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6章 エネマの洗礼 「やっと着けられたですー」 「貞操帯なしではお股が寂しいのですー」  お互いに貞操帯を着けあった西脇芽衣と瑠衣が、腰に手をあてた仁王立ちの姿勢で、ウンウンとうなずき合う。  愛美先輩から聞いていたとおり、ふたりはほんとうにそっくりだった。  身長も、体重も、身体の各サイズも、貞操帯のサイズまで同じ。顔もまったく同じ。ショートボブ、というよりおかっぱに近い髪型も同じ。  制服を着て服装まで同じ今は、同じ人間がふたりいると言ったほうが適切かもしれない。 「そんなことないですよー」 「よく見ると違うのですー」 「「ねー!」」  声を揃えてそう言うということは、お互いを見分けるポイントはどこかにあるのだろうが、はっきり言って私にはわからなかった。 「そんな人のためにー」 「「ほらっ」」  私がそのことを口にすると、芽衣先輩と瑠衣先輩が、同じポーズで前髪を留めるヘアピンを指差した。 「ピンクが芽衣で」 「ブルーが瑠衣」 「「これがふたりの見分けかたなのですー」」 「でも、ヘアピンを交換したら、どっちがどっちか……」  そこで私が口にした言葉で、一同が固まった。 「た、たしかに……」  と、愛美先輩。 「そ、そういえば……」  と、豊岡先輩。 「え、なになに?」  小海だけは、わかっていない。 「そ、そ、そ、そんなことは……」 「し、し、し、しないのです……」  そしてふたりで顔を見合わせ、それから視線を落とし。 「「裕香ちゃん、鋭いのですー」」  芽衣先輩と瑠衣先輩は、観念してふたり同時につぶやいた。 「芽衣先輩と瑠衣先輩、修学旅行中は貞操帯を外してたんですね?」  部室を出て並んで帰宅しながら訊ねると、愛美先輩はその理由を教えてくれた。 「ええ、私と純もそうしたわ。倶楽部OGの先生が修学旅行を引率するとはかぎらないし、旅行先にはOGの病院もないからね」  つまり、貞操帯を着けたままだと、体調を崩したとき困るというわけだ。 「まぁ芽衣と瑠衣はコンプリッツェだからお互いの鍵は手元にあるんだけど、万が一のとき、外した貞操帯をどうするかという問題もあるからね」 「そうですね。だとすると……」  常日頃から、体調管理には気をつけなくちゃいけない。学校にいるときは愛美先輩もいるし、倶楽部OGの先生もいるが、帰宅中だとそうはいかない。救急車を呼ぶような事態に陥ると、なおさらだ。 「そのために、貞操帯倶楽部では、OGの病院で、定期的に部員の健康診断をしているの……そういえば!」  そこで、愛美先輩がハッとした。 「私たちは5月の連休明けに健康診断を受けたけど、裕香はまだだったわね」 「えっ……あ、はい」 「だったら、受けましょう。病院の先生には、私から連絡しておくわ」 「えっ、えっ、でも……」 「どうしたの? 貞操帯のことなら大丈夫よ。私たちはいつも貞操帯を着けたまま、診断を受けてるから」 「いえ、そうじゃなくて……あの……」  しかしためらう理由を口にすることはできず、愛美先輩に押しきられて、私は健康診断を受けることになった。 「ここ……ですか?」  翌日の放課後、倶楽部には顔を出さず、愛美先輩に連れられて来たのは、学校近くの総合病院だった。  芦屋病院。  その看板を見て、OGリストにあった医師の名前を思いだした。 「もしかして、芦屋希和子《あしや きわこ》先生って……?」 「ええ、倶楽部のOGにして、この病院の副院長よ」  驚いた。ただの医師ではなく、こんな大きな病院の副院長だったなんて。 「芦屋先生だけじゃなく、ここには倶楽部OGの看護師もいるわ」 「まさか、そのおふたりって……」 「ええ、現役部員の頃から続くコンプリッツェよ。貞操帯を着けて暮らす私たちの健康管理を一手に引き受けてくれるうえ、いつも優しく厳しく指導し、導いてくださる大先輩」  そこで入り口まで来たので、貞操帯倶楽部の話は控えて、病院内に入る。 「あの……城崎裕香といいますが……」  愛美先輩に促されて受付カウンターで名前を告げると、事務員の女性がにっこり笑って立ち上がった。 「貞節女子学園のかたですね。副院長から指示を受けております。こちらへどうぞ」  そう言った事務員さんに、案内されたのは、今は患者さんのいない検診棟だった。 「すぐに副院長が参りますので、問診票を記入しながら、かけてお待ちください」  そして、笑顔を絶やさないまま、私たちに深々と頭を下げ、事務員さんは去っていった。  なんと礼儀正しい応対なのだろう。  制服姿の私たちを学生だと侮ることなく、きちんとした態度で接してくれるのは、職員への教育が行き届いているからか。あるいは、副院長の特別な患者という意識があるからか。  ともあれ、そのことに感心しつつ問診票の回答欄を埋めていると、白いブラウスと黒のタイトスカートの上に、丈が長い白衣を羽織った女医さんが、看護師さんを伴って現われた。  一見すると、年齢は20代後半。とはいえ、大きな病院の副院長という立場で活躍しているくらいだから、実年齢はもっと上だろう。  身長は、おそらく愛美先輩と同じくらい。ただしヒールのある靴を履いているから、豊岡先輩くらいの高さに見える。  診察中だからだろう。メイクは薄めナチュラルで、ソフトウエーブの長い髪は後ろで束ねられている。  そんな派手さを抑えたいでたちでも、華やかさを隠しきれない超美人。  花に例えると、大輪の真紅の薔薇。 「ようこそ、愛美ちゃん。裕香ちゃんは、はじめまして。貞操帯倶楽部OGで、医師の芦屋希和子です。こちらの看護師は三木涼子《みき りょうこ》。彼女も倶楽部OGだから、安心してね」  紹介されて頭を下げた看護師さんは、花に例えるなら谷間に咲く白百合。  芦屋先生ほどの華やかさはないが、こちらも美人。  愛美先輩と豊岡先輩を足して、2で割るときに華やかさを一方に集めた感じ――。  などと考えていると、私が書いた問診票に目を通した芦屋先生が、穏やかにほほ笑んで告げた。 「わかりました。さっそくひととおり検査してみましょう」   「特に健康上の問題はないわね。ただ……」  モニターに表示された数値を示しながら検査結果を説明したあと、芦屋先生が私に向き直った。 「城崎さん、いえ、倶楽部の後輩だから裕香ちゃんと呼ぶわね……ちょっと触診させてもらっていいかしら?」 「あ、はい……」 「じゃあ、横になって」  言われて診察室の寝台に身を横たえると、芦屋先生が私のお腹に触れ、軽く押した。 「やっぱり……お通じは、何日くらいないの?」 「そ、それは……」  私が健康診断をためらった理由でもあった。 「恥ずかしいことじゃないわ。女の子はちょっとした生活の変化がきっかけで、便秘になっちゃうものよ。貞操帯を着けて便秘になる子は、そんなに珍しくないわ」 「は、はい……ちょっとだけ……」 「ちょっとだけじゃないでしょう? この感じだと、1日2日ってことはないよね?」  実のところ、貞操帯を着けてもらった日から排泄《だ》せていなかった。  便秘を告白するのは恥ずかしいが、芦屋先生はすでにお見通し。それに先生は医師だから、身体のことは打ち明けても問題ない。 「実は……もう1週間になります」 「そう、1週間も……つらいわね?」 「は、はい……」 「じゃあ、スッキリしましょう」  そしてそう言うと、芦屋先生は傍らに控えていた三木看護師に告げた。 「涼子、エネマの用意を。それから愛美ちゃんも呼んで」  最初、エネマという言葉の意味がわからなかった。 「あの……エネマって?」 「浣腸のことよ」 「えっ、浣腸!?」 「ええ、浣腸。したことない?」 「は、はい……あの、お薬じゃ、ダメなんですか?」 「そうね。1週間も溜めていたんじゃ、お薬よりエネマ……浣腸で処置したほうがいいわ。そして、今あなたにエネマを使うのは、別の意味もあるの」  そう言われて納得させられ、連れて行かれたのは診察室の隣の部屋。 「それじゃ、スカートを脱いで、寝台に横になって。身体を横向きに、背中を丸めて、膝を抱えて」  とまどいながらも、言われたとおり部屋の中央にふたつ並んだビニールシート貼りの寝台のひとつに横たわると、愛美先輩が三木看護師に連れられてやってきた。 「ゆ、裕香……」  私の姿を見て一瞬目を剥き、それから芦屋先生に視線を移したところで、先生が私の隣の寝台を指差した。 「これからなにをされるか……愛美ちゃんはもう、わかってるわね?」 「は、はい……」  震える声で答えると、愛美先輩はおずおずとスカートを脱ぎ、私と向き合うように、同じ姿勢で寝台に寝た。 「いいですか。これから行うエネマは、裕香ちゃんへの治療であると同時に、ふたりへの罰です」  エネマ、浣腸が、私への治療だということはわかる。  浣腸という行為の中身を考えれば、罰にもなりうるものだとは理解できる。  しかし、なぜ罰を受けなきゃいけないのだろう。愛美先輩への罰というのは、どういうことなのだろう。  わからないまま狼狽していると、芦屋先生が理由を教えてくれた。 「裕香ちゃんの罪は、コンプリッツェの愛美ちゃんに、お通じのことを相談しなかったこと」  そう言われて、ハッとした。  コンプリッツェ、すなわち共犯者。それは、秘密を共有し合う仲間になるということ。  お通じがなくて苦しいことを、私は愛美先輩に相談しなくちゃいけなかったのだ。 「そして、愛美ちゃんの罪は、裕香ちゃんのお通じに気を配ることができなかったこと」  上級生のコンプリッツェは、下級生の体調に細やかな気遣いをしなくちゃいけないのだ。  それで、罰という言葉の意味がわかった。 「ふたりとも、エネマの罰を受けることに、異存はないわね?」 「はい……」  その言葉に、まず答えたのは愛美先輩。 「は、はい……」  わずかに遅れて私が答えると、芦屋先生があらためて口を開いた。 「ディスポーザブル浣腸器よ。」  医療用の薄いゴム手袋をはめた芦屋先生の手には、それが握られていた。  直径は3センチくらいだろうか。透明な液体が満たされた、先生の手のひらに収まる程度の柔らかい樹脂製の筒の先に、長さ10センチ程度のチューブが取り付けられている。私が知っている丸い卵型の浣腸とは、形も大きさもまるで違う代物。  思わずそのことを口にすると、芦屋先生がうなずいて説明してくれた。 「これは、医療用の使い捨て浣腸器なの。家庭用のものは挿入するから部分が6センチ以下、容量は大人用で40グラム以下に制限されている。これでは肛門間近の部分にしか注入されず、また容量も少ないため、今回の裕香ちゃんの治療には向かないわ」  そして、その言葉が終わった直後である。 「いうッ!?」  不意にお尻の穴に細く柔らかいものを挿入されて、変な声をあげてしまった。 「あっ、これは……」  それがディスポーザブル浣腸器のチューブだと気づき、背後にいた三木看護師に浣腸器を挿入されたのだと悟ったところで、ズズッと奥まで入れられた。  あまりにあっけない挿入。  だが考えてみれば、それはあたりまえのこと。身体に負担をかけずに挿入できるよう作られた医療器具を扱うのは、卓越した指技を持つ医療従事者なのだ。  とはいえ、初めての肛門への異物挿入の違和感は凄まじい。 「はっ、ひっ……」  その違和感にうめいた直後、愛美先輩も同じ反応。  愛美先輩も、芦屋先生の手で浣腸器を挿入されたのだ。  これから、ふたり同時に浣腸の処置を受けるのだ。 「愛美先輩……」  せつない気持ちで愛しい女性《ひと》の名を呼び、両手を差しだす。 「裕香……」  すると、愛美先輩が私の手を貝殻つなぎでぎゅっと握りしめてくれた。 「愛美先輩……」 「裕香……」  私の名を呼ぶ愛美先輩は、ふだんは凛々しい眉をハの字に歪めている。  そしておそらく、私も同じ表情をしている。 「愛美せんぱ……いうッ!?」  もう一度名を呼びかけたとき、薬液の注入が始まった。 「裕香……ああッ!?」  ほぼ同時に、愛美先輩にも。  お尻の奥の深いところに、10センチもあるチューブから薬液が注入される。  三木看護師の手で温められていたからか、あまり冷たさは感じない。  ただし、お尻の奥への圧迫感はすごい。  容量にしておそらく100ミリリットル程度の薬液が、倍以上の量に思える。時間にしてわずか数秒の注入が、永遠のように思える。 「抜きます。お尻に力を入れてね」  そしてようやく注入が終わったところで、背後から三木看護師の声。 「は、はい……」  答えてお尻に力を入れたところで、チューブを抜き取られる。  そのときである。 「ひうッ!?」  ゾクリとする感覚が、お尻の穴から下半身全体に駆け抜けた。 (な、なにコレ!?)  とはいえ、その感覚――愛美先輩と共犯者になったときの快感の予兆のような感覚――の正体を気にしている余裕は、すぐになくなった。 「私がいいと言うまで排泄《だ》さないこと。もし途中で排泄しちゃうと、最初からやり直しよ」 「は、はいぃ……」  眉をハの字に歪め、愛美先輩が答える。 「はひ、はひぃ……」  おそらく同じ表情で、私も答える。  愛美先輩と見つめ合い、手を握りあって、次第に高まっていく便意に耐える。  苦しい。苦しい。  でも耐えないと、もう一度浣腸される。  つらい。つらい。  でも愛美先輩と一緒なら、耐えられる。 「愛美先輩ぃ……」  苦しくて、つらくて、せつなくて、くるおしくて。  愛美先輩の手をぎゅっと握ると、同じくらい強く握り返してくれた。 「裕香、裕香ぁ……」  私と同じ気持ちで、私の名を呼んでくれた。  私たちはコンプリッツェ。  同じ罪を犯し、一緒に罰を受ける共犯者。  そして浣腸の罰は、お腹の苦しさつらさだけではない。苦しさつらさからの解放は、強制公開排泄という、恥辱処刑の執行と同時に訪れる。 「よく頑張ったわね。もう排泄してもいいわよ」  芦屋先生の言葉と同時に、お尻になにか――おそらく浣腸便を受け止める容器――があてがわれた。  当然、人前で排泄するのは恥ずかしい。でもその恥ずかしさを超える、お腹の苦しさ。  そうなるよう作られた薬液がもたらすつらさに、永遠に耐えられるはずもなく、お尻の力を緩めた直後――。  ブビッ!  ブビビッ!  液体とわずかな気体が、肛門を一気に通過する破裂音がふたつ。  続いて、勢いよく噴きだした液体が、容器の底を叩く音もふたつ。  そのひとつは、間違いなく私のもの。もうひとつは、愛美先輩のもの。 「あぁ、愛美先輩ぃ……」 「うあぁ、裕香ぁ……」  貝殻つなぎで手を握り合い、お互いの恥ずかしい音を聞かせ、聞かされる。  オンナとして最大の恥辱を、一緒に味あわされる。  その直後、柔らかくなった便が、肛門を通過し始めた。  同時にたちこめる、ふくいくたる匂い。  その半分は、間違いなく私のもの。残り半分は、愛美先輩のもの。 「いやぁ……愛美先輩ぃ……」 「裕香ぁ……裕香ぁ……」  握り合った手に力を込め、お互いのみじめな匂いを嗅がせ、嗅がされる。  オンナとして、いや人としてもっとも秘しておくべき行為を、さらけ出し合う。  もう、愛美先輩とのあいだに秘密なんてない。秘密を持つ必要はない。  私たちは浣腸排泄の恥辱を見せ合った間柄なのだ。これからは、どんなに恥ずかしいことでも、打ち明け合える。  そのことが、今は嬉しい。  ただの排泄より、スッキリ気持ちいいのは、そう思えるせいだろうか。  固形まじりの軟便が肛門を通過するたび、ゾワリゾワリと妖しい感覚が生まれているのも、そのせいだろうか。 「あぅん……愛美先輩ぃ……」  私の声は、蕩けている。 「あふぁ……裕香ぁ……」  愛美先輩の顔も、蕩けている。  身体まで融け、つないだ手から愛美先輩とひとつに溶け合っていく。  やがて、排泄が終わった。  お尻を拭き浄められ、汚物の容器が片付けられる。 「ふたりとも、よく頑張ったわね。きっといいコンプリッツェになるでしょう」  私たちを労う芦屋先生の声を聴きながら、私と愛美先輩は究極の恥辱処刑のなかで、より深いところでつながり合えた気がした。

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