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姉の綾がふと目を覚ますー。


6時ー。


今日は、弟の直人の高校にいる不良生徒・

辻上 丈と話をつける日だ。


姉としてー

弟を守るためにー


「---……」

綾が起き上がって深呼吸をするー。


丈という男は危険な男だ。

女である自分にも手を出してくるかもしれないー。


もちろん”女だから殴られない”なんて

甘い考えは持っていない。

力で勝とうなんて思っていない。


なんとかして、言葉で丈という不良を説得してみせるー


綾はそんな風に思いながら、

ふと、弟・直人の部屋を覗いた。


しかしー

そこに、引きこもっているはずのー

この時間はいつも寝ているはずの直人の姿はなかったー


「え…直人?」


綾は、知らないー

入れ替わりで一人二役をしてまで

自分を守ろうとした姉の姿を見て

心を打たれた直人が、

綾が寝ている間にー

早朝に丈を呼び出したことをー


「---」

直人の部屋を見まわした綾は驚くー


直人の趣味のゲームや

フィギュアが明らかに減っているー


「まさか…家出!?」

綾は焦りの表情を浮かべたー


・・・・・・・・・・・・・・・


「--おぅ。まさかテメェから呼び出されるとは思わなかったぜ。

 なんのつもりだ?」

丈が言うと、

直人は、丈に向かって叫んだ。


「もう、二度と俺に手出しはさせないー

 そして、姉さんにも!」


そこにはー

もう、何事からも逃げようとしていた直人の姿は

なかったー


姉を守るために、

決意のまなざしで丈を睨みつける直人。


「--調子に乗るんじゃねぇぞ」

丈が鋭い目つきで直人を睨みつけた。


人の気配のない廃墟になりかけている広場。


そこで対峙する二人。


「--調子に乗っているのは、お前だ」


「ア?」

丈が不満そうな声を出す。


「俺は今までずっと逃げていたー

 でもさ…よくよく考えてみたら

 俺は何も悪いことをしてない。


 たばこ吸ってたのは、先輩のほうだし、

 それを先生に報告したのだって、

 先生が”何か知ってるやつはいないか?”って

 クラスのみんなに聞いてきたからだし…


 それを逆恨みされるいわれなんてないし、

 姉さんを傷つける、なんて脅される筋合いも、

 もう学校に来るな!なんていわれる筋合いも、

 何もないんだ!


 俺は間違ってた!

 学校から逃げる必要もーー

 怯える必要もなかったんだ!


 姉さんを守るためにって

 言い訳して、

 俺は自分が学校に行きたくないのを

 姉さんに理由付けして、逃げていただけだったんだ!」


直人は叫んだー。

元々人との関わりが得意ではない直人が、

こんなにしゃべったのは、正直、久しぶりだー


けど、

それでも、

もう逃げないって決めたー


姉さんが、あんなに自分のことを

思ってくれているならー

自分もーーー

姉さんを守らないとー


そう思ったからー


「調子こいてんじゃねぇぞ!」

丈が直人の胸倉をつかむ。


「-----」

胸倉をつかまれても直人は丈のほうを

睨むようにして見つめているー。


「--アア??その目はなんだぁ?」

丈が叫ぶ。


「--もう、、俺にも…

 姉さんにも…近づくな!」

直人は叫んだー


怖い。

足がすくんでいるー


昔から、友達は少ない方だし、

こんな風に喧嘩をしたこともないー


けれどー

そんな自分にも、

譲れないものがあるー


「--アアアア?」

丈が怒りの形相で拳を握りしめたー


そして、直人を殴りつけるー


直人は殴られながらも思うー


”姉さんー

 俺は、負けないよー”


とー。


「---おらぁ!少しは反撃してこいよ!」

丈が叫ぶー


「---」

顔から血を流しながら、

それでも直人は、丈を睨みつける。


「---俺は…何もしない」

直人が言う。


「ア?」

丈が間抜けな声を出す。


「---俺はあんたとは違う!

 先輩みたいに、なんでも暴力で解決しようとするような、

 そんな人間にはなりたくない!」


「--調子こくんじゃねぇぞ!」

丈が怒り狂った様子で、さらに直人に殴る・蹴るの

暴行を加えるー


「---……姉さん…」


直人が呟くー


これで、、

これで、いいー。


俺はー

負けない。


やがてー

パトカーのサイレンの音が聞こえてくるー


「--!?」

丈が表情を歪めるー


直人は、殴られながらも、警察に通報していたー


”110”と画面に表示されているー


「--!!」

丈が直人から手を離す。


「テメェ…!」


駆けつける警察官。


「おい!何をしている!」

ボロボロになった直人と、

直人を殴っていた丈を見る。


丈が笑う。


「こいつが、こいつが最初に…」


だがーー


直人は、ポケットからボイスレコーダーを取り出したー

録音された音声は、法的には意味のないものかもしれないー


けどー

それでも、少しでも”勝つ”可能性を上げるためー


ボイスレコーダーから、最初から最後までの音声が再生されるー


「--ち、、違う!俺は!こいつが!!!

 違う!」


丈は取り押さえられて連行されていくー


このぐらいじゃ、どうせすぐに出てくるー


でもー

それでもー


「---はぁぁ…」

直人は安心した様子でその場に膝をついたー


警察官に支えられながら直人は笑うー


自分の好きなゲームやフィギュアを昨日、

売りに行ったー

ボイスレコーダーを買うためー。


これを、自分の高校の先生にも提出するつもりだー。

丈は、退学になるだろうー


また、仕返しをしに来るかもしれない。

でも、その時はー

また、強い気持ちで、彼に立ち向かうー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「----!」

直人を探しに行こうと、出かける準備をしていた綾ー


そこに、直人が帰ってきた。


顔がボロボロだー


「な、、直人!?何があったの?」

綾が言うと、

直人はにっこり微笑んだー


「全部終わったよ、、姉さん。

 もう、安心してー」


その言葉で、綾は、弟の直人が、

自分の代わりに丈と会ってきたことを悟るー


そして、直人を静かに抱きしめて、

「もう、心配させないで…」と優しく

直人を撫でるのだったー



しばらくすると、直人が口を開いた。


「もう一つ、やらなきゃいけないことがあるんだー」


直人はそう言うと、

”入れ替わりたい”と言い始めた。


「何よ、またエッチなことするの?

 わたしが直人の身体で学校に行ってる間、

 いろいろしてたでしょ?」

綾が苦笑いしながら言うと、

直人は「なんだ…お見通しだったんだ」と顔を赤らめた。


そしてー

直人はほほ笑む。


「違うよー。

 姉さんのためになることをするんだー」


・・・・・・・・・・・・・・・・


綾と入れ替わった直人は

綾として学校に向かうー


「スカートで外に出るのははじめてだなぁ~…

 なんか…何も履いてないみたいっていうか…

 ちょっと違和感」


綾(直人)はそんな風に呟きながら

学校に向かうー


わいわいと賑わう教室ー


話しかけてくる女子。


女子と話した経験のない綾(直人)は、

顔を赤らめてしまう。


”姉さん…人気者なんだなぁ”


そんな風に思いながら

綾(直人)は、

綾の彼氏である淳史を昼休みに呼び出した。


そしてーー

全部、打ち明けたーー


姉の綾が、自分の代わりに

自分と入れ替わって、

夜も学校に行っていたことー

自分のせいで、綾は、

いつも早く帰らなきゃいけない状態になっていてー

そのせいで、彼氏との時間も取れなかったことをー


綾の身体で土下座する綾(直人)。


「--お願いします!

 姉さんと…姉さんのことを…もう一度…!お願いします」

綾(直人)は何度も叫ぶー


「------」

彼氏の淳史がそんな綾(直人)を見ながら呟く。


「-弟と入れ替わっていた…なんて、

 そんな話、信じると思うか?」


淳史が失笑する。


「-----」

綾(直人)は土下座を続けながら

祈るような気持ちで淳史の反応を待つ。


「そんな話、普通、信じるわけないだろ?」

淳史が言うー


「----」

綾(直人)は顔を上げるー


”やっぱりー

 やっぱり、信じてもらえるわけないか”


とー。


姉さんが彼氏と別れる羽目になったのは

自分のせいだー


だからー

なんとか、

なんとかしてあげたかった


でもーー


「----!」


顔をあげると、

彼氏の淳史は笑っていたー


「えーーー…」


「---普通は、、な。

 でも、俺はバカだからさ…


 信じちゃうんだよな…

 そういうの」


そう言うと、淳史は

綾(直人)に手を差し出したー


「---…明日、綾とも話してみるよ」

淳史はそう言うと、

綾(直人)の手を握って

綾(直人)を立ち上がらせたー


「--でも。

 2つ、約束を守れよ」


淳史が言う。


「---え」

綾(直人)が返事をすると

淳史は続けた。


「一つは…

 お姉さんの身体で…綾の身体で

 変なことはしないこと。


 もう一つはー、

 自分が悪いと思ってるならー 

 お姉さんの身体で、じゃなくて、

 自分の身体で謝りに来ること」


それだけ言うと、

淳史は、笑いながら”約束できるか?”とほほ笑んだ。


「--もちろんです」

綾(直人)は、直人よりも一つ学年が上の淳史に対して

そう返事をしたー


綾(直人)がありがとうございました、と呟いて

淳史の前から立ち去って行くー



そこにー

一部始終を見ていた、綾の親友で

綾から淳史を奪おうとしていた富治子が姿を現す


「あんな言葉…信じるの…?」


とー。


淳史は「見てたのかよ」と呟くと、

苦笑いしながら答えたー


「----俺にも姉さんがいるからさー

 なんとなく、、、本当に中身が弟な

 気がするんだよ。


 なんとなく、だけどさー…」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


夕方ー


「ただいま」

綾(直人)が帰宅する。


直人(綾)が「おかえり」と出迎える。


「---姉さんの彼氏さんとちゃんと、

 話してきたよー。


 俺のせいで、ごめんな…


 俺、姉さんが一人二役してるの

 見て、思ったんだ。


 俺も逃げちゃいけないって」


綾(直人)の言葉に

直人(綾)は嬉しそうに「ありがとう」

と、ほほ笑んだー


・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


綾は、入れ替わり薬を処分したー。


もう、これは、必要ないからー。


「---いってきます」

綾が学校に向かうー


そしてー

淳史と話をするー


「何も知らなくて、ごめんなー」


淳史が申し訳なさそうに言う。


そんな淳史に、綾は

「ううん、大丈夫」と嬉しそうに返事をしたー


綾と淳史の絆は、再び取り戻されたー


・・・・・・・・・・・・・・・


放課後ー


淳史は下校中に知らない男に声をかけられたー


綾の弟・直人だった。


「昨日の約束通り、謝りに来ましたー」


「--そっか」

淳史は優しく笑う。


「--俺のせいで、いろいろー…」


そこまで言うと、淳史は、

直人の頭をポンポンと撫でた。


「--姉さんにあんまり苦労かけないように、

 頑張れよ」


それだけ言うと、淳史は手をあげて

そのまま立ち去って行ったー


「はい!」

直人を頭を下げて、

そのままー向かう。


自分の高校にー


もう、逃げないと決めたからー


これからも、

姉さんに守られることはあるだろうー


けれど、

その分、守られた分だけ、

自分も姉さんを守ってあげるー


そう、心に誓ってー



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


一人二役お姉ちゃんの完結編でした~!


一人で二人分、いろいろやるのは

頭の中、ごちゃごちゃになっちゃいそうですよネ…!


でも、最後は無事にハッピーエンドになりました!


お読み下さりありがとうございました!!

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Comments

葉月/リーフ

最高に素敵な話でした 入れ替わって頭の中ごちゃごちゃになるから女の子姿でも男の子の口調とか出たり女の子を性的に思ったりなど男子としての感性が芽生えたりするの好き(逆も然り) 後半とかラストもいい終わり方でした この2人は幸せになってほしい

無名

リーフ様~!ありがとうございます~!☆ 楽しんで下さって嬉しいデス~! 二人とも、幸せになってくれるといいですネ~!