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「------嘘だ」


彼は、唖然としていたー


「え…?嘘だろ…!?

 ちょっと…なぁ…へ、返事をしてくれよ!」

男子大学生・柏木 拓真(かしわぎ たくま)は、

床に横たわる着ぐるみのようなものに向かって

必死に叫んでいたー。


「--お、、おい…し、、しっかりしてくれ!!なぁ…!!

 頼むよ!!

 なぁ…!帆乃香(ほのか)ー!」


着ぐるみのようなものに向かって叫ぶ拓真。


周囲から見たら

”痛い人”にしか見えないかもしれないー。


だがー…

違うー。


彼の目の前に横たわっている

皮のような物体は、

着ぐるみなどではないのだからー


彼の目に前に横たわっている

物体はー

人間”だった”ものー。


そうー

拓真の彼女・帆乃香自身なのだからー


・・・・・・・・・・・・・・


2週間前ー。


帆乃香と拓真はデートをしていた。


1年前から付き合い始めた二人は

喧嘩をすることもなく、

良好な関係を続けていた。

大学を卒業して、自分たちが安定したら、

いつかは結婚しようと、拓真は

そんな風にも考えている。


「--今日も楽しかった~」

帆乃香が笑う。


「あぁ、俺もだよ」

拓真が笑い返す。


拓真は一人暮らしー

帆乃香は実家暮らしー。

ふたりがデートをするときは、外か、

拓真の家か、そのどちらかが多かった。


異性の家に行くのは…と、

最初は帆乃香も躊躇していたものの

拓真のことを信頼するようになり、

今ではすっかり、拓真の家にも

安心して遊びに来るようになった。


拓真自身も、帆乃香に変なことをしたりは、

決してしない。


幸せな日常ー

幸せな日々ー。


これからも、ずっとそれが続くと思っていたー


「あ…」

去り際に帆乃香が振り返る。


「--今度、拓真の誕生日だったよね?」

帆乃香がにこにこしながら言う。


「ん?あ、あぁ…まぁまだあと2週間あるけど」

拓真が言うと、

帆乃香は「その日って開いてる?」と笑顔で聞いてくる。


「--え~っと、どうだったかな?

 家に帰ったら確認してみるよ」


今日は映画を見て、買い物をして

ご飯を食べてーという

デートをした。


「--うん。じゃ、また明日大学でね」

帆乃香がかわいらしく手を振る。


拓真も手を振り返しー

ふたりは別れたー


そう、いつものデートの光景ー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー

拓真は、誕生日の日、空いていることを

帆乃香に伝えるー。


帆乃香は嬉しそうにほほ笑んでくれたー。


”楽しみにしててね”

ほほ笑む帆乃香ー。


「あ~!またいちゃいちゃしてる~!」

拓真の幼馴染で、同じ大学に通う女子大生

神里 優姫(かみざと ゆき)が声をかけてくるー


「あ、神里さんー」

帆乃香が苦笑いしながら優姫のほうを見る。


「も~!わたしの前であんまりいちゃいちゃされると、

 やきもち焼いちゃうぞ!」


ふざけた口調でそう言う優姫。


「--はは、お前、彼氏いるだろ~?」

拓真が笑いながら返事をする。


拓真と優姫は小学生から、ずっと一緒。

高校も、大学も不思議と一緒だったのだ。


「まぁね~」

優姫が苦笑いする。


「-あんまり俺と喋ってると、

 お前の彼氏が優姫にやきもちやくかもだぞ~!」


「--むむっ!それは面倒くさいかも!」

優姫はそう言うと、

笑いながら「じゃあ、あとはごゆっくり~!」と口にして

立ち去って行った。


「ふふふ…二人とも仲良しでうらやましいなぁ~」

帆乃香が微笑ましそうに笑ったー


帆乃香と優姫の関係も良好で、

優姫は本気で嫉妬しているわけではなく幼馴染の

拓真のことをからかっているのだー。

拓真も、帆乃香もそのことを理解した上で

優姫とも親しくしていたー。


拓真は知らないー

優姫の家にはー

拓真の写真が何千枚と貼り付けられていることをー。


高校と大学が同じなのは”偶然”なんかじゃないことをー。


・・・・・・・・・・・・・・


翌週ー


遊園地にやってきた

拓真と帆乃香ー


そしてー


「お姉ちゃん!始まるよー」

帆乃香の弟で、まだ中学生の健介(けんすけ)。

3人で遊園地にやってきていたー。


拓真は、帆乃香の家族とも面識があり、

両親からも可愛がられているほか、

帆乃香の弟の健介からは「お兄ちゃん!」などと

呼ばれているー。


帆乃香と健介に年齢差があるのはー

帆乃香は両親が二十歳になってすぐの子供で、

そのあと、だいぶ間が空いて子供ができたからだという。


今日はー

帆乃香の弟・健介が見たいヒーローショーをやるために

遊園地に来ていた。

”拓真お兄ちゃんもいっしょに!”と健介が誘ってきたので、

急遽、拓真も遊園地にやってきたのだった。


「ごめんね~!つき合わせちゃって」

帆乃香が笑う。


「--いやいや、いいよ。

 俺も昔はヒーロー好きだったしな~!

 変身ベルトとかも持ってたし~!」


「へぇ~!拓真お兄ちゃんは凄いな~

 なんのヒーローの持ってるの?」


「--オギトってやつ」


「---知らな~い!」


オギトとは、拓真が小学生ぐらいのころの

ヒーローだ。

健介が知らないのも無理はない


”ジェネレーションギャップだな”と

拓真は内心で苦笑いするー。


そしてー

ヒーローショーが始まるー


はしゃぐ健介ー


「--この感じ、懐かしいな~」

拓真も、小さいころに両親と見に来た

ヒーローショーを思い出して笑みを浮かべたー


両親はーー

高校時代に事故で他界しているー。


その後、親戚のお世話になったのちに、

拓真は一人暮らしを初めて、今に至る。


ヒーローショーが終わる。


大はしゃぎしている健介ー


「あ、俺、ちょっとトイレに」

「うん!行ってらっしゃい」


帆乃香にそう告げると、

拓真はトイレに向かったー


その時だったー


「---どうですか?」

トイレのそばに、怪しげな机に座る若い男がいたー。


遊園地の係員のようだー。

名札には「名坂(なさか)」と書かれているー


「---?」

拓真が係員のほうを見ると

係員の男・名坂は笑った。


「ヒーローショーご覧になられてましたよね」


「--あ、はい」


拓真は”なんか変な感じだな”と思いながら

その係員のほうを見る。


すると、係員の男は笑みを浮かべながら

あるものを取り出したー。


「--人気のドッキリグッズー…

 人間をヒーローショーの着ぐるみみたいに

 皮にして、自分が着ることのできる

 素敵なグッズがあるんですよ~」

係員の男・名坂が小さな容器を出しながら言う。


「へ?ど、どういうことですか?」

拓真が聞き返すと、男はニヤニヤしながら言う。


「-このスプレーを吹きかけると、

 人間を”皮”にして、自分が着ることができるんです。

 ヒーローもののようにね。


 そうですね…

 例えば、あなたの可愛い彼女さんに吹きかけると

 その彼女さんが着ぐるみのようになって

 あなたが着ることで、彼女さんになりきることが

 できるんですよ」


「----」

拓真は思わず吹き出してしまったー


「そんなこと、できるわけないでしょう」

大笑いしないようにこらえながら、

そういう拓真。


「--ふふ。本当にそうでしょうか?」

係員の男・名坂はそう言うと、

その容器を拓真に手渡したー


「彼女さんに、一度はなってみたい。

 そう思いませんか?


 あ、心配はいりませんよ。

 着ぐるみになった人間は

 1時間で元に戻りますからね」


それだけ言うと、名坂は、拓真に容器を

渡したまま、立ち去ろうとした。


「え!?ちょ、これは?」

拓真が叫ぶと、

係員の男・名坂は振り返った。


「差し上げますー

 良い、着ぐるみライフを」


それだけ言うと、その男は立ち去ってしまったー


「--俺みたいな大学生に

 こんなの渡されてもなぁ」


拓真は苦笑いしながら

その容器をポケットにしまったー


そして、トイレから戻ると

そんなことはもう忘れて

帆乃香とその弟・健介との楽しい1日を過ごしたー


帰宅した拓真は、

その容器をポケットに入れていたことを思い出したー


 そうですね…

 例えば、あなたの可愛い彼女さんに吹きかけると

 その彼女さんが着ぐるみのようになって

 あなたが着ることで、彼女さんになりきることが

 できるんですよ


男の言葉を思い出す-


帆乃香になれるー。


「ーーー」

拓真は、ちょっとだけ、ドキッとしてしまったー


そういう願望はないし、

エッチ目的で帆乃香と付き合っているわけではないー

けれどー

もしも自分があの可愛い帆乃香に

なることができたならー


ゾクゾク…


1時間で効果が切れると言っていたし、

ちょっとだけ帆乃香になってみたいー

そんな風にも思ってしまったー


「--って、馬鹿か俺は!」

拓真は叫ぶ。


人が皮になるー

そんなことがあるはずがない。

子供騙しだ。

大方、子供向けのおもちゃか何かなのだろう。


なぜ、あの係員が自分にこんなものをくれたのかは

分からないが、

今度、誕生日の日に、帆乃香との話のタネにでもしようー


そんな風に拓真は思いながら

眠りについたー


そして、1週間後ー


誕生日の当日ー


帆乃香が、拓真の家に遊びに来たー。


今日の帆乃香は、拓真の誕生日ということも

あるからか、いつも以上におしゃれに見えたー


”も、もし本当なら、この帆乃香になれるのかー?”

拓真は一瞬そんな風に思ってしまい

ドキドキしてしまう。


「どうしたの?」

帆乃香が笑うー


「-あ、いや…。

 そういえばさ」


拓真は机の中にしまっていた容器を出す。


「なぁにそれ?」

帆乃香が笑う。


「先週、遊園地に行ったときに

 おみやげ売り場のそばにいた係員の人から

 貰ったんだけどさ…

 人を着ぐるみに変えて、着ることができる

 スプレーなんだってさ」


拓真が笑いながら言うと、

帆乃香も「なにそれー!おもしろい」と笑う。


「ヒーローショーのグッズかなんかだと思うケド、

 今はこんなものもあるんだな~」


拓真がそう言うと、

帆乃香はにこにこしながら言った。


「じゃ、わたしにかけてみてよ~!」


とー。


「えぇ!?」

拓真は思わず声を上げる。


まさか、帆乃香が自分から着ぐるみになりたい、

って言ってくるとは思わなかったー


「---えぇ、、い、いいのかよ?

 それに、もしも本当に帆乃香が着ぐるみに

 なっちゃったら、俺、帆乃香の姿になって

 いろいろしちゃうかもだぞ?」


拓真が笑いながら言うと、

帆乃香は「拓真はそんなことしないもんね~」と笑うー


「それにさー」

帆乃香がにこにこしながら続ける。


「本当に人間が着ぐるみになるわけないでしょ~!」

と。


やはり、帆乃香も、単なる子供向けのおもちゃとしか

思っていないー


拓真は「そうだよな~!じゃあ、行くぜ~!」と

笑いながら言う。


”ふふふ…”

帆乃香はほほ笑んだー


拓真にあるドッキリを思いついたのだー


スプレーをかけられた瞬間に

苦しむ演技をして、

拓真をちょっとびっくりさせたあとに

「な~んちゃって!」とやってみたくなったー

帆乃香は、ちょっぴりいたずら好きな一面もあるのだー


シュー!


スプレーをかける拓真。


「----うっ!」

帆乃香が表情を歪めるー


「--あ、、、ああ…うぁあ…なんか、変なきぶん…」

帆乃香が言うー


「--お、、おぉぉ?まさか本物!?」

拓真もふざけながら言う。

帆乃香がそういう演技をしてくるだろうことは

拓真には分かっていたー


彼女がいたずら好きなことは

拓真もよく知っているからだー


「---え…」

帆乃香の表情が歪む。


「う…うぅぅぅぅう…あああぁああああっ」

苦しみ出す帆乃香。


「--おおおお!?ほのか~!?」

拓真もそれに合わせるー


だがー


「--あっ…!うぁああああっ!」

帆乃香が突然、体液のようなものを口から吐き出した。


「--!?」

驚く拓真ー


これ、演技じゃ…?


「あ、、、た、、、くま、、、たすけ…」

帆乃香は恐怖を浮かべながらー

そのまま”皮”になってしまったー


ぱさっ、と力なく床に横たわる帆乃香のーー皮。


本当に帆乃香が着ぐるみみたいになってしまった。


「ま、、まじか…!」

拓真は呟くー


そして、時計を見るー


「た、、たしか、1時間で元に戻るって言ってたよなー」


拓真は唖然としながらそう呟いたー


まさか、”本物”だとは思わなかったー

帆乃香の皮を着こんで遊んでも良かったのだがー

本当に彼女が皮になってしまったことに動揺して、

それどころではなかったー

気が気でない状況で、1時間、何もせずに

拓真は待ったー


そしてー


「---あれ?」

拓真の表情が歪むー


1時間経過しても、帆乃香は皮のままー

元になんて、戻らない


「ま、、まぁ、時計が少しくるってるのかもだし、

 1時間ぴったりとは限らないしー」


だがー。

2時間経過しても、3時間経過しても

帆乃香は、皮のままー

微動だにしないー


「------嘘だ」


拓真は呟くー

焦りを感じるー


「え…?嘘だろ…!?

 ちょっと…なぁ…へ、返事をしてくれよ!」


「--お、、おい…し、、しっかりしてくれ!!なぁ…!!

 頼むよ!!

 なぁ…!帆乃香ー!」


帆乃香の皮に向かって叫ぶ拓真。


帆乃香は、返事をしないー


そして、ついにー

翌朝になっても、彼女は皮になったままだったー


放心状態で、拓真は呟いたー


「俺が彼女を皮に(殺)したー」


と…。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・


コメント


導入部分のお話でした~!

彼女が皮になってしまったまま

元に戻らなくなってしまって…!


恐怖(?)の第2話は、近日中に書きますネ~!


今日もありがとうございました!!

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