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定礎の巫女  新築校舎の1階部分、元クラスメートたちが授業を受けている教室のすぐ横。壁から外に向かって出っ張った柱に、私は在る。  X字に手足を開き、手首と足首の先をコンクリートに埋め込まれ、腰を前方に突き出した姿勢を強いられて、私は柱の一部になっている。 「苦しいでしょう?」  私が柱の一部にされてすぐ、親友が気遣ってくれたが、実は苦しくない。  定礎の巫女の血を引き、荒ぶる土地の神さまを鎮め、建物を利用する人々を守る私の肉体は、神の御力で護られている。 「つらいでしょう?」  一見奇妙な装束とみじめな姿を心配してくれたが、実はつらくもない。  私専用の巫女装束を見せられたときは、破廉恥とも思える異様に驚かされたが、神主さまに下衆な下心などあるはずがない。  それが私と土地の神さまに最適なものゆえ、一見奇妙に見える装束と装具を、神主さまは選んでくださったのだ。  だから、苦痛もつらさも感じない。それどころか、かつて感じたことのない高揚感と恍惚に四六時中包まれ、ほかに替えがたい幸福感を得ていられる。  それは、私の身が校舎と生徒を護っているのだという充足感がもたらすものなのか。  それとも――。  わからない。わからない。  もう、なにもわからない。  高揚感と恍惚、不思議な幸福感に包まれて、ものごとを深く考えられない。  でも、それでいい。それがいい。  私が1年間、柱として在り続けることで、皆が安心して学校生活を送れるのだから。同時に私自身も、幸福でいられるのだから。  私は――。 「2年3組、蒲生沙都子(がもう さとこ)さん、校長室まで……」  その校内放送が、ことの始まりだった。 「沙都子ちゃん……」  親友の津野美都里(つの みどり)が心配そうに声をかけてきたのは、校舎の新築工事が大詰めになっているからである。彼女が私の定礎の巫女だということを知っているからである。  定礎の巫女、その制度が始まったのがいつ頃からなのか、正確にはわからない。  大型の建物を建てる際、土地の神さまを鎮めるため、定礎の巫女の血を引く乙女が建物の一部となる伝統は、私が生まれるずっと前からこの地域にあった。  定礎の巫女の血、と言ったが、それは具体的な血統ではない。その年生まれた女の子のなかに一定割合、定礎の巫女の素質を持つ子が生まれる。その子を土地神さまを鎮める定礎神を祀る定礎神社の神主さまが見いだし、定礎の巫女に任命するのだ。  そんな定礎の巫女に、私が選ばれたのは小学生のとき。遠足で訪れた定礎神社で、同級生のなかから、神主さまが私を見つけた。 「この子は定礎の巫女である!」  女性の神主さま――定礎神社では、代々女性が神主を務めているそうだ――がそう叫んだとき、引率していた担任教師は飛び上がって喜んだという。その事実を知らされた両親は、感涙にむせんだという。  それほどまでに、身内から定礎の巫女を出すことは、私の地元では名誉なことなのだ。  とはいえ、実際に定礎の巫女になるには、相応の覚悟が必要。  建物の新築から1年、土地の神さまが鎮まるまで、建物の一部となって過ごさなければならないのだから。  美都里が心配そうな顔をするのは、そのためだろう。あるいはこの先1年間、私と話すことができないことを、寂しく思っているのかもしれない。  でも、その心配は杞憂だ。  私にはすでに覚悟がある。それに校長室に呼ばれたのは、正式に定礎の巫女に選ばれたことを私に伝えるためだろう。定礎の巫女としての役目に就く前には、相応の準備があると聞く。おそらく、今日からいきなり建物に埋め込まれるわけではない。  そう考えて、心配顔の美都里ににっこりほほ笑んで、私は教室をあとにした。 「それでは、さっそく定礎の巫女になっていただきましょう」  校長先生と並んで私を待っていた神主さまが、いくぶん頬を紅潮させて告げた。それは、これから執り行う神事を前に、高揚しているからか。  とはいえ、私にはそれより気になることがあった。 「今すぐに……ですか?」  私がそう訊ねたのは、心の準備ができていないからだ。  もちろん定礎の巫女となる覚悟はあったが、今日がその日だとは思っていなかった。 「そうです。定礎の巫女としての務めを始めるには、最適な日があります。今日を逃せば、次の最適な日は、半年後になります」  工事の日程、予算、その他諸々の事情。それだけ待てないことは、私にもわかった。  それになにより、現校舎は、最新の耐震基準を満たしていない。私が延期を申し入れれば、全校生徒が危険な旧校舎で授業を受けることを強いられる羽目になってしまう。 「わかりました……」  だから、私には即刻定礎の巫女の務めを始めることを、受け入れるしか道はなかった。 「で、でも……」  親友の美都里には、もう一度会って話しておきたかった。1年間の別れを、きちんと告げておきたかった。  しかし、私がそのことを告げると、神主さまはわずかに表情をこわばらせ、きっぱりと告げた。 「それはできません」 「そ、そんな……」 「心配しなくていい。本校の生徒には、きみに声をかける機会を与えるつもりだ」  神主さまの断固たる姿勢に愕然としつつ、続いて口を開いた校長先生の言葉に、私は渋々即刻の処置を承諾した。  校長先生が退出したあと、白の上衣に緋袴の巫女さんがふたり、衣装盆を手に校長室に入ってきた。  ひとりの衣装盆には、ピカピカに磨きあげられた金属製のパンツと、同じ金属製の面。もうひとりの衣装盆には、テカテカと黒光りする物体。  金属製のパンツは貞操帯だ。土地の神さまに定礎の巫女が穢れなき乙女であると示すため、定礎の巫女は貞操帯を着けると聞かされている。  しかし、その横の面――顔だけではなく、頭をすっぽり覆い、おそらく首から肩にかけてまで達するヘルメットのような構造――は、見たことがない。  それに、もうひとりの巫女さんの衣装盆に載っている黒い物体は何なんだろう。  その正体がわからず凝視していると、神主さまが口を開いた。 「これが、貴女が身に着ける定礎の巫女装束です」 「えっ……?」  意外だった。貞操帯を着けることは知っていたが、衣装はふつうの巫女装束だと思っていた。 「土地の神さまには、その場所ごとに個性があります」  私がその疑問を訊ねると、神主さまがあらためて口を開いた。 「定礎の巫女の意味、知っていますね?」  それは知っていた。  定礎の巫女は、土地の神さまへの供物である。  大きな建物を建てる際、地面深くに杭を打つ。そのことにより、土地の神さまがお怒りになる。そのお怒りを鎮めるために、若い乙女を差し出し、愛でていただく。  もちろん、ほんとうに神さまと交わるわけではない。神さまの愛でかたは、人間とは違う。  そして、供えられた乙女を愛でているあいだ、その娘の肉体は神さまの御力で護られ、建物に埋め込まれても健康な状態を保てる。  そして1年後、神さまのお怒りが鎮まったところで、定礎の巫女をお返しいただくというわけだ。 「そのためにも、定礎の巫女はその土地の神さまの、好みの姿でないといけないのです」  とはいえ、テカテカと艶を帯びた黒い物体は、布の衣装には見えない。金属製の面は、私の頭と同じくらいか、下手したら頭より小さいと思えるほどコンパクト。さらに目にも鼻にも口にも開口がなく、被せられたら最後――。 「どうやら、少し気持ちが昂ぶっているようですね」  そこで神主さまがそう言って、香炉で香を焚き始めた。  そうなのだろうか。数々の疑問が頭をよぎっているだけで、それほど自分が昂ぶっているとは思えない。 「神さまとその代理人たる神主の言葉に疑問を持つことが、昂ぶっている証です。気持ちを落ち着かせる効果のある香りを嗅げば、素直にわたくしの言葉を信じることができるはずです」  そして、香炉を私の顔に近づける。 「ゆっくりと、深く吸ってみなさい」  神主さまの理屈は理解できなかったものの、言われてそのとおりにすると、甘ったるい匂いが私の鼻腔をくすぐった。  そのまま吸い込むと、その匂いが気管を通り、肺へと広がった。  そこはもう、匂いを感じる場所ではないはずなのに、なぜか匂いの存在を感じる。  肺から吸収された匂いが、血液に混じる。血液に混じって、全身を駆け巡る。駆け巡った匂いが、脳にまで達し――。  そこで、ズクンときた。 「ふぁ……」  脳が蕩け、吐息を漏らしてしまった。  その吐息にも甘みを感じたところで、視界がぼやけた。微熱があるときのように、身体が熱くなった。 「どう、少し落ち着いたかしら?」  もやがかかったような視界のなかで、神主さまが訊ねる。 「ふぁい(はい)……」  熱に浮かされたまま、その問いに答える。  ほんとうは、落ち着いたかどうかわからないのに、神主さまの言葉を受け入れ、従ってしまう。 「うふふ……すっかり媚香に侵されたようね」  媚香。それは媚薬成分を含んだ香のことである。  とはいえそのときの私は、その存在を知らなかった。薄く嗤いながらその名を聞かされても、意味を問い返すことができない状態に貶められていた。 「それじゃ、定礎の巫女の設えを整えましょうか」 「ふぁい……」  その言葉にも素直にうなずいたところで、巫女さんのひとりが私の制服に手をかけた。  セーラー服の胸元に結んでいたスカーフが解かれる。解かれたスカーフがするりと襟から抜き取られ、胸元のホックが外される。 「バンザイするように、両手をお挙げください」  左サイドのファスナーを開けられ、袖のホックを外され、巫女さんに言われて従うと、セーラー服の上衣を脱がされた。  同時にもうひとりの巫女さんにスカートのホックを外され、ファスナーを開けられ、ずり下ろして脱がされる。  その時点で私が身にまとっていたのは、2枚の下着とソックス、校舎内用の上履きのみ。そのうえ、場所は校長室。  ふだんなら恥ずかしくて仕方ないはずの状況で、私は羞恥心を持つことができなかった。  いや正確には、まったく恥ずかしくなかったわけではない。今が恥ずかしい状況だということはわかっていたし、実際に恥ずかしさを感じていた。  しかし、身を隠そうとか、強制脱衣に抗おうという気は起こらなかった。  それは媚香の効果で、校長室で脱がされるという羞恥の行為に、ほのかな悦びを見いだしていたから。 「はふ、はふ、はふ……」  緩く開いた口から、甘くて熱い吐息を漏らしながら、私はソックスと上履きを脱がされる。下着も剥ぎ取られる。  そして私を一糸まとわぬ姿にしてから、巫女さんが貞操帯を手に取った。 「貞操帯を着けますよ」  縦のベルトと横のベルトをつなぐ南京錠を外しながら、巫女さんが告げる。 「ふぁい……」  夢心地のまま、私が答える。  裏から縁にかけて、黒いゴムが貼られた金属ベルトが、私の腰に巻きつけられた。 「はひ……」  ひんやりとした冷たさ。しかし、肉の火照りが冷めることはない。  カチッ。  三次元のカーブを描く横ベルトが腰に巻かれ、おへその下で組み合わされた。 「脚を開いて」 「ふぁい……」  言われて従うと、脚のあいだから手を差し込まれ、お尻の下にぶら下がっていた縦のベルトを持ち上げられる。 「ふぁあ……」  お尻に肉を割って、Tバックの部分が食い込む。 「んふぁ……」  お尻の穴をかわすための開口に、すぼまりの襞を押し出され、熱い吐息を漏らす。 「あぅん……」  おしゃもじ形の前部分に媚肉が押しつけられ、甘い声をあげてしまう。  そこで、媚肉がむにっとなにかに嵌り込んだ。 「はぁん……」  それでジンと痺れるような感覚を覚え、艶を帯びて喘いでしまう。  それは、本来性行為を禁じ、性欲を抑えるためのものである貞操帯に仕込まれていた、淫らなしかけだった。私の媚肉を絶えず緩く刺激し、官能を煽り続けるための、いやらしい構造だった。  しかし、私はそのことを知らない。脳まで媚香に侵されて、気づくこともできない。  カチリ。  淫らな貞操帯に、南京錠がかけられた。  同じ金属製の面はそのままに、次に巫女さんが手に取ったのは、黒光りする物体。  広げて見せられて、それが光沢剤を塗り込めたラバー素材のコルセットだと気づいた。  後ろを編み上げ紐でつながれた帯のようなコルセットが、お腹周りに巻きつけられる。するとコルセットは、貞操帯の横ベルトの直上から、胸の膨らみの直下までを覆い尽くした。  私専用に誂えられたものなのだろうか。  漠然とそんなことを考えていると、前側で金具を留められた。それから位置を微調整されて、始まる編み上げの締めつけ。 「あふぁ……」  後ろ側に回り込んでいた巫女さんに紐を締め上げられ、艶声をあげる。 「あぅん……」  もうひと締めされ、また喘いでしまう。 (どうして……?」  お腹を締めあげられ、苦しいはずなのに、喘いでしまうのだろう。  それは、媚香のせいである。耐性ができている神主さまや巫女さんには効いていないようだが、私は媚香のせいで、肉体に与えられるあらゆる刺激が、性的な快感に変換されてしまう状態に貶められていたのだ。  とはいえ、私はそのことを知らない。  もともと熱に浮かされたような状態のうえ、高まる性感でますます頭がぼうっとして、気づくこともできない。  知らずわからず、気づくこともできないまま、私はコルセットの締めつけで高められていく。 「あふぁ、ああっ……」  また締めあげられ、感じさせられた。 「ああっ、あぅん……」  さらに締めつけられ、高められた。  そしてコルセットがフルクローズ――編み上げ部分が完全に閉じ切ること――される頃には、私は意識朦朧の状態に貶められていた。  身体がフワフワする。  ひとりでは立っていられず、巫女さんに支えられながら、椅子に座らされる。  そして身体を支える手の刺激にも、椅子に触れた部分にかかる自分の重みにすら、感じてしまう。  そんな状態で、腕にラバーのロンググローブを嵌められ、脚にニーハイのラバーストッキングを履かされる。  そのうえで私の顔の前に、神主さまが再び香炉をかざした。 「吸って、吐いて」  言われたとおりに、媚香を吸い、吐く。 「吸って、吐いて」  もう一度。さらに、繰り返し。  もう、なにもわからない。  媚香に侵されきって、なにも考えることができない。  縄を手にした巫女さんが、椅子の背もたれに私の上半身を縛りつける。もうひとりの巫女さんが、私の足を椅子の脚に縛りつける。 「あぅん、あああっ」  その刺激にあられもなく嬌声をあげたところで、ふたりの巫女さんと神主さまが入れ替わった。  ただ見えているだけで、実はなにも見ていない視界のなかで、神主さまがラバー製の小さなキャップを、私の乳首と乳輪に被せた――ような気がした。  妖しく嗤い、鋭い針《ニードル》のような器具を手に取った――ように思えた。  そのニードルが、キャップの乳首部分に開けられていた小さな穴から、敏感な肉に――。 「あひいッ……ッ! ッ! ッ!」  直後、乳首に感じた衝撃。  それが激痛だと気づいた刹那、その痛みすら快感に変換される。 「あッ……ッ! あッあッあッ!」  身体がこわばる。無意識に手足に力が込められる。  ミチミチと縄が鳴く。ギシギシと椅子がきしむ。  しかし、椅子にきつく縛りつけられた身体は動かない。 「あヒィッ……グぅううううッ!」  前後不覚に叫びながら、私はイク。  しかし私自身には、絶頂している自覚はなかった。  押し寄せる圧倒的な快感の奔流に、ただ翻弄されているだけだった。  そして襲いくる快感の奔流は、私の意識をもあっさり押し流す。押し流して恍惚の世界へと押し上げる。  そしてたどり着いた恍惚の世界。  かつて得たことのない充足感と不思議な幸福感のなかで、私は意識を失った。  目覚めると、なにも見えなかった。  おそらく、貞操帯と同じ金属の面を被されているのだろう。  手足をX字に大きく開き、背すじを反らし、腰を前方に突き出した姿勢で、手首と足首から先を埋め込まれている。  そう、私はすでに、定礎の巫女になっていた。  新築校舎の1階部分、元クラスメートたちが授業を受けている教室のすぐ横。壁から外に向かって出っ張った柱に、恥ずかしい装束姿を晒して、私は祀られていた。  光すら感じられない金属製の面を被せられながら、私がそのことを理解できたのは、土地の神さまの御力である。  神さまが文字通り神通力でもって、目や視神経を通さず脳に直接、私の破廉恥な姿を見せてくださったのである。  破廉恥、と言ったが、それはあとから思いだし、世間一般の常識に照らし合せて考えたこと。  神主さまがおっしゃったとおり、一見奇妙な私専用装束は、土地の神さまに気に入られたようだ。それで大いに満足され、供えられた私を誇るような形で祀るよう、代理人たる神主さまに指示なさったのだ。  そのことがわかって、私も誇らしい気持ちになれた。誇らしく祀られることで、恍惚感を得ることができた。  やがて新校舎が完成し、定礎の巫女となった私が披露される。  来賓や教職員、生徒たちの驚いた顔。続いて見せる怪訝な顔。だがやがて、それも神さまの御力で、平静なものに変わる。  そして式典のあと、校長先生の言葉のとおり、クラスメートが私に声をかける機会が与えられた。 「苦しいでしょう?」  美都里が私の前に立ち、見上げてつぶやく。  とはいえ私の肉体は、神の御力で護られているから、苦しくない。 「つらいでしょう?」  やはり神の御力で、つらくもない。  知らない人には、みじめで憐れな姿に貶められているように見えるかもしれないが、これは神さまがお望みになられた姿。定礎の巫女たる私がつらく感じるわけがない。  だから、まったく苦痛を感じない。それどころか、かつて感じたことのない高揚感と恍惚に四六時中包まれ、ほかに替えがたい幸福感を得ていられる。 「そう、よかったわ」  これも神さまの御力か、私の思いは美都里に伝わり、にっこりほほ笑んでくれた。 「ありがとう、沙都子……いえ定礎の巫女さま」  ほほ笑んだあと、両手を合わせて拝んでくれた。  それで私の身が校舎と生徒を護っているのだという充足感も得られ、私は大いなる悦びに包まれた。  嬉しい、嬉しい。  大いなる悦びが、圧倒的な高揚感と恍惚を生み、かつて得たことのない不思議な幸福感をもたらす。  幸せ、幸せ。  幸せすぎてもうなにも考えられないけれど、自分が幸福だということだけはわかる。  高揚感と恍惚、不思議な幸福感に包まれて、もはやものごとを深く考えられない。  でも、それでいい。それがいい。  私が1年間、柱として在り続けることで、皆が安心して学校生活を送れるのだから。同時に私自身も、幸福でいられるのだから。  私は、身も心も定礎の巫女になり果てた。  それから1年が経ち、私は解放された。  それもまた神さまの御力か、私が定礎の巫女だったことは、誰も憶えていない。  1年間授業を受けていないはずなのに、私はその間の知識をしっかり身につけている。  ともすれば私自身、定礎の巫女だったことを忘れそうになる。 (でも……)  その経験をを忘れないために、今でも私は貞操帯と乳首のピアスを着け続けている。  ふたつの装具の存在感を意識しながら、陰気な教師がブツブツと教科書を読み上げるだけの授業中、顔を上げて振り返ると、そこには定礎の巫女がいた。  もちろん、別の誰かがあらためて埋められたわけではない。  それは、私と神さまの思い出が作り出した、私にしか見えない幻影だ。  そしてその幻影を見るたび、私の心は満たされる。  定礎の巫女になる前2年生だった私も、今は3年生。来年の春卒業したら、私は定礎神社の巫女になるつもりだ。  その私の決断を、神主さまは歓迎してくれた。周りの人々も賛成してくれた。そして定礎の巫女だった1年間、いえ今も私を護ってくれているはずの土地の神さまも、きっと喜んでくれている。  だから、私は――。  無垢な乙女を私の手で定礎の巫女に仕立てあげる光景を想像し、私は唇の端を吊り上げて嗤った。 (了)

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どすどす

定礎を固める貞操帯。良いですね。肝心の部分はみな隠れているのに、いや、だからこそ、一枚画としてのセクシーさに顔写真の印象とが相まって素晴らしいです。貞操帯の縁のゴムが学年色と同じ緑、なんてのもいいかもしれませんね。

masamibdsm

ありがとうございます。 実はイラスト先行で、あとからストーリーを考えるときに『定礎の巫女』というアイデアが下りてきたのです。もしストーリー先行だったら、配色を巫女装束ふうにしていたかも……。