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6話 偽聖女の恥辱刑 『これぞまさしく、わたくしが長きにわたって求めてきた奴隷。これはまさしく、あのときの聖女アーサが嵌められていた拘束具……そうだわ、このイキーラで、かつてコナベートで行われた、聖女アーサ市中引き回しを再現しましょう』  カルラ・ベルンハルトの言葉を聞き、カトー・エレナは震えあがった。 『この女を聖女アーサに見たて、わたくしが魔法調教師ラウラに扮して責め苛みながら市中を引き回す……きっと素敵な見世物になりますわ』  さらにそう言われ、震えながら抗議した。 「ぉんあぉお(そんなこと)、ぅうあぇあぃ(許されない)!」  それは、エレナが魔法調教師ラウラ・コペンハーデからカルラが買った奴隷ではないからである。  イリアが自らの野望を実現するため、エレナを盗賊団が奪った奴隷少女の身代わりにしたのだ。  とはいえ人違いだと証明するには、エレナ自身の身分を明かさなければならないだろう。  それは、絶対にできない。もしほんとうは盗賊団の頭目だと告白してしまえば、即刻処刑される。エレナは、充分それに値する罪を犯してきた。  いや、奴隷としての生より、女頭目としての処刑を選んだとしても、エレナの告白は誰にも伝わらないだろう。  彼女の口には、奴隷少女のものと細部は違うものの、同じ機能を発揮する開口式口枷が嵌められているのだから。 「もの欲しげに口から涎を垂らして……引き回されるのが、そんなに嬉しいの?」  エレナの抗議が聞き取れず、カルラが頬を紅潮させてそう言った。 「下の口からも蜜を溢れさせて……引き回しを期待して、悦んでいるの?」  あらゆる刺激を性的な快感に変換する乳首ピアスのせいで、女陰を濡らしていることを揶揄した。  実のところ、カルラは抗議しているのだと理解している。エレナの言葉は理解できなくても、表情や口調でなにが言いたいかはわかる。同時に、ラウラが出荷する着ける乳首ピアスの効果も知っている。  そのことを理解し、知りながら、カルラはあえて勘違いを口にしたのだ。  その理由は――。 「引き回されると聞いて悦ぶなんて、まるであさましい牝豚ですわ……おまえの顔を、豚にふさわしいものにしてあげましょう」  目を細めてエレナを侮辱し、カルラがU字形の金具の先端を曲げ、フックにした器具を取り出した。 「ぉうぇあ(それは)……?」  初めて見る器具にエレナが呆然とつぶやくと、フックの先端を鼻孔に引っかけられた。 「ぅえ……!?」  直後、フックに取りつけられていた紐を上方に引き上げられる。つられてエレナの鼻も、上向きに吊り上げられる。 「うふふ……牝豚らしい鼻になったわねぇ」  恍惚を感じさせる声で言って、カルラがフックの紐を額から頭頂部、後頭部へと回す。 「なんてみっともない豚鼻でしょう」  その恥ずかしさより、まず感じたのは鼻の痛みだった。 「ぁうぅう……」  その痛みにうめくと、口枷のベルトに紐を絡めて留められた。  鼻の痛みに、涙がにじむ。視界の中央部にフックと鼻頭がぼやけて見える。 (痛い、痛い……)  しかしそのなかに、新しい肉の疼きが生まれ始めた。乳首のピアスに残るラウラの魔法が、効果を発揮しているのだ。  本来なら性的な快感を生みださない場所の、純粋な痛みですら快感に変えられてしまう。 「立ちなさい」  そのことにあらためて愕然としたところで、カルラが首輪の鎖をぐいっと引いた。 「あぅうッ!?」  鋼鉄の首輪に首を締められて、ひざまずいた状態から慌てて立ち上がる。 「あぁうぅ……」  首の痛みにも性感を高められながら、さらに鎖を引かれる。  ジャララ……。  後手に拘束された腕でバランスを取ることもできず、よろめきながら歩を進めると、足首の鋼鉄の枷どうしをつなぐ重い鎖が硬い床を擦る音。  みじめだ。  カルラに軽く鎖を引かれるだけで、容易に操られるわが身が情けない。  そのとき、部屋に設えられていた鏡が目に入った。  そこに映る、全裸の自分。鋼鉄の枷で後手に拘束され、ヨチヨチ歩きがやっとの長さの鎖で繋がれた足枷を嵌められ、首輪の鎖を引かれて連行されるわが身の姿。胸の先端には、奴隷の証の乳首ピアス。絶えず痛みをもたらす鼻のフック。  それを見て、あらためて愕然とした。  痛いはずだ。極限まで引き上げられたフックは眉間近くにまで達し、縦長に吊り上げられた鼻孔は内部の粘膜を晒している。 『牝豚らしい鼻になったわねぇ……なんてみっともない豚鼻でしょう』  フックで鼻を吊り上げられたときの、カルラの言葉。  そのとおりだ。今の自分の顔は、牝豚としか表現のしようがないありさまだ。  エレナがそう思い知らされたところで、カルラが口を開いた。 「今のおまえは牝豚に堕とされた聖女。まさに豚聖女ですわ」  まさしくそうだ。  聖女の妹として元レジスタンスの盗賊団の頭目になり、聖女の代理を務めてきたエレナは、身代わり豚聖女に貶められた。 (私は豚聖女。もう、戻れない……)  五感のなかで、人の感性にもっとも大きい影響を与えると言われる視覚でわが身の現状を思い知り、エレナは豚聖女としての市中引き回しの運命を受け入れてしまう。  それには、聖女アーサの顔も知らないまま、絶えず彼女を意識してきた彼女の生い立ちが大きく影響していた。  知らず知らずのうちにエレナは姉アーサの、聖女の、すなわち自分以外の者の運命を受け入れることが習い性になっていた。  とはいえ、カルラはそのことを知らない。エレナのことを、ラウラから買った奴隷だと思い込んでいる。  そのうえ、カルラは調教師ではなく純粋な嗜虐者だ。奴隷を責め苛むのは、ただ自分の嗜虐心を満足させるための行為だ。  そんな彼女が、奴隷の心の内を推し量ったりするわけがない。 「それでは、叛逆の罪を犯した豚聖女の引き回しを開始しましょう!」  エレナの精神の変化には頓着せず、長年の望みが実現する悦びに恍惚としながら、嗜虐者カルラ・ベルンハルトは声高らかに宣言した。 「叛逆者の市中引き回しである!」  先触れ役の騎士が、大音声で叫ぶ。  さすがに聖女アーサ引き回しの再現と触れて回ることはできないのだろう。  とはいえ、そのあと続く黒いドレス姿の調教師に扮したカルラと、彼女に首輪の鎖を引かれて歩かされる奴隷の姿を見れば、イキーラ市民にはその意味するところは伝わる。  ベルンハルト家が支配するイキーラの町は、帝国随一の経済都市コナベートの東にある。勢いを増した聖女率いるレジスタンス軍に対し、帝国軍が本腰を入れて防衛線を敷いたのが、イキーラ近郊だ。  それゆえ、レジスタンス討伐の戦いと囚われて引き回される聖女の姿は、イキーラ市民の目に強く焼きついていた。 「まさしく、あれは……!」 「奴隷聖女の引き回し!」  そのときの記憶が残る市民が、声を張り上げる。  奴隷聖女引き回しを見物した経験のある彼らとて、その姿を間近で見たわけではない。  だからこそ、もともとアーサの面影があるうえ、外見を近づけて整えられたエレナを、かつての奴隷聖女と同一視する。 「みじめな奴隷聖女!」 「いや、あの鼻を見ろ。あれは豚聖女だ!」  侮辱と嘲笑が交錯するなかを、エレナは身代わり豚聖女として引かれていく。  みじめだ、みじめだ。  恥ずかしくて顔を伏せると、口枷で開口を強制された口から、ゴポリと涎が溢れる。 「ぁうぅう……」  それがどんなにつらくとも、いやつらいからこそ、魔法の乳首ピアスで肉体は高められる。  性的に感じさせられて、女陰から蜜を溢れさせる。 「おい、見ろよ」 「ああ、引き回されて感じてやがる」  そう揶揄されるのがつらくて再び顔を伏せると、また口枷から涎。 「見られて感じる変態女!」 「変態豚聖女だ!」  屈辱的な言葉を浴びせられながら、町の中心部へと引かれていく。  そんな哀れなエレナを、さらなる責め苦が襲う。 「叛逆者に罰を!」 「豚聖女に苦痛を!」  彼らがそう囃したてるのは、聖女を堕とした魔法調教師に扮しているのが、カルラ・ベルンハルトだからだ。  イキーラ市民は、カルラの嗜虐趣味を知っている。その権勢を恐れ公に口にすることはないが、女を苛めることで悦ぶ性癖を心得ている。  そして大きな権力を持つ支配者の考えを読み、満足させるよう行動する者が一定数いるのは世の常。  カルラの思惑に沿って市民があげた声に応えるように、カルラが手にしてた鞭を振り上げた。  ピシッ! 「ぁうぅうッ!」  尻の日焼け跡の境いめあたりに炸裂した鞭は、バラ鞭だった。  ラウラが使う棒状の笞や、イリアが使った一本鞭よりは、一発一発の威力は弱い。しかしそのぶん、長く打ち続けることができる。  奴隷を長くいたぶり続けられるこの鞭を、カルラは愛用していた。  そして灯里のものより魔力が弱いエレナの乳首ピアスの効果に、その鞭の威力はちょうど合っていた。  ピシッ! 「あぅああッ!」  鞭の痛みに悲鳴をあげた直後、ビリビリと痺れるような痛みのなかに、肉の疼きが生まれる。  徐々に痛みが和らぐにつれ、疼きが快感に変わる。快感が、火照りを生む。  ピシッ! 「あぁああッ!」  ピシッ! 「あぁうあッ!」  尻に刻まれる赤い鞭跡が増えるたび、快感と火照りが強くなっていく。 「ぁう、はっ、はっ……」  そのせいで、呼吸が荒くなる。 「はっ、あっ、あぁ……」  口枷の開口から舌をてろんと出し、獣のように呼吸を荒げる。 「なんてあさましい姿だ!」 「奴隷とも言えないな、豚以外のなにものでもない!」  その姿を市民に揶揄されても、甘んじて受け入れるしかない。 「豚奴隷!」 「変態豚聖女!」  馬鹿にされても、蔑まれても、鞭打たれながらヨチヨチ歩くことしかできない。  ピシッ! 「あぅああッ!」  悲鳴とも喘ぎ声ともとれる声をあげながら、鞭に追いたてられる。  暑い。熱い。  鞭の痛みが変換された快感で、肉が疼き、火照る。  ピシッ! 「あぁうあッ!」  痛い。気持ちいい。  痛みと快感が渾然一体となり、エレナを襲ってくる。 (どうして……?)  恥ずかしいのに、屈辱的なのに、痛いのに、気持ちいいのか。  もちろんそれは、乳首ピアスに残るラウラの魔力のせいである。  わかっているはずの事実に気づく暇《いとま》も与えられず、鞭で追いたてられてしまう。  ピシッ! 「あぅあぁああッ!」  ひときわ強く打たれ、いっそう大きな快感に襲われた。 「あぅうぁあぁ……」  がっくりと力が抜け、よろめいて地面に膝をついてしまった。 「休んでる暇はありませんよ!」  そのことを責められて、背中に鞭の雨を降らされる。  ピシッ! ピシッ! ピシッ! 「ぁがああぁあッ!」  目を剥き、涎を噴き出して悲鳴――いや嬌声をあげたところで、肩に鞭を置かれて命じられた。 「立ちなさい!」 「ぁ……あぃ(はい)ぃ……」  思わず『はい』と答えてしまったのは、カルラを支配者として受け入れ始めているからか、それとも奴隷根性が染みつき始めたのか。  実のところ、それは肉の疼きと火照り、痛みと快感が渾然一体となった感覚に、酔わされているからである。  そのことを考えることすらできず、責めたてられながらフラフラと立ち上がったところで、さらに一撃。  ピシッ! 「あぅあぁあッ!」 「歩きなさい!」  そして、市中引き回しは続く。 「あっ、はっあっあっ……」  肉の疼きと火照りに、荒くなった呼吸が落ち着くことはない。  あとどれくらい、引き回し刑を受けなければならないのだろうか。イキーラの町の地図を思い出そうとしても、記憶を引き出すことができない。 「はぁ、あっはっあぁ……」  舌を口枷から放り出し、漏らす吐息はますます艶を帯びていく。  もう、全裸拘束で豚鼻と乳首ピアスを晒して引き回されることに、羞恥も屈辱も感じない。いや、正確には感じているのだが、恥ずかしがったり悔しがったりする余裕がない。  口枷で開口を強制された口から溢れる涎も、熱く火照る媚肉から漏れる蜜も、気に留めることもできない。  エレナに許されたのは、胸を涎で、太ももを女陰の蜜で濡らしながら、鞭で追いたてられることのみ。  今のエレナは、まさしく豚奴隷。あるいは変態豚聖女。  蕩けた頭でわが身の現状を認識させられたところで、なぜかズクンときた。  一瞬意識が飛びかけ、足がもつれた。 「あううッ!」  受け身も取れない拘束状態で倒れかけ、傍にいた兵士に支えられる。 「しゃんとしなさい!」  その直後、背中にカルラの鞭が炸裂した。  ピシッ! 「ううぃああああぁあッ!」  今までで一番強い打擲に、目を剥いて叫ぶ。 「あぃああぁああああッ!」  猛烈な痛みに悲鳴をあげた直後、大きな痛みが巨大な快感に変換される。 「ふぁひぁああぁぁあッ!」  抑えようと思うことすらできず、口枷から漏れる咆哮じみた嬌声。  そうしようと思ってもいないのに、背すじ首すじがのけぞる。全身の筋肉が硬直して震える。 「引き回されて、鞭で打たれて、絶頂しているの? この変態豚聖女!」  自分で自分の身体が制御できない状態に陥りながら、どこか遠いところから聴こえてくるようにカルラの声を聞きながら――。  ピシッ! 「はふぁあぁああああッ!」  前方に回り込んだカルラに、乳房を鞭で打たれ――エレナは意識を失った。  民衆の嘲笑のなかで覚醒し、またカルラの罵声を浴びながら鞭で追いたてられる。  一度絶頂に達したエレナの肉は刺激に敏感になり、すぐまた絶頂。そして嘲笑。再び罵声を浴びながらの引き回し。  ふつうの無垢の少女なら、耐えがたい苦痛と羞恥、そして屈辱。それは自ら命を絶つほどの絶望を生んだかもしれない。  しかし、鋼鉄の枷で拘束され、開口式口枷を嵌められたエレナに、その選択は許されなかった。  おまけに、彼女のふたつの乳首には、あらゆる刺激を性的快感に変換する魔法の乳首ピアスがある。  絶頂後の恍惚から醒めないうちに鞭打たれ、痛みを快感に変換され、また高められ、絶望する暇《いとま》すら与えられない。  そうしてたどり着いた町の中心部の広場。そこでさらなる恥辱刑が、エレナを待っていた。  一見すると、木製の絞首刑台。しかしそこに被害者を吊るすためのロープはなく、代わりに1本の鎖がぶら下げられていた。 「上がりなさい!」  鞭で追いたてられ、よろめきながら階段を上がると、目の前には広場を埋めつくす民衆。残酷な引き回し刑に煽られたのか、嗜虐的な光を宿した目をぎらつかせ、エレナに欲望の視線を向けている。 「ぃう(ひっ)……」  一種異様な空気にたじろいだところで、警護の兵士に両腕をつかまれ、鎖の直下に立たされた。  そこで、ラウラが木の板をかざした。  そこには黒い文字『聖女』。その上に、赤で乱暴に×印。 「この女は、聖女ではない!」  つまり板の文字は、そういう意味だ。 「聖女を騙る変態女、変態豚聖女である!」  そうだ。エレナは聖女を騙って生きてきた。  自身が聖女であると名乗ったことはないが、まともな記憶すらない聖女アーサの実妹であることを利用し、元レジスタンス盗賊団の頭目になった。  その意味で、エレナは聖女を騙る者、偽聖女である。そして今の姿は、変態豚女以外の何者でもない。  怒涛の市中引き回しと鞭責めに翻弄され、そうなる余裕すら与えられなかったエレナは、ここにきて絶望を感じた。  とはいえ、絶望に打ちひしがれる刻《とき》はまだまだ先。 「ピアスに吊るせ!」  カルラが命じると、乳首ピアスに『偽聖女』の板が吊るされた。 「あぅうん……!?」  乳首に板の重みがかかり、艶めいた悲鳴をあげたところで、恐ろしげな拘束具を見せられた。  それは、鋼鉄の股間T字帯。横のベルトをウエストの一番細いところに嵌め、縦の鉄棒を股間に食い込ませる仕組みのようだ。 「うぃあ(いや)……」  それを着けさせまいと後ずさろうとして、兵士に押さえつけられた。それでは脚を開くまいと力を込めても、屈強な兵士ふたりの力にはかなわなかった。 「あぅあぁ……」  開脚を強制された脚の付け根の割れめに鉄の棒を押しつけられて、声を漏らす。 「もう感じてるのか!?」  民衆に揶揄され、屈辱に口枷を噛んだところで、割れめに鉄棒を食い込まされた。 「あっ、ぅうぅう……」  熱く火照る媚肉に、冷たい鉄棒が半ばまで埋まる。 「あぅう、ぅあぁ……」  それで下半身に痺れるような快感が広がったところで、横のベルトが閉じられた。  カチャカチャと金属音が聞こえるのは、T字帯をボルト留めしているのか。だとすれば、もう自力で股間の拘束具を外すことはできない。  股間に生まれる快感のなかで、そのことを思い知ったところで、さらに恐るべき拘束具を見せられた。  それはひとことで言うと、拘束ミトン付き鉄仮面。あるいは鉄仮面付き首手首連結鉄枷。  連結された鉄仮面と拘束ミトンは、それぞれ背面に蝶番があり、閉じたあと前面でボルト固定する構造のようだ。 「ぃうぁ……」  その恐ろしげな見た目におののいても、どうすることもできない。  兵士の丸太のような腕に拘束の身を囚われたまま、鉄仮面を被せられる。 「ぃあ(いや)ぁ……」  拒絶が受け入れられるはずもない。 「あぇえ(やめて)……」  懇願しても同じこと。 「ぁう……!?」  鼻フックが外された。 「あぅう……」  開口式の口枷も外された。  しかし、顔に自由が与えられるわけではない。  鼻と口が解放された直後、後頭部の蝶番を支点に開かれていた鉄仮面が、閉じられていく。  視界の両端に、鉄仮面の接合部が見えた。 「口をしっかり閉じなさい」  カルラに言われて反射的に従うと、鉄仮面がさらに閉じられた。  おそらく鼻孔の位置だろう。呼吸用に小さな穴がふたつある以外、鉄仮面にいっさいの開口はない。 「うぃ、んん……」  もう一度拒絶の言葉を口にしかけたところで、鉄仮面の顎部分が下顎に触れ、口を開けられなくなった。 「んん(いや)ぅ……」  言葉がうめき声にしかならなくなったところで、視界が閉ざされた。  そして――。  カチッ。  金属どうしの触れる音がやけに大きく聞こえ、鉄仮面が閉じられた。  もう、なにも見えない。鋼鉄に覆われて、民衆の声も小さくなった。顎の下でボルトを締める音だけが、振動で大きく聞こえる。  頭頂部にも同じような音が伝わっているのは、鉄仮面をぶら下げられた鎖に繋がれているのだろうか。 (だとすれば……)  もうこの場所から、一歩たりとも動けない。  そう思い知らされたところで、後手の手枷を外された。  両手を兵士につかまれ、今度は拘束ミトン部分に固定される。  そしてすべての拘束を終えたところで。 「変態豚聖女を、晒し刑に処す!」  カルラが声高らかに宣言し、エレナはひとり晒し台に取り残された。 7話 流れゆく奴隷性女  しばらく荷馬車に揺られたあと、女どうしが争う声が聞こえていたのは、短いあいだだった。  その後感じた、馬車への軽い衝撃。続いて、岩山が崩れる轟音と振動。  やがて訪れた静寂。  なにがあったのだろうか。厳重に拘束されたまま、箱詰めにされた灯里には、まったく状況がわからない。  馬車が揺れていたのは、イリアが夜中こっそりと盗賊団のアジトを抜け出したときだ。  女どうしの争う声は、イリアとラウラのものだ。  馬車に感じた衝撃は、ラウラの攻撃魔法がイリアを弾き飛ばしたときのもの。岩山が崩れたのは、イリアの魔法によるものだ。  そして今、イリアは谷底に落ち、ラウラは崩れた岩の下敷きになっている。  とはいえ、真っ暗な箱に閉じ込められた灯里は、そのことを知らない。  知らないまま、灯里はじっと待つ。  馬車が動きだすのを待っているわけではない。どこかへ連れて行かれるのを待っているのでもない。  灯里が待っているのは、自らの運命だ。  ラウラの巧みな調教により、灯里は奴隷堕ちの運命を受け入れた。イリアの強引な調教により、彼女が新しい主人となる運命を受け入れた。  ホライゾンタルに召喚されてからずっと、運命を受け入れることを強いられてきた灯里は、与えられた運命を受け入れ、運命に流されることが習い性になっていた。  そんな灯里を詰めた箱を載せた馬車が、やがて動きだす。  馬車を操っているのは、崖下から這い上がってきたイリアか。崩れた岩の下から這い出してきたラウラなのか。それとも――。  どんな運命でも受け入れる心根を叩き込まれた灯里は、それが誰なのかを考えることもできないまま、馬車の振動を感じていた。 (第2部 了) 異世界の奴隷性女 第3部は不定期掲載とし、数話ぶんを1話にまとめる形での掲載いたします。

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