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「ーーす、すみませんー」


女優・天坂 千鶴(てんさか ちづる)は、

困惑した表情を浮かべながら謝罪の言葉を口にしたー。


千鶴は、清楚な雰囲気の人気女優ー。

現在は20代後半で、以前から多数のドラマに出演しているー。

その清楚なイメージからか、これまでは、

大人しい性格のキャラクターや、”良い人”ばかりを演じて来たー。


しかし、千鶴は今回、初の”悪女役”に挑戦することになったのだー。


人のことを何とも思わず、その美貌を利用して男を誘惑ー、

悪事にも平気で手を染める”悪女”をー。


理由は、千鶴自身もお世話になっている、

同じ事務所に所属していた人気女優・梨沙子(りさこ)が、

クランクインを目前にして病気療養のために降板することになってしまい、

”大好きな先輩のために”と、千鶴は梨沙子の代役として

この映画への出演を決めたのだったー。


しかしー……

千鶴は、初の悪女役に苦戦し、NGを連発ー、

スタッフも頭を抱える始末だったー。


千鶴自身、優しすぎるのだろうかー。

どうして、悪人顔が上手く作れなかったり、

酷い言葉を口にするような場面では、悲しそうな表情を浮かべて

しまったりー…、とにかく悪戦苦闘している状態だったー。


そんなある日ー、

お昼を食べている最中に、

千鶴の共演者である女優・麻耶(まや)が、

あることを口にしたー。


「ーー千鶴ちゃん、結構今回、NG出してるよねー」

麻耶が、そんな言葉を口にするー。


千鶴は申し訳なさそうに、

「迷惑かけて、ごめんなさいー」と、そう言葉を口にするー。


麻耶は、同じ事務所に所属する”同期”の女優だが、

”千鶴”の方が売れているために、時々、千鶴にチクチクした

言葉を投げかけて来るー。


普段は、仲良しな部類ではあるものの、

時折、嫉妬が隠せないー。

そんな感じ子だー。


「あははーごめんごめんー

 迷惑だなんて思ってないよー」

麻耶は苦笑いしながらそう言うと、

千鶴も、困惑しながら、”あること”を頭の中で考え始めたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


現在、撮影中の映画の監督を務めるのは、

田畑(たばた)監督ー。

その高い指導能力から、役者たちの演技を最大限引き出し、

数々の大ヒット映画やドラマを手掛けた男だー。


元々は、”全然売れない”監督だったようだが、

ある時から、”田畑監督の作品は、俳優たちの演技力が物凄い”と、

話題になり、一躍人気監督に上り詰めた男だー。


そんな、田畑監督も既に70を超えているものの、

現在でも、現役だったー。


その田畑監督には”ある噂”があるー。


「ーーあの、監督ー」


この日の撮影が終わると、千鶴は

田畑監督の元を訪れたー。


「おやー、天坂さんー」

優しい笑顔を浮かべると、白髪の老人ー…という風貌の

田畑監督は「どうかしたのかな?」と、優しく言葉を口にしたー。


「ー監督ー。わたしに”指導”していただけませんかー?

 悪役は初めてでーーどうしてもうまくいかなくてー」


千鶴がそう言葉を口にすると、

田畑監督は「でも、みるみる上達してますよー」と、

千鶴のことを褒めるー。


確かに、”悪女”の演技は苦手な様子だったが、

田畑監督から見て、千鶴が上達を続けているのもまた事実だったー。


「ーーーーー…監督ー。

 ”あの噂”は本当ですかー?」


千鶴は、本題を切り出すー。

”お世話になった先輩”の代役ということもあって、

”わたしが台無しにするわけにはいかないー”と、

焦りがあったのも事実ー。


「”どんな苦手な演技でも、田畑監督の作品に出演した俳優は

 いつも以上の力を発揮するという噂はー…?


 もしも…もしも、何かご指導いただけるのであればー、

 ーーー……お願いします!どうか、わたしに悪役の指導ー、

 していただけませんかー?」


千鶴は、そんな言葉を口にしながら、

必死に田畑監督に頼み込んだー。


”悪役”は、どうも苦手のようだー。

どんな役であってもこなせてこそ一人前。そんなことは分かっているー。

けれどー、

例え、”芝居”であっても、辛辣な言葉を吐いたりするだけで、

遠慮してしまうー…

彼女は、”優しすぎた”のだー。


「ーーーー」

田畑監督は、表情を歪めるー。


千鶴は、そんな監督を見つめながら

「先輩が主演するはずだった作品に、泥を塗るわけにはいかないんですー

 お願いしますー」と、目に涙さえ浮かべながら

そう言葉を口にしたー。


千鶴のあまりにも真剣なまなざしと、

悲痛な叫びー。


その様子を見て、田畑監督は大きくため息をついたー。


「確かにー…僕はかつて

 ”その方法”で、出演者たちの演技力を最大限引き出しーー

 それで、今、この地位につきましたー。


 ただー、それは、”禁断の方法”ですー。」


田畑監督は、悲しそうな表情を浮かべるー。


それは、”過去”の過ちー。

一向に作品が売れず、途方に暮れて、海外を飛び回っていたころー、

手にした”禁断の力”ー。


その力を用いて、田畑監督は今の地位を手に入れたー。


「どんな過酷なご指導でも受ける覚悟ですー…

 どうか、どうかお願いしますー」

千鶴が必死にそう頼み込むと、

田畑監督は困惑しながら、やがて、言葉を口にしたー。


「ーーー”洗脳”ー」

とー。


「え?」

千鶴が顔を上げると、

田畑監督は続けるー。


「僕はかつて、そんな方法を使って、

 演じる皆さんの力を引き出して来ましたー。


 その名の通り、役者さんを洗脳して、

 その役にぴったりの性格にするー…


 例えばー、そう、

 悪役を演じる予定の人を、洗脳して本当に悪党にしてから

 演技してもってー、演技が終わったら洗脳を解除するー…

 そんな感じです」


田畑監督の言葉に、千鶴は驚くー


「ーーせ、せ、せ、洗脳ー…?

 そ、そんな、どうやってー?」


困惑する千鶴。

流石にいきなり”洗脳”なんて言われても信じられないー。


がー


「ーー若い頃、撮影で中東に行った時、

 怪しいお店で”これ”を渡されましてねー


 ーー僕が今、”名監督”なんて呼ばれてるのは

 その力のおかげなんですー」


少し自虐的に笑う田畑監督ー

その手には、不気味な紫色のボールペンが握られているー。


がー、田畑監督は自分の過ちに気付き、

その力を封印、ここ10年以上は、もう人を洗脳することは

一度もしていないのだと言うー。


「ーー僕が”洗脳”で、役になりきらせてあげた俳優さんたちは、

 みんな、若くして引退してしまっていてねー。


 結局、”洗脳”して役になりきらせても、

 俳優さん本人のレベルアップには繋がらないー。

 それで、結局、みんな引退してしまったー。


 だから、僕はもう2度とーこの力は使わない、と、決めているんですー」


田畑監督がそこまで言うと、

千鶴は驚きながらも「ーーそれでも…お願いできませんか?」と、

言葉を続けるー。


「ーーーーーーー」

田畑監督は、表情を歪めるー。


もう、2度と使うまいと思っていたー。


けれどー…


千鶴は目の前で涙をこぼすー。


「この作品だけでいいんですー。どうかー…」


その言葉に、田畑監督は「分かりましたー」と、

大きくため息をつきながら言葉を口にしたー。


「このボールペンで、”洗脳する内容を記述しー、

 それを相手に見せることで、その相手をその通りに洗脳できるー。

 これは、そんな禁断のボールペンですー」


田畑監督が言うには、かつて、

これを使い、”役そのもの”に俳優たちが成りきれるように洗脳ー。

”究極の演技”を引き出していたのだと言うー。


「ーーーー…わたしがー、”愛花(あいか)”そのものになって

 演技をするということですねー?」


千鶴はそう確認するー。


「その通りですー」

田畑監督は頷いたー。


”紫崎 愛花(しざき あいか)”ー

千鶴が演じる”悪女”

誰よりもプライドが高く、誰よりも自分に自信を持ち、

他人を陥れることを厭わず、数々の悪事をこなす大悪女ー。

脅迫から、色仕掛けまで、どんな悪事にも手を染めるー。


千鶴を”その通り”に洗脳して、

”愛花”役としての演技を引き出すー。


もちろん、性格面は洗脳するものの、

”映画の撮影”であることだけはちゃんと覚えさせておくため、

これまで田畑監督の洗脳を受けた人間も、しっかり撮影をこなしたし、

撮影後は洗脳を解除して、元通りになっているー。


「ーーよろしくお願いしますー」

千鶴は、そう言葉を口にすると、田畑監督は静かに頷いたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー。


”愛花”のシーンの撮影に入る直前、

田畑監督は、紫の”洗脳ボールペン”で、

千鶴を洗脳する準備を事前に済ませて、

本番直前にその力を使ったー。


ボールペンを、千鶴の目に向けるー。


千鶴がビクッと震えるとー、

千鶴はニヤリと笑みを浮かべたー


「ーふふ…これがーー洗脳ー…

 すごいー… すごいわー」


千鶴が笑みを浮かべるー。


”愛花”になりきるように洗脳したからだろうかー。

一転して高飛車な態度を示すと、

「ーふふーわたしの素敵な演技ーよ~く見てなさいー」と、

田畑監督に対しても、不遜な態度を示したー。


「ーはは…頑張ってー」

もちろん、田畑監督本人はそれが洗脳による影響だと理解しているー。

何も言わずに”千鶴”を送りだすー。


そしてー、撮影が始まると、

千鶴は、”愛花”として、悪女っぷりを存分に発揮したー。


「ーーあんたに、男としての価値なんかないー」

”弄んだ挙句”捨てた男に対して言い放つセリフー。


ゾクッとするほどの冷たい目と声に、

共演者たちもゴクリと唾を飲み込むー。


「ーわたしを恨むなら恨めばー?

 でもー…その時は、”あなたの会社”に全部伝えるわー」


冷たい目ー

冷たい口調ー。


恐ろしい悪女”愛花”になりきった千鶴ー。


”洗脳”されたことによって、何の遠慮もなく、

優しい気持ちも消し去りー、

自分は”愛花”なのだと、そう思い込みー、

周囲も凍り付くほどの演技をしてみせた千鶴ー。


撮影が終わると、共演者の麻耶は困惑した表情を

浮かべながら、千鶴に声をかけるー。


「ーーき、今日の千鶴ちゃん、すっごいー」

麻耶がそう言葉を口にすると、

「ーふふーこれでもうあんたに”迷惑”なんて言わせないからー」と、

嫌味たっぷりな口調で千鶴は言葉を口にしたー


「ーーー…!」

麻耶は、千鶴のいつもとは別人のような態度に驚くー。

しかし、千鶴はそんな麻耶を無視して、颯爽と立ち去ってしまったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ー素晴らしい演技だったよー。

 では、早速、元に戻しましょう」


田畑監督がそう言うと、千鶴は

「ー当然でしょ?」と、田畑監督に対しても

自信に満ち溢れた言葉を口にするー。


ボールペンを手に、”元に戻すため”の手順を行い始める

田畑監督ー


がー、やがてー…


「あ…あれ…?おかしいなー」

田畑監督が表情を歪めるー。


「ーーーーーなに?」

千鶴が不愉快そうに答えるー。

昨日、涙ながらに田畑監督にお願いしてきた女性と

同一人物とは思えない変貌ぶりだー。


「ーーち、ちょっと、元に戻す方法が上手く行かなかったようでー

 もう一度試してみます」


田畑監督はそう言葉を口にし、

”覚えている元に戻すための手順”をもう一度行うー。


が、千鶴は元に戻らないー。


「ーーな…なぜ…?」

表情を歪める田畑監督ー


”確かにこの方法でいいはず”

そう思いつつ、再度それを繰り返すー。


しかしー…

田畑監督のやっている手順は”間違えて”いるー。

田畑監督自身は”元に戻す方法”が正しいと思い込んでいるものの、

70代に突入した彼は、ここ最近ー、

物忘れが激しくなっていてー、

”正しい元に戻す方法”を忘れてしまっていたー。


「ーーーど…どうしてー…?」

田畑監督のそんな言葉に、千鶴が口を開くー


「ーは?もしかして、元に戻す方法、忘れたの?」

千鶴はそう言葉を口にすると、

田畑監督が慌てた様子で「ま、待って下さいー。今、思い出しますー」と、

そう言葉を口にするー。


がー、田畑監督が何度、色々試しても、

それを思い出すことはできなかったー


「ーーあははは…おじいちゃん、ボケちゃったの?」

見下すような口調で言う千鶴ー。


完全に、悪女”愛花”の役と同じような、嫌味な女に

なってしまっているー。


「ーーす、すまないー。ち、ちょっと待っててくださいー」

田畑監督はそう言い放ち、このボールペンを貰った時に

一緒に貰った”メモ書き”ー説明が書かれた紙を探そうとするー。


がー。


「ーーもういいからー。

 わたし、別にこのままでも困らないしー

 なんだかー…すっごくせいせいする気分だからー」


千鶴が笑みを浮かべるー。


今まで、他人に遠慮がちで、

色々心にためつつも、それを絶対に表に見せないようにしてきた千鶴ー。


がー、洗脳されて”悪女そのもの”になったことによって、

ため込んで来たものを発散できる自分に、今の千鶴は酔っていたー。


「ーーーち、ちょっと待ちなさいー…!

 そ、そのままじゃー…」


田畑監督は焦るー。


悪女・”愛花”の性格そのものになるように洗脳した千鶴を

そのまま返すわけにはいかないー。


しかしーー


「ーーうっさいわね!このクソジジイ!」

千鶴が声を荒げるー。


ビクッとしてしまう田畑監督ー


「ーー…わたしがその気になれば、”洗脳”のことー

 世間に公表することもできるのよ?」


悪魔のような笑みを浮かべながら、千鶴は

田畑監督を脅し始めるー。


「ーーそ、そ、それはー…」

田畑監督は震えるー。


自分の名誉に今更興味はないー。

しかし、田畑監督は”家族”のことを心配していたー。


”洗脳”のことがバレれば、世間から、

恐ろしいほどのバッシングを受けることになるー。

恐らくは、家族も含めてー


「ーーー…ふふふー

 バラされたくなければ、わたしの言う通りにしなさいー」


千鶴の邪悪な笑みに、震える田畑監督ー。


へなへなと座り込む田畑監督をあざ笑うと、

千鶴はそのまま立ち去っていくー。


”とんでもない悪女を世に解き放ってしまったー”


洗脳を解除する方法を忘れてしまった田畑監督は

呆然としながら立ち去っていく千鶴の後ろ姿を見つめたー…。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


役を演じるための一時的な洗脳を解除できなくなって…!?

そんな、お話デス~!


とんでもない悪女になってしまった彼女を

止めることはできるのでしょうか~?

次回もぜひ、見届けて下さいネ~!


今日もありがとうございました~!

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