小説 異世界の奴隷性女 序&1話(挿絵つき) (Pixiv Fanbox)
Published:
2018-09-07 09:04:56
Edited:
2018-10-26 01:49:47
Imported:
2021-10
Content
異世界の奴隷性女
序
木製の箱の底に身を横たえて、少女は太い梁が縦横に走る天井を見ていた。
囚われてすぐ、厳しく縛りあげられ、その梁から吊られたこともあった。そのことが、今は遠い昔のことのようにも思える。
ここで、魔法調教師を名乗る女の調教部屋で、どれほどの時間《とき》を過ごしただろう。
数日しか経っていない気もする。何カ月も、厳しくも淫らな調教を受けていた気もする。だが、もはやそれはどうでもいいこと。
魔法調教師の調教が完了し、少女はこれから奴隷として出荷されるのだ。
顔全体を魔法調教師の紋章入りの奴隷の口枷で拘束され、乳房を露出させるぶ厚い皮の拘束衣を着せられ、箱詰めにされて、彼女を買った田舎貴族の元に送られるのだ。
それなのに、少女は逃げようとするそぶりすら見せない。
肉体を縛《いまし》める拘束はきわめて厳重、かつ堅牢で、けっして自力で解くことはできない。
そのうえ、少女を捕らえ、凄絶な調教を施した魔法調教師が、今も箱の中の彼女を見下ろしている。
さらに、囚われる前より大きくなったような気がする乳房の先端、乳首に穿たれたピアスは、生涯奴隷の身分を示すもの。施術者にしか外せないそのピアスがあるかぎり、少女は奴隷の身分から逃れられない。
いや、もし拘束具とピアスがなくても、女が監視していなくても、少女は逃げられないだろう。
なぜなら――。
そのとき、少女の視界が闇に包まれた。ついに箱の蓋が、閉じられたのだ。
ガンガンガン。蓋を箱本体に釘で打つ耳障りな音。
しかし暗闇のなかで、少女は動かない。動こうともしない。
それどころか彼女を閉じ込める箱が運び出されても、人足の手で乱暴に荷馬車に積み込まれても、クッションの悪い荷馬車が走り出し、箱ごとガタガタと揺すられても、少女は悲鳴すらあげなかった。
それは、彼女が奴隷の運命を受け入れているから。
その少女は憐れな運命を受け入れ、奴隷に堕ちきっているように見えた、が――。
1話.少女と魔法調教師
――ホライゾンタル《水平世界》が邪悪なる者に支配されんとするとき、聖女顕われ、衆生を救わん。其は文字は読めども書けぬ教養なき者ども、卑しき身分の者どもの中より生まれ、暗き路を照らすともしびとならん――。
はる昔、水平世界唯一の大陸、エルデ東方に存在した小国の言い伝えである。
「もっともそのような女、わたくしが知るかぎり、ひとりも現われていないのですが……」
魔法調教師ラウラ・コペンハーデは、彼女が棲むホライゾンタルとオーブ《球体世界》をつなぐ魔鏡を見ながら、ひとり言《ご》ちた。
彼女の言葉は、正確ではない。かつて、一部で聖女と呼ばれた、東方出身の女騎士がいた。
しかし一軍を率いて大陸の実に9割を支配する帝国に戦いを挑み、破れて囚われた彼女は、ラウラの調教を受けたのち、憐れな奴隷に堕とされた。
おりしも暖炉の上の石壁に設えられた魔鏡には、その女騎士に似た少女が映し出されていた。
短く刈り込まれた、茶色がかった黒髪。顔立ちはラウラのような北方系に比べると平面的だが、黒目がちの瞳はぱっちりとして、独特の愛嬌がある。
身に着けた紺色の大きな襟がついた白い服は、現地の教育機関の制服だろう。つまり、いまだ制服のある学校で教育を受けている年齢ということだ。
小麦色の肌は、屋外の運動による日焼けか。だとすれば、肉体の鍛錬はできており、厳しい調教に耐える体力もある。
「ククク……あの女のことを思い出したことですし、次の獲物はこの娘にしましょう」
そう言うと、ラウラは唇の端を吊り上げて嗤い、呪文を詠唱した。
「異世界の憐れな女よ、弱き者よ、我の元に来たれ……奴隷召喚」
「うーん、水着単体だとかわいい色なんだけどなぁ……」
展示用の棚から取り出したピンク色の水着を顔の下で身体に当て、峰山灯里《みねやま あかり》はつぶやいた。
「私の肌色だと、ちょっとくすんだ感じになるんよねぇ……」
それは水泳部の選手である灯里が、小麦色に日焼けしているからである。
「まぁ白系は論外として、オーソドックスな黒系かネイビー系か。いや思いきってこの色を……」
店の壁に設えられた鏡の前でブツブツつぶやく灯里には、もうひとつ悩みがあった。
それは制服の胸もとを持ち上げる、大きな乳房。
ブラのカップサイズはE。大きくなり始めた中学の頃は『柔軟な胸筋だぞー』などとふざけていられたが、CからD、さらにEと成長するにつれ、そうも言っていられなくなった。
はっきり言って、邪魔なのだ。
競泳用の水着がピタピタのキツキツなのは、水の抵抗を減らすため、身体の凸凹をなくすよう矯正するためである。
逆にいえば、女体で最大の凸である乳房は、最大の水の抵抗。
しかも、一応水着は灯里の大きな乳房も押しつぶし、平板にしようとするが、しきれず横にあふれてしまうものもある。
そのため、灯里はそうならないことがわかっている型番の水着しか、買うことができない。
「うん、買える型番は限定されているんだから、色くらいは好きなの選ぼう」
そう決めて、手にした水着を持ってレジに向かおうとしたときである。
「……」
鏡のほうから、誰かの声が聞こえた気がした。
「……?」
気になって振り向いたところで、鏡の中に吸い込まれていくような感覚。
「えっ? なに?」
とまどい、つぶやいた直後――。
灯里の姿は、水着売り場から消えていた。
「う……んん……」
低くうめいて、灯里は目覚めた。
しかし目を開けたはずなのに、なにも見えない。
「えっ……どうして……?」
かろうじてパニックに陥らなかったのは、いまだ意識が朦朧としているからだ。
「わ、私……」
いったいどうしたのだろう。
たしか部活で使う練習用の水着を、スポーツショップで選んでいたときだ。誰もいないはずの方向から声をかけられ、驚いて振り向いた直後、意識が途切れた。
「気を失って、病院に……?」
まずそう思ったが、きっと違う。もし病院なら、目覚めたときはベッドの上のはず。今のように、真っ暗な場所で、硬い床の上に横たわっていることはない。
「まさか……倒れたまま誰にも見つけられず、そのまま閉店しちゃったとか?」
とはいえあのとき、店内にはたくさんの人がいた。それもまずありえない。
「それじゃ、ここは……どこ?」
漠然と考えるうち、次第に覚醒してきた。
両腕を後ろに回した姿勢で、身体の右側を下にして横向きに寝ていたせいだろうか、右腕に強い痺れを感じる。
「とりあえず、姿勢を変えなきゃ……」
そう考え、身体を起こそうとして、背中で組んだ手は動かなかった。
「えっ……?」
一瞬左手も痺れているのかと思い、すぐにそうではないことに気づく。
背中で重ねた手首には、なにか――おそらく縄が、きつく巻かれていた。その位置からまったく動かせないのは、同じ縄がお腹のあたりにも巻かれているからだろう。
「わ、私……縛られてる」
そのことを知って戦慄を覚えた直後、さらに恐るべき事態に気づいた。
「服……着てない? 私、裸?」
そこで、パニックが来た。
「いやああああッ!」
あらんかぎりの声で叫び、両腕に力を込める。
だが手首を重ねて縛る縄が、緩むことはなかった。
「助けて、誰かあッ!」
しかし、誰も助けてはくれなかった。
とはいえ、叫ぶことでわずかに冷静さを取り戻すことができた。
「くッ……」
身をよじり、上体を起こし、膝立ちになって――しかし、それ以上はなにもできなかった。
目を開けていているのか、閉じているのか。ともすればわからなくなりそうな暗闇の中で、立ち上がって移動すぎるのは危険すぎる。
かといって、両手を後手に縛られていては、這って進むこともできない。
硬い床の上に膝立ちのままでは、いくらも進むことはできないだろう。
そもそも、なにも見えない状況で、前に進むことに意味があるのか。
「仕方ない、今はじっとしているしか……」
そう考えて、床にペタリと座り込んだときである。
「あら、もう目覚めているの? ふつうは転移酔いで、しばらく起きてこないんだけれど」
いずこからか女の声が聞こえた。
同時に、部屋――そこが5メートル四方ほどの部屋であることを、灯里はようやく知った――に、ほのかに明かりが灯る。
「えっ……」
そこで、灯里は言葉を失った。
石造りの壁に四方を囲まれた部屋には、ドアも窓もなかった。
調度品らしいものといえば、重厚な木の枠で飾られた暖炉と、その上の鏡くらい。
「どうやって……?」
灯里はここに、連れてこられたのか。
「どこから……?」
妖しいほほ笑みを浮かべて立つ女は来たのか。
呆然としていると、黒いドレスの女が口を開いた。
「思ったとおりね、魅力的な肉体だわ」
そう言われて、全裸で膝立ちのまま、女に身体の正面を向けていることに気づく。
「い、いやっ!」
慌てて手で隠そうとして、できなかった。
「見ないでッ!」
腰を落とし、上半身を前かがみにしても、無駄なあがき。
「うふふ……後手に縛られていては、その素敵なおっぱいを隠しようがないわ」
女が言うとおり、コンプレックスでもある大きな乳房は、隠しきれていなかった。
そのことを嘲笑し、女が灯里の前に立つ。
「ともあれ、羞恥心があるのはいいこと……はじめまして。ラウラ・コペンハーデ、魔法調教師よ」
「ま、魔法調教師ですって?」
「ええ、ホライゾンタルの覇者、エルデ最強の帝国所属の魔法調教師……アカリ、おまえは頭は悪くなさそうだから、ここがオーブ……つまりおまえの世界とは違う異質な空間で、わたくしが特殊な能力を持っていると気づいているわね?」
それは、なんとなく感じていた。
そうでなければ、暖炉と鏡だけの出入り口のない部屋に、自分を連れ込めるわけがない。その部屋に、女が忽然と現われるわけがない。
とはいえ、なんらかのトリックでそう思わせているだけかもしれない。ナントカ世界だの魔法だのという言葉を簡単に信じるほど、灯里は無邪気な子どもではない。
「う、嘘……もし、あなたがほんとうにホ、ホライ……」
「ホライゾンタル。おまえたちが地球と呼ぶ球体の上にあるアカリの世界と違って、地面も海も水平な世界よ」
「あ、あなたがその世界の魔法使いなら、どうして私の言葉が通じるの?」
「簡単なこと。わたくしが魔法調教師……おまえの言葉を借りると、魔法使いだからよ。アカリには、母国語を自動的に水平世界のエルデ共通言語に強制翻訳する魔法がかけられているの」
「そ、それは……どういう……?」
「つまり、今のアカリはエルデ共通言語を母国語のように喋れる代わり、本来の母国語は理解不能な異世界の言語にしか感じないということ」
「そ、そんなこと……」
信じられない。信じられるわけがない。
灯里がそのことを告げると、ラウラは小さくため息をついた。
「ふう……まぁいいわ。いずれ、わたくしの言葉が真実と知るときが来る。いえ、ずっと疑ったままでもいい……」
そして唇の端を吊り上げて嗤うと、恐るべき言葉を口にした。
「おまえはわたくしに調教され、奴隷の身分に堕とされてしまうのだから」
「な、なんですって……?」
はじめ、なにを言っているのか理解できなかった。
理解できてからも、承服できるわけがなかった。
承服できず、理不尽な言葉への怒りにまかせ、うずくまったまま叫ぶ。
「な、なにが奴隷よ!?」
「あら、奴隷にされるのは嫌?」
「あ、あたりまえ……!」
「でもね、おまえは奴隷になるしかない。なぜなら、わたくしがそうすると決めたから」
「ふ、ふざけないで!」
しかし、灯里が激昂しても、ラウラは眉ひとつ動かさず、灯里を蔑むような視線で見すえて冷たく言い放った。
「うふふ……活がいいのね。そのほうが、調教のしがいがいいわ。せいぜい抗って頂戴」
そしてくるりと踵を返し灯里から数歩離れると、ラウラの姿は次第に薄くなり、やがて消えてしまった。
「アカリが目覚めるのが早すぎるから、まだ調教の準備ができてないの。すぐ戻ってくるから、しばらく待っててね」
そう言い残して。
「う、嘘……でしょう?」
ラウラと名乗った女が煙のように消えるさまを見て、灯里は呆然とつぶやいた。
現われたときは、部屋が明るくなるのと同時だった。そのためなんらかのしかけ、たとえば隠し扉のようなもので、突然現われたように見せているのだと考えていた。
しかし今、ラウラは灯里が見ている前で消えた。
「つ、つまり……彼女が言っていたことは……」
ほんとうなのか。
ここが灯里が住んでいた世界――ラウラの世界の呼びかたではオーブ――ではないということも。
ラウラが魔法使い――彼女の言葉によると魔法調教師――だということも。
「そ、そんなこと、嘘に決まってる!」
しかし灯里は、ラウラの言葉を信じられなかった。いや、信じたくなかった。
「そもそも、ほんとうに魔法調教師なら、魔法で私を拘束できるはず。こんな縄で私を縛る必要なんてないわ」
信じたくなくて、ラウラが嘘をついているという理由を、こじつけて考えてしまう。
そう考えさせることこそが、ラウラが拘束に縄を用いた理由なのだが、灯里はその狙いに気づかない。
「そう、ラウラは私にいっさい触れていない……それは、触れることができないから……きっと今のは、3Dの映像かなにか」
気づかず、持てる知識を総動員して、こじつけの理由を補完する。
「だとすれば、どこかに必ず出入り口がある。たとえば……」
灯里は、重厚な木の枠に囲われた暖炉を見た。
「暖炉の上には、きっと煙突がある……」
続いて、壁をぐるりと見わたした。
「壁のどこかに、隠し扉があるのかも……」
そして最後に、片隅に置かれたスクールバッグと、脱がされたまま放り出された制服と下着に目を止めた。
「ここは、ホライゾンタルとかって異世界なんかじゃない。あの女も、魔法調教師なんかじゃない。拘束を解いて服を着たら、ここから逃げる方法はある!」
そう考えて心を奮い立たせ、身をよじって脚の力で立ち上がる。
すると暖炉の上の鏡に、縛られた裸身が映った。
『その素敵なおっぱいは、隠しようがないわ』
嫌でも水泳選手としてコンプレックスでしかない大きな乳房が目に入り、ラウラの言葉を思い出す。
「くッ……」
悔しくて恥ずかしくて、唇を噛んでうめきながらも、縄を解くために状態を観察する。
するとラウラが施した緊縛は、身体で感じていたとおり、きわめてシンプルでありつつ、厳重なものだった。
腰のあたりで重ね合わせた手首を幾重にも縛られ、残った縄を少し食い込むほどきつく、ウエストに巻きつけられている。
手首は縄目にがっちりと捕らえられ、力任せに抜くことはできない。
結びめに軽く指で触れることはできるが、解くことまでは不可能。
届く範囲で縄目のあいだに指を差し込んで引っ張ってみても、全体が緩む気配もない。
「くッ……」
自力で縄を解くことは無理と思い知らされ、もう一度悔しげにうめく。
「なにか、道具があれば……」
そのとき、ペンケースの中に小さなハサミがあることを思い出した。
それは、刃渡り数センチの、おもちゃのようなハサミ。実用性より、かわいいデザインで選んだ代物だ。
「でも、ないよりはまし」
そう考えて、放り出された制服とスクールバッグに歩み寄る。
「制服、皺になっちゃうよ……」
くしゃくしゃにされて放置された制服を見、現実逃避するようにつぶやいて、立ち上がったときと逆の順序でスクールバッグの前にしゃがみ込む。
後手の指ではファスナーを開けることは難しいだろう。
そこでそのまま状態を屈め、寝た状態のタブを唇でくわえて起こし、歯でしっかりと噛み、頭ごと横に動かす。すると、愛用のスクールバッグが口を開けた。
「ペンケースはどこに入れたっけ……」
それを探し、バッグの中を除き込んで――。
「……ッ!?」
灯里は、戦慄を覚えた。
数学Ⅰ、そう書かれているはずの薄緑色の教科書の背には、意味不明な記号しか印刷されていなかった。現代文、日本史、そう書かれているはずの教科書の背も、同じだった。
『今のあなたは大陸共通言語を母国語のように喋れる代わり、本来の母国語は理解不能な異世界の言語にしか感じないということ』
ラウラが言い放った、信じがたい言葉。
つまり強制翻訳の魔法をかけられたせいで、『数学Ⅰ』も『現代文』も『日本史』も、異世界の言語、単なる記号にしか見えない状態に貶められていたのだ。
「ま、まさか……ほんとうに……」
ことここに至り、ラウラの言葉が真実なのだと認めざるをえなくなった。
ここはホライゾンタルという異世界で、ラウラは魔法調教師なのだと。自分は彼女の奴隷調教を待つ身なのだと、理解しないわけにはいかなくなった。
同時に、ここから逃げることは不可能だと。仮に逃げられても、強制翻訳魔法を解かないかぎり、元の暮らしには戻れないのだと思い知らされた。
「そ、そんな……そんな……」
絶望し、諦め、縛《いまし》められたままヘナヘナとへたり込み、呆然とつぶやく。
涙は出なかった。悲しくもならなかった。つらくもなかった。運命を呪いもしなかった。まだ絶望が大きすぎて、感情が湧き出してこない状態。
そんな灯里を、壁の魔導鏡ごしに、冷たい瞳で眺めている者がいた。
「アカリ、やはりおまえはおもしろい子……」
魔鏡の向こうから灯里のようすを観察し、ラウラは薄く嗤った。
ラウラは灯里の持ちもののなかに、小さなハサミがあることを知っていた。そのうえであえて魔法の拘束を施さず、ただの縄で彼女を縛った。
それは、ハサミを使って縄抜けを試みさせるため。その際鞄の中の書物を見させ、強制翻訳魔法をかけられていることを思い知らせるためである。
その策に、灯里はみごとに嵌った。
とはいえ、それは灯里が愚かだからではない。
自分の置かれた状況を分析し、脱出への最短の方法を探る合理的思考の持ち主でなければ、ハサミを取り出そうと考えることはできない。
「つまり、アカリは極限状態のなかで、合理的に考えられる思考力と冷静さ、さらには脱出を諦めない気持ちの強さを持ち合わせているということ。そんな子には……」
ありあまる魔力を持つ一級の魔法師であるがゆえ、若い容姿を保ったまま一般人よりはるかに長い生を得てきたラウラが、その紅い瞳を妖しく輝かせた。
「そんな子には、魔法の存在を感じさせる程度に使用を抑え、物理的手段で調教を施すほうが効果的」
彼女自身が一番得意とし、もっとも好む調教を施すと決め、ラウラは呆然と佇む灯里の背後に、再び姿を現わした。
「私の言葉が真実だと、わかったかしら?」
ルベルが声をかけると、灯里がゆっくりと振り返った。
その瞳が絶望に彩られていることを確認し、心のなかでほくそ笑む。
とはいえ、調教はまだ始まっていない。
感情が表に出ないよう、表情筋を引き締めつつ、日焼け跡が残る裸身に縄目を打たれた少女に歩み寄る。
「アカリ……おまえは奴隷にされるため、ここに連れてこられた……そのことは、もう理解してるわね?」
そう言うと、ラウラは右手に持っていた革の装具を見せた。
「これから調教を受けるアカリに、奴隷の口枷を着けてあげる」
「ど、奴隷……の?」
「そう、奴隷の口枷よ」
そして灯里の前にしゃがみ込み、複雑に組み合わされたベルトに取り付けられた金属製のリングを、灯里の口に押し込んだ。
「ぅあ、ぐッ!?」
縛られているため抗うこともできない彼女の歯に金属のリングを噛ませると、灯里が苦しげにうめく。
「アゥああ……」
さらにリングを吐き出せないよう、頭の後ろできつくベルトを締めると、苦悶の声を漏らした。
「言葉を奪うけれど、発声そのものを抑えるわけではない。常に開口を強制し、口をただの穴に変えるためだけの口枷……それは、調教中の奴隷にしか使われない、奴隷の証の口枷」
そう言いながら、鼻の左右を通り、ラウラの紋章が刻まれた金具を介してひとつにまとまる逆Y字の縦ベルトも締める。
そのあいだも、灯里は抵抗らしい抵抗をしなかった。
真実を思い知らされ、いまだ絶望に打ちひしがれている状態なのだ。
とはいえ、人は絶望にも慣れる。そして灯里のような強い気持ちを持つ女は、いずれ絶望を与えたラウラに敵愾心を持つようになる。
(その前に、調教の第一段階を終わらせるわ)
そう決めて、ラウラは灯里の縄尻を取り、告げた。
「立ちなさい。調教を始めるわ」