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当たり前のように、身近にあるものー。

それを、永遠のものだと錯覚してしまう。


失ってみて、初めて、

その幸せが身近にあったことが

どんなに幸せなものだったのかを知るー。


小さいころ、ランドセルを背負って

駆け抜けた通学路ー

その途中の道にある家、俺が可愛がっている犬がいた。


いつも何気なく可愛がって

何気なく立ち去って行くー


そこに”犬”がいるのが、当たり前だと思っていた。


これからもずっとー


でも、違った。

その犬は、ある日、突然いなくなった。


死んだのだー。


いつも、そこにいた犬が、いないー。

何気なくいつも可愛がっていた犬が、もうそこにはいないー


失ってみて初めて、人は気づく。

”当たり前”など、そこにはないことをー。


自分が当たり前のように存在すると思っていたものはー

そうではないことを。


「--来年も、一緒にここに来ようね」


そう、あの笑顔もー。


幼馴染で、大切な彼女でもあった明美の笑顔もー

あの日、突然消えてしまったー。


明美の笑顔が、当たり前のように存在していた日々はー

当たり前などではなく、奇跡だったのかもしれないー。


・・・・・・・・・・・・・・


倉本 康成

2年B組生徒。彼女が憑依されてしまう。


藤森 明美

2年B組生徒。お茶目な性格。憑依されてしまい…?


柳沢 零次

2年B組生徒。康成の親友。


篠塚 沙耶香

2年C組生徒。生徒会長。同じ中学の出身。


哀川 裕子

2年B組生徒。陰険なお嬢様


長谷部 勝

2年B組生徒。クラス一のワル。


・・・・・・・・・・・・・・


「---なに…?」

別人のようになってしまった明美が、

康成のほうを見て、舌打ちするー。


「----…」


「--来年も、一緒にここに来ようね」


明美の笑顔をい思い出すー


その笑顔は、もう、ここにはないー。


あの日、きみの笑顔は消えてしまったからー…。



1週間前ー


一緒に帰る約束をしていた康成は、

明美がいつまで経っても

昇降口に来ないことを心配して

LINEを送ったー。


だがー

明美から返事はなかった。


図書委員の仕事をしていると言っても

少し遅すぎる気がするー。


そう思った康成は、図書室へと向かうー。


図書室の前に到着した康成。


図書室の電気は既に消えている。


「---あれ…」

明美は図書当番で図書室にいるはずだー。

だが、電気が消えている。


入れ違いで明美が昇降口のほうに

行ってしまったのかもしれないー


そんな風に思いながら康成は

図書室の中をのぞくー。


図書室の中にはー

一人の女子生徒が背を向けて立っていたー


「--」

康成は図書室に入ろうと手をかけたー。


その時だったー


「あはははははははは♡

 これで、これでこの女は…

 くくくく…あぁ…最高!」

明美が一人で何かを呟いている。


「--明美?」

康成はただならぬ雰囲気を感じて

図書室の扉から手を離して、

中を見つめるー


「あぁぁ~憑依できるなんて最高だぁ…♡

 えへへへへ…へへへへへへ♡」


明美が手を前のほうにやって

何かをしているー


背中を向いているので、

何をしているのか、図書室の外からでは見えなかったがー


なんとなくー

胸を揉んでいるように見えたー


「--明美…?何をしてるんだ…?」

康成は、何が起きているのかわからず、

考えるー。


「--憑依…?そ、そうか」

康成は呟いたー


明美はきっと、自分が来たのに気づいていて、

また自分を驚かせようとしているのだろう、と

そう思った。


明美は、まじめな子だが、お茶目な性格で

彼氏である康成にもよく、ドッキリを

仕掛けてきている。


「--その手には乗らないぞ~」

康成は図書室の外から小声でつぶやく。


明美がー

写真を手にして呟く。


「この人がわたしの彼氏…」


「--こいつは、わたしの彼氏じゃない」


「-真面目にやってるなんてばからしいー」


呪文のようにいろいろと呟いていく明美ー


そしてーーー


「--うっ!?」


明美がうめき声をあげると、

信じられないことにー

明美の中から男子生徒が出てきたのだー。


まるで、明美に憑りついていた幽霊のように。


「---!?」

外から覗いていた康成は驚く。


”人間の身体から人間が出てきた”のだー。


「--え…」

明美が図書室の中で一人、変な行動をしていたのは

康成がここにいることに気づいていて、

ドッキリを仕掛けているのだと思っていたが、

違う気がするー


明美から出てきた男子生徒は覆面のようなものを

被っているー


そして、虚ろな目で立ったままの明美の

頭をなでながらその男は呟いたー


「憑依でお前の思考を塗りつぶした…


 これでお前は…今日から新しい明美として

 生まれ変わるんだ。」


男子生徒が呟くー


そしてー男子生徒は、明美の胸のあたりに手を触れたーーー


「--おい!何してる!」

康成が図書室の中に飛び込む。


覆面の男子生徒が驚いて振り返るー


「--明美に何をしてるんだ!」

康成が覆面の男子生徒のほうにとびかかる。


「---チッ!」

覆面の男子生徒が舌打ちをする。


康成とその男子生徒がつかみ合いになる。


「お前…!今、明美に何をしてた!?」

康成は覆面の男子生徒を図書室の机に押し倒して叫ぶ。


「--へへへへ…もう遅い」

覆面の男子生徒が笑ったー

覆面をしているからかー

何か細工しているのか、

その声は不自然な声だったー。


「----おい!明美!大丈夫か?」

康成が、ぼーっと立ったままの明美のほうを見て叫ぶ。


だが、明美は返事をしない。


「明美に!何をした!」

もう一度叫ぶ康成。


覆面の男子生徒が康成の足を引っかけて

康成のバランスを崩すー


その隙に康成から逃れた覆面の男子生徒は

図書室の出口のほうに向かっていく。


「おい!待て!何をしてた!?言え!」

康成が叫ぶ。


だがー

覆面の男子生徒は康成のほうを見つめて

指を突き立てると、そのまま走り去ってしまったー


「くそっ!」

康成は、覆面の男子生徒を追うのをやめて

明美のほうに駆け寄る。


「大丈夫か?明美!」

康成の言葉にも反応しない明美ー


意識が飛んでいるかのようだー。


「--くそっ!どうなってるんだ!?」

康成がふと、図書室のカウンターを見る。


そこにはー

クラスの男子生徒で、

不良生徒の長谷部 勝の写真が置かれていたー


「--今のは、長谷部なのか?」

康成が図書室の出口のほうを見るー


さっきの覆面の男子生徒は、誰だー?

なぜ、ここに不良生徒・勝の写真が?


「う…」

明美が動き出したー

立ったまま気を失っていた状態の明美が

意識を取り戻したのだ。


「--明美!よかった!」

康成が言うと、

明美は、康成のほうを

不愉快そうな目で見た。


「----…なに?」

明美が舌打ちをする。


「え…?」

康成は明美の態度に違和感を覚えた。


「--だ、、大丈夫だったか?

 ほら、さっき変なやつ、ここにいただろ?」


康成が言う。

明美が何をされていたのか。

乱暴をされていたのか。

何も分からない。


とにかく今は明美を安心させてあげたい。


「--変なやつ?」

明美が鼻で笑ったー


「---変なやつは、あんたでしょ?」

冷たい口調で言う明美。


そして、明美はそのまま図書室から立ち去ろうとする。


「---え…」

康成は唖然としていたー


明美の豹変に驚きを隠せないー


「--あ、、、あ、、そ、、そっか、

 いつものドッキリか!」

康成が笑いながら言う。


さっきの覆面の男子生徒は

恐らく親友の零次なのだろう。

明美と零次が結託して

ドッキリを仕掛けてきている、と考えれば

合点がいく。


零次のやつも、誕生日プレゼントとか言って

人にハートのチョコ渡してくるようなやつだし、

ドッキリ好きな感じだ。


「---いや~!また引っかかっちゃったな~!

 明美のドッキリに」

笑いながら言う康成。


「ーーっと、そうだ、さっきのコレだけどさ」

昼休みに、明美から誕生日プレゼントに渡された

謎のキラキラした球体のようなものを鞄から取り出す。


「--ひ・み・つ!」


昼休みー

明美は、これが何なのか教えてくれなかったー


それを聞こうと、康成は明美に近寄ったー


しかしー


「キモイ!近寄るな!」

明美が声を荒げたー


「--あ、、、あけみ…?」

驚いてしまう康成。


康成のほうを見る明美の目は

敵意に満ちていた。


「---な、、何があったんだよ…?」

康成は震えながらそう聞いたー


明美とは小学生時代からの付き合いだー

こんな態度、今までに一度もー


「--いつまでも幼馴染面しないで貰える?

 あんたのそういうところが、わたし、

 死ぬほど嫌いなの!」


明美が声を荒げるー


「--ちょ、、ちょ、ちょっと待ってくれ!」

康成が言う。


「--な、なにがあったのかわからないよ!

 俺、何か悪いことしたか?」

康成の言葉に、

明美は舌打ちしてから答えたー


「--とにかく、ウザイもんはウザイのよ!」

吐き捨てるように言うと、

明美は、そのまま図書室の扉を乱暴に閉めて

立ち去ってしまったー


「あ、、明美…?」

康成は困り果てた様子で立ち去って行く明美を

見つめたー


・・・・・・・・・・・・・・


帰宅してからー

明美にLINEを送ってみても返事がないー


「--いったい…」

康成は困り果てた様子で

スマホを見つめるー


「あぁぁ~憑依できるなんて最高だぁ…♡

 えへへへへ…へへへへへへ♡」


図書室の外から見ていた時に

明美が呟いた言葉を思い出す。


「憑依…」

康成は気になってネットで検索するー


当然、創作物の憑依しか出てこないー。


「---まさかな…」

現実で憑依されるなんてこと、あり得ないー


しかしー

康成は、明美から覆面の男子生徒が出てきた光景を見ていたー


あれは、いったいー…


「---ねぇ、さっきからお兄ちゃん、ため息ばっかついてるけど?」

妹の夏帆(かほ)が苦笑いする。


「え?あぁ、ごめん。

 ちょっとさ…いろいろあって」

康成が言うと、

夏帆は笑う。


「あ~!彼女さんと喧嘩したんでしょ~!」

夏帆が笑う。


「--お兄ちゃん、デリカシーないからね~~~!

 きっと彼女さんぷんすかなんだよ~あはは」


そんな風に言う夏帆のほうを見て

康成は呟くー


「-ーうるさいなぁ」

とー。


康成はゲラゲラ笑っている夏帆を無視して

自分の部屋に向かったー。


「---ぷんすか…か」


それならいいけど…と、

康成は考えるのをやめて、ベットに飛び込んだ。


明日ー

機嫌を直してくれていればいいがー。


しかしー

そんな考えは甘かったー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「---うざい!うざい!うざい!」

明美は、自分の部屋にある

康成の写真や、康成に関係するものを

怒り狂った様子でごみ袋に放り投げていたー


「---はぁぁぁぁ…」

明美が机の前で頭を抱えるー


なんだかイライラする

真面目にやっていた自分が馬鹿らしいー


「---そうよ…

 真面目にやるなんて…馬鹿のすることじゃないー」


憑依されて、思考をすっかり変えられてしまった

明美はそう呟いたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


康成が登校すると、

廊下ですれ違った

生徒会会長の沙耶香に声をかけられた。


「---何かあったの?」

沙耶香の第1声はそれだった。


「---え?」

康成が言うと、

沙耶香は言いにくそうに答えたー


「--明美……なんか……その…」

沙耶香はそれだけ言うと、

康成のほうを見て呟く。


「喧嘩でもした??」

と、心配そうにー


「--そ、、それって、どういう…?」

康成が困り果てた表情を浮かべると、

沙耶香は申し訳なさそうに呟くー


「--教室に…行けば分かるわ」


とー。


康成は走るー


明美に何があったのかー


全く分からないー



そしてー

教室にたどり着いた康成は、

明美の姿を見て驚いたー


黒髪は、茶色に染まりー

短くなったスカート、

濃くなったメイクー

学校に不釣り合いなアクセサリー


変わり果てた明美がそこにはいたー


「----なに?じろじろ見ないでくれる?」

明美が敵意に満ちた声で言う。


周囲がざわめいているー

康成と明美の仲の良さは周囲も知っているー


「---じろじろって…

 い、いったいどうしたんだよ?」

康成が明美に言うと

明美は答えたー。


「--あんたに話す必要なんてない」


それだけ言うと、明美は

不良男子・勝の側に歩いていき、

勝のほうを見てほほ笑んだ。


「--わりぃな」

勝が笑う。


「--え」

困惑する康成に向かって、不良生徒の勝が言い放ったー


「明美は、今日から俺の彼女だー」


と。



明美の笑顔はーー

当たり前のように存在していた

大事な人の笑顔はー

俺の手から零れ落ちたーーー



③へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


長編小説第2話でした~!


憑依されて変えられてしまった彼女とのやり取りや、

誰が彼女に憑依したのか、などなど、

色々な要素をお楽しみくださいネ~!


次回もお楽しみに~!

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