳首を円を描くように撫でる。
ゾワリ、ゾワリ。
その感覚を、ボクははっきり快感だと認識していた。
ゾワリ、ゾワリ。
快感が駆け抜ける。
駆け抜けた快感が、股間に血を集めさせる。
勃起の兆候。
貞操帯で厳重に封印されたペニスが、ムズムズし始める。
「ペニスを解放してほしい?」
そこで、ボクの眼前で鍵を揺らしながら、奥さまが訊ねた。
もちろんだ。早く解放してくれないと、ボクは貞操帯に封印されたまま勃起してしまう。
しかし、そう答えたボクに奥さまが投げつけたのは、残酷極まりない言葉だった。
「じゃあ、乳首にもピアスを着けさせてくれる? そうしたらペニスを解放してあげる」
はじめ、言葉の意味がわからなかった。
「へ……?」
それで思わず変な声をあげたところで、奥さまが乳首をつまんだ。
「ここに、ピアスを着けると言ったの」
それでようやくことの重大さを悟り、愕然とする。
「そ、そんな……」
「乳首にピアスを着けるのは嫌?」
「あ、あたりまえ……」
「どうして? 耳には着けているのに」
そう言われて言葉を詰まらせたところで、奥さまが唇の端を吊り上げた。
「私はどちらでもいいのよ。どちらかというと、困るのはあなたじゃない?」
そのとおりだ。
あまりの言葉に今は治まっているが、ボクは昨日から勃起の兆候を感じていた。
なんとかやり過ごしてきたが、早晩ほんとうに勃起させてしまうだろう。
縮こまった状態でもギリギリ、いや実際は収まりきらず、半ば体内に埋まった状態で封印されたペニスを。
「知ってるとは思うけど……ピアスを外してしまえば、穴はじきに塞がるわ。もし乳首ピアスを着け続けるのが嫌なら、2年の年季が明けたとき外せばいい。だけど……」
そうだ。奥さまは本心では乳首ピアス装着を望んでいる。
どちらでもいいと言った以上、拒んだことを理由で罰せられたりしないだろうが、心象は悪くなるに違いない。
それが次になにかあったとき、懲罰へのハードルを下げさせることはあるかもしれない。従順でないことが、矯正プログラム期間延長の理由になる恐れもある。
そして、奥さまの言葉のとおり、ピアス穴は外せば塞がる――。
そう考え、ボクは口を開いた。
「ぴ、ピアスを……乳首ピアスを着けて……ください」
最善の選択をしたつもりで、乳首ピアス装着を請うてしまった。
懲罰室で反抗心を折られ、最底辺メイド暮らしで服従することに馴らされたうえで、そう答えるよう仕向けられたことにも気づかずに。
望まない乳首ピアス装着を受け入れることが、さらなる屈服になるのだということもわからずに。
奥さまに喚ばれて、指導係の先輩メイドがやってくる。
その手には、銀色に輝く金属製のトレイ。その上には、禍々しい器具。
それは、ボクが見たことのあるピアッサーではなかった。
消しゴム大の立方体と、握り手のついた針《ニードル》。その横には、黒いチタン製のストレートバーベル形ピアスが何種類か。
「乳首は痛点の多い部位なので、ファーストピアスは少し小さめ、14G(穴の太さ1.6ミリ)にするわ」
わざわざファーストピアスと告げるということは、おいおい太いものに交換するということなのか。
ピアスが何種類もあるのは、そのためなのか。
そう考えて戦慄を覚えるが、今さら拒否することはできなかった。
「うふふ……」
薄く嗤ったまま、奥さまが医療用の薄い手袋を両手に嵌める。
同じゴム手袋を嵌めた手で、先輩メイドが乳首周りを消毒する。
「ひっ……!?」
ヒヤリと冷たい感触に短く悲鳴をあげた直後、奥さまが消しゴム大の立方体を、乳首の側面にあてがった。
あえて動かないように注意しないのは、ボクが動けないことを知っているからだろう。
気づくと、もう一方の手で針《ニードル》を持つ奥さまの顔から、薄い嗤いが消えていた。
(いよいよ……)
ピアス穴を開けられるのだ。
そうと察し、怖いもの見たさも相まって視線を下に落とそうとするが、額も縛られて顔は動かせなかった。
「ひっ……」
針《ニードル》を刺される瞬間を見られない恐怖に、もう一度短く声をあげた直後――。
プツリ。
そんな感触をボクにもたらし、針の先端が乳首を刺した。
痛みが襲ってきたのは、少わずかの間《ま》を置いてから。それも、絶叫するほどの激痛ではない。
「い、ぎ、ひっ……」
小さい肉の豆の中を、硬い金属が通過する。
「あひッ!」
少し大きい声をあげたのは、針《ニードル》の先端が反対側に出たことを感じた瞬間。
「ひっ、はっ、はっ……」
ジクジクと痛みを感じるなか、乳首にバーベル形ピアスを装着される。
それが終わると、もう一方の乳首。
同じ手順で作業が終わり、先輩メイドの手で額の拘束を解かれ。
「ご覧なさい」
奥さまに言われて視線を落とすと、両の乳首をチタン製の黒いストレートバーベルピアスが貫いていた。
「あっひっ……こ、こんな……」
凄惨な光景に、愕然として絶句する。
ファッションアイテムとして、耳のピアスを着けている人は多い。耳ほどポピュラーではないにせよ、舌ピやへそピを着けている人もいる。
だが、ボクの友人知人のなかに、乳首ピアスを着けている人はいなかった。
ネットで見たことはあるが、それはファッションアイテムとして着けられたものではなかった。
そもそも乳首、特に女性の乳首は、服や下着で隠しておく場所。そこのピアスは、ファッションアイテムにはなりえない。
もちろんファッションとして乳首ピアスを着けている人もいるだろうが、その目的はおもに――。
「奴隷のピアスよ」
ボクが考えることすらためらった言葉を、奥さまが躊躇なく口にした。
「まぁ奴隷という呼称が適切かどうかはさておき、この屋敷の誰にも服従する身分の証として、乳首ピアスは最適のアイテムというわけ。それを受け入れたあなたは、最底辺メイドとして一段階進化したとも言えるわね」
それがボクにとって、ほんとうにいいことなのかどうかはわからない。
しかし、奥さまの表情を見るかぎり、彼女にとっては喜ばしいことのようだ。
そしてそれは、ボクの矯正プログラムにもよい影響をもたらすに違いない。
そう考え――実のところは考えさせられ――胸を撫で下ろしたところで、ふと気になった。
ピアス装着にともなう出血は最小限。取りつけられたばかりのピアスには触れないよう、消毒を兼ねて周りを拭き取られると、もう出血は止まっているようだ。
そういえば、乳首はより鋭敏な場所はずなのに、耳のピアスを開けたときより痛みは少ない気がした。
それは、奥さまのピアッシング技術が優れているからなのか。
だとしたらなぜ、奥さまはそんな技術を身につけているのか。
とはいえ、その理由――奥さまは医師の資格を持ち、ピアス施術の経験が豊富だった――をボクが知るのはのちのこと。
頭によぎった疑問を口にできないまま、あらためて奥さまが口を開いた。
「それでは約束どおり、ペニスを解放してあげましょう」
そうだ。ボクはペニスを解放してもらうために、乳首ピアス装着を受け入れたのだ。
ボクがそのことを思い出したところで、奥さまがゴム手袋を外し、あらためて鍵を手にした。
小さな鍵が、貞操帯の鍵穴に差し込まれる。
カチリ。
小さな金属音とともに、施錠が解除される。
だが、貞操帯本体がボクの股間から離れることはなかった。外されたのは、ペニスを押さえつけて封印していた蓋だけ。
その蓋が、貞操帯本体から取り外される。
刹那、ペニスを衝撃的な刺激が襲う。
「はひぁああッ!」
思わず悲鳴じみた声をあげ、反射的に身体を跳ねさせかけて、拘束の革ベルトをギチッと鳴かせてしまう。
とはいえ、それは痛みではない。どちらかというと、快感に近い。というより、慣れていない快感だから、衝撃と捉えてしまった感じ。
「ひぁあ……な、なにコレ!?」
「尿道にチューブが挿入されていたこと、忘れてた?」
そうだ、チューブだ。
ボクからおしっこ排泄の爽快感を奪っていたチューブが、このたびは尿道内を擦って刺激したのだ。
そうとわかったところで、股間に血が集まり始めた。
そして血が集まるにつれ、ペニスがムクムクと頭をもだけていく。
意識して気を紛らわせているときじゃなくても、無意識のうちに勃起を抑えようとしていたのか。
それが貞操帯の蓋から解放されたことに加え、尿道への刺激をきっかけに、一気に勃起し始めたのだろう。
とはいえ、それはのちに考えてわかったこと。そのときのボクはそうなる理由に思い至る余裕もなく、わずか数秒で完全勃起状態になってしまった。
天を突くほどに猛りきったそれは、今にも爆発しそうだ。手を添えて数回擦るだけで、射精に達するだろう。
しかし、柱に縛りつけられた僕は、自分のペニスに触れられない。
奥さまは薄く嗤ったまま、先輩メイドは相変わらずの無表情で、動けないボクをただ見つめるだけ。
「ど、どうして……?」
なにもしてくれないのか。
懲罰室でしたように、手でイカせてくれないのか。
ボクは乳首ピアス装着を受け入れたのに。
しかし、そうとはっきり訊ねられないボクに、奥さまが妖しく輝く目を細めて口を開いた。
「なぜそんな、恨めしそうな目で見るのかしら? 私は約束を守って、ペニスを解放してあげたのに」
「……ッ!?」
言われて、ハッとした。
『乳首にもピアスを着けさせてくれる? そうしたらペニスを解放してあげる』
乳首ピアス装着を迫ったときの、奥さまの言葉。
それは、貞操帯から解放するという意味だったのだ。
そしてその先のことには、解放されたペニスをどうするのかには、まったく言及されていない。
ペニスを解放する、すなわちそこに溜まったものも解放すると考えたのは、ボクの勝手な思い込み。
そうと気づいて愕然とするボクを細めた目で見ながら、奥さまが唇の端を吊り上げた。
「とはいえ、この状態では再封印することはできないわね」
そしてそう言うと、先輩メイドに命じた。
「搾精装置を用意なさい」
「さ、さく……せい?」
意味がわからず、思わず問うてしまうが、答えてくれる人はいなかった。
「この屋敷の掟、もう忘れた?」
代わりに奥さまに投げつけられたのは、無慈悲な言葉。
「私には絶対服従。メイドには相対的服従。私の指示を受けメイドがすることに疑問を抱くことは、ここでは認められないわ」
そう言われては、もう疑問を口にすることはできなかった。
ここでは奥さまはもちろん、先輩メイドに理由を問うことすら不遜な行為なのだ。
「も、申しわけありません……」
心を折られ砕かれ、服従することに馴らされつつあるボクは、震え上がり謝罪するしかなかった。
「今回は許してあげる。でも、次はないわよ」
「は、はい……」
さらに反抗心を粉々に粉砕され、馴らされてしまう。
そのあいだに、先輩メイドが装置を手に戻ってきた。
先端が半球状に閉じた、貞操帯と同じ素材の金属製の筒。
半球部分から伸びる黒い電源コードのプラグを、柱の裏面に設えられていたコンセントに差し込むと、先輩メイドが装置を奥さまに手わたした。
「ご覧なさい」
そして装置の底面を、奥さまがボクに見せる。
筒の中には、イソギンチャクの触手のような、シリコンゴム製の突起がびっしりと生えていた。
「使い方は、もうわかったでしょう?」
わかっていた。
その筒状の装置の中に、ボクのペニスを挿入させるのだ。底面にある爪のような金具は、蓋を外した貞操帯に固定するためのものだ。電源コードがあるのは、モーターの力で中の触手を蠢かせるためなのだ。
そうと知って息を呑むボクに見せつけるように、筒の中にローションが注入される。
それから、ペニスに筒があてがわれる。
亀頭が筒に隠れた刹那、そこに内部のシリコンゴム触手が触れた。
柔らかい。そのうえ、ローションのせいでヌルヌルだ。
「あっ、ひぁあぁ……」
亀頭がやわやわと刺激され、思わず声をあげたところで、ボクのペニスは筒に覆いつくされていた。
カチリ、と金属どうしが噛み合う音。
装置が貞操帯に固定されたことを確認し、奥さまが離れる。
装置の重みを支えるためだろうか。入れ替わるようにボクの前に立った先輩メイドが、電源コードのつけ根に結んだ紐を、お腹のベルトに結びつける。
そして、椅子に腰を下ろして脚を組んだ奥さまが、ボクに見せつけるように装置のリモコンを操作した刹那――。
「はひゃあぁあッ!?」
ペニスが衝撃に襲われ、目を剥いて叫んでしまった。
ギチッ、ミチッ。
反射的に手足をこわばらせ、革ベルトを鳴かせてしまった。
「はひ、なにコレえッ!?」
思わず問うてしまったが、ボクにはわかっていた。
チューブで尿道を刺激されたとき同様、これは快感だ。それが大きすぎるゆえ、衝撃と感じてしまった、性の快楽だ。
「ひゃああぁあッ!」
そうと気づいたところで、衝撃的な快感が小さくなることはない。
懲罰室で先輩メイドに精を搾りつくされたときも、大きな快感に襲われた。
だがそのとき、彼女は力加減をしていた。顔は無表情、手つきは事務的であっても、ボクの状態に合わせて責め手を調整していた。
しかし、今は違う。
感情のない機械はいついかなるときも、ボクの状態を思いやることもなく、持てる性能を100%発揮し続ける。
あらかじめ設定された性能を発揮し、ボクのペニスを容赦なく責める。
とはいえ実のところ、それは奥さまが手にするリモコンで操られていた。
奥さまがそうしようと思えば、装置内の触手状シリコンゴムの動きを、弱めることもできるのだ。
だが衝撃的な快感に苛まれるボクは、そのことにすら気づけなかった。
気づけないから、奥さまに装置の動きを弱めてと懇願することもできず――。
「あっひゃあッ、射精《で》るッ!」
あっけなく、金属製の筒の中に精を放ってしまった。
当然それで、装置が止まることもない。
瞳に妖しい光を灯した奥さまが、内部の動きを弱めてくれることもない。
吐き出された粘液をも潤滑剤にしながら、無慈悲な機械がボクを責める。
「あひッ、ああぁあッ!」
勃起が治まる暇《いとま》も与えられず、再び高められる。
「はひいッ、また、またぁあッ!」
イカされる。射精させられる。
無表情な先輩メイドに、冷ややかな視線を向けられながら。
無慈悲な機械に、暴力的に責められながら。
妖しく嗤う奥さまに、はっきりと欲情を感じさせる目で見つめられて――。
(どうして……?)
奥さまは、あんな目でボクを見るのだろう。
ボクの痴態に欲情しているのか。
思えば奥さまだけが、ボクの前で感情を露わにしてくれる。
(それは……)
考えることができたのは、そこまでだった。
疲れることのない機械に責められ、再びボクは追い上げられる。
責め苛まれ、思考能力を失っていく。
「あなた、とてもいいわ」
そんなボクに、奥さまが声をかけた。
「あなたの啼き声、とても素敵よ」
快感に襲われてボクがあげる声を褒め。
「あなたの姿、扇情的だわ。大好きよ」
責めに翻弄されるボクに、はっきりと好意を向けてくれた。
その言葉が、思考能力を失ったボクの精神に滲み入る。
滲み入って、染め上げる。
ボクの心を、奥さま色に。
「あっひゃあッ、イクッ!」
またイカされた。
「はひゃああッ、イグッ!」
さらにイカされた。
無慈悲な機械によって、奥さまに愛でられながら、繰り返し繰り返し。
そして完全に搾りつくされ、身も心も空っぽになったところで、ようやく装置が止まった。
「うふふ……」
薄く嗤って、奥さまが椅子から立ち上がる。
リモコンを先輩メイドにわたし、ボクに歩み寄る。
この屋敷でただひとり、ボクに対して感情を露わにし。
ボクに向かって高揚を感じさせる笑顔を向けて。
柱に縛りつけられて動けないボクの髪をかき上げ、汗と涙で濡れ光る頬に両手を当て。
「かわいかったわ……これから毎週、こうして抜いてあげる。いいわね?」
そう言った奥さまに、ボクはコクンと小さくうなずいた。
◇ ◇ ◇
『まだ時間はあるわ。年季明けまでの1週間、よく考えることね』
奥さまの言葉に、羽根はたきを手にしたまま固まる。
お屋敷の調度品は、超のつく高級品ばかり。
はじめの頃は掃除するにも神経をすり減らしたものだが、今はすっかり慣れた。羽根はたきを使っての作業は、お屋敷の使用人のなかでも随一ではないかという自負も生まれてきたほど。
それはボクが、ここに来てから2年間、羽根はたきの掃除しかしていないからだ。
羽根はたき以上に重いものを持たされることはなく、というより持つことを許されず、ボクの腕からはすっかり筋肉が削げ落ちてしまった。
食事が充実していることも相まって、腕のみならず身体全体のラインが丸みを帯びてきた。
『2年間の矯正プログラム中、あなたは変わったわ。すさみきっていた表情は、とても穏やかになった。短かった金髪は黒に戻り、長く伸びた。もちろん変わったのは、それだけじゃない。すっかり似合うようになったメイド服の下の肉体も、精神も』
奥さまが仰るとおりだ。
ボクはもう、喧嘩三昧の不良には戻れない。社会復帰するにしても、力仕事はとうていこなせそうにない。
もうお屋敷での勤めしか、ボクにはできることはないだろう。
いや、それだけじゃない。
『私好みにいやらしく改造された肉体で、淫らに作り替えられた精神で、元の男の子としての暮らしに戻れると思う?』
そうだ。ボクの肉体は、いやらしく作り変えられた。
乳首のピアス穴は14G(約1.6ミリ)から、4G(約5ミリ)にまで拡張された。それにともない、乳首そのものも男子のものとは思えないほど肥大してしまった。
そのピアスをも利用しての愛撫を繰り返され、乳輪もぷっくりといやらしい形に膨らんでいた。
そして精神は、週に1度の責めを待ち望んで暮らすほど、淫らになっていた。
『私の管理と調教から、離れて生きていけると思う?』
それも、奥さまの仰るとおりだ。
いやらしい肉体で淫らな精神を包むボクが、奥さまの射精管理と搾精調教なしに生きていけるわけがない。
そうとはっきり認識し、ボクは奥さまの目をしっかりと見て答えた。
「これからも、よろしくお願いします」
それだけで、ボクの気持ちが伝わったのだろう。
奥さまはボクを抱きしめ、耳元でささやいた。
「いいわ、これからもずっと、永遠に飼い続けてあげる。私のかわいい貞操帯女装メイドとして」
(了)