小説 牧場のポニーガール物語 後編 (Pixiv Fanbox)
Published:
2021-01-22 09:38:31
Edited:
2023-12-31 23:10:31
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後編
「ぅう……」
幅2メートル、奥行きは1メートルほどの小さな個室――いや、機械のない工場か倉庫のような厩舎の中に設置されているから部屋と思うだけで、実質それは小屋、馬小屋なのだろう――の中で、干し草の上に身を横たえて、馬銜を噛まされた口でため息をつく。
あれから――10日間限定でお試しポニーガールになると決めた日から――3日が過ぎた。
「干し草の上にそのまま排泄してね。牧童が1日数回交換するから」
そう言われても、初日はなかなか排泄《だ》せなかった。
それでも尿意に耐えられなくなり、思いきって排泄すると、おしっこは干し草に吸い込まれて水溜りを作ることはなかった。
茜に鎖を取られて歩行訓練をするあいだに、女性牧童が黙々と干し草を交換し、訓練後は清潔な干し草の上で休憩できた。
それで、私はここでのおしっこのルールに、次第に馴らされていった。
馴らされたといえば、拘束具を含めたポニーガールの装備もだ。
3日間、私はそれらを外されていない。
アームバインダーで1本の棒のように腕を拘束され、はじめは肩に鈍い痛みを覚えていたが、じきに感じなくなった。
馬銜を噛まされっ放しの口が怠かったが、それにも慣れた。涎れを垂れ流すことにも、いつしか馴らされた。
尻尾つきプラグが肛門を占拠している状態も、ふつうのことに思えるようになった。
本来なら隠すべきところを曝け出すポニーガールの装備を、恥ずかしいと思う気持ちも薄くなっていた。
それには、茜が常に調教師装束を身につけていること。女性牧童も調教師装束を簡素化し、地味にしたような衣装を着ていることが影響しているのだろう。
プールでなら露出の多い水着姿が恥ずかしくないように、奇妙なポニーガール姿も、周りが共通の意匠の装束を着た人ばかりならふつうに感じてしまうのだ。
とはいえ、それはあとから考えてわかったこと。
そのときの私は、昼夜行われる茜の訓練と調教に翻弄されて、そこまで考えられる余裕はなかった。
そう、昼夜問わず。
朝と昼の歩行訓練のあとも、私は茜の調教を受けていた。
もっとも私自身は、夜の行為を調教だとは捉えていなかったが――。
「うふふ……お待たせ、碧。ご褒美の時間よ」
妖しいほほ笑みを浮かべ、鉄格子の向こうに茜が現われた。
ガチャ。
扉の閂を外し、私の馬小屋に足を踏み入れた。
夜の食餌。その前に、今日の訓練を素直に受けたことに対し、ご褒美として女の子どうしの快楽を私に与えるため。
ポニーガールの装備と暮らしに馴らされるにつれ、私はそのご褒美を心待ちにするようになっていた。
心の奥底でご褒美目を期待し、積極的に歩行訓練に臨むようになっていた。
実のところ、それは調教の基本でもある。飴と鞭なら飴のほうに、人は苦痛への恐怖より、快楽にこそ動かされるものなのだ。
とはいえ、それは私にはわからないこと。
ポニーガールにされる前の夜に女の子どうしの悦びを教え込まれた私は、その甘い甘い飴の虜だった。
カチャ、カチャ。
軽やかな金属音とともに、コルセット側面の金具――それは本来、正式ポニーガールになったとき、馬車と接続するためのものらしい――と、天井のリングを革ベルトで接続される。
それは、ご褒美の準備だ。
快楽で恍惚の状態に陥った私が、倒れないようにするための配慮だ。
そのことを知っている私は、この先の行為に期待して、吊りベルトの接続だけで蕩け始める。
「うふふ……」
コルセットの金具を天井につながれ、その場から動けない私の正面に立ち、茜が妖しく嗤う。
遮眼帯で側方視界を制限されているため、視野の大半が彼女の姿で占拠される。
「はふぁ……」
マスクに覆われた耳のあたりに両手を当てられて、それだけで甘い吐息を漏らしてしまった。
「あぅう……」
吐息とともに、口中に溜まっていた涎をこぼしてしまった。
そのことを、茜が揶揄することはない。
それどころか、その麗しい唇で、顎を濡らした涎を吸い取ってくれた。
一見、変態的な行為。
だが、嫌じゃない。
女どうしの禁断の愛を受け入れ、肛門に挿入されたプラグがもたらす禁断の快楽に酔うことを知った私が、その程度の行為に嫌悪感を抱くわけがない。
いやむしろ、茜がほかの誰もしない変態的行為をしてくれることに、私は奇妙な昂ぶりを覚えるようになっていた。
顎から、馬銜を噛まされた唇。唇から、馬銜の金属棒が食い込む頬。私の顔に茜の舌が這う。
「あぅ、ぁうぅ……」
嬉しい、嬉しい。茜に顔を舐められるの、嬉しい。
舐めたい、吸いつきたい。私も茜にお返ししたい。
でもそれは、厳重な拘束具に囚われ、馬具を嵌められた私には叶わないこと。
10日間限定とはいえ、茜のポニーガールの身分に堕ちた私には、彼女の愛玩に身を任せることしかできない。
自分は茜に求められ、茜に全部を奪われ、茜にすべてを捧げた身の上であると痛感する。
そのことが、今は嬉しい。
愛する女性《ひと》に求められ、奪われ、身も心も捧げられたことに、大いなる悦びを感じる。
(もし、今……)
永遠のポニーガール堕ちを請われたら、迷いなく受け入れてしまうかしれない。
「うふふ……」
そう思えるほど顔面への愛玩で酔わされたところで、顔を離した茜が薄く嗤い。
「ピアスの穴は、もう安定しているようね」
そう告げた直後である。
「んぅううンッ!?」
乳首に衝撃が走り、目を剥いて叫んでしまった。
「ンむんぅん……」
衝撃と感じてしまうほど大きな快感が駆け抜けたのだと気づいたところで、声に甘みが混じる。
「思ったとおり、ピアスのおかげで感度が抜群に上がっているわね」
「んぅ……ぃあぅお(ピアスの)……?」
問い返した声は言葉にならなかったが、言いたいことは伝わったのだろう。ピアスに貫通された乳首に触れながら、茜が目を細めて告げた。
「乳首は女の子のカラダのなかでも、性感帯が集中した感じやすい場所のひとつ。そこを硬い金属に貫かれた状態で、こうすると……」
言いながら茜が触れていた乳首を軽く押した刹那。
「んぅんんッ!?」
ビリビリと痺れるような快感が、乳首から乳房全体に広がった。
「わかった? 敏感な肉が外と内から刺激されて、愛撫の効果が2倍に、いえ2乗になるのよ」
「ぅおんあ(そんな)……」
信じられない。
だが、信じるしかない。
実際、乳首を軽く押されただけとは思えないほどの快感に、私は襲われているのだから。
実のところ、それは私の肉体が、あらかじめ昂ぶらされていたせいでもあった。
私は尻尾つきプラグで絶えず肛門を刺激されていたうえ、顔面への玩弄で酔わされていた。いわば下準備ができていた状態でピアスつきの乳首を愛撫され、一気に高められてしまったのだ。
とはいえ、私はそのことを知らない。
知らないうえに、実際に性感を高められてしまった。
それでピアスのせいで快感が2乗になったのだと思い込まされたところで、もう1度乳首を押された。
「ぅあ……あぃあッ!?」
それで外と内から乳首の肉を刺激されて、快感に喘いでしまう。
喘いで、蕩けてしまう。
カチ、カチ、とピアスを爪で弾かれ、その振動で乳首を内から刺激される。
「あぅ、ぅあぁう……」
ピアスに貫かれた乳首を、指で軽くこねられる。
「あっ、あぅうあっ……」
こねていた乳首を、キュッと強めにつままれる。
「ぅあ、ぁむぅうっ……」
なにをされても、乳首に快感を覚えてしまう。
そこに生まれた快感が、どんどん大きくなっていく。
「うふふ……うふふ……」
遮眼帯に制限された視野を占拠する茜が、瞳に妖しい光を灯して嗤う。
嗜虐的な笑みを浮かべた彼女に魅入られたように、その目から視線を逸らすことができない。
もう私は、茜と茜の愛玩の虜なのだ。
(わ、私……)
どうなってしまうのだろう。
しかし、一瞬頭によぎった不安は、大きすぎる快感に押し流されてしまった。
押し流されて、私そのものが快感の奔流に飲み込まれてしまった。
「あぅ、あぅああッ!」
馬銜を噛まされた口であられもなく喘ぎながら、一気に高められる。
「ぅあぁ、ぅあぁあッ!」
馬銜の隙間から噴き出す涎を、気に留めることもできない。
ガクン、と膝から力が抜ける。
ギシッ、と倒れかかる身体を支えて吊りベルトが鳴く。
「うぁあぁああッ!」
あられもない喘ぎ声は、獣の咆哮にも似たものになっていた。
食い締めるプラグが生み出す肛門性感が、乳首の快感をいっそう煽る。
肉壺から溢れた蜜が、内股を伝って、ラバーストッキングの上を球となって落ちる。
もう、止まらない。抑えられない。抑えようと思うことすらできない。
まったく制御できない圧倒的な快感に押し流され、飲み込まれ――。
「碧、イキなさい」
茜にそう告げられ。
「ぅえ(えっ)、うぃう(イク)……?」
蕩けきった頭では言葉の意味がわからず、思わず口にしかけたときである。
「ぁうッ、あ、あぃあ(なにか)……!?」
来た。いや、私のほうがたどり着いた。
ビクン、と身体が跳ねる。
アームバインダーに囚われた腕がこわばる。
背すじが、首がのけぞる。
快感のみならず、自分の身体そのものの制御を失ったかのような状態に陥り、私は――。
「うぃ(イ)ッッぐぅうッ!」
茜に告げられた言葉を、そのまま叫んでいた。
ビクン、ビクン。カラダが跳ねる。
ギシッ、ギシッ。吊りベルトが鳴く。
だが、それらの音は、私には聴こえていなかった。
自分がなにを口走っているのかすら、まったく意識できていなかった。
気持ちいい、気持ちいい、気持ちいい。
感じているのは、性の快楽だけ。
幸せ、幸せ、幸せ。
ほかに例えようのない不思議な幸福感に包まれて、私は恍惚の世界に漂う。
こんなの初めてだ。
初めて女どうしの快楽を教えてもらったときも、昨日までのご褒美でも、こうはならなかった。
これが――。
「絶頂。女の子が得ることのできる、最高の快楽よ」
吊りベルトに身を委ね、ときおりピクリと震える身体を抱きしめて、茜は教えてくれた。
「乳首にピアスを嵌めたからこその、碧がポニーガールであるからこそ、到達できた悦びの世界……これからも毎日、連れていってあげる」
そして、恍惚とする私の頭に刷り込むように、耳元でささやいた。
「碧が、良いポニーガールであり続けるかぎりね」
「ん、ぅ……」
私が目覚めたのは、まだ日が昇る前だった。
ポニーガール生活初日のように、肩の痛みのせいではない。別の部位の苦痛で、目を覚ましてしまったのだ。
それは、コルセットで締めつけられたお腹の苦しさ。
とはいえ、初日の状態から増し締めされたわけではない。アームバインダーの拘束や噛まされた馬銜に馴らされたように、本来ならコルセットの締めつけにも、少しずつ慣れていくはず。
にもかかわらず、お腹の苦しさは日ごとに増していた。
(それは、きっと……)
お腹の中身を、排泄できていないから。
そのせいで、コルセットのサイズは変わっていなくても、私のお腹のサイズが大きくなってしまったのだ。
だから、溜まったものを排泄すれば、お腹は楽になる。
(でも……)
できなかった。
『プラグには特にストッパーはかけていないから、強くいきめば抜けるわ。それでおしっこと同じように排泄して、見るのが嫌なら足を使って上に干し草をかけておけばいい』
茜はそう言ってくれたが、やはり女の子にとって、おしっことうんちでは排泄の重みが違う。
もし中身が出なかったとしても、いきんでプラグを抜いてしまうと、排泄を試みたことがバレてしまう。
それを知られることすらはばかられるほど、うんちの排泄は秘すべき行為なのだ。
おまけに、女の子の体調は、生活の変化に大いに影響を受ける。
肉体は馴らされても、精神はポニーガール生活にストレスを感じていたのだろうか。そもそも私は、うんちをしたいと思うところまで至っていなかった。
いわゆる、便秘だ。
その状態が生む苦しさは、日増しに強くなり、ついに夜明け前に目を覚ますほどになった。
そしてその苦痛は、起きたからといって和らぐものではない。
和らぐどころか、ますます強くなっていく。
それは歩行訓練が始まっても、変わることはなかった。
カッ、カッ、カッ。
金属製の蹄が床を叩く音を響かせて。
「はっ、はっ、はっ……」
呼吸を荒げて厩舎内を端から端まで歩くあいだも、お腹の苦しさに苛まれる。
「はっ、はっ、はふぁ……」
尻尾つきプラグに肛門を刺激され、性感が高まり始める。
しかし、昨日までと違い、快感に酔うことはできない。
「はふぁ、はふ、はふぁ……」
馬銜の口から涎を噴き出しながら、お尻の快感とお腹の苦痛に翻弄される。
そのせいで、いつものように歩行に集中できない。
自然と歩くペースが遅くなり、アームバインダーの先端につながれた鎖に操られ、強制的に足を進めさせられる。
そんなことが、数回続いたときである。
「どうしたの? 体調が悪い?」
茜の質問にうんちが溜まりすぎて苦しいからとは言えず。
「あぅう……」
ただくるおしくうめき、ゴポリと涎を垂らす。
そこで、茜が初めて口を開いた。
「理由もなく、これ以上怠慢な歩行を続けたら……」
そして、なにかが空気を切り裂くヒュンという音。
「遠慮なく、鞭を使わせてもらうわ」
それで茜が手にした乗馬鞭のことを思い出し。
「ふひッ……!?」
短く悲鳴をあげる。
そこからは、気を引き締め直した。
しかし、長続きはしなかった。
「はふ、はふ、はふ……」
お腹が苦しいせいで、いつもより息が切れる。
「はふ、はふ、はふぁ……」
プラグの刺激で高まる性感が、それに拍車をかける。
そのせいで、知らず知らずのうちに歩みが遅くなったとき――。
ヒュン、と乗馬鞭が空気を切り裂く音。
ピシッ! と尻肉を打ち据えられる。
「……ッ!?」
一瞬、声も出せなかった。
たたらを踏むように前に進み。
「ぃあ(痛)ぁあッ!」
鋭い痛みに声をあげる。
そして、もう1撃。
ピシッ!
「ふぎぃいいッ!」
ぶざまに悲鳴をあげ、追い立てられるように足を前に運ぶ。
痛い、痛い。
だが打擲による痛みは、じきに熱を持った疼きに変わっていく。
「わかった? 歩行訓練に身が入らないと、鞭の罰よ」
「ぁ、あぃ(はい)……」
身にしみて答えたところで、茜が尻尾つきプラグを鞭の先で小突いた。
「あっ、ぅあぁ……」
それで、肛門をプラグで軽く抉られ、お尻の快感が大きくなる。
痛みを与えた直後、快感も与える。苦痛と快楽を、セットで与える。
それは、性奴隷調教の基本である。
ただの奴隷なら鞭の痛みを恐怖させ、それで従わせるだけで充分。しかし性奴隷は主人《あるじ》が与えるものすべてに、たとえそれが痛みでも、その中に悦びを見いださなければならない。
そして、ポニーガールもまた、性奴隷の一種なのだ。
とはいえ、私は性奴隷調教のなんたるかを知らない。
(私が不甲斐ないから仕方なく鞭を使ったけれど、茜は痛みだけを与えたくないんだ……だからすぐに痛みを打ち消すように、お尻の快感をくれたんだ……)
知らないから、勝手にそう解釈してしまった。
それは、私がもともと茜に好意を持っていたからだろう。彼女のことが、大好きだったからに違いない。
ほんとうは酷い仕打ちを受けているのに、その残酷な行為のなかにも悦びを見いだして、私はポニーガールとして歩く。歩かされる。
ピシッ!
また、お尻を鞭で打ちすえられた。
「ふぐゥうううッ!」
悲鳴をあげ、たたらを踏んで数歩進み、やがて痛みが疼きに変わる。
そこで、尻尾つきプラグへの玩弄。
「あぅ、あぅう……」
それでお尻の快感を得ながら、喘ぎ声と涎を漏らす。
ピシッ!
もう1度。
「ふひぁあああッ!」
そして。
「あぅんぅうぅ……」
熱い、熱い。鞭で打たれたお尻が熱い。
熱い、熱い。肛門性感で昂ぶる肉が熱い。
外と内からの熱で、いっそうカラダが火照る。
痛みと熱と快楽が渾然一体となり、厳重拘束ポニーガールの身を苛む。
ピシッ!
「んぅううぅあッ!」
痛い。でも気持ちいい。
「あぅうぁあぁ……」
気持ちいい。お尻、気持ちいい。
そして、今感じている感覚が、痛みなのか快感なのかもわからなくなった頃――。
「歩行訓練はここまで、しばし休憩。でもその前に……」
そう告げ、妖しく嗤った茜が、コルセットの上から私のお腹に触れた。
「この中に溜まったものを、処理してしまいましょう」
女性牧童が、金属製のボウルとハンドポンプつきのチューブ、それから液体の入ったボトルを運んできた。
「碧、ポニーガール体験を始めてから、うんちを排泄《だ》せていないでしょう?」
女性牧童がボトルの中身をボウルに注ぐさまを見ながら、茜が口を開いた。
つまり、私のことをずっと見てくれていたということだ。
「それで、お腹が苦しくなっているんでしょう?」
体調を、気にしてくれていたということだ。
それで少しだけ嬉しい気持ちになったところで、茜が信じがたい言葉を口にした。
「今朝排泄できていなければ、午前の訓練後、お浣腸してあげようと思っていたの」
「ぅえ(えっ)……?」
「聞こえなかった? 今からお浣腸をするって言ったの」
むろん、聞こえていた。
ただ、今、ここで――茜ばかりか、女性牧童もいる厩舎内で、浣腸をするという言葉が信じられなかっただけだ。
そのうえ、大きな金属製ボウルに注がれた液体は、1リットルほどもあるだろうか。ハンドポンプつきのチューブは、液体を吸い上げ、どこかに注入するためのものに違いない。
そして、その『どこか』とは、おそらく私のお腹の中だ。
それはやりかたも量も、私が知っている浣腸とは大きくかけ離れている。
「さあ、始めましょう」
茫然とする私に、茜が無慈悲に告げた。
「おぅお(ちょっと)、あっえ(待って)」
しかし、懇願の声は言葉にならなかった。
アームバインダーの先端につながれた鎖を握られていては、その場から動くことすらできなかった。
「うふふ……」
薄く嗤って、茜がチューブの先端を液体――あらかじめ用意されていた浣腸用のグリセリン水溶液――に浸け、ハンドポンプを数度握る。
液体に浸けられたのと反対側の金属製ノズルからピュッと液体が飛び出したことを確認し、それが尻尾つきプラグに接続された。
カチリ。
小さな金属音と、かすかな振動でそのことに気づいたところで、茜の声。
「このプラグはね、挿入したまま浣腸できる優れものなのよ」
今まで聞かされていなかった事実を告げながら、茜がチューブのハンドポンプを手にした。
私の拘束具と同色同素材のロンググローブを嵌めた手が、ハンドポンプを握る。
直後、お腹の中に液体が侵入してきた。
あらかじめ人肌に温められていたのだろう、冷たくはない。
「ふひッ……!?」
それでも、肛門を通過する感覚もなくお腹に液体が侵入してくる感覚に、驚いて短く悲鳴をあげる。
おそらく1回の注入で、市販の浣腸1個ぶんの量が送り込まれただろう。
しかし、ボウルの中の液体は、ほとんど減っていない。もちろん、それで注入は終わらない。
もう1度。
1回めのように驚くことはなかったが、お腹の中に液体が侵入してくる違和感は消えない。
さらにもう1度。
違和感は消えるどころか、ますます強くなっていく。
ハンドポンプが握られ、侵入してくる液体の量が増えるにつれ、違和感が圧迫感に変わっていく。
苦しい。お腹が苦しい。
コルセットをきつく締められ、もともと外から圧迫されていたお腹が、注入により内側からも圧迫されて苦しい。
だが、茜の手は止まらない。
苦しい、苦しい。もう、耐えられそうにない。
しかし、ボウルの中の液体は、半分程度しか減っていない。
いったい、どれほど注入されるのだろう。
適当なところで終わるのか。それとも、用意された量すべて注入されるのか。
「ぅう、うぁうぅ……」
耐えがたい苦痛に、馬銜を噛みしめてうめいていると、茜が口を開いた。
「碧、苦しい?」
問われてすかさず頷くと、茜が言葉を続ける。
「そう。でも耐えなさい。これは、茜のためにしていることなんだから」
そうだ、これは数日間うんちをできていない私に、排泄を促すための行為なのだ。
排泄できないことによる苦痛から、私を解放するためにしていることなのだ。
けっして、私が憎くてしているのではない。
茜に対する愛ゆえに、彼女のことを悪く思えない状態に陥っていた私は、そう考えて大量浣腸の苦痛に耐える。
「ぅあぅ、ぅあぁあぁ……」
馬銜を噛みしめ、涎とうめき声を漏らしながら、耐え続ける。
「頑張って。慣れた人なら、3リットルの超大量浣腸も受け入れるのよ」
だとすれば、浣腸に慣れていない私でも、1リットル程度なら耐えられるはず。
そう考えて、耐えがたい苦痛に耐える。
実のところ、3リットル入るというのは、お腹を拘束されていない状態での話だ。
コルセットをきつく締められた私にとって、1リットル浣腸の苦痛は、平時の2リットル以上に相当するだろう。
とはいえそれは、あとから考えて理解したこと。
あまりの苦痛に思考能力を奪われて、そのときの私は、ただ耐えなければいけないと思い込まされただけだった。
それには、茜の言葉であることも影響していたのだろう。
それほどまでに、私の心は茜に支配されていたのだろう。
加えて、彼女が毎夜与えてくれるご褒美だ。
「私がいいと言うまで耐えてきちんと排泄できたら、とびきりのご褒美をあげるわ」
そう言われて、私の中から苦痛に耐えないという選択肢は、完全に失われた。
ご褒美の――茜がくれる快楽への期待感が、浣腸の苦痛を凌駕していた。
やがて、注入が終わる。
チューブのノズルが、プラグから外される。
その接続部分から液体がこぼれないのは、逆止弁が取りつけられているのだろうか。
いや、そんなことはどうでもいい。
もう、限界だ。
チュル。という感じで、プラグの隙間から液体がわずかに漏れた。
「頃合いね。ボウルに排泄《だ》しなさい」
言われて、躊躇している余裕はなかった。
いや、余裕があっても、躊躇していなかったかもしれない。
『私がいいと言うまで耐えてきちんと排泄できたら、とびきりのご褒美をあげるわ』
茜のその言葉は、すべての負の感情を凌駕するほどの期待感を、私に抱かせていた。
もう、茜がくれる快楽に心を支配された状態。
それは茜のポニーガール、彼女の性奴隷に堕ちる第1歩。
とはいえ、そのことに気づくこともできず、茜に促されるままボウルを跨ぐ。跨いで膝を曲げ、お尻を下ろす。
その直後、お腹の中の圧力が、抜けまいとするプラグの抵抗を凌駕した。
むにゅう。とプラグの太いところが肛門を通過する。
「ぅひあッ!?」
もともと性感を高められていた肛門に、快感が駆け抜けた直後、中身の液体が放出された。
ゴロンと尻尾つきプラグがボウルの中に落ちる。その上に、放出された液体も落ちる。
反射的に肛門を引き締めようとしたが、無駄だった。
「ぃああッ(いやあッ)、ぃあぃえッ(見ないでッ)!」
水流がボウルの底を叩く、はしたない音。
「ぃああッ(いやあッ)! ぃああッ(いやあッ)!」
しかし、放出は止まらない。
液体の放出が終わってからも、薬剤の効果でお腹に溜まっていた排泄物が押し出されてくる。
「うぅ、ぅうぅ……」
私にできるのは、人前で排泄する羞恥と屈辱にうめくことだけ。
せめてもの救いは、茜も女性牧童も、みじめな排泄を揶揄したりしないこと。
やがて、排泄が終わる。
茜が、ウェットティッシュで肛門をぬぐってくれる。
女性牧童が、ボウルごと排泄物を片づける。
そのあいだ、なにか声をかけられていたら、かえってみじめさが増大していただろう。
すべて無言のまま、事務的な作業として行なってくれることが、今はありがたい。
茜の手で新しい尻尾つきプラグを嵌め直され。
「んあっ!?」
そのあっけない挿入にもゾクリと快感が駆け抜け、艶声をあげてしまったところで、39番の個室に戻される。
そしていつものように、なにごともなかったかのように、私はポニーガールとして放置された。
『乳首にピアスを嵌めたからこその、碧がポニーガールであるからこそ、到達できた悦びの世界……これからも毎日、連れていってあげる。碧が、良いポニーガールであり続けるかぎりね』
昨夜の言葉のとおり、茜はこの日もピアスつき乳首を愛撫してくれた。
『私がいいと言うまで耐えてきちんと排泄できたら、とびきりのご褒美をあげるわ』
浣腸の途中で告げたように、その快楽は、昨夜以上のものだった。
結果、私はますますご褒美に期待するようになり、私はポニーガール暮らしを受け入れていった。
それは、性奴隷調教の基本でもある。
よく飴と鞭などと言われるが、鞭の痛みによって無理やり従わせるやり方は、奴隷調教であって性奴隷調教ではない。
自ら苦行を望み、嬉々として受け入れるようにならなければ、よい性奴隷すなわちよいポニーガールとは言えない。
茜のその思惑どおりに、私は快楽を得るため嬉々としてポニーガール訓練、いや調教をこなすようになった。
一方で、茜は快楽を餌にポニーガール堕ちを求めたりはしなかった。
そうすれば私に「ポニーガールになる」と誓わせることは容易であったはずなのに、茜はけっしてしなかった。
そのことで、私が茜を信じる気持ちをいっそう強めた頃である。
「今日で、ポニーガール体験10日め。約束どおり、碧自身がどうするか決めて」
久しぶりに私の口から馬銜を外し、茜が訊ねた。
その答えは、もう決まっている。
アームバインダーの拘束にも、コルセットの締めつけにも、馬銜をはじめとする馬具の装着にも、完全に馴らされた。それらを着け続けることに、まったく苦痛を感じなくなった。
一方で、茜がくれるご褒美の快楽を期待する気持ちは、ますます強くなっていた。
もはや、ポニーガール暮らしの継続を断る理由はない。
それに期間を延長したとしても、ポニーガールになるかどうかを最終的に決めるのは、夏休みが終わるときだ。
そう考えて、私は体験期間の延長を受け入れた。
長時間馬銜を噛まされ続けた口は、すぐ思いどおりに動かなかったが、それでも思いの丈をせいいっぱい茜に告げた。
そんな私を、茜はギュッと抱きしめてくれた。
「ありがとう、嬉しいよ」
その言葉から、抱きしめる腕から、彼女の喜びを感じながら、私は予感していた。
今から約1ヵ月後、夏休みが終わるとき、私はきっと茜のポニーガールになると誓うのだろうと。
(了)