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3章 貞操帯を着けて暮らしてみる 「裕香、どうだい?」 「素質はありそうね。いえ、きっとあるわ」 「それは、あたし的な意味でか? それとも愛美的?」 「圧倒的に、私。というより、素質的には私とまったく同じと言えそう」 「ふぅん、それでそんなに嬉しそうなのか?」 「私が嬉しそう? そうかしら?」  私に合う貞操帯を探しながら、愛美先輩と豊岡先輩はそんな会話をしていたという。  ともあれ、そんなことをまったく知らないまま、貞操帯装着を終えた私が愛美先輩と一緒に更衣室を出る。すると、昨日と同じひとりがけ椅子に腰かけた豊岡先輩の対面に、ひとりの女の子が座っていた。  ショートヘアに日焼けした顔。セーラー服のスカーフは、私と同じ濃いめの青。  同じ1年生で隣のクラスのその子を、私は知っていた。  名前はたしか――。 「小野小海《おの こうみ》。うちの新入部員だ」 「えっ……?」  豊岡先輩に新入部員だと紹介され、私が驚いたのは、小海がスポーツ推薦枠で入学した陸上部所属の短距離選手だったからだ。それも中学時代、全国大会にも出場したことのある、関西某県県内トップレベルの。 「それなのに、なぜ貞操帯倶楽部に……?」  お互いに自己紹介し合ったあと、その疑問を口にすると、小梅が頭をかきながら答えた。 「ああ……うち、かけもちやねん。純さんと同じ部活やりたかったし」 「えっ、豊岡先輩と?」 「うん、実はな……うち中学時代、陸上部で純さんの後輩やってん」 「えええ! 豊岡先輩の!?」  意外だった。豊岡先輩が陸上競技をやっていたなんて。それ以上に、関西出身だったなんて。 「あたしは関西出身ってわけじゃない。親が転勤族で、その時期たまたまそこにいたというだけさ」 「せやけど純さんは、うちなんか比べもんにならんくらい、すごい選手やってんで」  豊岡先輩と小梅、ふたりの話をまとめると、こういうことだ。  豊岡先輩は親御さんの仕事の関係で当時通っていた中学で、陸上部に所属していた。そして先輩が3年のとき入学してきたのが、小梅というわけだ。  1年生の小梅は、豊岡先輩に憧れた。憧れて、少しでも近づけるよう、練習に打ち込んだ。  そして1年後、豊岡先輩は卒業。同時に親御さんも転勤となり、先輩は新しい赴任地、すなわちこの町で、貞節女子学園に入学した。  小梅は再び豊岡先輩と同じ学校に通うことを目指して努力を続け、陸上競技に力を入れている学校ならどこでも推薦入学できるような成績を残し、みごと貞節女子学園にスポーツ推薦入学を果たした。 「それやのに、入学してみたら純さんは陸上部におれへんし。訊いてみたら、貞操帯倶楽部ってけったいな部活……あっ!?」  そこで小梅がハッとして自分の口を押さえた。 「いや、あの……けったいな、いうんは言葉のアヤで……」  そして悪びれたようすもなく、ペロッと舌を出した。  そのようすを愛美先輩も豊岡先輩も笑って見ている。  うっかり者で口は悪いが、独特の愛嬌があり、多少の粗相は許してしまえる。おそらくそれが、小海の魅力なのだろう。 「まぁそんなわけで、今は陸上部と貞操帯倶楽部のかけもちやねん」 「そうなんだ……でも、よくかけもちなんかできたね」  陸上部は強豪揃いの運動部のなかでも、特に強い部活で、練習の厳しさで有名。そこがかけもちを認めたことが、意外だった。 「うん、それよ。うちもダメ元で顧問にかけあったら、あっさりOKされてびっくりしてん。でも、あとから知ったけど、それは……」  そこで、愛美先輩が会話に割って入った。 「小海、案ずるより産むが易しってことじゃない?」 「せやけど、それは……」 「そうだ、用事を思いだした。小海、ちょっと付き合ってくれ」  小梅がなおも話そうとすると、豊岡先輩が彼女の手を引いた。 「いややわぁ、純さん。付き合うてくれやなんて……もちろんおっけーですぅ」 「アホか」  そして頬に手を当てての照れたようなポーズを取る小海に鋭いツッコミを入れ、豊岡先輩は部室を出ていった。 「さて……」  豊岡先輩と小梅が連れ立って部室を出て行ってから、愛美先輩が穏やかにほほ笑んで私を見た。 「貞操帯のことだけど……」 「あ……」  言われるまで、忘れていた。  いや、忘れていたわけではないが、4人での会話が楽しくて、まったく気に留めていなかった。  日差しの強い夏の日に干していたデニムのホットパンツを、スカートの下に穿いている感じ。愛美先輩が選んでくれた貞操帯には、その程度の違和感しかなかった。 「どうする?」 「えっ……?」 「貞操帯よ。もう外しちゃう? それとも、着けたまま帰る?」  更衣室に向かおうと立ち上がりかけたところで問われ、言葉を詰まらせる。 (どうしよう……)  優柔不断な私は、決められずに悩む。 『外してもらったほうがいいよ』  私のなかの、理性的な私がささやく。 『話に夢中で気にならなくなるくらいだもん。このまま帰っても平気だよ』  私のなかの、楽観的な私が耳打ちする。  いや、楽観的な私は、多分私の本能だ。  私は本能の部分で、愛美先輩が着けてくれた貞操帯――そのとき私は『着けられた』ではなく『着けてくれた』と考えた――を、外したくないと感じていた。  なぜ、こんな気持ちになるのだろう。  それは、私のなかで愛美先輩の存在が、昨日初めて出逢った人とは思えないほど、大きくなっているからだ。 (たぶん……)  豊岡先輩に出逢ったときの、小海も同じ気持ちだったのだろう。  その気持ちのまま1年間を共に過ごし、豊岡先輩の後を追って他県の学校に進学するほど、想いを強めていったのだろう。 (もし……)  貞操帯倶楽部に入部して、愛美先輩と1年間を共に過ごせば、私もそうなるのだろうか。  わからない。わからない。  そうなってしまうのかも、そうなっていいのかも、わからない。  そんな私に、愛美先輩が助け舟を出してくれた。 「もちろん約束どおり、裕香が望めば今すぐ外してあげる。もしもうちょっと着けていたいと思うなら、このまま帰ってもいい。南京錠の鍵は預けておくから、いつでも外したくなったとき外せばいいわ」  そしてそう言うと、テーブルの上にハートの形のチャーム付きのチェーンが取りつけられた小さな鍵を、テーブルの上に置いた。 『それなら、着けたまま帰ってもいいじゃない』  本能が、私を誘う。 『うん……外したくなったら外せるなら……』  勢いを増した本能の誘いに押しきられ、理性が折れる。 「はい……」  理性を押しきった本能の赴くまま、私は私は愛美先輩に答えていた。 「このまま、貞操帯を着けさせてください」 「どうしよう……変なこと言っちゃったかなあ……」  家に帰って自室に入り、ドアに鍵をかけて、先ほどの自分の言葉を思い出した。 『このまま、貞操帯を着けさせてください』  その言葉は、このまま貞操帯着用を続ける。つまり、貞操帯倶楽部に入部するという宣言にも取れる。 「愛美先輩、勘違いしてないかなぁ……」  つぶやきながら、制服の胸ポケットから生徒手帳と2枚の紙、それからハート形のチャーム付きのチェーンに取りつけられた小さな鍵を取りだす。  身分証つきの生徒手帳は、校則で常時携行が義務づけられているものだ。2枚の紙のうち1枚は、貞操帯を着用して暮らすうえでの注意点をまとめたプリント。もう1枚は愛美先輩の電話番号とメッセージアプリのIDが書かれている。  その番号とIDを生徒手帳のメモ欄に書き写そうと椅子に座りかけて、プリントに書かれていた注意点のひとつを思い出した。 『私たちの貞操帯は毎日着け続けても快適に暮らせるよう作られていますが、素材はきわめて頑丈なステンレス鋼であることを忘れてはなりません。大切な場所への不必要な衝撃を避けるため、慎重な身のこなしを心がけましょう。特に教室の椅子のような、硬いものに腰かけるときは要注意です』  つまり昨日、なにごとにつけ豪胆な豊岡先輩が、座るときだけ慎重だったのは、そういうことだったのだ。  貞操帯倶楽部の椅子のクッションは適度に柔らかいが、そうすることが板についているから、慎重にゆっくり座ったのだ。  そのことを思い出し、先輩の所作を真似てゆっくり勉強机の椅子に座り、生徒手帳を開き、番号とIDを書き留める。  そこで、貞操帯の鍵が目に入った。 「予定どおり鍵をわたしてくれたということは、勘違いしてないってこと……よね?」  そうつぶやいて自分に言い聞かせ、部屋着に着替えるため制服を脱ぐ。  そしてブラとショーツだけの姿になって、姿見の鏡の前に立ってみた。  腰骨にひっかけるように着けた貞操帯は、股上の深い普段使いのショーツに、完全に隠れている。  ピンク系の薄い色だからうっすらと形が浮き立ってはいるが、濃いめの色で、サニタリーショーツのように布地が厚めなら、ぱっと見貞操帯を着けているとわからないだろう。 『私たちの貞操帯は毎日着け続けても快適に暮らせるよう作られている』  まさにそのとおりだ。  違和感が少ないことともあいまって、ともすれば貞操帯を着けていることを忘れてしまいそうだ。 (これなら……)  ずっと貞操帯を着け続けられるんじゃないか。もう貞操帯倶楽部に入部すると、宣言してもいいんじゃないか。  そう考えて、メッセージを送ろうとスマートフォンを手に取って。 「ううん、明日まで時間はある。すぐ決めなくてもいいわ」  理性にかろうじて押しとどめられ、手にしたスマートフォンを机の上に戻した。 『トイレはふつうにできます。ただし、教室の椅子と同じように、慌てて座らないこと。慌てて座らなければいけないほど、ギリギリまで我慢しないこと。小水の勢いが強すぎると、排泄孔の横から漏れることがあります。できれば水流式洗浄機つきトイレの使用を推薦しますが、それがなくても、ペーパーで丁寧に拭き取れば、問題ありません』  試しに自宅トイレでおしっこしてみると、プリントに書かれていたとおり、ふつうに排泄できた。  あまり溜まっていなかったので勢いは弱く、貞操帯本体の溝の直上に少し浮かせて被された金属板の隙間から漏れることもなかった。  そのうえ穴あきの金属板で水流の勢いが消されるから、音漏れの心配が少なくなることは、逆にメリットだ。  水流式洗浄機のビデ機能を使えば衛生面の心配も少ないし、その後乾燥機能を使わずペーパーで拭き取ってみると、綺麗に水分を吸い取れた。これなら洗浄機のない学校のトイレでも平気だろう。  ともあれ、これでトイレの小には問題ないことがわかった。 『入浴もふつうに行ってください。貞操帯は錆びる心配のないステンレス鋼製です。また当倶楽部では南京錠も屋外用の水濡れに強いタイプを使用しているので、安心して入浴できます』  プリントの記述を信じて、次は入浴してみることにする。  替えの下着を持って、バスルームへ。  脱衣場兼洗面室で部屋着のTシャツとハーフパンツを脱いで、ブラとショーツも外す。  そして貞操帯一丁の姿を、洗面台の鏡に映してみた。  私の股間は、貞操帯――黒いシリコーンゴムで縁どりされた、銀色に輝く金属製のT字帯で、封印されている。  その姿を見ていると、なんとなくいたたまれない気持ちになり、視線を逸らしてバスルームに入った。 「ふう……」  と、ひとつ息を吐いてシャワーのコックをひねる。  ボディシャンプーを泡だてて、身体を洗う。 (貞操帯の下も、洗ったほうがいいよね?)  とはいえ、貞操帯は肌にみっちりと張りついている。  横ベルトの位置は腰骨がいちばん出っ張っているところのすぐ上。だから、今ある位置から下にずらすことはできない。  貞操帯より上の身体はウエストにかけて細くなっているが、縦の金属板も股間に張りついているから、上にもずらせない。  ボディブラシやタオルで洗うのはもってのほか。頑張ってギリギリ差し込めた指1本を使って、無理やり作った隙間に流し込んだ泡で洗う。  まずは正面の南京錠の下から、横ベルトの下を左右別々に。手を後ろに回した状態から、お尻のほうへ。  しかし、前側の金属板の下を洗おうとして、おしゃもじ形に広がった部分に阻まれた。  そしておしゃもじ形の板だけなら、割れめそのものは幅1センチほどの溝から露出しているはずなのだが、私の貞操帯にはもう1枚、南京錠で金属板が取りつけられている。  その金属板に無数に開けられたおしっこ排泄用の穴のひとつひとつは、針で突いたような小さなもの。  そのため、上からも横からも下からも、女の子の大切な部分に指が届かないのだ。  隙間に大量の泡を流し込み、その泡をシャワーで流せば、洗浄という点では問題ないだろう。でも、けっして自分のそこに触れることはできない。  そのことに愕然として、重大な事実に気づいた。  服を着ていたら、服を着てなにかに熱中していたら、まったく気にならない。歩くことも、座ることも、まったく問題ない。トイレもふつうにできる。入浴も可能。今のところ、ふだんの生活には、ほとんど支障をきたさない。  でも女の子の大切なところに、いちばん感じるところにだけは、けっして触れられない。間違いなく、私の股間は貞操帯に支配されている。  愛美先輩が着けてくれた、愛美先輩の貞操帯に――。  そう思った瞬間、熱いシャワーを浴びているにもかかわらず、背すじがゾクリとした。  その直後、ズクンときた。  貞操帯の厳重に封印された女の子の大切なところの奥に生まれた熱が、粘りけのある液体となり、割れめから溢れだす。  その粘液がいったん貞操帯にせき止められ、少しずつおしっこ排泄用の小さな穴から流れだす。  わかる。知っている。これは、あのときと同じだ。  愛美先輩に測定されながら、メジャーを濡らしてしまったとき。  愛美先輩の手で、貞操帯を着けてもらっているとき。  そのときと同じ状態に、私の肉体は陥っている。  とはいえ、肉体の火照りは、そのときより小さい。シャワーの温度を下げ、ほとんど冷水に近い飛沫を浴びているうち、火照りは治まってきた。  そのことで胸をなでおろし、私はシャワーを止めた。 (あれは……)  なんだったのか。  髪を乾かし、パジャマに着替えながら考える。  割れめの奥が熱くなり、粘液が溢れだす。それは、女の子が好きな人との淫らな行為を期待したときの、肉体の反応だ。  そのことは知っている。正直、そうなったのは初めてじゃない。  しかし1日に3回も、そうなったことはない。 (私、どうしちゃったんだろう……?)  ベッドに潜り込み、明かりを消して、さらに考える。 (もしかすると、貞操帯のせい?)  貞操帯を装着している違和感は少ないが、皆無ではない。硬い金属にそこを押しつけられ、知らず知らずのうちに刺激されていたのかもしれない。 (でも……)  その可能性は、きわめて低いだろう。  もしそうなら、着けているあいだじゅう、もちろん今も発情しっ放しだろう。それに、測定のとき同じ状態になったことの説明がつかない。 (だったら、どうして……?)  眠気を感じながらほかの理由を探るうち、ひとつの可能性に思い至った。  サイズを測定してくれたのは、愛美先輩。  貞操帯を着けてくれたのも、愛美先輩。  お風呂でそうなったとき考えていたことは、愛美先輩と先輩が着けてくれた貞操帯のこと。  そして、女の子がそうなるのは、好きな人との淫らな行為を期待したとき。  つまり、私は愛美先輩のことを――。 (まさか、女の子どうしだよ? さすがにそれは発想が飛躍しすぎ)  夏用の薄い布団を被って苦笑しながら、やがて私は眠りに落ちていった。

Comments

どすどす

全裸よりは着ている方が好きな趣味の者としては、下着等にかすかに感じられる貞操帯の気配、大好きです(実用的にも貞操帯+下着がよさそうですね)。 貞操帯着用を描写する作品では、家族・友人等にバレないか気にするといった定番?がありますが、公然と「貞操帯倶楽部」が存在する世界観においてはどうなるのか。入校を勧めたという叔母も含め、家族・親戚・友人の反応、それによる主人公の気持ち等が気になります。

masamibdsm

ありがとうございます。 そのあたり、お話したいのは山々ですが、これからの展開にも影響してくる部分ですので、ここで明かすのは控えさせてくださいませ。