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「----」

紗枝(伸介)は

恋愛アドベンチャーゲーム

”ラブ・サプリメント”の世界を歩きながら思う。


”味気のない世界”


現実世界にいるときは、

ゲームの中の世界がとても輝いて見えたー


紗枝のことを、ゲームのキャラクターのことを

うらやましく思ったー


現実世界はつらいことだらけ。

伸介はそう思っていた。

面倒なこともたくさんあるし

将来も不安だし、

楽しいことより、つらいことのほうが

はるかに多い…と。


でもー。


「--この世界はー」

ニオイもないー

風もないー

暑い、寒いもないー


ゲームの世界は…

伸介が思っていた以上に、

さみしく、味気のない世界だったー。


学校に到着するー


紗枝(伸介)は暗い気持ちを抑えながら

学校のクラスメイト・津恵子(つえこ)に

話しかける。


津恵子は、ラブサプリメントのキャラクターの一人で、

紗枝の親友だ。


「お、、おはよう…」

紗枝(伸介)はドキドキしながら津恵子に声をかける。


津恵子は、NPC(ノンプレイヤーキャラクター)だから

彼女にすることはできないが、

ツインテールの可愛らしい容姿にファンは多く、

グッズまで作られているぐらいだった。

伸介も、津恵子はお気に入りのキャラクターのひとりだ。


「--あ、紗枝!おはよう!

 今日もがんばろうね!」

津恵子が振り返って笑顔を浮かべたー。


”か、、かわいい…

 やっぱり紗枝になってよかったかも??”

調子のいい伸介はそんな風に思いながら笑う。


「うん!頑張ろう!」

とー。


だがーー

「-!?」

会話が続かなかった。


津恵子は、また背を向けて

他の友達と談笑を初めてしまった。


「--あ、、」

紗枝(伸介)は、

会話を続けようと必死に話題を探す。


「--あ、、え~っと、最初の授業なんだっけ?」

紗枝(伸介)が言うと、津恵子が振り返って笑顔で答えた。


「--あ、紗枝!おはよう!

 今日もがんばろうね!」


とー。


「--え…」

紗枝(伸介)の表情が曇るー


そして、津恵子は再び紗枝に背を向ける。


そういえばー

授業が始まる前の会話イベントは

この一言だけだった気がするー

もしかしてー

この世界ではー

”これが普通”なのかー?と

紗枝(伸介)は思うー。


ラブ・サプリメントのヒロインには

人工知能のプログラムが利用されていて、

それによって、

自由に会話がすることができるし

プレイヤーが最初に設定した彼女は

人工知能で物事を考え、

まるで本物の彼女のように、行動する。

当然、セリフも膨大な量が用意されているし、

生きている人間と話しているかのような

感じさえ、受ける。

それが、ラブ・サプリメントの人気の秘訣でもあるのは

事実だろう。


しかしー。

津恵子をはじめとするNPCは人工知能ではなく

あらかじめ用意されたプログラムでの会話だ。


普通のRPGゲームと同じと言ってもいい。

例えば、話しかけると「〇〇村へようこそ!」と返事をしてくれる

村人Aがいたとする。

いくつかのセリフが用意されているキャラであれば

セリフは変わるが、そのセリフしか用意されていない場合

何回話しかけても、村人Aは「〇〇村へようこそ!」と言葉を口にする。


津恵子もそれと同じだー

この場面では

何回話しかけても、返事は

「--あ、紗枝!おはよう!

 今日もがんばろうね!」しか、ないのだー


こちらが何度話しかけようともー。


「--…」

紗枝(伸介)は暗い表情になるー


孤独を感じるー


この世界にはー

自分、ひとりー?

そんな、孤独を。


紗枝(伸介)は泣きそうになりながらトイレへと向かうー


なんとなく、心を安らげたかったー


紗枝(伸介)はいつもの癖で男子トイレに入ってしまう。


「あ、いけね」

鏡に映った紗枝の姿を見て、

”今、俺は紗枝なんだった”と

表情を歪めるー


そしてー

ふと、トイレにいる男子生徒が目に入るー

NPCの片倉くんだ。


「--」

紗枝(伸介)は悲しそうな表情を浮かべる。


片倉くんはずっとトイレにいる。

そういうキャラなのだ。

そして、紗枝が男子トイレに入ってきても

驚くそぶりはない。


そんなセリフは用意されていないからだ。


「”あぁぁぁ…間に合った~”」

片倉は、そう答えた。


いつものセリフ。

と、いうより片倉にはこのセリフしかない。


「---ずっとトイレにいるなんて…

 ゲームキャラって…」

紗枝(伸介)はそこまで言って

首を振った。


「いや、こいつらはそもそも生きていないのか。

 人の形をしたプログラミングなんだ」


紗枝(伸介)は、

ゲームの世界はいいよな…なんて

思えなくなってきていたー


”ゲームの世界がいい”のではないー

”ゲームのような世界があったらいいな”…


紗枝(伸介)はそんな風に思う。


ラブ・サプリメントのような世界があれば

そこは楽園だろうー


けれど、実際にゲームの中に入ったのでは意味がない。

人間が作り出した部分以外には、

”何もない”のだからー


「---…」

紗枝(伸介)は、不安になって服を脱ごうとするー


”こんな世界、やってられるか!”

紗枝(伸介)は自分の不安から

逃れるためにー

紗枝の身体をもてあそび、興奮して、

今の状況を忘れようとしていたー


しかしー


「---!!!」

服を脱いだ紗枝(伸介)は表情を歪めたー


そこにはー

何もーーなかったー。


キャラクターモデルが用意されていたのはー

服の上から見える部分だけだったのだー


「---…はは・・・」

紗枝(伸介)はその場に膝をつく。


「なんだよ…これ…ははは…

 俺、、人間じゃなくなっちゃったよ…」


”もとの世界に帰りたい”

伸介は心からそう思ったー


”そっちの世界は楽でいいよな”などと

ゲーム内の彼女である紗枝に対して

いつもそう思っていたー


でも、違うー

楽なんかじゃなかったー


辛いー

帰りたいー


紗枝(伸介)はその場でしばらくの間、泣き続けたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・


「---すっごい…

 話しかけるたびに返事が返ってくるなんて

 どういうシステム?」

伸介(紗枝)が首をかしげる。


自分が、ゲームの世界にいた、というのも

紗枝にとっては驚きだった。

まだ、ゲームとは何か、ということが

そもそも紗枝には完全に理解できていないー


自分たちの住んでいた世界の上に

もう1つ、さらに大きな世界があった、

というような感じで、紗枝は考えているー


他人に話しかけても

決まった言葉しか返ってこないのは

”いつものこと”だし、

紗枝にはそれが当たり前だったのだー


部屋に戻ってきた伸介(紗枝)がふと

テレビのほうを見ると、

紗枝(伸介)が、ゲームの中の紗枝の部屋に

戻ってきていた。


「あ、おかえりなさい!」

伸介(紗枝)がマイクに向かって話しかける。


すると、紗枝(伸介)の浮かない表情が

表示された。


「---…こっちの世界って…つらいんだな」

紗枝(伸介)が言う。


その言葉に、伸介(紗枝)はほほ笑む


「わたしはそれが普通だったから

 全然、つらいなんて思ったことは

 なかったけれどー

 伸介くんの世界ってなんだかすごいね」


”それはどうも…”


紗枝(伸介)が元気なく返事をするー


「---大丈夫?」

伸介(紗枝)が聞くと

紗枝(伸介)は答えた。


「--早く、そっちの世界に帰りたい…

 俺…ここにいるのが…怖いんだ…」

紗枝(伸介)がゲームの世界の中で

泣き出してしまう。


色々な恐怖がー

伸介の心を押しつぶしそうになっていた。


「---……伸介くん」

伸介(紗枝)が悲しそうな表情を浮かべる。


「ごめんな…こんな俺で…

 嫌いになるよな…」

紗枝(伸介)が泣きながら言うー

女として涙を流したのは、

これが初めてだー。


紗枝(伸介)の悲しそうな言葉に

伸介(紗枝)はほほ笑んだー


「…わたしも…不安だよ…

 伸介くんは、ひとりじゃない」

伸介(紗枝)がほほ笑むー


紗枝には

”プレイヤー”が大好きだと

刻み込まれているー

つまり、伸介のことだ。

恋愛ゲームのキャラである紗枝が

伸介を嫌いになることは

絶対にないのだ。


「--わたしも、わたしも一緒に、

 元に戻る方法を探すから…

 伸介くんも、頑張ろう…?」


その言葉を、ゲームの世界の中で聞いていた

紗枝(伸介)は涙をこぼしたー


2人はー

伸介は紗枝としてゲームの世界の中でー

紗枝は伸介として現実世界で暮らしながら

入れ替わってしまった身体を

元に戻す方法を探したー


ゲーム機の電源を切ると、

紗枝(伸介)の意識は飛んでしまい、

何も考えられなくなってしまう。

紗枝(伸介)は”電源オフが怖い…”と

伸介(紗枝)に伝えてー

とりあえず常に電源を入れてもらうようにしたー


電源が切れている間ー

ゲームキャラクターに待つのは”無”だ。

何も考えられないし、

何も感じないー

”死”と同じかもしれないー。


もしも

そのまま二度とゲームを遊んでもらえなければー?

紗枝(伸介)はそのまま消えてしまうー


「電源オフって…怖いんだな…」


ある日ー

紗枝(伸介)が言うと

”う~ん、わたしは考えたことなかったけど”と

伸介(紗枝)は呟いた。


確かに、紗枝にとってはそれが普通なのかもしれないー


「--もし、もしもさ、俺がゲームに飽きちゃったら…とか、

 考えたりしないの?

 俺がもう二度と紗枝に会いに行かなかったら、とかさ」


紗枝(伸介)が言うと、

伸介(紗枝)は少し考えてから答える。


”そっちにいるときは、世界ってそういうものだと

 思ってたし、電源切れてる間のことは…

 う~ん、そう…あんまりよく考えなかったかな”


伸介(紗枝)の言葉に

紗枝(伸介)は少しだけ苦笑いしたー


「確かに、紗枝にとってはそれが当たり前なんだもんな」


とー。


それからもー

元に戻る方法が見つからないまま

時は流れたー


2か月が過ぎてー

紗枝になった伸介は、それなりにゲームの世界に慣れてきた。


そしてー

伸介になった紗枝もまた、

現実世界に慣れてきていたー


今日は、伸介が設定した

紗枝の誕生日ー


「まさか、俺が紗枝として誕生日を迎えるなんて…」

紗枝(伸介)は苦笑いしながら、

部屋に急に出現したケーキを見つめる。


誕生日イベントー

ゲーム内のお金を使って、

彼女にケーキをプレゼントできるのだー。


「--ありがと!」

紗枝(伸介)が言うと、

”どういたしまして”と

伸介(紗枝)から返事が返ってきたー


その直後ー


突然、世界が”歪んだ”


「---!?」

紗枝(伸介)が驚いて周囲を見渡すー


「---こ  れ     は…!?」

紗枝(伸介)の身に異変が起きるー


世界が、崩れていくー


目の前に突然文字が現れる。


”紗枝とお別れしますか?”

はい   いいえ


ーーーーー!?


これはーーーーー!


紗枝(伸介)は、この画面に見覚えがあったー


”美琴とお別れしますか?”


”理恵子とお別れしますか?”


彼女と別れてー

新しい彼女を作るときに表示される画面ー


ラブ・サプリメントは

彼女を一人しか保存できない。

開発者曰はく「浮気はだめ」とのことー。

だから、新しい彼女を作るときには、

ゲームのデータを消す必要があるのだ。


「---ちょ…、、、 え…!?」


消えるー


「----どうして!?」

紗枝(伸介)が叫ぶー


返事はないー


そして、

「はい」← に矢印が合わされた…。



④へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


次回が最終回デス!

その結末は…!?


今日もお読み下さりありがとうございましたー!!

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