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「夏休み、うちのポニー牧場で住み込みで働いてみない?」  同級生の山野茜《おおば あかね》が声をかけてきたのは、あと10日ほどで夏休みが始まるという頃だった。  私、海田碧《かいだ あおい》は、女子大の1年生である。  とある地方の公立高校から都会の大学に進んで数カ月、茜は一番親しい友人だ。  最初に声をかけてきたのは、茜のほう。それは、入学後のオリエンテーションの自己紹介で、同郷であることを知ったからだろうか。  ただし、ふたりが生まれ育った環境は、対照的だった。  私は海沿いの漁師町の生まれ。茜は山あいの町出身。  私の両親が役場勤めの公務員。茜の家は牧場を経営している。  いや、対照的なのは環境だけではない。  私は水泳部出身で、今でも日焼けの名残りがあり、髪はその頃と同じショートカット。対して茜は、色白で長い黒髪、切れ長で吊り目ぎみの瞳が印象的な美人さんだ。  私が都会の女子大のなかでは少し浮いた感じなのに、茜は都会出身の同級生と同じ、いやそれ以上に洗練された雰囲気を身にまとっている。  とはいえ、茜の考えは違うようで。 「えー、私なんかより碧のほうがかわいいよ」  私が容姿を褒めると、茜は首を横に振った。 「私はきつい印象を与えてしまいがちだけど、碧は愛嬌があるから、一緒にいて落ち着くの」  そう言って、私の手を握ってくれた。  それで、ドキリとした。あまつさえ細めた目で見つめられて、いっそう鼓動が速く激しくなった。 (どうして……?)  女の子どうしでそうなってしまうのか。  そのときはわからなかったが、今なら理解できる。  私は、茜のことが好きなのだ。彼女に友情のみならず、恋愛感情を抱いているのだ。 (そして、おそらく……)  茜も同じ気持ち。  そのことに気づいていた私にとって、茜の申し出は渡りに船だった。  牧場の仕事はきついかもしれないが、水泳部で鍛えた体力には自信があった。それになにより、四六時中茜と一緒にいられることが楽しみだった。  しかし、アルバイトを引き受けた私は、知らなかった。  茜の牧場の仕事が、きわめて特殊なものであることに。彼女の恋愛感情が、少なからず歪んだものであることに――。 小説の続きは、近日公開予定です。

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