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5章 共犯者になる 「ところで……」  部室を出て並んで歩きながら、私は愛美先輩に訊ねた。 「2年生の先輩部員って、どんなかたなんですか?」  今は修学旅行に行っているその人たちに、私はまだ会ったことがなかった。 「うーん……」  そこで、愛美先輩が少し考え込んだ。  個人情報に関わることだから、話しにくいのだろうか。一瞬そう思ったが、愛美先輩が言い淀んだ理由は違っていた。 「ひとことで説明しにくいふたりなんだけど……とりあえず、部員全員が知ってる事実だけ言うわね」 「はい」 「ふたりは双子なの。名前は西脇芽衣《にしわき めい》と瑠衣《るい》。一卵性で顔もそっくりで、私には見分けがつかないわ」 「そんなに似てるんですか?」 「ええ、似ているってレベルじゃない。身長体重、身体各所のサイズはまったく一緒。性格や口調、しぐさまで含めて、同じ人がふたりいる感じね」 「身体のサイズに、性格まで……ですか?」  中学の同級生に一卵性の双子はいた。しかし容姿は似ていても、まったく一緒というわけではなかったし、性格はまるで違っていた。服や髪型の好みも別々だったから、見分けることは容易だった。 「そうなの。貞操帯倶楽部では、新入部員がすぐ貞操帯を着けられるよう、1センチ刻みでサイズ違いを用意してるんだけど、さすがに同じサイズはふたつ用意していないの」 「ああ……そうですよね。つまり性格も同じだから、どっちも先に着けることを譲らなかった……とか?」 「惜しい。どっちも譲らず、その結果新しく同じサイズの貞操帯ができるまでのあいだ、ふたりでひとつの貞操帯を、交互に着け合ってたの」  ひとつの貞操帯を交互に着け合う。他人なら抵抗感が強いだろう。それを迷わずできるのは、双子だからだろうか。 (もし私が、愛美先輩と同じ貞操帯を交互に着け合うとしら……)  しかしたわむれに考えてみると、嫌な感じはしなかった。  嫌どころか、その行為を想像して、貞操帯の奥が熱くなった。 (やだ……なんで……?)  そのことにとまどったところで、愛美先輩が言葉を続けた。 「その意味では、芽衣と瑠衣はコンプリッツェ……共犯者という言葉がいちばん似合うふたりね」  そう言われて、ふと気になった。  なぜ貞操帯倶楽部では、貞操帯の鍵を相互管理する関係をコンプリッツェ、共犯者と呼ぶのだろう。 『秘密を共有し合う仲間という意味で、鍵を管理しあう相手のことをコンプリッツェと呼ぶの』  愛美先輩はそう言ったが、それだけなら別の呼称でもいいはずだ。にもかかわらず、貞操帯倶楽部では『共犯者』を意味する言葉を使う。  まるで、ふたりで謀っていけないことをするように――。  そのことを口にすると、愛美先輩は少しのあいだ考えて、それから私の目を見て告げた。 「そうね……その理由はもう少し先に教えようと思っていたけれど……いいわ。明日、学校は休みだけど、部室に来られるかしら?」  そのときの愛美先輩の瞳の奥が妖しく輝いている気がして、少し気圧されながらも、私はしっかりうなずいた。  翌日部室に行くと、愛美先輩はすでに来ていた。 「鍵をかけて、ドアチェーンもしっかりね」  給湯室から言われてそのとおりにすると、愛美先輩がお茶のセットをトレイに乗せて現われた。 「アールグレイのいい茶葉が手に入ったから、アイスティーにしてみたの。それに、外を歩いてきたら、暑かったでしょう?」  そのとおりだった。  5月も半ばを過ぎ、最高気温は30度に近づく日もある。そして今日は、そんな日だ。  とはいえ、貞操帯倶楽部の部室は空調完備。  香り高いアイスティーをひと口ふた口飲む頃には、うっすらかいていた汗も引いてきた。 「現代の貞操帯は、肉体の貞操とともに、精神の貞操を守るためのもの……」  ここを訪れた初日、今昔貞操帯の違いを語ったときの言葉を、愛美先輩がもう一度口にした。 「その意味、わかる?」 「すみません。まだきちんと理解できていません」  私が素直に認めて謝ると、愛美先輩は穏やかにほほ笑んで、首を横に振った。 「ううん、それはいいの。謝ることじゃないわ」  そして昨日と同じ光をたたえた目で私を見て、口を開いた。 「では、具体的に肉体の貞操、精神の貞操とはなにか……」  語りながら椅子から立ち上がり、制服のスカートのホックを外し、ファスナーを下ろす。  スカートを脱ぎ、脱いだスカートを椅子にかける。  この日も、愛美先輩は貞操帯の上に、なにも穿いていなかった。 (どうして……?)  愛美先輩は、ショーツを穿かないのか。  たしかに貞操帯で、女の子の大切なところは隠されている。  でも、お尻の穴はむき出しのままだ。  いや貞操帯がなければ、まっすぐ立っていればお尻の肉に隠れて見えないが、貞操帯を着けていれば、肉を割りながら周囲を押しつける後ろ側の縦板せいで、立っていても見えてしまう。  それに万が一、ペーパーで拭き取りきれなかったおしっこが貞操帯内に残っていたとき、ショーツは最後の砦だ。 (なのに、なぜ……?)  そのことは気になったが、愛美先輩の言葉は続いている。  そしてその話は、とても大切な話だ。  コンプリッツェ、すなわち共犯者。鍵を相互管理する相手のことを、なぜそう呼ぶのか。その理由をあきらかにするとともに、これからの貞操帯生活を左右するような――。 「肉体の貞操とは、異性との性交から身を守ること。精神の貞操とは、淫らな気持ちになった自分自身が行う自慰から身を守ること……それが、私たちの貞操帯の目的。そのために……」  語りながら、愛美先輩が自らの貞操帯の南京錠に触れた。 「性交を防止するために、貞操帯は厳重に施錠されている。貞操帯本体の排泄溝は幅1センチ程度だから、貞操帯そのものを外さないかぎり、性交は不可能……」  そう言って南京錠に触れていた指を、おしっこ排泄用の小さな穴が無数に開けられた、追加の金属板に移動させる。 「自慰を防止するために、この板が取りつけられている。自慰防止板とも呼ばれるこの部品を外さないと、私たちは自らの肉を慰めることすらできない。でもね……」  そこで妖しく輝く瞳を細めて笑い、愛美先輩が手をさしのべた。  その手を取ると、ソファーから立ち上がるよう促された。 「この板……自慰防止板とも呼ばれる板も、貞操帯本体と同じ南京錠で固定されている。この薄く、細い板を外すだけで、女の子のいちばん感じやすい媚肉を、慰めることができる……」  そしてそう言いながら、愛美先輩が私のスカートのホックに手をかけた。 「裕香は私の、私は裕香の、肉体の貞操を守ったまま、精神の貞操だけを穢すことができるの……」  ホックを外されたスカートのファスナーを下された。 「肉体と精神の貞操を守る貞操帯を自ら望んで着けながら、精神の貞操を穢す『罪』を共に犯す……だから、私たちは共犯者《コンプリッツェ》……」  ファスナーを下された夏用の薄い生地のスカートが、ストンと床に落ちた。 「今から、裕香の精神の貞操を穢してあげる」  愛美先輩の手が、貞操帯をの上に穿いたショーツにかかった。 「い、いや……」  ショーツをずり下ろそうとした先輩の手に、自らの手を重ねる。  私の手に力は入っていない。にもかかわらず、愛美先輩は手を止めた。  それは、私の意思に反することはしない。私が嫌がることはしないという思いのあらわれだろう。  同時に私の手に力が入っていないのも、本気で嫌がっていないことのあらわれだ。  そしておそらく、私の気持ちも、愛美先輩に伝わっている。 「わかってるわ。恥ずかしいのね?」  伝わっているからこそ、私の本音は見破られている。 「恥ずかしいのに、いえ私に見られて恥ずかしいからこそ、貞操帯の奥が熱く火照り、疼いている。火照り疼くそこから溢れた蜜が貞操帯の排泄孔から漏れ、ショーツに染みを作っている……でも、心配しないで」  そう言うと、愛美先輩は重ねた私の手を取り、自らの股間へと誘《いざな》った。 「心配しないで。私も同じだから」 「ま、愛美せんぱ……ッ!?」  そこは、濡れていた。  貞操帯のおしっこ排泄孔から漏れだした粘液で、ヌルヌルだった。 「ね? 私も同じでしょう?」 「は、はい……」 「だから、安心して?」  冷静に考えると、なにを安心したらいいのかわからない。  でもそのときの私は、安心してしまった。  安心して、愛美先輩と精神の貞操を穢す罪を犯す共犯者になってもいいと、いやなりたいと、思ってしまった。 「はい、愛美先輩……」  熱に浮かされたように答えた私の前に、愛美先輩が小さな鍵をかざす。 「ああ、裕香……」  応えて、私も同じ鍵を取りだす。 「うふふ……それはあとでいいわ。私には、裕香と初めてのときはこうしたいって、決めていたやりかたがあるの」  そう言ったときの愛美先輩の笑顔は、かつて見たことのない妖艶なものだった。 「裕香と初めてのときは、これを使いたかったの」  ショーツを剥ぎ取った私をバスタオルを敷いたソファーの上に座らせ、愛美先輩が革のベルトを取りだした。  いや、よく見ると、それはただのベルトではなかった。  基本的には、幅が広く柔らかい革と、その上に被せられたベルトの二重構造。上のベルトの途中に、金属製のリングが設えられている。 「手枷よ」 「て、手枷……って?」 「ええ、手枷。知らない?」  いや、知っている。なんのために、どうやって使うのかも、おおよそわかっている。  つまり、これから私を拘束しようとしているのだ。  しかし、拘束に抗ったり、逃げようとすることはできなかった。 「うふふ……拘束されるとわかっていて、抵抗しないのね?」 「えっ……それは……」  言い合うあいだに、右手首が手枷に囚われた。  キュッときつくベルトを締められて、バックルを留めてわずかに緩んだところで、左手を取られた。 「うふふ……裕香ったら、やっぱり抵抗しない」  言いながら左手首に革の枷を巻きつけられる。 「それは……でも……」  言い返せずにいるうちに、ベルトをきつく締め込まれる。 「うふふ……抵抗できるわけないよね?」  しゃがみ込んで、足首にも同じ構造の革拘束具――足枷を着けられる。  右、続いて左。 「だって、裕香は拘束されたあと、私に恥ずかしいことをされるんだもの」 「ああ……」  妖しく輝く瞳で見すえられて言われ、ズクンときた。 「どんなに恥ずかしくても、逃げられなく、私から離れられなくされちゃうんだもの」 「はふぁ……」  貞操帯の奥で肉体の芯が溶け、ドロリと溢れだした。 「はふ……なんで……」  たったひとことで、こんなに蕩けてしまったのだろう。  熱に浮かされたように、思ったことを思考を経ずに口走ってしまう。 「それはね、裕香が私と同じだから」 「ふぇ……?」 「私と同じで、好きな女性《ひと》に囚われて、恥ずかしい姿を見られて、恥ずかしいことをされて、燃えあがる体質だから」 「わ、私……愛美先輩に見られて……?」  そう答えたことで、好きな女性イコール愛美先輩だと認めたも同然。  しかしそのときの私にそうと気づける余裕はなく、ただ誘われるまま、手足を拘束されていった。 「そう。裕香は私に捕まって、恥ずかしいところを見られ、恥ずかしいことをされて、感じちゃうの」  言われるあいだに右足をソファーの座面に持ち上げられ、足枷を右手首の手枷に金具で繋がれた。 「はふぁ……わ、私……感じちゃう?」 「そうよ、裕香ははしたなく感じさせられちゃうの」  言い合うあいだに左足と左手も繋ぎ、M字に開いた脚を閉じられなくして、愛美先輩があらためて小さな鍵を見せた。 「さあ、裕香の精神の貞操を穢してあげる。ふたりで罪を犯しましょう」  私のお股の前にひざまずいた姿勢で、愛美先輩が縦にふたつ並んだ南京錠の下のほうに、鍵を差し込んだ。 「うふふ……外すよ、自慰防止板」  そして妖しい瞳で見つめられて言われ。 「は、はいぃ……お願いしますぅ……」  半ば蕩けて答えると、カチリと金属音。  南京錠とその弦を守る円形の金属板が取り払われ、小さな穴が無数に開けられた細長い板が、貞操帯本体から離れた。 「貞操帯を着けるときも思ったけど、裕香のここ、綺麗……」  幅1センチ、長さ5センチほどの溝からムニッと押し出されたそこを凝視して、愛美先輩が口を開く。 「ビラビラのお肉にも色素の沈着はなく、その奥は綺麗なピンク色。そんな清楚な割れめから、とめどなく蜜を溢れさせて……清楚と淫蕩が共存しているようで、なんていやらしいんでしょう」 「ああ、いやぁ……」  貞操帯本体の溝から覗くそこを凝視されて言われ、恥ずかしくて目を閉じる。 「お願い、言わないでぇ……」  しかし言葉とは裏腹。私のそこは細い溝の隙間で薄く口を開け、そこからトプントプンと熱い蜜を溢れさせている。 「はふぁ……な、なんで……?」  見られているだけで、こんなに感じているんだろう。  問うてはみても、愛美先輩は答えてくれない。でも答えてくれなくても、私には分かっている。  それは、私が愛美先輩と同じだから。  愛美先輩と同じで、好きな女性に囚われて、恥ずかしい姿を見られて、恥ずかしいことをされて、燃えあがる体質だから。  そして、私が好きな女性は愛美先輩。  初めて貞操帯を着けた夜、バスルームで気づきながらも否定した事実を、私ははっきりと認めていた。  貞操帯の溝から覗くそこを愛美先輩に凝視され、その状態を指摘され、私はそれだけで高められてしまう。  そして愛美先輩は、私をさらに昂ぶらせ、燃えあがらせる方法も知っていた。 「綺麗でいやらしい裕香、食べちゃいたい……」  そう言って、愛美先輩が私のそこに唇を近づける。  チュッ。  と軽いキス。 「あふぁ……」  私を軽く喘がせておいて、そこに唇を押しつける。 「はぅ……ま、愛美先輩……そこ、汚いよぉ……」 「ううん、裕香の身体のなかで、汚いとこなんてない」  その言葉で、またズクンときた。  ズクンときたところに、また唇をつけられた。 「あっふぁ……」  軽く吸われて声をあげたところで、さらに嬉しい言葉。 「裕香の身体なんだもん、全部好き」  その言葉で、また蕩ける。  その行為で、いっそう蕩けさせられる。  女の子の大切なところのことを、陰唇、陰《かげ》の唇とも呼ぶ。  私の陰の唇に、愛美先輩の唇を重ねられている今の状態は、私たちにしかできないふたりだけのキス。  手枷足枷で拘束されたままの、貞操帯の細い溝から露出した陰唇だけの、ちょっと歪んだ秘密のキス。  その秘密を共有しながら、愛美先輩のキスは激しさを増していく。 「はっ、あっ、あっ……ま、愛美先輩ぃ……」  私と愛美先輩は、秘密の共犯者。  愛しい愛しい共犯者。  愛しいその人を、抱きしめたい。  でも手足をまとめて拘束されて、それは叶わない。  くるおしく脚を蠢かそうとしても、両腕でがっしり抑え込まれてできない。 「はふぁ、やっ、あっ……愛美先輩ぃ……」  そして、囚われの身でくるおしく呼ぶ声に、愛美先輩は陰唇キスで答えてくれる。  恋人どうしが上の唇でするように、ディープな陰唇キスに移行していく。  開いた唇を密着されて、強く吸われる。 「はっ、あふぁああっ!」  艶めいて喘いだところで、粘膜を舐めあげられる。 「はひゃっ、はひゃああっ!」  一度、二度、三度。そのを舐められるたび、声に艶が増す。  そして四度め、舐めあげた舌で、媚肉直上の豆を押された。 「ひゃうぅうううんッ!」  直後、ビリビリと痺れるような快感が下半身全体に広がり、ひときわ高く艶声をあげる。  反射的に腕に力を込めて、頑丈な拘束具に引き戻される。 「うふふ……裕香はここの感度が特別いいのね」  そう言うと、愛美先輩が陰核《クリトリス》を中心に責め始めた。 「そういえば、メジャーで押されただけで、かわいく喘いだものね」 「はふぁ、言わないれ……あふぁんッ!」  言いかけたところで、快感神経を集めて作られたような豆の包皮を舌で器用に剥かれて。 「はひいっ、ひゃはぁああんッ!」  包皮を剥かれたそこを、強く吸いあげられて。 「はひゃ、ひゃああああぁあッ!」  強烈な快感に哭き、手足をつないで縛《いまし》める枷と金具を鳴かせて。  私は快感の大波に襲われ、飲み込まれる。 「ひひゃう、はふぁあああんッ!」  包皮を剥いて屹立した豆を、唇でハムハムされた。 「はひっ、はひゃああああんッ!」  ハムハムしたあと、舌で転がされた。 「はふぁああッ、もう……もぉ、わらひぃ……」  押し寄せてくる快感の奔流に押し流されて、もうなにも考えられない。なにをされているかもわからない。  気持ちいい。気持ちいい。  快感の大波に飲み込まれ、快楽の奔流に押し流されて、私は恍惚を深めていく。  もう、気持ちいいことしか考えられない。  圧倒的な快感、それだけがあればいい。  愛美先輩が与えてくれる悦びだけでいい。  いや、違う。  愛美先輩と、先輩が着けてくれた貞操帯が――。  そこで、なにかが来た。  いや、私のほうがたどり着いたのかもしれない。  手足の指が、こわばって丸まっていた気がする。背すじが仰け反り、ソファーの背もたれに身体を預けていた気がする。  身体が際限なく、どこかに落ちていくような。落ちているようで、フワフワ浮かんで上昇ししているような。  下半身が貞操帯ごとドロドロに溶けてしまったような。身体が形を成していないような。  自分の身体がどうなっているのわからない。  でも、気持ちいいことは間違いない。幸せなことは間違いない。  かつて味わったことのない、圧倒的な快感のなかで。  かつて感じたことのない、大きな幸福感に包まれて。  私は性の高みに、女の子の至福の境地に、愛美先輩に導かれて昇り詰めた。  ゆっくりと、下りてくる。  次第に、醒めてくる。  気がつくと、手足の拘束は解かれていた。  小さな穴が無数に開けられた細長い板――自慰防止板が元に戻され、再び厳重に施錠されていた。  もう、なんぴとたりとも、私自身ですら、自分の性器に触れられない。見ることすらできない。  でも、私は幸せだ。  それは絶頂直後――初めての体験だが、今のが絶頂だということは、わかっていた――の余韻のせいだけではないだろう。  それを与えてくれたのが、愛美先輩だから。  絶頂のあと、愛美先輩がすぐに性器を厳重に封印して管理してくれているからこそ、得られる幸福感なのだ。 「あ、ありがとうございます……」  そのことへの最大限の感謝を込めてお礼を言うと、愛美先輩はにっこり笑ってくれた。 「かわいかったよ、裕香。よく頑張ったね」  そう言って、私をねぎらってくれた。  嬉しい。嬉しい。  でも、それだけじゃいけない。  私を悦ばせることができるのは、私の鍵を管理する愛美先輩だけ。  愛美先輩を喜ばせることができるのは、先輩の鍵を管理する私だけ。  そして、愛美先輩は私と同じ。好きな女性《ひと》に囚われて、恥ずかしい姿を見られて、恥ずかしいことをされて、燃えあがる体質。  だから、私は――。 「愛美先輩……」  気だるい身体を引きずるように、ソファーから立ち上がる。  ソファーの上に放り出されていた手枷を手に取り、愛美先輩に声をかける。 「手を出してください。私も、愛美先輩にこれを使いたいんです」  すると愛美先輩は、一瞬で瞳を蕩けさせ、おずおずと手を差し出した。  そしてふたりは――私と愛美先輩は、ほんとうの共犯者《コンプリッツェ》になった。

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