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「奥さま、なにかご用でしょうか?」 「お掃除の途中に呼び出されて、ちょっと怒ってる?」 「いえ、そんなことは……ボク、いえわたくしは奥さまに絶対服従ですので」 「そうね。出来心からとはいえ犯した罪により検挙され、新たに定められた若年犯罪者矯正プログラムによりこの屋敷に預けられたあなたは、矯正指導員たる私に仕方なく従っているのよね」 「そ、そういうわけでは……」 「うふふ……いいのよ、わかっているわ。ともあれ、それもあと少し。来週には2年間の年季が明け、あなたは晴れて自由の身となるわ」 「はい、長いあいだお世話になりました」 「で、年季が明けたらどうするつもり? ここを出て、自由を手に入れるか。それとも、このまま私に仕えて暮らすか」 「も、もちろん、お暇《いとま》をいただき……」 「うふふ……ほんとうに、それでいいの?」 「えっ……?」 「2年間の矯正プログラム中、あなたは変わったわ。すさみきっていた表情は、とても穏やかになった。短かった金髪は黒に戻り、長く伸びた。もちろん変わったのは、それだけじゃない。すっかり似合うようになったメイド服の下の肉体も、精神も」 「ど、どういうことでしょうか?」 「私好みにいやらしく改造された肉体で、淫らに作り替えられた精神で、元の男の子としての暮らしに戻れると思う? 私の管理と調教から、離れて生きていけると思う?」 「そ、それは……」 「うふふ……まだ時間はあるわ。年季明けまでの1週間、よく考えることね」  瞳に妖しい光を灯した奥さまに言われ、ボクは固まった。    ◇ ◇ ◇  ボクがこのお屋敷に連れてこられたのは、ちょうど2年前。  奥さまが仰ったように、その頃のボクは、いわゆる不良少年だった。  いや、当時のボクはすでに18歳、正確には少年ではなく成人していた。それゆえ、出来心で些細な犯罪に手を染めて逮捕されたのち、刑事裁判にかけられた。  とはいえ、ボクはまだ、心の底から悪に染まっていたわけではなかった。そのため、懲役刑ではなく、新設された若年犯罪者矯正プログラムの適用が言いわたされた。  そして支給された灰色の囚人服に腰縄付きの手錠をかけられたまま、護送用のバンに乗せられ、矯正指導員たる奥さまが待つお屋敷に連行されたのである。  金属製の高いフェンスに囲われた、広大な敷地。中が見通せるし、装飾的なデザインのため威圧感はないが、よじ登って越えることは不可能だろう。  フェンスと共通の意匠の門には、軍服に似たデザインの制服を着た女性警備員。  キビキビした動作で門が開かれ、護送用バンに乗せられたまま、敷地内に入る。  手入れの行き届いた庭園を抜け、玄関の車寄せ。そこで待っていたのはメイドの一団。  季節は夏ゆえ半袖だが、スカート部分はロング丈――いや、裾がくるぶし近くまで達しているのはマキシ丈か。  ともあれそこで車から降ろされ、クラシカルなメイドたちに案内されてお屋敷内へ。  豪奢な応接室で、ボクの身柄は裁判所の係員から、奥さまに引きわたされた。  奥さまは、優しくも厳格なお方だった。  腰縄付き手錠を外されても不貞腐れた態度のボクを冷たい視線で見据え、厳しい口調でこう告げた。 「ここは、これまでのように甘い場所ではないわ」 「どういうこと……だよ?」 「懲役刑を逃れられ、あなたは安堵しているかもしれないけれど、刑務所のほうが楽だったと思えるような場所ということよ」  そう言われ、反発心が生まれた。 (こいつらを……)  全員倒して、逃げてやろうという気持ちが生まれた。  ボクがそう思ったのは、お屋敷にいたのが女性ばかりだからである。  メイド以外の使用人、庭師も、門の警備員ですら、すべて女性。しかも警備員以外、武器を携行していない。警備員だって、警棒程度しか装備していない。 「なめるなよ、おばさん」  そのときボクは不敬にも、奥さまにそう言っていた。  あまつさえ彼女に一撃食らわせようと、歩み寄ろうとしていた。  そして、奥さまの胸ぐらをつかもうと手を伸ばしたときである。 「えっ……?」  ボクの身体は、宙に舞っていた。  次の瞬間、ボクは床に転がっていた。 「な、なにが……」  起きたのかわからない。  実のところ奥さまに触れようとした瞬間投げ飛ばされていたのだが、あまりの早技ゆえ、 事態を把握できなかったのだ。  あまつさえ、床に叩きつけられて怪我しないよう、衝撃を和らげられていたのだ。  とはいえ、ボクがそうと理解できたのは、もう少し後のこと。  駆け寄ったメイドにふたりがかりで腕を捩りあげられ、奥さまの足下に跪かされ。 「活きのいい子は好きよ。でも、少し反省してもらう必要がありそうね……懲罰室に連行し、吊り上げておきなさい」  そのときのボクにできたことは、薄く嗤って告げる奥さまを悔しい気持ちで見上げることだけだった。 「うっ、く……」  手首のみならず、掌の部分まで拘束するぶ厚く巨大な手枷――サスペンションカフという、吊り責め専用の拘束具ということは、後に知らされた――で両手を高く吊られ、くるおしくうめく。  あれから――。  奥さまに懲罰室送りを命じられてから、ボクはメイドたちに拘束された。  跪いたまま両手にサスペンションカフを嵌められて後手に縛られてから、両脇を支えられて立たされる。  もちろんその間、無抵抗に拘束されていたわけではない。それほど豊富とはいえない語彙を駆使して彼女たちを罵りながら、必死の抵抗を試みた。  しかし、無駄だった。  思いつくかぎりのボクの罵倒は、軽く受け流された。4人がかりで押さえつけられては、いかに相手が女性でも、抗うことはできなかった。  いや、ただ人数の差で抵抗を封じられたわけではない。  奥さま同様彼女たちも、人体を制御する技を極めた、武道の達人だったのである。  そんな精鋭揃いだからこそ、男性使用人がいなくても、お屋敷の警備は万全なのだ。  そのことを思い知らされながら地下の懲罰室に連れ込まれる。  広さは8畳ほどだろうか。四方の壁と天井は、コンクリートの打ちっ放し。床もコンクリートだが、工場などで見られる緑色の防汚塗装が施されている。  立っているだけではわからないが、出入り口の鉄扉がある面から奥に向かい、緩く傾斜がつけられているのだろう。奥の壁に沿って、金属製の蓋が被された排水溝がある。  そして向かって右の壁沿いに、クラシカルな木製のロッカーと棚。 (あそこには……)  懲罰用の拷問道具でも収納されているのか。  そう考えて息を飲むが、もはや待ち受ける運命に抗う術《すべ》はなかった。  メイドの手でいったん後手の拘束を解かれ、天井の電動ホイスト――小型のクレーン――からぶら下がる鎖を、手枷の金具につながれる。  そしてひとりがメイド服のポケットから取り出したリモコンを操作し、ボクがつま先立ちになるまで吊り上げると、別のメイドが裁縫用の断ち鋏を手にした。  そして鋼鉄の刃どうしが擦れる音を立て、ボクの目の前で鋏を動かす。  なにをするつもりだろう。  緊張してコクリと喉を鳴らすと、メイドはボクが着ていた囚人服を切り裂き始めた。 「や、やめろ!」 「おとなしくなさい。さもないと、怪我をしますよ」  身をよじって刃を遠ざけようとするボクの動きを、そのひとことで封じ、メイドは鋏を動かし続ける。  頑丈さだけが取り得の囚人服だが、断ち鋏の前では無力だった。 「や、やめろ……やめて……」  妙齢の女性の前で裸に剥かれるのが悔しくて、恥ずかしくて、懇願してもメイドの手は止まらない。 「ぅうぅ……」  時間にして数分、ボクの感覚ではあっという間に全裸に剥かれ、屈辱と羞恥にうめく。  そして布切れになった囚人服の残骸を片づけると、メイドたちはボクをひとり残して部屋を出て行った。  それから、どれほどの時間が経過しただろう。  吊り上げ用の手枷、サスペンションカフを嵌められた手は、体重がかかっても激しく痛むことはなかったが、さすがにつま先立ちを強いられ続けるのはつらい。  空調は効いているようだが、肉体的なきつさのせいで、衣服を剥ぎ取られた裸身にうっすら汗をかいてきた。 「ぅう……」  苦悶して、嵌められた手枷を見上げる。  その拘束具の複数のベルトは、施錠されているわけではない。ただし拳骨のあたりまでを覆っているうえ、すべてのバックルは手の甲側にある。ただ嵌められただけならともかく、こうして両手を吊り上げられてしまうと、自力で外すことは不可能。  その先の電動ホイストはリモコン式。それを手に入れないかぎり、操作することはできない。そして、その肝心のリモコンは、立ち去ったメイドのひとりが持っている。 「ふう……」  脱出を完全に諦め、ひとつ息を吐いたところで、背後で鉄の扉が開く音が聞こえた。  重い金属音に続き、複数の足音。ひとつだけ音質が違うのは、ハイヒールだろうか。  その足音の主――奥さまが、ボクの正面に回り込んできた。 「少しは反省したかしら?」  懲罰室送りを命じたときと同じ冷酷な笑みを浮かべ、奥さまが口を開く。  あらためて至近距離で見ると、その顔の高さはボクと同じくらい。  奥さまはハイヒールを履いているが、ボクはつま先立ちを強いられたまま。おそらくもともとの身長も、同じくらいと思われる。  ボクの身長は男子の平均より少し低いが、女性としては相当な長身だ。  にもかかわらずハイヒールを履いているのは、背の高さをコンプレックスとして感じていないのだろう。  それは、男性に媚びる生き方をしなくていい境遇だから。そのうえで、自分の好きなものだけを選んで身につけているのだ。  ともあれ、そのときのボクにはそこまで考える余裕もなく、長びく吊り責めの苦痛のなか気力を振り絞り、奥さまに反抗の視線を向けた。 「ふふふ……痩せ我慢とはいえ、まだそんな目ができるのね。ますます気に入ったわ」  すると奥さまは満足げにうなずき、メイドのひとりが用意した椅子に腰を下ろし、優雅なしぐさて脚を組んだ。 「ともあれ、冷静に話を聞ける状態にはなったようね。それでは、ここで暮らすルールを教えてあげましょう」  そして細巻きのタバコに火を点けさせ、あらためて口を開いた。 「まず、私への絶対服従。これはあなたにかぎらず、屋敷の使用人すべてに対する、この屋敷の基本的かつ絶対的なルールよ」  それは、メイドたちの奥さまへの態度を見ていて、なんとなくわかった。  同時にボクは、服務規定として従っているだけではなく、彼女たちが奥さまに心酔しているからだとも感じていた。 「そして、メイドたちへの相対的服従。私の指示に反しないかぎり、メイドたちにも服従しなくてはいけない。つまりあなたは、この屋敷で最底辺の存在というわけ」  その言葉に忸怩たる思いが生まれるが、今は如何ともしがたい。  拘束され吊られているから抵抗できないということ以前に、ボクはそういう身の上なのだ。  若年犯罪者矯正プログラムの適用を言いわたされたボクの運命は、矯正指導員たる奥さまの胸先三寸。一応プログラムの期間は2年間と定められているが、矯正が充分でないと判断されれば、実質無期限に延長される。  奥さまが仰ったように冷静さを取り戻したボクは、そのことを思い出し、反抗の言葉を飲み込んだ。  実のところ、それはただ冷静になったゆえのことではない。  奥さまににあっさりと制圧され、メイドたちも同等の力量があることを知り、さらに屈辱と羞恥と苦痛の全裸吊り責め放置の果てに、反抗心を折られてしまったのである。  とはいえ、そのときのボクはまだ、心を折られたことに気づいていなかった。気づかないまま、冷静な判断のつもりで、抵抗を諦めたのである。  そんなボクに、奥さまがあらためて問う。 「屋敷の最底辺の使用人として、私とメイドに仕えて2年間を過ごすと誓える?」  その言葉に、ボクはうなずいた。 「もし私やメイドたちに反抗すれば、ただちに厳しい懲罰を受ける。それで構わない?」  忸怩たる思いに捕らわれながらも、そうすることが冷静な判断だと信じて受け入れた。 「それでは、この子に最底辺使用人の装具と衣装を整えて頂戴」  そしてボクの返答を確認すると、奥さまがメイドに命じた。  指示に応え、メイドたちがテキパキと動きだす。  装具というのがなにかはわからないが、ともあれ服は着られるようだ。  女性の前で全裸姿を晒す屈辱と羞恥から逃れられ、両手吊り責めの苦痛から解放されるなら、それがどんなものでも――。  しかし、用意された装具と衣装は、そうとも言っていられないようなものだった。  まず目についたのは、メイドたちと同じ白いエプロン。その下に着ている、襟と袖のカフスが白の、黒いワンピース。 「そ、それを……」  ボクに着せるというのか。 「だって、それは……」  女性の服だ。  そうと口にしたボクに、奥さまがこともなげに答えた。 「そうよ。ここには、女性使用人用の服しかないわ。着るのが嫌なら、裸で働くことになるけど?」  そう言われても、素直に従えるわけではない。  とはいえ、裸で働かされるよりはまし。  それにここでのボクは、最底辺の存在だ。  奥さまには絶対服従。メイドたちにも相対的服従。逆らえば、矯正期間が延長されるかもしれない。そのうえ、さらに厳しい懲罰が待っている。  両手吊り責めの苦痛が増していたボクは、さらなる懲罰の追加を恐れ、拒絶の言葉を飲み込んだ。  もちろんそれには、心が折られたことも影響していた。  とはいえ、ボク自身はそのことに気づいていない。  そして、気づかないままメイド服の着用を受け入れてしまったボクのために、さらなる残酷な装具が用意されていた。  まずは下着。  いや黒革のそれは、下着とは呼べないような代物だった。  ふたつの窪みがあるベルトが、胸の下側に巻きつけられる。  背中側でバックルが留められ、腋の前あたりから垂れ下がっていたベルトが引き上げられ、首に巻かれる。 (まるで……)  カップのないブラジャーのような。  そう思ったボクの感覚は、間違っていなかった。 「ホルターネックの、オープンブラです」  メイドのひとりが、ボクに告げる。 「えっ……?」  思わず訊き返したときには、おへその下あたりにも革のベルトが巻きつけられた。 「こちらは、ガーターベルトです」  その名がストッキングを吊るための女性用下着のものだと気づいたときには、別のメイドが次の装具を手に取っていた。  着けられたガーターベルトで吊るための、ストッキング。  それを履かせるために、ふたりのメイドがボクの足下にしゃがみ込む。  そしてひとりが足を持ち上げ、もうひとりがつま先からストッキングを着けていく。  同時に別のメイドがボクの背中にピッタリとくっつき、後ろから抱きしめた。  それはおそらく、よろめいたりしないよう支えるためだ。ボクをどうこうしようとしたのではなく、ストッキングを履かせる係のサポートをする目的だったのだろう。  とはいえ、ボクは若い男だ。妙齢の女性に身体を密着され、そのことを意識しないわけがない。  たとえ、こんな非常時であっても。  相手が、ボクよりはるかに強い武道の達人であっても。  背中にメイドの体温を感じ、縮こまっていたペニスの奥がムズムズし始める。 (こ、これはまずい……)  全裸に剥かれた状態で勃起させたら、その状態をここにいる全員に知られてしまう。  しかし、ムズムズした感じは治らない。それどころか、勃起の兆候はますます強くなっていく。  最初にそれに気づいたのは、ストッキングを履かせていたメイドだった。 「勃起しかけています。これでは、次の処置の障害になりそうです」  ストッキングをガーターベルトの金具で留めたメイドが、淡々と奥さまに報告する。 「そう、では処理して頂戴」  すると応えて、奥さまがこともなげに命じた。  まるで服の汚れを報告され、クリーニングに出すよう指示するかのように。 「かしこまりました」  そう答えたメイドたちの動きは素早く、かつ連携が取れたものだった。  ストッキング係のふたりのメイドが、ボクの足首に足枷を嵌める。  その作業が終わったところで、ホイスト係のメイドがリモコンを操作。つま先立ちを強いられていた足が、床にべったりとつくところまで腕を吊り上げていた鎖を下ろす。  同時に両脚を肩幅より少し広い程度に開かされ、その状態から閉じられないよう、足枷どうしを金属製の棒でつながれる。  その間、ボクは抵抗できなかった。  メイドたちの作業が、あまりに手慣れたものだったから。  両手吊り上げ責めで長時間のつま先立ちを強いられ、脚が消耗していたゆえ。  加えて、反抗心が折られていたせいでもあるが、それはボク自身は意識できていないこと。  ともあれ、拘束の形を変えられたところで、さっきまでストッキング係だったメイドが、別のメイドが用意した医療用の薄いゴム手袋を嵌めた。  背後にいる支える係だったメイドも、パチンパチンと音をたて、同じゴム手袋を着用した。  それから、半勃ちのペニスに手を添えられる。  背後からさらに身体を密着され、胸に手を回される。 「な、なにを……!?」  反射的に問うてしまったが、なにをされるかはわかっていた。  処理する。つまり性欲を処理する。  矯正指導員たる奥さまが、若年犯罪者矯正プログラムを適用された若い男を屋敷に迎えるのは初めてではないのだろう。  それゆえ、若い男の生理はある程度わかっている。ボクがそうなったことも、想定の範囲内だったに違いない。  そのことを証明するように、メイドたちは表情ひとつ変えず手を動かし始めた。  背中にピッタリと身を寄せる支える係だったメイドが、指で乳首を撫でる  ボクの前にしゃがみ込むストッキング係だったメイドが、軽く握ったペニスを緩くしごく。  ゾワリと、乳首に妖しい感覚が駆け抜ける。  そのことも相まって、しごかれるペニスが大きさと硬度を増す。  全裸に剥かれたうえで、変態的な女性用下着を着けられ、人の字型に拘束されたことが恥ずかしい。  恥ずかしい姿で、抵抗できない状態で、メイドたちに性感を高められることが悔しい。  だが、どうすることもできない。  ボクにできることは、くるおしくうめきながら、ホイストの鎖を鳴かせることのみ。  意思とは関わりなく、乳首はコリコリにしこり、ペニスはカチカチに勃起していく。  恥ずかしい。悔しい。  汚いものを触るときのように、ゴム手袋を嵌めた手で、乳首を弄られることが。  ゴム手袋の手で、単調な事務的な手つきで、ペニスをしごかれることが。  でも、気持ちいい。自分でするときより、はるかに気持ちいい。  ボクは高まる性感に呼吸を荒げ、くるおしくうめいているのに、メイドたちは無表情のまま、息遣いも変わらない。  いや――。  そこでボクは、自分以外でただひとり、感情を露わにしている人物がいることに気づいた。  頬を朱に染め、細めた目を妖しく輝かせ、唇の端を吊り上げたその人は、この屋敷の絶対的支配者。  奥さまである。 (ど、どうして……?)  奥さまは、あんな表情を見せるのか。  もちろん、ボクの痴態を見て高揚しているからである。  羞恥と屈辱にまみれながら性感を高めるボクを見て、性的に興奮しているのである。  だが奥さまの心情に、そのときのボクが思い至ることはなかった。  思い至る前に、ものごとを深く考えられない状態に陥ったのだ。 「あっ、ひっ……!?」  四六時中監視される逮捕勾留生活のなかで、いわゆる溜まっている状態になっていたボクは、あっけなく射精衝動に襲われた。 「で、射精《で》るッ!」  直後、ゴム手袋の手の中に、激しくぶちまけてしまう。  しかし、それでもメイドは眉ひとつ動かさなかった。  ペニス係が手を止めたのは一瞬。乳首係に至っては、射精中も指を動かし続けていた。  そして唐突な射精を咎められることもなく、賢者タイムが訪れる間も、ペニスが萎む暇《いとま》も与えられず、手コキも再開される。  それまでと変わりなく、いやボクが吐き出した粘液を潤滑剤にし、妖しさを増した手つきで、ペニスを刺激される。 「あっ、ひゃあッ!」  情けない声をあげたのは、ヌルヌルの手のひらで亀頭を撫でられたからだ。 「ひぁ、あひいっ!」  両手を吊る鎖をジャラリと鳴かせたのは、亀頭を指で包み込むようにして、しごかれたからだ。  その頃から、乳首にもはっきりと快感を覚え始めた。 「はひ、あっあっ……」  乳首を上下にはたかれて、思わず喘いでしまう。 「はひゃ、あぁあッ!」  亀頭を磨くようにしごかれて、悲鳴じみた嬌声をあげる。  恐ろしいほどの快感。  とてつもなく恥ずかしく、みじめで哀れな状態なのに、そのことを気に留めていられなくなるほどの快楽に襲われる。 「ひゃあっ、あひゃあッ!」  前後不覚に陥り、羞恥も屈辱も押し流されて。 「ぁあッ、また射精《で》るッ!」  あっけなく2度めの射精。  しかし、乳首弄りの指は止まらない。  ビクッビクッと精を吐き出している途中から、ペニスしごきも再開される。  気持ちいい。気持ちいい。  いや、気持ちよすぎる。気持ちよすぎて、苦しい。  過剰な快感は、苦痛にもなりうると思い知らされた。 「もぉ、もうひゃめれ……ッ!」  だが、止まらない。  そしていかに精神が快楽を拒んでも、肉体は反応する。 「ひあッ、ぁああぁあッ!」  3度めの射精。  しかし、終わらない。  乳首係のメイドも、ペニス係のメイドも、責めの手を休めない。 「あひいッ、イグぅうッ!」  無表情のまま、淡々とした事務的な処理で、またイッた。 「ひッ、グぅううううッ!」  ただひとり、感情を表に出す奥さまに見つめられながら、さらにイカされた。 「はひいッ、ひグひグッ!」  繰り返し、繰り返し。  もう、何度イッたかわからない。  何回イカされたか、考えることもできない。  そして数えきれないほど射精させられ、搾りつくされ、イカされてもなにも出ない状態に陥ったところで、ようやくメイドの手が止まった。  腋とペニス周りに、刷毛で石鹸の泡を塗りつけられる。  腋はくすぐったい。だが、もはや反応する気力体力がない。  ふだんなら、ペニスを勃起させていたかもしれない。だが搾りつくされた今は、ピクリとも反応しない。  それから、そこの毛を剃られる。  腋も股間も、さらに腕も脚も、顔も胸も背中も、ツルツルに剃り上げられる。  そのあいだ、ボクはいっさい抵抗しなかった。できなかった。  拘束されているからでも、動くと怪我するぞと脅されたからでもなく、抵抗しようと思うことすらできなかった。  放心してぼうっとしながら全身剃毛を施されたところで、メイドが再び股間の前にしゃがみ込む。  刹那、睾丸が硬く冷たいなにかに包まれた。  直後、睾丸の根本の裏側から、ペニスのつけ根前側にかけて、軽く締めつけられる。  カチリ、と金属どうしが噛み合う音。 (な、に……)  異変を感じて下を見たところで、縮こまったペニスに異様な感覚が駆け抜けた。 「ぃぎッ!?」  鈴口から、なにかが侵入してくる。 「ひぃいいいッ!?」  侵入してきた異物が、ペニスの中を進んでくる。 「なっ、なっなっなッ!?」  なにをしているのかと問いただそうとしてできず、変な声をあげてしまったところで、縮こまったままのペニスが、身体のほうに押しつけられた。  それで肉棒が体内に収納されたように感じたところで、再び金属どうしが噛み合う音。 「はひぃ、うぅう……」  尿道内を異物に占拠され、まるでそこを犯されているかのような感覚に囚われるボクの股間から、メイドの手が離れた。  そこで、恐る恐る視線を落としてみて――。 「……ッ!?」  ありえない光景に、言葉を失い息を飲んだ。  ボクの股間、ペニスと睾丸があった――いや今でもあるはずの場所には、ピカピカに磨きあげられた金属の装具があった。 「こ、これは……?」 「貞操帯よ」  呆然とつぶやいたボクの言葉に、奥さまが艶を含んだ声で答える。 「正確には、この形のものは貞操具と呼ぶそうだけれど、貞操帯のほうがわかりやすいでしょう?」  いや、問題はそんなことじゃない。 「私が所持するこのマスターキーがなければ、あなたは自分のペニスや睾丸に触れることはできない。触れることはおろか、直接見ることもできない。そのうえ、その貞操帯には、もっと残酷な機能があるのよ」  そう言うと、指でつまんだ小さな鍵を見せつけながら、奥さまが言葉を続けた。 「尿道にチューブが挿入されていることは、わかっているわね?」  わかっている。そこを異物に犯された感覚は、今も残っている。 「ペニスを押さえつけて封印する蓋のノズルは、そのチューブにつながっているの。よくご覧なさい」  言われて再び視線を落とすと、ノズルに接する蓋の部分に、OPENとCLOSEの文字。ノズルの赤いしるしが、今はCLOSEの位置にある。 「そのノズルは、開閉式なの。私のマスターキーか、指導係のメイドに預けておくノズル開閉のみに使える鍵がなければ、CLOSEからOPENにすることはできないのよ」 「そ、それは……つまり……」 「私の許可がなければ、自慰も勃起させることもできない。指導係のメイドに許しを得なければ、自由に排泄することもできない」 「……!」  半ば予想していたとはいえ、その言葉は衝撃的だった。 『もし私やメイドたちに反抗すれば、ただちに厳しい懲罰を受ける』  その懲罰を与えるために、わざわざ懲罰室に連れ込む必要はないし、拘束して鞭を振るわなくてもいい。  奥さまやメイドたちは、なにもせず放置するだけで、ボクにとっては恐ろしい罰となるのだ。  そのことを思い知らされ、愕然とするボクの身体を、メイドたちが濡れタオルで拭き清める。  それから手首を吊るホイストが下され、手枷足枷が外され、ボクは拘束から解放された。  それでももはや、抵抗したり逃走を試みる気力は湧かず、体力もなく、ボクはおとなしくメイド服を着つけられた。 「ぅ、ん……」  低くうめいて、ボクは目覚めた。 「ここ、は……?」  目を擦り、首だけ回して部屋を見わたす。  低い天井。4畳半ほどの狭い部屋。壁の一面に木製の扉と、小さな洗面台。壁掛けの小さな棚に、身だしなみを整えるための最低限の道具。壁沿いに置かれたベッドと平行の壁には、大きな姿見の鏡。その横のフックにかけられたメイド服。入り口の扉と反対側の壁沿いに、ベッドサイドのテーブルを兼ねた小さな机と椅子。その壁面の天井付近の明かり取りの窓から、朝日が差し込んでいる。  そこで、記憶が蘇ってきた。  あれから――メイド服を着つけられたあと――奥さまはメイドたちを引き連れ、懲罰室を出ていった。  ペニスをしごいて搾りつくし、貞操帯装着までを行なったメイドがただひとり残り、ボクの指導係であると告げた。  その指導係の先輩メイドに、懲罰室と同じ地下の居室に連れてこられたのが夕方。  しばらく部屋に放置されたのち、彼女が運んできた食事を採りながら、翌日――つまり今朝の予定を聞かされた。 『朝の7時には、朝食を持ってまた来ます。それまでに身だしなみを整えて――』  そこで、ハッとした。 (今は……)  何時だろう。  確認するため、あらためて部屋を見わたし、ベッドのサイドテーブルを兼ねた机の上に、クラシックなデザインの目覚まし時計を見つけた。  6時半。  もう準備をしないと、間に合わない。  一瞬、このままふて寝を決め込んで反抗の意思を示してやろうという気持ちが生まれるが、それを実行に移すことはできなかった。  反抗すれば、ただちに懲罰を受けることになるから。  懲罰のためにメイドが特になにかする必要はなく、ただ放置するだけでいいのだから。  そして昨夜から排泄させてもらっていないボクの尿意は、限界に近づいている。もしかしたら目が覚めたのは、そのせいでかもしれない。  ともあれ指導係の先輩メイドの言いつけに従うべく、ボクはゆっくり身を起こす。  黒革の変態的な下着とストッキングは、昨日のまま。股間を封印する貞操帯は、見た目のうえでも感覚的にも、存在感を主張している。  暗澹たる気持ちで立ち上がり、姿見の鏡に映るわが身の惨状を横目に見ながら、着替えを始める。  昨日着つけられたときの手順を思い出しながら、黒いワンピースを手に取る。  背中開きの構造なら、着るのに苦労していただろう。だがお屋敷お仕着せのメイド服用ワンピースは、前側でボタンを留めるタイプ。  そのために着方に悩むことなく、布の塊の開口部から、脚を差し込む。  そう、布の塊。夏用の半袖とはいえ、くるぶし近くまで隠れるマキシ丈のワンピースは、そう表現するのが適切と思われるほどの重量感があった。  脚を差し込み、長い長い裾を踏まないよう気をつけながら、布の塊を塊まで持ち上げる。そこからは、カッターシャツを着るのと同じ要領だ。  一番上までボタンを留め、次はメイド服の肝とも言える白いエプロン。  こちらは、相当苦労した。  メイド服のエプロンのフリルがふんだんに使われた肩紐は、背中で交差させたあと、腰紐に設えられたボタンに留めなければならない。  その構造は、脱ぐときにわかっていたはずだった。でも、慣れてはいなかった。  そのため手間取り、着用を終えてから時計を見ると、約束の7時まであと10分を切っていた。  慌てて洗顔し、歯を磨き、髪を整えてフリルのカチューシャ――ホワイトブリムという名称はのちに知った――を頭に載せる。  そこで、指導係の先輩メイドが現われた。  ガチャリ、と扉の鍵を解錠。扉を開けて、ボクの姿を見て。 「準備できているようですね。少々着つけのバランスが悪いですが、それはおいおい慣れていけばいいでしょう。ですが……」  そう言ってエプロンの腰紐を結び直し、ボクの頭に視線を移した。 「この髪色はいけませんね。お屋敷に勤める使用人として、ふさわしくありません。奥さまにお願いして、出張美容師を喚《よ》んでいただき、黒く染めましょう。あと眉を除く体毛の永久脱毛も、手配しなくてはなりませんね」  そしてボクの意思を確認することなく告げると、ポケットから小さな鍵を取り出した。  貞操帯の排泄ノズルを開閉するための鍵だ。 「自分の手でスカートをめくりなさい」 「えっ、そんな……」 「聞こえませんでしたか、スカートをめくりなさい」  繰り返し命じられ、エプロンごとスカートを両手でつかんで、しばし躊躇。 「どうしましたか? 恥ずかしいですか?」  それが、ノズルを開放し、おしっこをさせるために必要なことだとはわかっている。  だが、恥ずかしい。  全裸を見られ、ペニスをしごかれて射精させられておきながら、なにを言っているんだと思われるかもしれない。  しかし、自分の手でスカートをたくし上げて中を見せ、あまつさえ排泄行為を行なわれるのは、また別の恥ずかしさがある。  ボクが途切れ途切れにそう答えると、先輩メイドが眉ひとつ動かさず口を開いた。 「まるで、女子の思考ですね」 「えっ……?」 「性器を見られ、性行為を許した相手であっても、排泄だけは秘しておきたい。それは、女子の思考ですよ」  先輩メイドが嘘をついたわけではない。たしかに女の子は、性行為をともにした相手にも、排泄は見せたくないだろう。  とはいえ、それは男子も同じだ。女子ほどではないにせよ、男の子だって排泄を見られたくない。ましてや、他人の手で排泄させられたくはない。  だがボクには、冷静に考えてそうと思い出させる暇《いとま》は与えられなかった。 「これは命令です。その意味、わかりますね?」  じっと目を見て告げられ思い出す。  奥さまやメイドたちに反抗すれば、ただちに厳しい懲罰を受ける。そしてボクに懲罰を与えるに際し、彼女たちが特別なことをする必要はない。 「わ、わかりました……」  ボクは懲罰を恐れ、自らの手でスカートをたくし上げた。  それは奥さまに、お屋敷の制度に、指導係の先輩メイドに屈した証。さらに反抗心を折られ、砕かれ、従順にさせられていく過程。  加えて、このたびのやりとりには、別の意味もあった。 『まるで、女子の思考ですね』  その言葉を、ボクは否定できなかった。  そのせいで、折られた心の隙間に、その言葉がそっと入り込んだ。  自分ではそうされたと気づかないまま、心の奥底に『自分は女子みたい』と刷り込まれてしまった。  それは、ボクを最底辺メイドとして躾けるための、先輩メイドの手練手管。  ペニスをしごいてイカせる手技が卓越していることに加え、心理的に追い込むことにも長けているから、彼女が指導係に選ばれたのだ。  とはいえ、それはボクの知らないこと。気づけずにいたこと。  そのときのボクは、ただ懲罰を回避するためだけに、恥を忍んで先輩メイドに排泄行為を委ねていた。 「これにあなたの小水を回収します」  先輩メイドが、チューブのついたビニール製パックを見せる。 「いいと言うまで、スカートを下ろしてはいけませんよ」  そう言いつけて、貞操帯の蓋のノズルにチューブを接続する。  とはいえ、厚みのあるマキシ丈ワンピースとエプロンの裾を胸の前で抱えるように持つボクには、そのようすは見えていない。  ただ、カチリという金属どうしが噛み合う音とかすかな震動で、チューブが接続されたことを察しただけ。 「回収作業を開始します」  そしてその言葉の直後、施錠が解かれ、ノズルが90度回された。  排泄行為が始まったのだ。  しかし、排泄の爽快感はない。ただ、満タン近くまで溜まっていた膀胱が、少しずつ軽くなるだけ。  やがて実感のないまま、排泄が終わる。  まるで、除湿機に溜まった水を取り出す作業をするかのような――。  そこで、先輩メイドの言葉を思い出した。 『回収作業を開始します』  そうだ、これは回収作業なのだ。  ボクにとっては人間として生きるために必要な排泄行為は、先輩メイドにとっては溜まった水を抜く作業にすぎないのだ。  最底辺メイドのボクは、除湿機と同じモノとして扱われているのだ。  そうと気づき愕然とするあいだに、おしっこの回収が終わる。  開始されたときと逆の手順で、尿パックが外され、スカートを下ろすことが許される。  そうして、ボクの最底辺メイド暮らしが始まった。

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