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 公設指定ヒトペット。  その制度が始まったのは、新動物愛護法が施行され、個人のペット飼育が禁止されたことがきっかけだった。  国際的な動物愛護の気運の高まりから生まれた新法だが、国内での評判は悪かった。  特にペットを飼うことが常態化していた富裕層からの反発は激しく、政府は対応を迫られることとなった。  その結果、人間を動物に見立てて飼育する、公設指定ヒトペット制度が生まれた。  もちろん、ほんとうにペットにして飼うわけではない。さすがにそれは、法制度上も倫理的にも問題がある。  指定ヒトペットは、職業のひとつと定義されている。  身分上は、公設ヒトペットセンターに所属する立場。指定ヒトペットとしての研修を受け、資格を取得したうえで、センターから各飼い主のもとに派遣され、ペットとして労働するという形を採っている。  そして資格が必要なのは、ヒトペットのほうだけではない。  飼う側もセンターで審査を受け、飼い主としての適性と技量を持っていると認められなければ、ヒトペットの飼育はできない。  物心ついた頃には制度が始まっていた私、城之崎真琴《きのさき まこと》は、いつか自分もヒトペット、そのなかでもヒトイヌを飼いたいと願うようになっていた。  そして高校卒業後、女子大に通いながらヒトペットのなかでもヒトイヌ飼育の講座を受講、いよいよセンターで実技の審査を受けることになった。  訪れた公設ヒトペットセンターでヒトイヌ飼育講座の修了証を提出したあと、私は指定ヒトイヌのリストを見せられた。審査にあたり、担当するヒトイヌを選ぶためである。  とはいえ指定ヒトイヌは全員、センターで研修を受けたうえで資格を取得している。どの個体も同じように、ヒトペットとして一定の訓練を受けている。  誰を選んでも審査に有利不利はないリストのなかから、私は迷うことなくひとりの、いや1頭のヒトイヌを選んだ。  指定ヒトイヌ38番、サト。  もちろん、顔や姿形で選んだわけではない。  センターのヒトイヌは、全員お揃いの特殊ラバー製の全頭マスクを被せられており、顔は隠されている。おまけにマスクと同素材のスーツを着せられたうえに、四肢を折り畳んで固定する拘束具を嵌められているから、体型で個人を判別することも困難。  それでも直感的にサトを選んだのは、名前に親しみを覚えたからである。  私には、犬山聡美《いぬやま さとみ》という幼なじみがいた。  幼い頃は、手をつないで走り回っていた。  中学に上がると、聡美はどんどん美しくなっていった。  仲がいいことは変わらなかったが、私はどこか眩しいものを見るような気持ちで、聡美に接するようになっていた。  そして高校は別々の学校に進み、聡美がモデル活動をするために上京してからは、すっかり疎遠になっていた。  その後彼女のことはすっかり忘れていたが、そのヒトイヌの名を見て、不意に聡美のことを思い出した。  それで38番サトを選んだのは、もしかしたら私の中に、聡美をヒトイヌとして飼えたらいいのにという願望があったのかもしれない。  名門女子大に進むための受験勉強で精一杯だった私が知らないだけで、都会でモデルとして活躍しているはずの聡美が、ヒトイヌになんかなるはずがないのに――。  一瞬芽生えた淡い期待を心から追い出し、それでもサトを指名して、私は審査に臨んだ。  中央にマットレスが敷かれた審査室。試験官に案内され、ひと足先に入室して待っていると、飼育員に首輪のリードを引かれ、サトがやってきた。  刃物で斬りつけても破れないとされる、黒光りする特殊ラバーの全身スーツ。同じ素材の全頭マスクからは、目と口しか露出していない。  口には犬耳つきハーネスタイプの開口式リングギャグが嵌められているから、中の人の顔貌を類推できる要素は目しかない。  いや、周りの皮膚に全頭マスクがみっちり貼りつき軽く締めつけているから、目つきもふだんとは違っているだろう。  それでも私はなんとなく、理由はないが漠然と、サトがほんとうに聡美ではないかという印象を持った。  それで折り畳まれて固定され、短くなった手足、いや前足と後ろ足でヨチヨチ歩くサトを凝視してしまう。  ヒトイヌとしての訓練を受けているとはいえ、肘と膝を床につけての歩行は困難なのだろう。1歩あたりの歩幅は20センチ程度。  ちょこちょこと前足後ろ足を動かすさまが愛らしい。  リングギャグの口からはみ出した舌も、ダラダラと垂れる涎すら愛おしい。  その視線に気づいたのか、サトがチラリと私を見た。  刹那、目を見開く。  見開かれた瞳が、驚愕の色に染まる。  だが、それは一瞬のこと。  ヒトイヌの歩みを乱すこともなく、床に敷かれたマットレスに上がると、サトは飼育員の手を借りてゴロンと横になった。  そうだ。  今は審査を受けるのが先だ。  サトの正体が聡美であろうとなかろうと――いやほんとうはそんなことはないのだろうと自分に言い聞かせ――努めて冷静を装い審査に集中する。 「それでは、指定ヒトイヌ装備を完成させてください」  傍らに控えていた試験官が、その装備を私に手わたした。  ひとつは、尻尾のアナルプラグ。最大径5センチほどの円すいと、黒い毛束が取りつけられた円板が細い棒で繋がれた装具。  もうひとつは、リングギャグの口と鼻を覆うように着ける、犬の口マスク。 「装備の使いかたは、わかっていますね?」  もちろんだ。それはヒトイヌ飼育講座のなかで、何度も体験した。  センターから派遣されるヒトイヌは、スーツと全頭マスクまでは自らの手で身につける。  本来なら四肢拘束具の装着からが飼い主の仕事なのだが、それは講座の修了証を提出したことで、審査を免除されたのだろう。  ただし、尻尾アナルプラグと犬マスクは別だ。  前者は、本来異物を挿入するところではない排泄器官内に、安全に装着しなくてはならない。後者は、ヒトイヌが呼吸を確保できるように、確実に取りつけなければならない。  そのことを肝に命じながら、身体を横たえたサトの身体を、仰向けにさせる。 「サト、オープン」  そしてはっきりとした発音で命じると、サトは訓練の行き届いたヒトイヌらしく、後ろ脚を大きく開いた。  仰向けのまま、ほんものの犬の『チンチン』の姿勢を取ったようなポーズ。 「サト、ステイ」  その恥ずかしいポーズを崩さないよう命じたところで、スーツの股間ファスナーに手をかける。  ヒトイヌが着用する特殊ラバースーツは、背中にファスナーを開閉して着るタイプ。  そのファスナーは背中からお尻を経て股間の前側にまで周り込み、合計3つのスライダーが設えられ、任意の位置を開口できる仕様になっている。  もちろんその目的は、背中のファスナー全体は閉じたまま、股間に開口部を作るため。  ヒトイヌのままの排泄を容易にするとともに、飼い主の手で尻尾アナルプラグを嵌めるため。  それを行なうために、スライダーのつまみを操作し、アナルだけを露出させる。  規則に明記されているわけではないが、いついかなるときも露出が最低限にとが、指定ヒトイヌを飼ううえでの暗黙のルールなのだ。  それでも、そこに外気を感じ、露出させられたことを悟ったのだろう。 「くぅん……」  サトがくるおしげに鳴いたのは、女の子の恥じらいが残っているからか。  それでも仰向けチンチンのポーズを崩さないのは、訓練の賜物に違いない。  全頭マスクから露出した目とその周りの皮膚から彼女の感情の動きを感じ取りながら、医療用の薄いゴム手袋を嵌め、ローションのボトルを手に取る。  ヌルヌルの液体をまぶした指でアナルの襞に触れると、そこがキュッと窄まった。  全頭マスクから露出した目が、わずかに細まった。 (緊張している……?)  公設指定ヒトイヌにとって、尻尾アナルプラグのは装着は、馴れた日課であるはず。 (それなのに、緊張しているのは……)  やはりサトの正体は、聡美なのか。審査を受けにきたのが幼なじみの私だと気づいて、アナルに触れられることにためらいを感じているのか。  女の子にとって本来そこは、乳房や性器以上に秘しておきたい場所なのだから。  とはいえ、今は私の資格審査中。ヒトイヌが緊張してアナルが硬くなっているなら、その理由がなんであれ、飼い主がほぐしてあげなくてはならない。  そう考えて、アナルの襞に直交するように、窄まりの周りを円を描くように撫でる。  ゆっくりと、慎重に。ローションでヌルヌルの指で、アナル周りの肉を揉みほぐすように。 「くぅん……」  再びサトが鳴いたのは、アナルに妖しい感覚が生まれているからだろう。  多くのヒトイヌは、その訓練の過程でアナルで快楽を得られるよう、肉体を躾けられている。 「くぅん、くぅん……」  サトの鳴き声に、少しずつ甘みが混じってきた。目の周りの皮膚が朱に染まり、瞳が蕩け始めてきた。 (あと少し……)  耳で鳴き声を、目で目と皮膚の変化を、指先で肉の硬さを感じ取りながら、アナルマッサージを続ける。 「くぅん、くぅん……」  甘い鳴き声に、艶が混じってきた。  目の周りの皮膚は朱く火照り、瞳はますます蕩けてきた。  アナルの肉はずいぶん柔らかくなった。  そしてその数センチ上、今はファスナーに隠された女の子の肉から溢れた蜜が、アナルと私の指に垂れてきたときである。 「くぅうん……」  サトがひときわ艶めいて鳴いたことを合図に、私は指を窄まりの真ん中に押し当てた。  ヌルリ。  そんな感じの、あっけない挿入。 「くふぅん……」  鳴き声にいっそう艶が増し、アナルが指を食い締める。  その中の具合を確認するように、指をゆっくり挿入。  つけ根付近まで突き入れてから、挿入時よりわずかに速いペースで指を引く。 「くふん、くぅう……」  その刺激でサトを艶めいて鳴かせ、再び挿入。  今度は指を僅かに捻りながら。引くときは捻りを戻して。  アナル内部にローションをいきわたらせるとともに、内部まで柔らかくほぐすため。  そして、サトのアナルの角度を確認するため。  アナルの位置と角度には人、いやヒトイヌそれぞれ個人差がある。仰向けチンチンのポーズでの尻尾アナルプラグ装着が困難な場合、お尻の下にクッションを敷いて角度を調整しなければならない。  とはいえ、サトにはその必要はないようだ。  そのことを確認したところで、いよいよアナルがほぐれてきた。  アナルマッサージでもっと気持ちよくさせてあげたいという思いもあるが、今は飼育技量の審査が主目的。  尻尾アナルプラグを手に取り、サトに見せつけるようにローションを塗り込める。挿入していた指と入れ替えるようにアナルにあてがい、ゆっくりと押し込む。  シリコーンゴム製の円すいが窄まりをこじ開け、やがて最大径の部分が通過。円形の土台とのあいだをつなぐ細い棒の部分が、アナルにスポンと嵌り込む。 「くっ、ふぅうん……」  サトが蕩けた目を細め、艶やかに鳴いたところで、尻尾アナルプラグの装着が完了した。  尻尾アナルプラグを装着したあと、犬マスクも取りつけたサトのリードを握り、センター内を散歩させる。  折り畳んで固定された前足と後ろ足を駆使し、20センチほどの歩幅でちょこちょこ歩くサトのペースに合わせ、ふだんよりずっとゆっくり。  センターで訓練を積んだサトは、かりそめとはいえ飼い主役の私の傍らにぴったりくっついて離れない。  速度は上げられないが、公設指定ヒトイヌ制度のもとで定められたリードの指示には、忠実に従う。  サトのように訓練を受けたヒトイヌにとって、それはあたりまえのこと。  そして私のように講座を修了した者にとって、訓練を受けたヒトイヌを指示どおりに歩かせるのはたやすい。  散歩の実技審査は、はっきり言って付け足しのようなものだ。  各ヒトイヌによって挿入角度やその方法を調整しなくてはならない尻尾アナルプラグ装着審査が、今日の山場だった。  よほどの失敗がなければ、私は実技審査に合格するだろう。  そして合格後は、実際に飼うヒトイヌを選ぶことになる。  その際、ほかのヒトイヌと触れ合って相性を確かめることもできるが、私はこのままサトを選ぶことに決めていた。  それはこの時点で、サトの正体が聡美であると確信していたから。  いやそんなことより、ヒトイヌ・サトになった聡美と、飼い主としての私の相性が、ぴったりだと判断したから。  そして私のことに気づいていながら、サトは私との相性が合うヒトイヌであり続けてくれている。  もし彼女が私に飼われることを望まないなら、わざと相性が合わないふりをすることもできるのに。  モデルを目指して上京し、実際一時期はモデルとして活躍していた聡美が、なぜ故郷に戻ってヒトイヌになったのかはわからない。  今後もそれを、聞き出そうとも思わない。  今このとき聡美はヒトイヌのサトであり、私はヒトイヌを飼おうとして実技審査を受ける者。  ヒトイヌと飼い主としての相性以上に、優先すべきことなどないのだから。 (了)

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