クラスメイトは公設指定ポニーガール (Pixiv Fanbox)
Published:
2021-06-04 09:00:30
Edited:
2023-12-31 23:30:36
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鈴木陽兎美《すずき ひとみ》は、公設指定ポニーガールになった。
そんな噂を聞いたのは、高校を卒業した夏。初めての同窓会のときだった。
公設指定ヒトペット制度が始まったのは、新動物愛護法により、個人によるペット飼育が禁止されたことがきっかけだった。
国際的な動物愛護の気運の高まりから生まれた新法だが、国内での評判は悪かった。
特にペットを飼うことが常態化していた富裕層からの反発は激しく、政府は対応を迫られることとなった。
その結果、人間を動物に見立てて飼育する、公設指定ヒトペット制度が生まれた。
もちろん、ほんとうに人をペットにして飼うわけではない。さすがにそれは、法制度上も倫理的にも問題がある。
指定ヒトペットは、職業のひとつと定義されている。
身分上は、公設ヒトペットセンターに所属。指定ヒトペットとしての研修を受け、資格を取得したうえで、センターから各飼い主のもとに派遣され、ペットとして労働するという形を採っている。
その制度の下、生まれたのが公設指定ヒトペットのひとつが、ポニーガールである。
とはいえわが国では、もともと一般家庭で馬を飼う習慣はなかった。乗馬を嗜む人も、ごくわずかだった。
にもかかわらず、犬猫などペットとして一般的だった動物に加え、なぜ馬までヒトペットに指定されたのか。
それは新動物愛護法により、馬も飼えなくなり、乗馬も禁止されたから。
乗馬を趣味とする人が特に多い富裕層を懐柔し、新法への反発を和らげるためだと言われている。
しかし私、久野多香子《くの たかこ》は、それが嘘だと知っていた。
馬に見立てた女の子、ポニーガールに馬車を引かせるポニープレイ。
そのフェティシュなプレイを国内でも愉しむため、ヒトペット制度にポニーガールが追加されたのだ。
とはいえ、欧米のフェティッシュシーンではよく知られるポニープレイは、わが国での知名度はいまだ低い。
だが偶然、ポニープレイの存在をネットの情報から知った私は、斯界に惹かれていた。
いつしか、かわいらしい女の子を馬に仕立て、馬車を引かせて使役したいと願うようになっていた。
その妄想のなかで、いつも私が馬車を引かせていたのは、クラスメイトの鈴木陽兎美だ。
陽兎美は、私たちのクラスの委員長だった。
容姿端麗。成績は優秀。誰にも分け隔てなく接する性格で、彼女を好きな人はいても、嫌う人はほとんどいない。
だから大半の同級生は、陽兎美が公設指定ポニーガールになったという噂を信じなかった。
陽兎美が同窓会に顔を出さないことと相まって、彼女を嫌う数少ない人が流した、心ない噂だと思われていた。
だがなんとなく、具体的な根拠はないが、私はその噂はほんとうなのではないかと感じていた。
そうあってほしいと。そしてできることなら、長年抱いてきた妄想を実現できる日が、いつか来ることを願いながら。
陽兎美がポニーガールになったという噂を聞いてから、まる1年半が経ったある日、私はポニーガールセンターにいた。
ヒトペット制度のなかでも、ポニーガールだけは特殊な形態を採っている。
まず、ヒトペットセンターの数。
通常は各都道府県に最低ひとつ、人口規模の大きい自治体には複数設置されているが、ポニーガールセンターは全国に10箇所しかない。
そして、飼いかた。
準公務員たるヒトペットは、ふつう飼い主の家庭に派遣される。
だがポニーガールだけは、家庭で飼うことが認められていない。飼い主となっても、センターまで来て馬車に乗らなくてはならない。
さらに、飼い主になるための難易度もまるで違う。
通常のヒトペットは認可された民間の講座を受講したうえで、センターで行われる審査に合格すれば、誰でも飼い主になることができる。
対してポニーガールを飼うためには、特別な資格が求められる。
そのひとつは、ほかのヒトペットと同様の飼い主――ポニーガールにかぎって、飼い主はオーナーと呼称される――の資格。ただし、すでに資格を持つオーナー複数に推薦されなければならず、一般人に認められることはまずない。
もうひとつは、センターに所属する調教師資格。公設の養成所で1年にわたる調教師課程を修了し、さらにセンターでの実習を経なければなれないが、こちらは一般人でも取得することができる。
もちろん調教師は純然たる飼い主というわけではないが、ポニーガールもセンターから離れることはないので、より長い時間接することができる。
私のようにポニープレイに惹かれる一般家庭の子女にとって、それは最善の選択肢だった。
きわめて特殊な技能であるうえ、公設制度に支えられた職業であるから、高収入かつ安定している。
それゆえ周囲からの反対もなく大学を休学し、養成所に入所。無事課程を修了した私は、実習のために訪れたポニーガールセンターで、運命の再会を果たすことになった。
「貴女には、こちらのポニーガールの世話を担当してもらいます」
実習の指導係たる先輩調教師が、私をひとり、いや1頭のポニーガールの前に案内した。
「ヒトミ号。さる資産家のご婦人所有のポニーガールです」
木製のパーテーションで仕切られた幅60センチほどのブースのなかで、跪いて控えるポニーガールの名前を聞かされ、ハッとした。
(陽兎美だ……!)
全身を特殊ラバーのスーツで覆われ、足には蹄を模したブーツを履き、手には蹄のグローブを嵌めたポニーガール、ヒトミ号。その顔も口と鼻以外は全頭マスクで覆われ、さらに露出した口には馬銜《はみ》と呼ばれる轡が噛まされている。
だから、元の人相はまったくわからない。
にもかかわらず、私はそう直感した。
「ヒトミ号は、貴女と同郷、かつ同い年です」
おそらく先輩調教師が、陽兎美と私が同級生だとわかっていたわけではない。指導係として私の経歴は知っていただろうが、そもそもポニーガールの詳細なプロフィールは、個人情報保護の観点から、担当調教師にも知らされない。
「調教済みでおとなしい性格ですから、初めて担当するポニーガールとして最適でしょう」
そこまで配慮してくれる先輩のことだ。おそらくより相性が合いやすいポニーガールとして、同郷同年齢のポニーガールを選んだだけなのだ。
とはいえ先輩調教師の言葉で、私はヒトミ号の正体が陽兎美だと確信した。
「ヒトミ号」
心臓が高鳴るなか、先輩が声をかける。
応えて、ヒトミ号が顔を上げる。
全頭マスクの目の位置に無数に穿たれた、視界確保用の小さな穴から先輩調教師を見、それから私に視線を移し。
「う……」
馬銜を噛まされた口で、ヒトミ号が小さくうめいた。
(おそらく……)
私に気づいたのだ。連れてこられた調教師実習生が、かつてのクラスメイトだと理解したのだ。
しかし、調教済みポニーガール・ヒトミ号は、それ以上は反応しない。
実習生とはいえ、調教師として歩み始めた私も、務めて平静を装う。
「それでは、さっそく朝の散歩を担当してもらいましょう」
それが功を奏し、小さな動揺は気取られず、先輩調教師が私に命じた。
カチリ、カチリ。
ヒトミ号の口に噛まされた轡の両端に、手綱をつなぐ。
基本的に、調教師がポニーガールに言葉で指示を与えることはない。それはすべて、手綱と鞭で伝えられる。
跪いた状態から、手綱を上方に引けば、立ての合図。
立ったポニーガールの手綱を1回扱くと、進めの命令。
さらに扱けば、スピードアップ。右の手綱を引けば右折。左は左折。そして左右同時に引くと減速。そして停止。
ただし立ってから先の手綱の合図は、馬車を引くときのもの。
調教初期には手綱の指示を身体に憶えさせるため、調教師が後方に立って散歩させることもあるが、ヒトミ号は調教済みポニーガール。散歩はただ、手綱を持ち並んで歩くだけ。
とはいえ、相応の注意は必要だ。
それは、ポニーガールの装備が特殊ゆえ。
馬の蹄を模したポニーブーツは、踵のない超ハイヒール。初めて履かされた者は立ち上がることすら困難だし、歩行するだけで相当な訓練を要する。
さらに蹄状のポニーグローブの中の手は、グーを握っている状態。バランスを崩して転倒しても、素手のときのようにうまく手をつくことは難しい。
加えてポニーガールの歩行には、独特の作法がある。
背すじをピンと伸ばし、顔と視線は顎を突き出すように前方やや上方。
腕は二の腕をまっすぐ下に下ろし、肘を90度に曲げてポニーグローブの手を前方に突き出す。
足は前方に運ぶのではなく、太ももが地面と水平になる程度まで上げ、そのまま下に下ろすような動かしかた。足を浮かせているあいだ、進んだぶんだけ前進するイメージだ。
もちろん加速減速中はこのとおりの動きはできないが、できるだけイメージに近づけて歩かなければならない。
身体への負担が大きい装備を身につけて歩くポニーガールの体調に、調教師は気を配らなければならない。顔を上方に向けているため見えない足元には、常に注意が必要。きちんと歩法が守られているかも、四六時中監視しないといけない。
そしてポニーガールが歩法を見だせば、鞭で罰を与えるのも調教師の役目だ。
加えてヒトミ号の場合――もっともそれは、一定割合のポニーガールと共通だが――特に配慮しなければならない装備も身につけている。
とはいえそれは、ある程度歩行してからのこと。
まずはヒトミ号の頭を撫でて親愛の情を示してから、手にした手綱を上方に引く。
すると愛すべき調教済みポニーガールは、私の指示に従ってすっくと立ち上がった。
踵のない超ハイヒールのポニーブーツで立ち、微動だにしないのはさすがである。
「偉いわ、ヒトミ号」
かけなくてもいい声をかけると、全頭マスクに穿たれた視界確保用の小さな無数の穴の向こうで、ヒトミ号が目を細めた気がした。
そのことに心に温かいものを感じながら、軽く手綱を引く。
するとヒトミ号は、正しくポニーガール歩法を守って歩き始めた。
背すじをまっすぐ伸ばし、顔をやや上方に向け、身体全体を前に傾けながら、太ももを高く上げる。
そして傾けた身体が倒れないよう支えるようなイメージで、やや前方に足を下ろす。
完璧だ。歩法を崩さず発進加速する術《すべ》を、ヒトミ号は完全に身につけている。
そのことが、なぜか誇らしい。
私自身が施した調教の成果ではないのに、ヒトミ号がは、私の元クラスメイトは、こんなに素晴らしいポニーガールなのだと自慢したくなる。
実のところ、そういう気持ちで手綱を取ることは、調教師として大切な心構えでもあった。
ポニーガールは、調教師の指示を見落とすまいと、その一挙手一投足に注意を払っている。それゆえに、調教師の気持ちも自然と伝わるものなのだ。
とはいえそのことは、調教師として新米のまだ私は知らない。
知っている指導係の先輩調教師が満足げにうなずいたことにも気づかないほど、私は集中して手綱を引く。
ヒトミ号が無理なく歩けるペースを見きわめながら、彼女の足元にも注意を払いながら、歩法に乱れがないか監視しながら、体調の変化をも気にかけて。
カッ、カッ、カッ……。
ポニーブーツの底の蹄鉄が、リズミカルに硬い床を叩く。
「はふ、はふ、はふ……」
馬銜を噛まされた口から、熱い吐息が漏れる。
カッ、カッ、カッ……。
「はふ、はふ、はふ……」
厩舎から、屋外へ。
柔らかい芝の上に出て、蹄の音が変わる。
陽の光を受けて、ヒトミ号のラバースーツが艶かしい光沢を放つ。
ゴムの膜ごしに彼女の肉を締めつけるハーネスが、1歩足を運ぶたび、擦れてギチッと鳴く。
一見フェティッシュな世界とは無縁に思える大自然のなかで、変態的な行為をする倒錯感に、クラクラしそうだ。
いや、ほんとうにクラクラしそうなのは私ではない。
そう思い直し、あらためてヒトミ号を注視する。
今は見えていない、彼女の背中側。その尾てい骨のあたりに、文字どおりポニーテールのような尻尾がある。
もちろん、ほんとうにそこから生えているわけではない。
馬車をつなぐための金具が設えられた、ポニーガール用ハーネスの股間ベルトに、尻尾は取り付けられている。
そして、股間ベルトに取り付けられているのは、尻尾だけではない。
その少し下の裏側には、独特の形をした突起が設えられている。
そう、裏側に。シリコーンゴム製の突起――ディルドは、ヒトミ号のアナルにねじ込まれているのだ。
そして、そこで性的な快感を得られるよう、ヒトミ号のアナルは開発されている。調教済みとは、その意味も含んでいるのだ。
そのうえきつく締め込まれた股間ベルトは、ラバースーツごしに、肉の割れめに食い込んでいる。
それが、1歩進むごとに女肉を擦る。アナルディルドも、開発された粘膜を刺激する。
つまりヒトミ号は、オンナとして高まるために、歩き続けているようなもの。
彼女自身が望むと望まざるとに関わらず。
「はふ、はふ、はふぅ……」
馬銜を噛まされた口から漏れる吐息に、甘みが混じり始めた。
「はふぅ、はっ、はふっ……」
開口を強制された口から、ダラダラと涎が垂れる。
「はふっ、はふっ、はふっ……」
甘みを帯びた呼吸が荒くなる。全頭マスクの奥で、官能に瞳が蕩けていることが、手に取るようにわかる。
早晩、ヒトミ号は絶頂に達するだろう。
(そろそろ、頃合いかしらね)
そう判断して、Uターン。踵を返して、厩舎のほうに戻る。
ポニーガールは、人前では常に凛としていなくてはならない。独特の姿勢も歩法も、そう見えるよう定められたものだ。
だから、ポニーガールを屋外で絶頂させてはならない。ぶざまにイキ狂わせてはいけない。
たとえセンター内の散歩コースであっても、一般の人の目に触れる場所では。少なくとも、一人前の調教師なら。
「はふぅ、はふっ、はふっ……」
ヒトミ号の甘い吐息が、艶を帯びてきた。
「はふ、はふ、はっ、はっ……」
艶めく呼吸が、ますます荒くなってきた。
そこで、厩舎に戻ってきた。
おそらく官能の高まりに、ヒトミ号は意識を飛ばしかけているだろう。
それでも姿勢と歩法を崩さないのは、彼女が優秀なポニーガールである証。
カッ、カッ、カッ……。
蹄の音のリズムも乱さず、木製のパーテーションで仕切られたブースに入る。
その直後、ヒトミ号が身体をブルリと震わせた。
(絶頂する……!)
そう直感し、彼女の身体を支えるように抱きしめる。
高校時代は私のほうが少し背が高かったが、踵のない超ハイヒールポニーブーツを履いた今は、ヒトミ号のほうが――。
刹那、私の腕の中で、ヒトミ号がビクンと小さく跳ねた。
「ング(イク)ッ!?」
うめき声で宣言し、ヒトミ号がイク。
力の抜けた上半身が、抱きしめる私に寄りかかる。
それでも足はポニーブーツで立ったまま。脚をガクガクと震わせながらも、ヒトミ号は踏ん張り続ける。
それで、あらためてヒトミ号のポニーガールとしての完成度の高さを感じ取りながら――。
「かわいくイッたね、陽兎美」
ほかの人には聞こえないよう小さな声で、私は彼女の耳元でささやいた。
ほどなく無事実習を終えた私は、正式に調教師となり、引き続きヒトミ号を担当した。彼女のオーナーからの信頼を得、特別に指名されてヒトミ号専属調教師になったのだ。
日々ヒトミ号の調教と世話をし、オーナーたる資産家婦人が訪れれば、彼女の引く馬車に乗せる手筈を整える。
そんな満たされた暮らしが数年続いた頃、久しぶりに馬車を愉しんだあと、オーナーの資産家婦人が思いがけない言葉を口にした。
「ヒトミ号を、貴女に譲ろうと思っているの」
婦人はもうお年だ。センターを訪れて、馬車を操るのも肉体的にきついのだろう。
だから、愛馬を人に譲りたい気持ちはわかる。その相手に、信頼できる人を選びたいのも理解できる。
そしてもちろん、できることなら私もそうしたい。
「ですが、私にはオーナー資格が……」
「それも心配ありません。私ともうひとり、長年のお友だちが、貴女をオーナーとして推薦します」
「えっ……?」
「ですが、条件があります」
驚く私に、オーナーがにっこり笑って告げた言葉もまた、私には願ったり叶ったりのものだった。
「生涯、ヒトミ号をかわいがってくれること。それができるなら、貴女にヒトミ号を委ねます」
その条件を私が喜んで受け入れたことは、言うまでもない。
(了)