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 私の村、護謨《ゴム》村には、独特の習わしがある。  それはお正月、その年の干支巫女に選ばれた村の若い娘が、干支の動物に扮して護謨神社にお供えされるというもの。  ただし、その詳細は伝えられていない。  干支巫女の習わしは、門外不出の儀式。  その内容について、護謨神社の関係者が口外することはない。口にすれば村へのご利益がなくなるばかりかバチが当たるという名目で、干支巫女が体験談を語ることもない。  その干支巫女に、18歳の誕生日を迎えたばかりの私が選ばれた。  生まれてこのかた村を出たことがなく、干支巫女は重要で名誉ある役目だと教えられてきた私には、断るという選択肢はなかった。  そして、迎えた大晦日の深夜――。  神社の奥の干支巫女設えの間で、私の前に早希さんが現われた。  早希さんは、護謨神社の新しい神主である。  神社の後継者として都会の大学で宗教学を学んだあと、そのまま現地で修行、今年村に戻ってきた美しい女性だ。  神社が祀る神さまは女神さま。しかも女性でありながら、同じ女性を愛する指向をお持ちと言い伝えられている。  そのため、代々の神主もすべて女性。先代神主は早希さんのお母さまだったし、先先代はお婆さまだった。  ただ、早希さんのご家族に血縁関係はない。  村の女神さまは、ご自身に仕える神職が男性とまぐわうことをお許しにならない。  そのため代々の神主は在職中、村の娘から後継者を選び、養子に迎えて跡を継がせてきた。  ちなみにすべてが神社を中心に回っているこの村では、神主に対する信頼は絶大。代替わりして引退した神主は村人に請われて村長選挙に出馬、無投票で当選することも、干支巫女の風習同様、村の習わしになっている。  そのこともあいまって、選ばれた娘を次期神主として養子に出すことを拒む村人もいない。 「実のところ、長く村長を務めたお婆さまが今期かぎりで勇退し、お母さまが次期村長選に出馬することが決まったから、私が神主に就いたのよ」  早希さんが冗談めかして告げたのは、大切な役目を前に、ガチガチに固まった私の緊張をほぐすためだろう。 「この御神水を飲むといいわ」  それでもひきつった笑顔を作ることしかできない私の前に、穏やかにほほ笑んだ早希さんが湯呑みを置いた。 「気持ちが落ち着くわよ」 「あ、ありがとうございます」  緊張で喉が渇いていた私は、そう答えて薄い桃色の甘ったるい御神水を一気に飲み干す。  それからしばらくすると、身体の芯に熱が生まれた。  生まれた熱が血流に乗って、身体全体に広がった。  頬に火照りを感じると同時に、頭がほんわかしてきた。 「効いてきたようね。これも神さまの御利益よ」  実のところ、それは御神水に含まれる薬効成分の効果である。  とはいえ、私はそのことを知らない。そのうえ、幼い頃から村の神社は霊験あらたかと教えられている。  それで御神水のご利益で緊張が解け、気持ちが落ち着いてきたのだと思い込まされたところで、早希さんが私の肩に手を置いた。 「それじゃ、設えを始めましょうか」 「はい」  答えて立ち上がり、着ていた服を脱いでいく。  干支巫女の務めは、その年の干支の動物に扮して神前にお供えされること。そのためには当然、着てきた服を脱がなくてはならない。  そこまでは当然のこととして覚悟していたし、早希さんは同じ女性。学校の体育で着替えるときと同じ感覚で服を脱ぎ、下着も取る。  それでも、わずかばかりの恥ずかしさで手で前を隠していると、早希さんが白地に黒の模様がある衣装を取り出した。 「それは……?」 「もちろん、干支の装束よ」  それはわかっていた。  来年――いや、もうすぐ今年か――の干支は丑。衣装が牛柄であることには、特に驚きやとまどいはない。  私が少々うろたえたのは、全身タイツのような形と、テラテラと光沢を放つその素材ゆえだ。 「ラバー、わかりやすく言うとゴムよ」  その素材の名称を、早希さんが口にした。 「ゴム……護謨村、護謨神社……つまり、そういう?」 「ええ。もっとも、干支巫女がゴム製の装束を身につけるから護謨神社という名になったのか、あるいは順序が逆なのか、それは今となってはわからないわ。ともあれゴム、ラバーは、フェティッシュな衣装の素材として、界隈ではよく用いられるわ」 「ふ、フェティ……?」 「フェティッシュ、フェティシズム……物神信仰という意味ね」  早希さんが口にした言葉すべてが、私の知らないものだった。  実のところ、早希さんはまったく嘘をついていない。ただ、もともとの言葉から派生した別の意味のほうを、私に告げていないだけ。  そして村で生まれ育った私は、ほかの村人同様、神社と神主さんに絶大な信頼を寄せている。加えて早希さんは大学で宗教学を学び、そのまま都会で神職の修行をしてこられたお方。  だから、私が知らないことをたくさん知っているのはあたりまえ。  疑うことなく信じさせられたところで、早希さんがラバー製スーツのファスナーを開けた。  そのファスナーには、つまみのついたスライダーが3つ。  なぜそんなに多くのスライダーがあるのか気になって凝視していると、早希さんが理由を教えてくれた。 「任意の場所に、開口部を作るためよ」  それで、ファスナーが背中の面、お尻のあたりまで回り込んでいる理由もわかった。  つまり、トイレのためだ。ツナギ服のように上下一体のスーツを、トイレのたびに脱がなくてもいいように考えられているのだ。  私がそう口にすると、早希さんが唇の端を吊り上げて嗤った。 「うふふ……貴女は賢いわね」  その笑顔と言葉にどこか意味深なものを感じながらも、問いただすことはできずにいると、早希さんがいったんスーツを置いて樹脂製のボトルを手にした。 「スーツは貴女のサイズぴったりに作られているわ。おまけに素材がラバーだから、とても着にくいの。だから、潤滑剤としてローションを使うわね」  そう告げるとボトルの液体を手のひらに出し、両手にまぶして私の肩に触れた。  早希さんの手で温められたからだろう。粘着質の液体は、火照った肌にも冷たくない。  その手のひらが、肩から腕へ。指と指を絡め合うように手のひらにもローションを塗り込められて、また腕から肩。  ローションを足してから、前面から私を抱きしめるような体勢で背中、腰。  私より少し背の高い早希さんの体温を感じてドキドキしているうちに、ローションまみれの手は前側に戻ってくる。  このあたりから、身体の火照りがいっそう強くなってきた。  体温が上がったような気がして、気づくと唇を緩く開いて呼吸していた。 (なぜ……?)  こんなふうになるのか。風邪をひいたわけでもないのに。  実のところ、それは女の子が性的に高まり始めた兆候である。  だがそれは、ずいぶんあとに知ったこと。性的な体験がまったくなかったそのときの私は、自分の身体の変化の正体にまったく気づけなかった。  そんな私の胸の膨らみに、早希さんの手が触れた。 「……!?」  ゾワリと妖しい感覚が、触れられた場所に生まれる。 「……ふぁ」  妖しい感覚が触れられた場所から乳房全体に広がり、開いた口から吐息を漏らしてしまった。 「は、ひ……なにコレぇ?」  思わず口にした疑問に、早希さんが目を細めて答えてくれる。 「うふふ……もう気持ちよくなってきているのね」 「ふぇ……わ、私、気持ちよく?」 「そう、貴女はもう、気持ちよくなりかけている。性的な快感を、無垢なその身に覚え始めている……でもね」  胸にローションを塗りこめながら、早希さんが私の目を見た。 「それは貴女が、村の女神さまに見込まれた特別な女の子だから。女神さまが、貴女を干支巫女としてお認めになった証なのよ」  そうだ、神社が祀る神さまは女神さま。女性でありながら、同じ女性を愛する指向をお持ちの女神さま。  そのため、代々の神主もすべて女性。先代神主は早希さんのお母さまだったし、先先代はお婆さまだった。  そのうえご自身に仕える神職が男性とまぐわうことをお許しにならないから、代々の神主は在職中、村の娘から後継者を選び、養子に迎えて跡を継がせてきた。  つまり私が干支巫女に適していると、ご自分へのお供えものとしてふさわしいと認めてくださったから、愛してくれて性的に高めてくださっているのだ。  実のところ、私が性的に高まりつつあるのは、御神水に含まれる薬効成分のせいである。その成分が、媚薬と同じものだから、わずかな性的な刺激で肉が昂ぶるのである。  とはいえ、御神水は神殿脇の湧き水を神前にお供えしただけのもの。  御神水に媚薬成分が含まれていることも、護謨の女神さまの不思議なお力によるものかもしれないが。  ともあれそのことも知らない私は、早希さんの妖しい手つきもあいまって、どんどん肉を昂ぶらされていく。 「んっ、ふっ、はふ……」  漏らす吐息に、甘みが混じり始めた。 「はふ、はっ、はふぁ……」  吐息というより、艶声と呼べるものに変わってきた。 「はひっ……!?」  その声が大きくなったのは、膨らみの頂でぷっくり膨れて屹立した乳首をつままれたとき。 「ひあっ……!?」  つまんだ乳首をビンと弾かれて、声が艶を帯びたところで、早希さんの手が胸から離れた。  だが、ローションの塗りこめが終わったわけではない。  再びボトルから液体を追加して、早希さんの手は胸からさらに下へ。 「はふ、はっ、あっ……」  ローションを塗りこめられる場所に快感――私はもう、それをはっきりと性の快感だと認識していた――が、ゾワリゾワリと駆け抜ける。  そのことに、私はとまどいも驚きも抱かない。  護謨村で生まれ育ち、護謨神社の女神さまは絶対の存在と信じてきた私が、そうあれと望まれて昂ぶっているのだから。  快感を覚えることに罪悪感も羞恥心も持つことができないまま、早希さんの手は脚へ。太もも、膝、ふくらはぎ、足の甲まで。  ヌラヌラと濡れ光るまでローションを塗りこめられてから、早希さんの手が再び上がってくる。  足の甲から脛、ふくらはぎ、膝と太ももの表裏。 「軽く足を開いて」  蕩け始めた頭ではものごとを深く考えられず、早希さんに言われるまま、言葉に従った直後――。 「はひゃッ……!?」  女の子の大切な部分に、ローションまみれの手で触れられた。 「あっふぁあ……」  それで痺れるような快感が駆け抜け、蕩けて喘いでしまった。 「うふふ……ここはもう、ローションが必要ないくらいに潤っていたわ」 「あっ……そ、そんなこと……」 「嘘じゃないわよ。貴女のここは、熱く火照り潤っている」  言われるまでもなく、その自覚はあった。  そして性体験がない私でも、そうなることの意味は知っていた。 「でもね、それはけっして恥ずかしいことではないわ。貴女は女神さまに望まれて、そうなったのだから」  そう言われ、快楽に蕩けた私は、その言葉をあっさり受け入れた。  言葉のみならず、押し寄せる快感をも受け入れた。  いや、受け入れたわけではない。御神水の媚薬成分に冒された肉体を愛撫される大いなる快感を、性体験のない私が受け入れきれるわけがない。 「あっ、あっあっ……」  受け入れきれず、受け止められず、私はあっさり押し流される。 「あっひゃ、ああッ!」  押し寄せる快感の大波に飲み込まれてしまう。 「あっあっ……も、もぉ……」  膝から力が抜けた。  崩れかける身体を、早希さんに支えられて横たえられた。 「ひっはっ、ああッ!」  そのとき抱きしめられた刺激だけで、あられもなく喘いでしまう。  板張りの床の冷たさより、早希さんの温もりのほうを強く感じる。 「あっ、あっあぁあッ!」  快感はまったく冷めることはなく、それどころか、ますます大きくなっていく。 「うふふ……これはもう、治まりそうにないわね。1回イッときましょうか」 「ふぇ……い、イク?」  そして早希さんに言われ、意味がわからず問いかけたときである。 「あッ……あァあ……ッ!?」  早希さんの指が、女の子の割れめ直上の豆に触れた。  陰核《クリトリス》。快感神経を集めて作られたようなそれを、ローションと私の蜜にまみれた指で、優しく押された。 「ン……はヒゃあああッ!?」  刹那、なにかが来た。いや、私がたどり着いたのか。  手足がこわばる。そうしようとしていないのに、背すじがのけぞる。 「は、ヒ……な、なにコレぇ!?」  わからない。  わからないまま、一気に飛ばされる。  身体がフワフワと浮かんでいるような。浮きながら、際限なく落ちていくような。それでいて、どこまでも上昇していくような。  かつて体験したことのない感覚に囚われながら――。 「あっふぁ、あッ……い、イクううッ!」  私は生まれて初めて、恍惚の世界にたどり着いた。  護謨村の女神さまに望まれ、早希さんに誘《いざな》われ、連れてきてもらった。  そこは、不思議な幸福感に満ちた世界だった。  連れてきてくれた早希さんが、とても近しい存在のように感じる。  たどり着くことを望まれた護謨村の女神さまに、親しみすら覚える。  それは本来、とてつもなく畏れ多いこと。  しかし今は早希さんが、ひいては女神さまが、私がそうなるよう望まれておられるのだと感じる。女神さまと神主、そして干支巫女は、そういう関係なのだと思える。  そんな状態で、夢心地のなかで、干支巫女の設えを整えられていく。  まずは、牛柄のラバースーツ。 「立てる?」  穏やかにほほ笑んで訊ねた早希さんの手を借り、まだプルプルと震える脚で立ち上がる。 「私の肩に手を置いていいわ」  その言葉に甘え、私の前にしゃがみ込んだ早希さんの肩を借り、スーツに足を差し込む。  そのソックス部分に足をぴったり合わせたところで、もう一方。  両足を通したところで、早希さんがツナギ服のようなラバースーツを持ち上げた。  きつい。 『スーツは貴女のサイズぴったりに作られているわ』  ローションを塗りこめる前、早希さんはそう言った。でも実際は、実寸より少し小さく作られているような気がする。  私が素直にその考えを告げると、早希さんがにっこり笑った。 「そのとおりよ。ラバー素材には伸縮性があるから、ぴったり着つけるため、身体各所のサイズよりほんのわずかに小さく作っているの」  そのためには、私のサイズを正確に知らなくてはならないだろう。  とはいえ、私にラバースーツ製作のために採寸を受けた記憶はない。  私がそう口にすると、早希さんが意味ありげに嗤った。  その笑顔を見て、あらためて気づく。  私たちの護謨村は、護謨神社を中心に回っている。護謨神社こそが、村の中枢である。  村長には先代神主が就くことが習わしだし、なにごとにも女神さまの御神託が必要とされる。  つまり護謨神社の干支巫女に選ばれた時点で、私の情報はすべて早希さんに把握されていたのだ。いやあるいは、先に把握されたうえで、干支巫女に選ばれたのか。  それは、都会や他の町では、考えられないことなのかもしれない。だが、ここは護謨村だ。私を含めて村人はそれがあたりまえと思っているし、そうでなくてはならない。  そんなことを考えているうち、私の脚は牛柄ラバーの膜に覆いつくされていた。 「腕を」  背後に回ってスーツを持つ早希さんに言われ、ツナギ服を着るようにスーツの袖に腕を通す。  すると足と同じように、袖の先端も閉じていた。 「干支巫女のスーツは、足がソックス一体になっているように、手もミトン一体なのよ」  とはいえ足と違い、手は指が別々に分かれていないと、なにも持つことはできない。  私がそう告げると、早希さんが耳元でささやくように答えてくれた。 「うふふ……それでいいの。貴女はこのスーツを着て、干支の動物になるのよ」  言われて、ハッとした。  私は干支の動物として、神前に祀られるのだ。  人ではなく動物なのだから、手を使えなくてあたりまえ。逆に人のように手を使えたら、干支の動物にはなれない。  そうと気づかされながら、甲の部分にベルト通しが設えられたミトンに手を収める。 (なぜこんなところにベルト通しが?)  その疑問を口にする間もなく、肩までスーツに包まれ、ゆっくりとファスナーを閉じられていく。  お尻からお股を経て、身体の前側へ。  ファスナーが閉じられていくほどに、きついスーツに身体が閉じ込められていく。  スーツのラバーをぐいぐい引き寄せながら。お腹はキツキツ、胸にはみっちり貼りつきつつ、膨らみを潰したりしない程度の締めつけ。  そしてファスナーが閉じきられ、私の首から下が牛柄ラバーに覆いつくされたところで、早希さんがあらためて口を開いた。 「しゃがんで、床に膝をつきなさい」  そうだ。まだ私は、牛柄のラバースーツを着ただけ。きっと、干支巫女の設えはこれで終わりじゃないんだ。  そうと気づいて膝を折りかけて、スーツがヌルリと蠢いた。  早希さんにローションまみれの手で撫でられたときのような感覚。 「ひ……」  いまだ火照りが冷めないうえ、初めての絶頂後で敏感になった肌に妖しい感触が走り、思わず声を漏らしてしまう。 「ひ、は……」  膝を床についたあたりで、もう1度。 (いえ、これは……)  スーツが蠢いているわけではない。  私が動くことで、スーツの内側が肌に擦られているのだ。  ラバーの膜と肌のあいだにローションの薄い層があるため、早希さんに撫でられたような感覚を覚えるのだ。  そのことを知ってか知らずか――あとから思えば知ったうえで――薄く嗤った早希さんが、私のお腹にコルセットのようなラバー帯を巻きつける。  ラバー帯には背中側にバックルつきの短いベルトが設えられていた気がしたが、もう後ろ側で見えない。 「少しきつめに締めるわね」 「は、はい」  早希さんの宣言を拒否するという選択肢は当然なく、背中側で編み上げ紐をきつく締められてしまう。 「苦しい?」 「はい……でも平気です」  答えたところでパチン、と聞こえたのは余った紐を鋏で切った音か。  それから早希さんが、新たな装具をふたつ、私の前に置いた。 「脚の装具よ」  言われて見ると、それは先端に牛の蹄を模した飾りが取りつけられた、ブーツのような筒だった。  ブーツと断定できなかったのは、それが私のふくらはぎに対して太すぎるから。  それでもブーツのようと感じたのは、下端付近から上端にかけて、編み上げになっているから。  ただし、編み上げ部分は正面ではなく側面で、締めたら編み上げ紐上部が隠れそうな位置に、太いベルトが取りつけられている。 「膝を上げて」 「はい」  答えて早希さんの肩を借り、片方の膝を床から浮かせると、そこに脚の装具が被された。  そして手早く側面の編み上げ紐が締められる。 「こ、これじゃ……」  脚は折りたたんだまま、伸ばせなくなってしまう。  私がそうつぶやくと、早希さんが紐を結びながら口を開いた。 「そうよ、干支は丑なんだから。牛は立って歩かないでしょう?」  言われてみれば、そのとおりだ。 「干支巫女は、できる限り干支の動物に近づかないといけないの」  だとすれば、立って歩けなくされるのはあたりまえ。  疑うことなく考えさせられて、次は反対側の脚。 「脚が牛の後ろ足になったら、腕も前足にしなくてはね」  脚の拘束が終わってからそう宣告され、腕にも装具が取りつけられる。  そうして四肢を折りたたんで拘束されたところで、早希さんに背中を押された。 「肘と膝を床について、四つん這いになりなさい」 「は、はい……でも……」  硬い板の床では、肘と膝が痛むのではないか。  その心配は、杞憂だった。  腕と脚を折りたたみ固定する装具――いや拘束具と呼ぶべきか――の先端、牛の蹄を模した飾りが取りつけられた部分の内部には、クッション材が仕込まれていた。  そのおかげで、早希さんに支えられながら肘と膝を床につけても、痛みは感じなかった。  加えて、肘のクッションが膝のものよりわずかにぶ厚いのだろう。本来なら二の腕は太ももより短いにもかかわらず、四つん這いの身体は前屈みにならなかった。 「だって、牛の前足と後ろ足は、ほぼ同じ長さでしょう?」  それでクッションの厚みが違う理由を知ると同時に、自分の脚はもう牛の後ろ足なのだと、腕は牛の前足なのだと思い知らされた。  とはいえ、私を干支にするための作業は、まだ終わっていなかった。  続いて取り出されたのは、複雑ならベルトが組み合わされた牛柄ラバーのフード。それを私の後頭部に被せ、早希さんが告げた。 「口を開けて」  目の前には、牛柄ラバーの土台に取りつけられた金属製の筒。根本付近に見える透明な樹脂は、歯を受け止めるためのマウスピースのようなものか。  いずれにせよ、開けた口にねじ込むための筒だろう。口を開けたら最後、猿轡のように筒とラバーで言葉を奪われてしまうのだ。  そのことがわかっていながら、私は素直に口を開いた。  私は干支の動物に扮してお供えされる干支巫女だから。干支巫女として、干支の牛になりきらないといけないから。牛が人の言葉を話すことはありえないから。  言葉を奪われることを受け入れた私の口に、金属製の筒がねじ込まれる。  太い筒が舌を下顎側に押しつけながら口中を占拠したところで、マウスピースが歯をガッチリと捕らえた。  同時に筒が取りつけられた土台部分のラバーが、口周りの肌にみっちりと貼りつく。幾本ものベルトで、筒のラバー猿轡がフードに固定される。 「んぅ(うっ)……」  きつくベルトを締め込まれ、思わずあげたうめき声は、人の言葉ではなかった。  それで自分はもはや人でないと知った私を、早希さんが見下ろす。  その姿は、神職の袴しか見えない。 「うふふ……」  妖しく嗤う声は、頭上はるかに高い位置からしか聞こえない。  そして干支巫女の設えは、まだまだ終わらない。  早希さんが私の身体の側面に回り込んだ。  そして脚の拘束具とコルセット状ラバー帯をベルトで接続。  それから腕の拘束具も接続されるとき、ようやくスーツの手の甲部分のベルト通しの意味を知った。  拘束具とラバー帯をつなぐベルトをそれに通して締め込まれると、手が肩に押しつけられて固定された。  なんという執拗な拘束なのだろう。  スーツを着せられた時点で、私の手はものを持てなくされていたのに。拘束具を嵌められた段階で、私の腕は牛の前足変えられていたのに。  手のひらを振る程度に動かす自由すら完全に奪われてしまった。 「もうすぐ日付が変わる。新しい年が始まるわ。設えの仕上げをしましょう」   そう言って、早希さんが私のお尻のほうに移動。  直後、お尻でファスナーが開かれる気配。 『任意の場所に、開口部を作るためよ』  それでファスナーにスライダーが3つ設えられている理由を思い出したところで、肛門になにかが触れた。 「んぅ!?」  驚き、悲鳴じみてうめくと同時に、肛門の位置に開口を作られたのだと。そこから肛門にローションまみれの指で触れられたのだと気づく。  とはいえ女の子にとって、そこは性器以上に秘しておきたい場所。 「んむぅ(やめて)、んぅう(そこは)……」  しかし思わずあげた声は、人の言葉にならなかった。  それで人の言葉を奪われた干支巫女の境遇を再認識したところで、くすぐったさの中にゾワリと妖しい感覚を覚え始める。 (こ、これは……!?)  もう知っている。さっき思い知らされた。  これは、性の快感の予兆だ。 「んぅんう(どうして)……」  肛門なんかに快感の予兆が生まれるのか。  その理由がわからず、顔を伏せてくるおしくうめくと、口の筒からゴポリと涎がこぼれた。 「ぅうっ……!?」  糸を引いて垂れる涎を反射的に吸い上げようとしたが、うまくできなかった。 「んうぅ……」  そして、板の床に落ちた水滴が恥ずかしく、首を横に振ってうめいたときである。 「ンむんんッ!?」  窄まりを押し拡げ、なにかが肛門に侵入してきた。 「んっ、んむうぅ……」  直後、ジーンと快感を覚え、甘くうめいてしまった。  肛門に侵入してきたのは、たぶん早希さんの指だ。  でもなぜ、肛門に指を挿入したのか。それ以上に、なぜ肛門への挿入行為で、自分は快感を得てしまったのか。  私のとまどいを察したのか、そこで早希さんが口を開いた。 「あたりまえよ。あなたは干支巫女なのだから」  そうだ、私は干支巫女。護謨村の女神さまがそうあれと望まれているから、肛門で快感を得ているのだ。  そうと思わせられて、肛門に早希さんの指を受け入れ、精神に肛門の快感を受け入れる。 「んぅ、あぅ……」  筒をねじ込まれ固定された口から、甘いうめきを漏らし、涎を垂らす。  侵入した早希さんの指が、ゆっくり動き始めても。 「ん、ぁう、んぅ……」  指にまぶしたローションを、肛門に馴染ませるように抽送されても。 「んぅ、んっ、んむぅ……」  けっして感じるはずのない場所で、快感を覚えてしまう。  しかし、このたびはそこまでだった。  絶頂までの道のりを登山に例えたら7合めのあたり。はるかなる高みがかいま見え始めたあたりで、指が抜き取られた。  甘美なる恍惚の世界にたどり着けなくて、いや連れていってもらえなくて、どこか残念な気持ち。 「ん、ぅあぅ……」  それでくるおしくうめいた刹那、指とは違う硬いなにかが、肛門に押し当てられた。 「んぅう(これは)……?」 「アナルフックよ」  言葉にならない疑問に早希さんが答えてくれた直後、その異物が肛門に侵入してきた。  硬い。これはきっと金属だ。  太い。早希さんの指より太い。  だが中も外もローションにまみれ、かつじっくりほぐされていた私の肛門は、金属製のJ形フックの先端をあっさり飲み込んだ。 「んっ、んぅう……」  指の代わりにねじ込まれた器具でも肛門の快感を得てしまい、くぐもってうめいていると、頭のフードの金具にベルトをつながれた。  そのベルトの反対側を肛門の器具――アナルフックにも接続される。  頭を上に上げさせられると同時に、肛門のフックが引き上げられる。 「んむぅうッ!?」  目を剥いてうめくと同時に、これ以上フックに肛門を抉られまいと、自ら顔を上げる。  そこでさらにベルトを引き絞られ、少しでも頭を下げたらフックで肛門を抉られる状態に貶められたところで、バックルを留められた。 「うふふ……」  薄く嗤いながら、早希さんがお尻に開口を作っていたファスナーを閉じる。  おそらく、開口からはフックしか見えていないだろう。それに犯される私の肛門は、ラバーの膜に隠されているだろう。 「これが、最後の装具よ」  そう言って鼻中隔を挟み込むように鼻にリングを取りつけて、早希さんが宣告した。 「これより貴女は名もなき干支巫女。護謨村の女神さまにお供えされる、ヒトウシ干支巫女よ」 「はっ、んっ、はっ……」  熱い吐息を吐きながら、長い長い廊下を歩く。 「はっ、んぅ、はぅ……」  板張りの床に垂らした涎の跡を点々と残しながら。  廊下は、ところどころで90度に折れている。  その角には、必ず鏡が設えられている。 「ぁうっ!?」  頭のフードとアナルフックをベルトで接続されせいで顔を背けることもできず、鏡に映るわが身を見せられる。  最初、その鏡に映るヒトウシの姿に驚き、目を剥いていた。  全身を包む牛柄ラバースーツ。四肢を折りたたんで、四つん這いを強制する拘束具。言葉を奪い、涎垂れ流しを強制する口枷。牛の角や耳を模した飾りが取りつけられたフード。アナルフックや、牛の花輪にしか見えないリング。  凄絶な装具の数々を嵌められたみじめな自分に、いたたまれない気持ちになった。  しかし、何度も繰り返し鏡を見せられるうち、慣れてきた。馴らされてきた。  それは私から、羞恥心が失われていったからなのか。あるいは干支巫女としての覚悟が生まれてきたからか。  ヒトウシ状態を受け入れながら、身も心も干支巫女に変えられて、私は護謨村の女神さまが待つ神殿へと向かう。 「はぅ、んっ、あぅ……」  身をよじりながら歩くたび、潤滑剤のローションまみれの肌が、スーツの内側にヌルヌルと擦りつけられる。 「あぅ、んぅ、あぅん……」  挿入されたアナルフックが、肛門を抉って犯す。  それらの刺激すべてが快感に直結する状態で、早希さんに導かれて神殿へと向かう。  押し寄せる快感に、頭が蕩ける。  熱く火照る肉の芯が溶け、蜜となってラバー膜の奥で吐き出される。  気持ちいい、気持ちいい。  もう、なにも考えられない。  このまま神前に祀られたらどうなってしまうのか。  わからない、わからない。  でも、どうなってもいい。  私は、護謨村の干支巫女なのだから。  干支巫女の務めを果たすだけの、人ではない何者かになりはてて、生きていくだけなのだから。  その悦びに満たされながら神殿にたどり着いた私は、ヒトウシ干支巫女として、護謨村の女神さまにお供えされたのだった。 (了)

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たろかわ

あけましておめでとうございます。一年拘束されます❤️