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”紗枝とお別れしますか?”

はい   いいえ


ーーーーー!?

これはーーーーー!


紗枝(伸介)は、この画面に見覚えがあったー


紗枝の前に2度ー

伸介はゲーム内の彼女を”削除”しているー。


そのときに、この画面を見たことがあるー。


開発者の「浮気はだめ」と、いう方針のもと、

恋愛アドベンチャーゲーム ラブ・サプリメントでは

彼女を複数作ることはできない。

新しく彼女を作りたい場合

”前の彼女を消す”という痛みを

プレイヤーに与えるという仕様だー


この画面が出たということはー


「----どうして!?」

紗枝(伸介)が叫ぶー。


紗枝が、伸介を消そうとしているということになるー


返事はないー


そして、

「はい」← に矢印が合わされるー


「--ちょ、、ちょ、、ちょっと…ちょっと待ってくれ!」

紗枝(伸介)が叫ぶー


紗枝の可愛らしい声が恐怖に震えている。


「どうして!?どうしてなんだ!?

 なぁ…どうして!?」

紗枝(伸介)の必死な叫びー


自分は紗枝のことが好きだったー

こうして、入れ替わってしまって、

伸介が紗枝の身体になってゲームの世界に、

紗枝が伸介の身体になって現実世界に

移動してからもー

互いに支え合ってここまで来たはずー

いつの日か、元に戻れると信じてー


それなのに、なぜ。


”ケーキは最後の晩餐”

伸介(紗枝)の声がようやく響き渡ったー


「--!?」

紗枝(伸介)は、さっき部屋に出現したケーキを見つめる。


これはー

ゲーム内の彼女に送る誕生日プレゼントのケーキだ。

紗枝に設定した誕生日は今日ー。

プレイヤーである伸介(紗枝)が

紗枝(伸介)に送ったケーキ。


「--……!」

紗枝(伸介)は

あることを思い出した。


”ケーキ”

”最後の晩餐”


”へへへ…最後の晩餐だ”


紗枝(伸介)は

過去の自分を思い出すー


これはーーー


「はい」


決定ボタンが押されたー


哀愁漂うBGMが流れ始めるー


「え…!?ちょ、、う、、嘘だ!嘘だ!やめて!やめてくれ!」

紗枝(伸介)が叫ぶー


部屋が、黒い粒粒になって、消えていくー


「うわああああああ!」

紗枝(伸介)は部屋から飛び出したー


部屋だけじゃないー

世界が、黒い粒になって、消えていくー


紗枝の家を中心にー

徐々に黒い粒が広がっていき、

消えていくー


物悲しげなテーマ曲と共に

”エンディング”が流れる。


彼女と別れることを決断すると、

ラブ・サプリメントではエンディングが流れるー

彼女との楽しかった思い出が表示されー

そして、彼女が消えていくのだー。


消えるまでの時間は約5分ー。

その間にエンディングが流れる。


”データを削除しています 32パーセント”


画面にはそう表示されているー


紗枝と伸介の思い出がテレビに映し出されているー

現実世界からは、今、紗枝(伸介)がどうしているかは

もう、分からないー

エンディングが始まると、ゲーム内の彼女の声は聞こえないー


”キャンセル”

下にそういうボタンが表示されているー

100パーセントになる前にこれを押せば

削除をキャンセルすることもできるー

彼女が消えていく様子を見て、

土壇場で削除を思いとどまるプレイヤーも

時折いるのだというー。


「----伸介くん」

伸介(紗枝)は呟いたー


伸介になった紗枝は、

紗枝になってしまった伸介と共に

元に戻る方法を一生懸命探していたー


昨日まではー。


けれどー


昨日ー


伸介(紗枝)は

スマホを使って

入れ替わってしまった身体を元に戻す方法を探していたー


自分は、ラブ・サプリメントというゲームの

キャラクターだった。

そのことから、ラブ・サプリメントについての情報を

探し回った。


だがー

ラブ・サプリメントのキャラと入れ替わってしまったなどという

情報はどこにも見当たらない。

途方に暮れる伸介(紗枝)はあるものを見つめたー


”ラブ・サプリメント”のプレイ日記を公開しているサイトだー。


何か手がかりがあるかもしれない。

そんな風に思いながら伸介(紗枝)はそのサイトを見つめたー


”3人目の女を作ったぜ!

 名前は紗枝”


そう書かれていたー


そう、そのサイトはー

伸介のサイトだったのだー。


「---…さ、三人目…」

伸介(紗枝)は恐る恐る伸介のサイトを見つめるー


そこにはー

伸介がラブ・サプリメントをプレイしてきた

記録が残っていたー


”もう美琴飽きちゃったな~!

 そろそろデータ消すか”


”データ消す前に最初の彼女に最後の晩餐で

 ケーキをプレゼントww”


”おいしそうにケーキ喰っててウケるw

 このあと君は消えるのに”


”はじめてのデータ削除。

 エンディング演出、ワロタ”


”2番目の彼女 理恵子を作った!

 リアルと違っていらなくなったら

 すぐ消せるのって最高じゃん!”


”理恵子と喧嘩した。

 ゲームキャラのくせに喧嘩とか…”


”理恵子も消すか!ばいば~い!”


”美琴の時と同じように、最後の晩餐にケーキ。

 理恵子、「はい、仲直り♡これからもずっといっしょだよ」とか

 言ってきた

 もう消すけどなwww”


”理恵子削除かんりょ~!

 次はどんな女を作ろうかな!”


”彼女を消すときに草をはやす俺wwwww”


”3人目の女を作ったぜ!

 名前は紗枝”


”紗枝は最高の女だぜ~”


”あぅ…紗枝もなんか、つまんなくなってきたな~

 そろそろけそっかな~

 ゲーム内の世界楽そうでいいよなぁ~”


そこでー

記録は途切れていたー


「け…消す…」

伸介(紗枝)は手を震わせたー


記録がここで途切れているのはー

最後の更新の翌日に、伸介と紗枝が入れ替わったからだー


「伸介くん…わたしのこと…消そうとしてたの…?」

伸介(紗枝)はスマホを見つめながら涙をこぼしたー


「---…そんな」

”美琴”

”理恵子”

ふたりのことは、紗枝はもちろん知らない。


だがー

ふたりは、紗枝と同じように伸介が作り出し、

そして、飽きて、データ削除された彼女たちだー。


紗枝もー

近いうちに同じ運命になるー

はずだったのだろうか…。


「--…伸介くん…」


ゲームキャラのままなら、紗枝はこの事実を知っても

伸介のことが好きなままだっただろう。

人工知能技術が搭載されているとは言え、

ゲーム内でプログラムに制限がかけられているから

ゲーム内の彼女がプレイヤーを嫌いになることはない。


けれどー

紗枝はー

伸介の身体…

人間の身体を手に入れてしまった。


もうー

プログラムの制御を飛び越えて

思考できる状態だ。


「---最低…」

伸介(紗枝)はそう呟いた。


そして、彼女は、

ゲーム内の彼女をごみのように削除してきた

伸介を”削除”することに決めたのだったー


・・・・・・・・・・


「う あ  ああ   あ  あ あ」


”データを削除しています 90パーセント”


紗枝(伸介)の足が黒い粒になって消えていくー

紗枝(伸介)は悲鳴を上げながら

その場に倒れていたー


世界が、黒く染まっていく。


「いやだ…いやだ… い や  だ  ぁががが…」

声もうまく出なくなっていくー


「そん な   そ ん  な」

紗枝(伸介)は思うー


美琴も、

理恵子もー

こんな気持ちだったのだろうかー、と。


ゲームキャラクターたちにもし自我があるのならー

こんな気持ちなのだろうかー、と。


「--あ、、、   あ   た   す」


全てが黒く染まっていくー


目から涙をこぼして口をパクパクさせる

紗枝(伸介)


そしてーーーー


歪んだー


世界がグルンと、回転したー


急激に、黒く塗りつぶされていた世界がーー

元に戻っていくー

紗枝(伸介)の身体が元に戻っていくー


「え……」

紗枝(伸介)が道路に倒れたまま

泣きながら呟くー


空気もー

気温もー

ニオイもー

何も感じないその世界ー

一見、自然の音に感じるけれど

よく聞くとパターンの決まっている効果音。


ラブ・サプリメントのいつもの世界ー。


「--お姉ちゃん!今日もいい天気だね!」

NPCの少女・宮子が言う。

いつも、公園で遊んでいる子だー。


「---あ…れ…??」

涙を流しながら、

安堵の表情を浮かべる紗枝(伸介)


”---わたしは、伸介くんとは違う”

伸介(紗枝)の声が聞こえたー


データ削除98パーセントの時点で、

伸介(紗枝)は

”キャンセル”したのだったー。


「---さ、、紗枝…

 お、、、俺…」


紗枝(伸介)は、

現実世界の伸介(紗枝)が、

伸介の過去のプレイを知ったことを悟る。


「…俺…しょせん…ゲームはゲームだって…

 そう思ってた…

 でも、こんなにつらいなんて…

 こんなに怖いなんて…」


紗枝(伸介)がボタボタ涙をこぼしながら呟くー


”わたしのことも、消そうとしてたの?”

伸介(紗枝)の声が響いてくるー


確かに、そのつもりだったー

4人目の彼女”朋美”を作る予定だったー


「ご、、、ごめん…本当に…ごめん…

 元に戻れたら…元に戻れたら、絶対消さないって

 約束するから…」


”助かりたい!助かりたい!

 消すかもしれないけど、今はこう言っておかないと”


「----」

伸介(紗枝)はゲーム画面を見ながら失笑したー

彼女の考えていることが吹き出しとして表示される

”吹き出しモード”。

最初に入れ替わった時に、伸介はこれで墓穴を掘っているー。

そして、今もー。


伸介の本心が丸見えだった。


”だから紗枝、一緒に元に戻る方法を探そう”

ゲーム内の紗枝(伸介)が言う。


「---うん」

伸介(紗枝)はほほ笑んだー。


二度と顔も見たくないー


伸介(紗枝)はゲーム機の電源を切ったー


もう、二度と起動するつもりはないー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


・・・・・


・・・・・・・


・・・・・・・・・・


パチッ!


「-----!?!?!?」


紗枝(伸介)が周囲を見渡すー


「----!?」


永い眠りについていた気がするー


「---さ…紗枝?」

紗枝(伸介)が言うと、マイクから声が聞こえてきた


”これ、おじいちゃんが昔やってたゲームなの~?”


小さい子の声ー

現実世界から響いてくる声は

伸介(紗枝)のものではないー


「---!?!?!?!?」


”ほほっ、そうじゃよ。

 わしが、高校生のころだからー

 もう、、50年以上前じゃのお”


「--!?!?50年!?」

紗枝(伸介)が驚くー


何が、起きたのかー


まさか、ずっと電源を切られたままー


”おじいちゃん、このゲームつまんな~い”


”ほほほほ、じゃあ、他のことして遊ぶか~”


マイクを通じて声が聞こえてくるー


「え!?待ってくれ…やめ…!」


パチンー


ゲーム機の電源が、切れたー。



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


ゲームキャラクターの彼女との入れ替わりという

とっても変な題材(?)の入れ替わりモノでした~☆


ゲーム内のキャラと入れ替わってしまったらを真剣に

考えてみたのですが、いかがでしたか~?

少しでもお楽しみいただけていればうれしいデス!


最後は、怖いエンドになっちゃいましたネ~


お読み下さりありがとうございました!!



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Comments

葉月/リーフ

読んでましたが面白かったです 人間みたいな姿形してるのにトイレ行ったことなかったり、電源切られたり、決まった文でしか話さないのもいたり、服の下には何も無かったりするのも好き

無名

ありがとうございます~!☆ 私の中でも、印象に残っている作品の一つなので 楽しんでいただけて何よりデス~☆!!