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2話.望まない絶頂  灯里を立たせると、ラウラは腋の下から肩にかけて、たすき掛けをするように縄を追加した。  そして残りの縄を、天井に向けて軽く放り投げる。すると縄は意志を持っているかのように梁に巻きつき、ラウラの手に戻ってきた。  それはまさに、魔法の所業。それを軽くこなすことで、自身の能力を灯里に知らしめ、反抗の心を折る。同時に魔法の使用をその程度に抑えることで、堕ちたあと『自分のせいではなく魔法のせい』と言いわけすることを許さない。  徹底的に心を折り、砕き、従わせ、身も心も奴隷に堕とす、魔法調教師ラウラの手練手管である。 「つま先で立つように」  とはいえ、灯里はラウラの意図を知らない。知らないままつま先立ちにさせられ、たすき掛けの縄に戻ってきた縄尻を絡めて留められる。 「ぅあぅ……」  不安定なつま先立ちを強制され、ふらつき、バランスを崩して縄に体重を預けてしまった。  すると、体重がかかった縄が鳴く音。  ギチチッ。 「あぅ……ッ!?」  たすき掛けの縄が食い込み、身体を締めつけられて悲鳴をあげたところで、ようやくハッとした。 (わ、私……)  衝撃の事実を突きつけられ、ショックで呆然としているあいだに、物理的に抵抗できない状態に貶められてしまった。  そして灯里がそうと気づいたことは、ラウラにも伝わったのだろう。 「もう手遅れよ、アカリ。おまえはもう、なにをされても拒むことはできない」  そう言うと、妖しく嗤い、ラウラは立ち縛りで吊られた灯里の傍らに、魔法で小さなテーブルと壺を召喚した。 「うぉえあ(それは)……?」  警戒感もあらわに灯里が訊ねると、ラウラが壺に手を漬けた。 「魔法のアイテムかと思ってる? 心配しないで、ただの香油よ」  そして粘りけのある液体をまぶした手を顔の前にかざされると、甘みを帯びた香りが灯里の鼻腔をくすぐった。 「ね、ごくふつうの香油でしょう?」  実のところ、それはただの香油ではない。  皮膚から吸収され、効果を発揮するタイプの、遅効性の媚薬が含まれた香油である。  幼い頃から魔法調教師になるべく育てられてきたラウラには、媚薬に対する耐性があるため、平気で手を漬けられるのだ。  ともあれ、その行為で少しだけ安堵したところで、媚薬入り香油をまぶした手で触れられた。  まずは首。 「うあっ!?」  冷たさとおぞましさで悲鳴をあげると、肩、腕を上から下へと媚薬入り香油を塗りこめられ。  ラウラの手が肌の上を動くたび、その部位がヌラヌラと濡れ光り始める。ゾワリと妖しい感覚が生まれる。  それは、媚薬の効果ではない。遅効性の媚薬は、持続性はあるが効き始めるまでに時間がかかる。その妖しい感覚は、香油のぬめりとルベルの巧みな指使いが生みだすものだ。 「ぁい(ひっ)……」  灯里がブルッと身を震わせたところで、ラウラが手に香油を追加。  腕を下から上へ、肩に上がると、鎖骨からデコルテラインへ。  ゾワリ、ゾワリと、体毛が逆立つような妖しい感覚。  ブルッ、ブルッと、身体が震える。 「どうしたの? まさか、緊張をほぐすための香油《オイル》マッサージだけで感じてるとか?」 「あ、あぅああ(まさか)……」  そんなわけない。そう言いかけたところで、乳房の先端の豆をつままれた。 「ぃううッ!?」  その狼藉に目を剥いて悲鳴をあげたところで、またラウラの声。 「うふふ……気持ちよさそうに喘いじゃって」  違う。乳房は、乳首は、女の子の急所だ。そこを不意につままれて、悲鳴をあげただけだ。  しかしそう告げても、口枷に阻まれてラウラには伝わらなかった。 「ほんとうに、気持ちよさそうな声……もっと啼かせてあげたくなるわ」  あまつさえ、抗議の声すら喘ぎ声と勘違いされて、嵩にかかって乳首を責められた。 『言葉を奪うけれど、発声そのものを抑えるわけではない。常に開口を強制し、口をただの穴に変えるためだけの口枷……それは、調教中の奴隷にしか使われない、奴隷の証の口枷』  口枷を着けられたときの、ラウラの言葉。  まさにそのとおりだ。今の灯里の悲鳴も、否定の声も、抗議の言葉も、ぶざまな喘ぎ声にしかならない。  灯里の口は、奴隷の口にされてしまった。  そして口のみならず、灯里の全身を奴隷に変えるべく、ラウラは媚薬入り香油を塗りこめる。香油のぬめりと彼女の卓越した指技は、確実に灯里を追い上げる。 「ぅ、ふっ……ん」  つまんだ指で乳首をこねられて、鼻から甘みを帯びた吐息が漏れた。 「ぁう……あんれ(なんで)……?」  もちろん、肉体が性的に高まり始めたからである。  しかし、これまで部活に打ち込んできた灯里には、性的な経験がいっさいない。とはいえ、クラスメートや部員どうしの会話で、聞きかじった知識だけはある。  そのため、性的に高まり始めているということだけはわかる。そのため、オイルマッサージだけで高められてしまったという思いを抱かされてしまう。 「うふふ……アカリ、感じやすいおまえは、性奴隷向きの体質なのかもね」  思いを抱いたあとだけに、ラウラの言葉が、心に染み込む。 「いあう(違う)……いあう(違う)……」  否定できない、否定しても伝わらないという事実が、心を蝕む。  心のなかで絶対違うと否定しつつも、どこかで『そうかもしれない』と思わせられてしまう。  そしてラウラにとって、今はそれで充分だった。  小さな『そうかもしれない』を積み重ねることで、人は堕ちていく自分を受け入れるようになるものだから。  とはいえ、灯里はラウラの思惑を知らない。  知らないまま、媚薬入り香油をまぶした手で、乳房と乳首を責められる。  女の子の急所に決して痛みを感じさせぬよう、Eカップの肉塊を柔らかく揉みしだかれて。 「あぅ、あっ、あぅ……」  開口を強制された口から甘い吐息漏らし、溜まっていた涎をゴポリとこぼし。 「ぁあッ!?」  反射的に涎を吸いげようとして、まったくできなかった。 「あらあら、もの欲しそうに涎を垂らして」  すると、ラウラがそのさまをいじわるく揶揄した。 「うぉんあ(そんな)……あうッ!?」  いじわるい言葉に言い返そうとして、またゴポリ。 「うふふ……もっとして欲しいのね。いいわよ」  なにを言っても理解してもらえず、都合のいいように解釈される。そう考えると、もう言い返せなくなった。  そんな灯里の乳首が、軽く押される。 「あぅああっ!?」  その刺激で背すじに快感が駆け抜けたところで、また乳房のマッサージ。 「アカリのおっぱい、ただ大きいだけじゃなくて、とても感じやすいのね」  快感に酔い始めたところで言われ、心の奥底でそうかもしれないと思い込まされる。 「こんなに感じやすくていやらしいおっぱいの持ち主は、奴隷に堕ちるしかないわね」  その言葉も否定できず、また心を蝕まれる。  それはおそらく、香油に混入された遅効性の媚薬が、効き始めているせいでもあるのだろう。  しかし、灯里は媚薬のことを知らない。  ほかの誰かに乳房を弄ばれた経験もないから、ラウラの指技が卓越していることにも気づけない。  そのせいで、『感じやすい性奴隷向きの体質』という言葉が、ますます深く心に染み込む。  そして本格的に高まり始めた性感のため深く思考することができなくなり、ますますラウラの思惑に気づけない状態に貶められていく。  調教開始早々、灯里は乳房と乳首の快感に目覚めさせられてしまった。  そしてラウラが目覚めさせようとしているのは、乳房と乳首の快感だけではなかった。 「おっぱいが感じやすいアカリは、ほかの部位でも感じるのかしらね?」  そう言って手に香油を追加すると、ラウラがもう一度乳首を軽く押した。 「あぅうッ!?」  それだけで、灯里は喘いでしまう。つま先立ちの身体をふらつかせ、体重がかかった縄をギチチと鳴かせてしまう。  しかし、ラウラが乳首を責めたのは、そこまで。  香油でヌルヌルの指で乳首をピンと弾き。 「あぅあッ!」  灯里を啼かせ、縄も鳴かせると、魔法調教師の手は乳房からお腹へ。  媚薬入り香油を塗りこめながら、わき腹。後手に縛られた腕との隙間に手を差し込んで、ヌルリヌルリと腕でそこを擦る。  それは乳房と乳首を愛撫した指先のものほど、繊細な動きではない。  しかし乳房や乳首に比べると感度が落ちるそこは、香油で潤滑された腕の愛撫くらいがちょうどいい。  香油に混入された媚薬に冒され始めた灯里は、その刺激でも高められてしまう。 「うふふ……いやらしいアカリの身体は、ここでも感じるのね?」  わき腹を抱くように、ラウラが耳打ちした。 「ぅあ……ぉんあぉお(そんなこと)……あうぅ」  否定しようとするアカリの声に喘ぎが混じるのは、そのあいだも後手に縛られた手の指に自分の指を絡めるように、ラウラが香油を塗り込めているからだ。  灯里はついに、手指でも感じる状態に貶められてしまった。 「ほんとうに、いやらしい子」  そのことを指摘して、ラウラの手は再び身体の前面へ。お腹、おへそ、腰。 「あぅ、あぅうん……」  灯里にくぐもった喘ぎ声をあげさせながら、下腹部へ。 「ぃ、あ……」  女の子の一番感じるところ、いまだ誰にも触れさせていないそこを弄られる予感に、灯里がつま先立ちの脚をすり合わせる。  しかし身構える灯里に肩すかしを食わせるように、ラウラの手は太ももに移動した。  そして手に香油を追加してしゃがみ込み、脚にも香油を塗りこめていく。  まずは右脚。太ももから膝、ふくらはぎ。 「あうぅ、あぅあ……」  口枷で開口を強制された口から、また涎が溢れた。  しかし今の灯里には、それを気にしている余裕はない。調教が本格的な段階に移行しつつあるときだけに、ラウラも気に留めない。  いや、実際は気に留めている。はじめ溢れる涎を恥じていた灯里が気にしなくなったことで、ラウラは彼女が快感に溺れ始めていることを確認している。  それで快楽開発が順調なことを確信しながら、香油まみれの手は足の甲へ。さらに足指一本一本へ。  そしてまた香油を追加して、右脚とは逆に下から上へ。  足の指一本一本に、指と指のあいだの、ふだんならくすぐったいところにも。  足の裏も香油まみれになったせいで、ますます身体のバランスが取りにくくなった。  力を込めて踏んばろうとすると足がツルリと滑り、吊り縄に身体を預けてしまう。  そのときである。 「ぃううッ!?」  縄に締めつけられた箇所に、ゾクリと快感が生まれた。 「ぁんえ(なんで)?」  それは、香油に混入された遅効性の媚薬が、完全に効果を発揮しているからである。そのせいで、身体に受ける刺激すべてが、性的な快感に直結する状態に貶められたのだ。  とはいえ、灯里は媚薬のことを知らない。  そのうえ、ラウラの指技が神レベルだということも理解していない。 「かわいい顔して、ほんとうにいやらしい子……マッサージだけで、こんなになっちゃうなんて」  だからこそ、ラウラの言葉が効く。  自分は緊張をほぐすためのマッサージ――実は快感開発のための、性感マッサージ――で感じてしまういやらしい子なんだと、心に刷り込まれていく。  ラウラが調教前にきわめて高度な翻訳魔法をかけた目的が、まさにそれだ。  ただの奴隷にするだけなら、主人の命令を理解できるだけでいい。喋れる言葉は「はい」のひとことだけでいい。実際、オーブから片っ端に召喚した女、ときには男に、それだけの措置を施して安価な下級奴隷として売る奴隷商人もいると聞く。  しかしラウラの顧客は、資産家の上流階級。彼女が売る奴隷は、そんな顧客を満足させる高級愛玩用性奴隷。身も心も主人に隷属し、寵愛を受けなくてはならない。  えてして彼ら彼女らの『寵愛』は、一般人の目には『虐待』に映るものなのだが――。 (ともあれアカリは、そんな仕打ちも悦んで受け入れるようにならなくてはならない。そのためにも……)  ルベルは灯里の肉体に、媚薬入り香油を塗りこめていく。  足首、すね、ふくらはぎ。香油が塗り込められ、肌がヌラヌラと光るほどに。  膝、太もも。ラウラの手が触れている場所から、快感が生まれる。生まれた快感が、肉体を火照らせる。火照りの熱が、肉の芯に集まる。 「あう、あぁああ……」  開口を強制された口から漏れる喘ぎ声を、抑えることはできない。 「ぅあぁ、あぅあ……」  溢れる涎を、恥じている余裕もない。  そしてダラダラと分泌液を溢れさせているのは、上の口だけではなかった。 「うふふ……ここにはもう、香油は必要なかったみたいね?」  内股に手を滑り込ませたラウラが、灯里を見上げて目を細めた。  その言葉の意味を、灯里自身わかっていた。  肉の芯に集まった熱が、粘りけのある蜜となり、女の子の大切な場所から溢れだしていることを、感じていた。 「ぃあぁ(いやぁ)……」  わかっていたからこそ、それを指摘されて恥ずかしい。 「うふふ……まだ恥ずかしがっている余裕があるのね」  そんな羞恥心すら快感で押し流すべく、ラウラがついにそこを責めた。  両脚のつけ根。Y字のラインが集まっているところに、魔法調教師が腕を差し込む。 「ぃ……ぃあッ(いやッ)!」  拒もうと脚に力を込めてすり合わせるが、そこは香油と分泌された蜜でヌルヌルの状態。あっけなく両脚のあいだに腕を差し込まれ、素股責めの要領で入り口の媚肉を擦られてしまう。  香油と蜜に潤滑された腕のヌルリとした感触。  はじめ感じたのは、衝撃だった。 「あぅぃいッ(あひいッ)!」  悲鳴じみて喘ぎ、ギチッと縄を鳴かせてから、その衝撃が大きすぎる快感だったと気づいた。 「ふぃああッ!」  差し込んだ腕を、媚肉に押しつけながら引かれ、もう一度。 「あぃ……あっいっ……」  脚がガクガクと震える。頭が蕩ける。肉の芯はますます熱くなり、その熱を蜜に変えて媚肉から吐きだす。 「あらあら、たいへん。洪水みたいよ」  そのさまを揶揄されても、言い返す余裕はない。  言い返すどころか、それを恥ずかしいと思うことすらできない。  それほどまでに、大きすぎる快感。 「もう、香油は必要ないみたいね」  もはや脚をきつく閉じていることすらできなくなったそこを、腕の素股で責められて。 「はふぁあ、あああッ!」  口枷のリングをギリギリと噛んで、大きすぎる快感に耐える。  いや、耐えられているわけではなかった。ただ圧倒的な快感の奔流に、翻弄されているだけだった。 「このまま3回くらい腕で擦れば、イッちゃいそうね」  そのとき、灯里を見上げてラウラが口を開いた。 「ふっ、ぃ……ぃう(イク)?」 「イク、絶頂するということ。いやらしいアカリは、オイルマッサージだけでイッちゃうの」  まさか。そう思うことは、できなかった。  絶頂した経験はないが、この大きな快感の先にそれがあることは、なんとなくわかった。  でも――。 「うぃあ(いや)ぁああッ!」  灯里は、絶頂を拒んだ。  しかし、ラウラは拒絶を許さない。 「うふふ……あいかわらず、なにを言ってるかわからないわぁ」  楽しそうに嗤って、ヌルヌルの腕を媚肉に擦りつける。 「ひとぉつ」 「うぃああぁあああアッ!」  媚肉に生まれた快感が、下半身全体に広がった。  腰から下が自分の身体じゃないかのように、力が入らない。  膝がガクガク震えてしまう。縄をギシギシ鳴かせてしまう。 「ふたぁつ」 「ぅあぁああッああアッ!」  下半身の痺れるような快感が背すじを駆け抜け、首がのけ反る。  そうしようとしていないのに、後手に縛られた手の指を、開いたり閉じたり。  そして、脳が蕩ける。 (イキたくない!)  ようやく考えることができたのは、それだけ。 (絶頂なんかしたくない!)  しかしそれを拒む手段は、灯里にはなかった。 「みぃいっつ」  ラウラの腕が、媚肉に押しつけられる。  ヌルヌルの腕が、媚肉を擦りあげる。 「うぃあ(いや)ぁあああアッ!」  どれほど拒絶しても、無駄だった。 「あぃッ!? うぃッッグぅうううッ!?」  灯里は無慈悲にも、望まない絶頂に追い上げられる。  気持ちいい。気持ちいい。  もう、快感しか感じられない。  宙に浮いた身体が、際限なくどこかに落ちて行くような。それでいて、どこまでも浮かび上がっていくような奇妙な感覚。  そしてその先にあったのは、恍惚の世界だった。  もう、なにもわからない。わからなくていい。  魔法調教師を名乗る憎き女の手で、無理やりそこに追い上げられたのに――。 「オイルマッサージだけでイッちゃうなんて、ほんとうにいやらしい子……まるで性奴隷になるために生まれたみたい」  ラウラの言葉を聞きながら、灯里は意識を失った。

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