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穏やかな朝ー

小鳥のさえずりが聞こえるー


だがー

拓真は放心状態だった。


何もする気が起きないー


目の前にはーー

”皮”になってしまった彼女の帆乃香ー。


帆乃香は、動かないー

微動だにしないー


「帆乃香…」

拓真は、皮になってしまった帆乃香を

見つめながら涙をこぼすー。


帆乃香からの返事はない。


「本当に人間が着ぐるみになるわけないでしょ~!」


帆乃香の言葉を思い出すー


「--……帆乃香…ごめん」

拓真は、皮になってしまった帆乃香を

見つめながらそう呟くー


軽い気持ちだったー

こんな結果になるなんて想像していなかった。


人を皮にすることができるスプレー。

そんなもの、あるはずがないと、そう思っていた。

それがまさか、こんな結果になるなんてー。


♪~


インターホンが鳴る。


「---!!!」

拓真は表情を歪めたー


”この皮を今、見られるのはまずい”


とー。


慌てて帆乃香の皮を押し入れの中に隠すと、

玄関のほうに向かう拓真ー


拓真の家にやってきたのはー

幼馴染の優姫だった。


「昨日誕生日だったでしょ?

 プレゼントあげようかと思って~!」

笑う優姫。


「あ、ありがとう」

顔色悪いまま拓真がプレゼントの

包みを受け取って、そう答える。


「あ、そういえば、昨日はやっぱり

 帆乃香ちゃんといっしょだったりしたの~?」

からかうようにして言う優姫。


いつもと何も変わらない優姫。


「あ、いや、昨日は…」

拓真は元気なくそう答えた。


「そ~いえば、拓真の家に来るの、久しぶりだなぁ~」

優姫が笑いながら拓真の部屋の中を見つめるー。


うろうろしながら優姫が呟く。


「--あれれ?女の子の髪の毛!」

床に落ちていた帆乃香の毛を見つける優姫。


「ね~ね~!やっぱり昨日、いたんでしょ?

 帆乃香ちゃん」


何も知らない優姫は、笑いながら言う。


「--…・・・」

拓真は返事をしない。


「--あ、もしかして、喧嘩でもしたの?」

苦笑いする優姫。


「---あ~やっぱり、

 なんか今日の拓真、元気ないもんね…

 さっきから全然ー


「--うるさい!!!」

拓真は大声で叫んだ。


びくっとする優姫。


「---……」

拓真もはっとした表情を浮かべる。


普段、決して声を荒げることのない拓真が

突然声を荒げたことで、優姫はびっくりとしているー


「---ご、、、ごめん」

拓真は我に返ってそう呟く。


「--わ、、わたしこそごめんね。

 なんだか邪魔しちゃって」

優姫は、足早に立ち去って行ってしまったー


「---…はぁぁ…」

拓真はその場で、しゃがみこむー


「どうすればいいんだ、俺ー」


どんなにー

どんなに待っても、

皮になってしまった帆乃香は動かないー


これではー

彼女のことを殺してしまったも同然だ。


「--」

押し入れを開くー

帆乃香は皮になったままー。


もしー

もしも、この皮になった帆乃香を

身につければー

自分が帆乃香になってしまうのだろうかー。


「---帆乃香…頼む…

 戻ってきてくれ…」

拓真は、祈るようにして帆乃香に

語り掛けたー。


翌日になっても、

帆乃香は戻らなかった。


抜け殻のように大学に行く拓真ー


「---ねぇねぇ柏木くん」

拓真に女子が話しかけてくるー。


「--帆乃香と連絡がつかないんだけど、

 何か知ってる?」


「--いや」

拓真は暗い表情でそう答えたー


大学では、帆乃香を心配する声に

満ち溢れていたー


当たり前だ。

帆乃香が、無断で大学を休むことなんて

なかったのだからー。


帆乃香を心配する声がー

まるで、拓真を責めるような声に聞こえるー


拓真は思わず耳をふさいだー。


「----」

その様子を幼馴染の優姫は、

複雑そうな表情で見つめていたー


・・・・・・・・・・・・・


「--お兄ちゃんー」


拓真が帰宅すると、

帆乃香の弟・健介が、拓真の家の前に

来ていたー


「お姉ちゃん…全然帰ってこないよー…

 どこ行っちゃったんだろう…」

健介が心配そうに呟くー


帆乃香は実家暮らしだ。

家族も捜索願を出していると聞いたー。


「---…」

拓真は悲しそうな表情を浮かべて

健介を撫でるー。


「俺が、必ず、見つけるからー。

 心配かけてごめんな…」

拓真には、それしか言うことはできなかったー


「お姉ちゃんは、お兄ちゃんの家に行くって言って

 いなくなったんだ!

 お姉ちゃんを返せ!返せ!」


健介が叫ぶー。


「---ごめん」

拓真には謝ることしかできなかったー


”帆乃香は皮になってしまった”なんて

死んでも言うことはできないー

自分のことを”お兄ちゃん”と呼んで

なついていた健介に、つらい思いを

させたくないー。


家族を失う苦しみは、

誰よりも知っているつもりだからー


交通事故で、母と父が

同時に死んでしまったと聞いたあの時の

ことは、いまでも、決して忘れないー。


「---ごめん。。ごめんな」

拓真はそう言うと、健介が落ち着いたのを

見計らって家の中に入ったー


帆乃香を心配する大学の仲間たちー

お姉ちゃんを心配する帆乃香の弟・健介ー

もちろん、帆乃香の両親も同じだろうー


コンコンー


玄関がノックされる。

拓真が出ると、そこには

ふたりの警察官がいたー。


「少し、お聞きしたいことがあるのですがー」


警察官たちの話はー

帆乃香が行方不明になっている件だったー


”疑われている”


拓真はそう感じたー。

帆乃香の最後の足取りは、拓真の家なのだ。

疑われるのは当然だー

それにー

帆乃香を皮にしたのはー

帆乃香を殺してしまったのはー

自分なのだからー


「---また来ます」

警察官たちはひとまず帰っていくー


家の中で拓真は絶望していたー


彼女を失いー

周囲を悲しませてー

そしてー自分が疑われているー

このままでは、逮捕されるかもしれないー


・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー

拓真は大学を休み、遊園地に向かったー


あの日ー

”皮にするスプレー”をくれた

遊園地の係員・名坂と会い、

話しを聞くー。


帆乃香を元に戻す方法を聞くー。


それしかないと思ったー。


けれどー

探しても、探しても、名坂の姿はなかったー。


「---名坂さん?」

遊園地の案内所で、名坂という係員に

会わせてほしいと尋ねた拓真ー


しかし、その返事は信じられないものだった。


「名坂というスタッフは、うちにはおりませんがー」


ーーーー!?!?!?


拓真は驚くー

あの日、拓真に”人気のドッキリグッズ”と称して

皮にするための道具を渡してきた男には

確かに名札がついていたー

そして、そこには”名坂”と書かれていたはずー


あいつは、遊園地の関係者では

なかったのかー…?


拓真はとぼとぼと帰宅する。


「---」

部屋の中心には、皮になったままの帆乃香ー


拓真は、帆乃香の皮の前で

涙をこぼすー。


帆乃香がいなくなったことで

みんな悲しい思いをしているー


あの時ー

皮になるのが、自分ならよかったのにー。

自分が皮になっても

悲しむ人はいないのにー。


そんな風に思いながら帆乃香の皮を見つめるー


自分には両親はもう、いない

健介のような弟もいないー

大学での交友関係はあるが、帆乃香ほど

広いわけでじゃないー


自分が、消えればよかったー


拓真は、頭を抱えながら

涙をこぼすー


帆乃香の笑顔が脳裏に浮かぶー。


拓真は、一人、泣き続けたー


そしてー

帆乃香の皮に手を伸ばすー


「--帆乃香……」

拓真は、あることを思いついていたー


それは…

”拓真が死ぬこと”


だったー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


1か月後ー。


とある大学生の葬儀が行われていたー


遺体が見つかったわけではないー

けれど、その大学生は、

遺書を残していたー


”山奥で、静かに人生に幕を引きます”


そう書かれていたー。


捜索が行われたものの、

遺体は発見されなかった。


けれどー

彼の遺留品と思われるものが

山奥から見つかったためー

彼は死亡したものと判断されたー。


その大学生の名はー

柏木 拓真


親族もいない彼の葬儀は

小さく、寂しいものだったー


そこにー

拓真の彼女であった帆乃香と、

弟の健介も参加しているー


帆乃香と拓真は生前、

とても仲がよかったー。


だがー

帆乃香が葬儀中に

泣くことはなかったー。


「----お姉ちゃん…大丈夫?」

弟の健介が心配そうに

訪ねてくる。


「--うん…」

帆乃香は、ぼーっとしていた。

どこか、放心状態のような感じだ。


「---拓真…馬鹿野郎!

 どうして俺に相談してくれなかったんだ!

 自殺するぐらいならよぉ!」


拓真の悪友・磯野が叫んでいる。


「---磯野」

帆乃香はボソッと呟いたー


”自分の死”をあんなに悲しんでくれる人が

自分にもいたなんてー。


1か月前、一時的に消息不明に

なっていた帆乃香は、警察が拓真の家を

訪れた翌日に発見されたー

何食わぬ顔で、帆乃香は帰ってきたのだー


少し性格が変わったような気がするー


そんな噂もたっていたけれどー

帆乃香は、帰ってきたー。


しかしー

真相は違うー。


あの日、追い詰められた拓真はー

”自分が死ねばいい”と感じたー


それは、自殺することではない。


自分が帆乃香の皮を着て、

帆乃香として、一生生きていくことを決めたのだ。


拓真としての自分を捨てて、

帆乃香として生きていくー

そういう決意だ。


帆乃香の皮を着て、帆乃香として

振舞うことで、

自分が、帆乃香を皮にしてしまったことを

一生をかけて償っていくことー


いつの日か、帆乃香が元に戻る日が

やってくることを信じて、

それまで、帆乃香として生きることー


帆乃香がいないと

悲しむ人がたくさんいるー

これ以上、その人たちを悲しませ続けるわけにはいかないー。


拓真は遺言状を書き、

わざと自分の所持品や衣類を山まで車で行って

ばらまきー

その日の夜に、帆乃香の皮を着たー


そして、帆乃香として

みんなの前に姿を現したのだった。


最初は戸惑った。

けれどー

1か月が経過した今、

帆乃香として振舞うことに、慣れてきていたー。


このまま、自分は帆乃香としてー


「---あの、帆乃香ちゃん」

背後から、声をかけられた。


「---あ、…優姫…、、、え、、と、神里さん」


拓真の幼馴染・優姫。

つい癖で下の名前で呼びかけてしまい、

それを訂正する。


優姫は、拓真がいなくなってからも

特に気にする様子は見せていなかった。

優姫と帆乃香が普段、どんな風に話しているかは

良く知っていたから、帆乃香として

振舞うのは楽だったー


優姫が帆乃香に近づいてくると、

優姫は口を開いたー


「---帆乃香ちゃん…

 いえ、……拓真」


とー。


「--!?」

帆乃香は表情を歪める。


「----中にいるんでしょ?拓真…」

優姫の言葉に、

帆乃香の皮を着こんでいる拓真は

表情を強張らせたー



③へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


続きは水曜日予定デス~!

今日もありがとうございましたー!


今日はなんだか

やけに眠いデス…うとうと…

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