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「君は、不良生徒になるんだー。

 君の、白い駒が、全部黒になったそのとき…

 君は、良心を失うー」


闇の洗脳オセロー。

白い駒が失われていくたびにー

亜佳梨の善のこころは失われていくー。


「----くくくくくく…さぁ、君の番だ」

亜佳梨の先輩で、3年生の淳介は笑うー。


自分よりも優秀な生徒が、彼は大嫌いだー。


だからー

このオセロで勝負を挑んだー

亜佳梨を、壊すためにー。

亜佳梨を、悪の道に叩き落すためにー


「僕は、地区大会で優勝したこともあってねぇ…

 君ごときじゃ、僕には、勝てない」


オセロはー

”黒”が有利にゲームが進んでいるー

亜佳梨の”白”の数は少ないー


「うるせぇ!!」

亜佳梨が怒鳴り声をあげる。


「おやおや」

淳介は笑いながら、手を広げた。


「--自分の口調や態度が

 悪くなっていることにー

 気づかないかい?

 くく…

 君は、知らぬうちに洗脳されているんだよー。


 白い駒が減れば減るほど、君は…」


「--黙ってろって言ってるでしょ!」

亜佳梨が乱暴に駒を叩きつけるー


自分でもわかっているー

けれど、どうすることもできないー


白い駒が一時的に増えれば心は穏やかにー

優しい気持ちに戻ってくるー


けれどー

黒い駒が増えて、白い駒が減れば減るほど

亜佳梨の心は、すさむー。


どういう原理か分からないけれど、

このオセロは危険だー


亜佳梨はそう思いながら駒を置くー


「--無駄無駄」

淳介が笑みを浮かべる。


「--優等生のきみが、不良生徒になって

 荒れるのを見るのが、楽しみだァ!」

淳介は駒を置くー


だがー

”計算外”の出来事が起きたー


「--!?」

淳介が目を見開くー


圧倒的有利だと思っていたゲームが

分からなくなってきているー


「---なに…」

亜佳梨は素人のはずだ。

なのに、地区大会優勝の経験を持つ自分が

どうして…


「--次はあんたの番よ!」

亜佳梨が叫ぶー


「--!」

淳介は盤を見つめるー


「-(くそっ、強気な姿勢が、まぐれで有利を引き込んだか)」

淳介は表情を歪めるー


白い駒が減り、亜佳梨は、黒い心に覆われつつある。

だがー

それが、亜佳梨にとっては幸運だったのかもしれないー


いつもの控えめな性格は薄れて

オセロの経験がほぼ0とは言え、

強気な思考で、亜佳梨はどんどん積極的に駒を置いたー


ある種の”舐めプ”をしていた淳介は、

自分がピンチに陥っていることにようやく気付いたのだ。


「--く…ぐぐぐぐぐぐ…」

淳介の表情から笑みが消えるー


そして、駒を置くー


「--……」

白い駒が増えていくー


亜佳梨は、穏やかさを取り戻しつつあったー


・・・・・・・・・・・・・・・・


夕日が差し込む職員室ー。


「最近、素行が急に悪くなる生徒が多いですよね」

「何か”原因”があるかもしれないな」

職員室で先生たちが噂しているー


今月に入って”3人”-

”洗脳オセロ”で淳介に負けて

豹変してしまった生徒の数だ。


急に真面目だった生徒が豹変するのはおかしいー

先生たちの間でも噂になりつつあったー。


「--お疲れ様です」

他の先生たちに挨拶をして、

職員室から立ち去る数学教師・三橋先生ー。


亜佳梨が昼休みに話をしていた先生だ。


「---」

廊下を歩く三橋先生は、ふと、ある教室の前で足を止めた。


その教室からは”邪悪な気配”が

噴き出していたー


中ではー

亜佳梨と淳介のオセロが行われているー。


三橋先生は、ただならぬ気配を感じたのか、

その空き教室のほうを、じーっと見つめ始めた…。


・・・・・・・・・・・・・


「-----く…馬鹿な…」

淳介が表情を歪めるー


「--わたしの勝ちです…先輩」

オセロの決着がついたー


油断したー


淳介は、黒い駒が6しか残らない状態で

敗北してしまったー


「---あ…う」

悔しそうにうなだれる淳介。


「---先輩……

 約束です。

 わたしはこれで失礼しますね」


亜佳梨はそう呟いた。


なんとか、勝つことができたー

一時はどうなることかと思ったけれどー。


亜佳梨が立ち上がる。

心も穏やかだー。

淳介の話が本当なら、

黒の駒をひっくり返して、白の駒が増えたから、

なのだろうー。


黒い駒が増えている間は、

亜佳梨は、本当に自分が自分で

いられなくなるような違和感を感じたー


「--…先輩」

立ち去ろうとしていた亜佳梨が、振り返る。


「----」

うなだれたままの淳介。


「うん!なんかね~、

 後輩が、急に不真面目になっちゃってさ~」


友人・奈子の後輩、彩花が突然

不真面目になってしまったという話ー


あれも、淳介の仕業だとさっき

本人が言っていた。


「--1年生の彩花ちゃん…

 元に戻してあげてくれませんか?」

亜佳梨が言う。


こんなことをするやつでも

先輩は先輩ー


それにー

今の亜佳梨は”白い駒”が増えていることによって

普段以上に”優しい”状態になっていたー


「---…く…くくくくく」

淳介が笑う。


そして、顔を上げた。


「いい勝負だったよ。

 もう1回だけ…もう1回だけ勝負してくれないか」


とー。


「--な、何を言ってるんですか…?

 1回だけって約束ですし、

 こんな危ないオセロは…」


「--お願いだよ…もう1回だけ!」

淳介が嘆願するようにして言う。


「----…」

亜佳梨は、そんな淳介の姿を見て

”かわいそう”と思ってしまったー


そして、座席に着席すると

”あと1回だけですよ”と

亜佳梨は優しく微笑んだ。


「---”優しい”なぁ、亜佳梨ちゃんは…」

淳介は笑うー


そして、ガッツポーズした。


”計画通りー”


淳介は、途中から勝てないと悟り、わざと

亜佳梨に惨敗したー


なぜなら、その方が”白い駒”が増えるからー

白い駒は善意・やさしさの表れだー。


今、白い駒が多い状態で勝った亜佳梨は

いつも以上に優しく、親切になっていたー


”優しい”亜佳梨にもう一度試合を、とお願いすれば

必ず引き受けてくれるー

淳介はそう思っていたー


「ひゃはははははは!

 そのやさしさ、後悔するなよぉ?」

そう言いながら、淳介が駒を置くー


白い駒が減ってきてー

五分五分の数になる。


「--!!

 (わ、わたし、どうして再戦なんて

 受けちゃったんだろう)」


亜佳梨は、疑問に思うー


「……!」

亜佳梨は、ふと、白い駒の数が増えれば増えるほど

自分が優しくなっていることに気づくー。


「--(最初から、先輩は勝っても負けてもー…)」


淳介がミスをするー

そして、舌打ちするー。


角を取れるようになったー。


亜佳梨が角に駒を置こうとするー


しかしー


「--そ、、そこはやめてほしいな…」

淳介がわざと弱弱しく、お願いするように言うー


「---そ、そんなこと言われても困ります!」

亜佳梨が言い返すー


今は白い駒のほうが多いー

いつも以上に優しくなっている亜佳梨は、

「い、1回だけですよ」と、駒を角以外の場所に

置いてしまったー


ニヤァァァァ


淳介が笑みを浮かべたー


「僕の勝ちだ!」

淳介はそう叫ぶと、手早く駒を置き始めた


”パーフェクト勝ち”までの

道筋が淳介の中で組み立った。


「--そ、、そんな…

 ふ、、ふざけんな!」

黒い駒が増えてきて、

亜佳梨は再び、善意を失っていくー


「ふざけてなんかないさ。

 君が再戦OKしたんだよ!」

淳介が笑う。


「てめぇ!」

亜佳梨が大声で怒鳴るー


さっきまでの穏やかな笑みは消えて

鬼のような形相で淳介を睨むー


「あぁ…まじめな亜佳梨ちゃんが

 そんな表情できるなんて…

 ゾクゾクさせないでくれよ…」


ゲームは進むー


そしてー


「フィニッシュー」

淳介が指パッチンをするー


全ての駒がー

黒になったー


「---あ……」

亜佳梨は、放心状態だったー


自分の心が黒く染まっていくのが分かるー

洗脳されていくのが分かるー


「--あ……う、、、ふ、、ふざけんじゃねぇ!」

亜佳梨はオセロ盤の乗っていたテーブルを蹴り飛ばして

淳介の胸倉をつかむ。


「--へへへ…へへ、君はもう善意を失った…

 君は優等生なんかじゃない、不良女だ!」


淳介が叫ぶ。

亜佳梨は握り拳を作って「あぁぁぁ?」と大声を出したー


優等生の面影なんて、もうどこにもないー

亜佳梨はーー

不良になったのだー


ガラッ


空き教室に誰かが入ってきた


淳介は、空き教室に入ってきた人物を見て驚くー


「先生」


教室に入ってきたのは、三橋先生だったー


「--」


表情を歪めていた淳介が、

さらに表情を歪めて

満面の笑みで叫んだー


「わが師(マスター)…!」


とー。


「--ご苦労だったな」

三橋先生が、淳介のほうをみて、

続けて亜佳梨のほうを見た。


「--なによ!なんか文句あんの!」

善の心を失った亜佳梨が三橋先生に対しても

突っかかる。


「くくくくく・・・ははははははははは!!!」

三橋先生が笑う。


「そうだー!これだ!

 不良が何人かいたほうが、学校ってのは面白い!

 でもな、この高校にはあんまりそういうやつがいない!

 だから、代々伝わる錬金術で生み出した

 この洗脳オセロで、優等生を洗脳して、

 学校を混乱させるー


 つまらない教員生活の癒しだ!」


三橋先生は笑ったー。


洗脳オセロを淳介に提供したのは三橋先生だったー

平凡な日々に退屈し、

洗脳で不良生徒を作り出し、それを指導したり

問題提起したり、騒ぎが起きるのを見て

楽しんでいるのだー。

中途半端に真面目で、内面がヤバそうなやつー。

”淳介”は三橋先生にとって、ちょうどいい協力者だー。


「--マスター!」

淳介が目を輝かせながら言う。


淳介は、三橋先生に心酔していたー

三橋先生が、教えてくれた洗脳オセロと錬金術にー


「--…よくわかんねーけど、あたし、帰るから」

亜佳梨は、自分がオセロをしていたことも忘れて

不機嫌そうな態度で空き教室から飛び出す。


三橋先生と淳介2人が

空き教室に残されたー


三橋先生は真顔になって呟く。


「--優等生の豹変が先生たちの間で

 問題になり始めてるー

 しばらくは洗脳オセロは中止してもらう」


”表ざた”になるのはまずい

三橋先生は”表向き”真面目な先生なのだー


「-ーーえ、、!?

 ぼ、ボク、もっと、優等生どもを洗脳してやりたいんですけど!

 そのオセロで!」


淳介が叫ぶー


だが、三橋先生は首を振った。


「--タイミングをわきまえろ。

 洗脳は、ばれないから、利用価値があるんだー

 ばれないから、楽しいんだー」


そう言うと、三橋先生は笑いながら

オセロ盤を片付けて、立ち去ろうとする。


しかしー

淳介が、そんな三橋先生の手を掴んだ。


「--ぼ、、僕にその力を下さい!

 ふひひ、オセロ盤ごと…下さい…!ひひひ」

淳介が笑うー


淳介は普通の人間だー

このオセロ盤がなければ人を洗脳することはできないし、

闇のオセロをすることもできないー


三橋先生の家に代々伝わる謎の術-

三橋先生が、このオセロ盤に吹き飛んだ呪術がなければ

淳介は、何もできない。


三橋先生は舌打ちした。


「--そろそろ、お前も処分だなー」


とー。


三橋先生はオセロ盤を机に置くと、

淳介に座るように促したー。


「---!」

淳介は表情を歪める。


「--お前とのゲームは”デス・ゲーム”だー

 負けたほうがこの世から消えるー

--用済みのお前に、地獄を見せてやるー」

三橋先生は、悪魔のような本性を現したー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


「きゃはははははははは!」

教室から騒がしい笑い声が聞こえるー


「--!?」

亜佳梨の友人・奈子は目を疑ったー。


ギャルのようになってしまった亜佳梨が

クラスのチャラい男子に太ももを

触らせながら大笑いしているー


「--きゃははは!あ、そうだ、今日の放課後 

 あたしとヤる?」


亜佳梨が笑いながら言う。


「--ちょ、ちょっと!?亜佳梨!?」

奈子が驚いて会話に割り込むー


亜佳梨はー

金髪になってー

ピアスをしてー

化粧が濃くなってー

まるで”別人”だったー


昨日まで、普通だったのにー


「---……ど、どういうこと!?」

真相を知らない奈子は戸惑うことしかできなかったー


・・・・


「---」

淳介は、亜佳梨の姿を廊下から確認すると、

自分の教室向かうー


「いい気味だ」

淳介は呟く。


”そういえば、三橋先生、今日は来てませんね”

”なんか、連絡もつかないらしいですよ”


先生たちの噂話が聞こえてくるー。


そして、鞄の中に入っている”洗脳オセロ盤”を見つめて

淳介は静かに笑みを浮かべたー


・・・・・・・・・・・・・・・


後にー

亜佳梨は奈子とすぐに疎遠になってしまい、

家族のもとからも飛び出し、

夜の街で悪い連中とつるむようになってしまったのだというー


おわり


・・・・・・・・・・・・・


コメント


オセロを題材としたお話でしたー!

私も一応ルールは知っているのですが

とっても弱いので、たぶんすぐに、真っ黒になっちゃいます(笑)

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