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”名前”も変えたー

”容姿”も変えたー。

引っ越しもしたー。


なのに、何故ー?


部屋の扉をノックする音が聞こえるー。


”吉岡(よしおか)さんー?いるんでしょう?分かってますよー?”

外から、男の声が聞こえるー。


しかしー、

男がノックしている部屋の表札には”吉岡”などという名前は

記載されていないー。


”清水(しみず)”書かれた部屋に、

執拗にノックする男ー。


アパートの一室ー…

この部屋に住んでいる清水 希海(しみず のぞみ)は

表情を歪めていたー。


”くそっ…!くそっ…くそっ…!どうしてー!”

希海は、心の中でそう思いながら、

連打されるインターホンの音を聞き、耳を塞ぐー。


”男”がやってきたのは数分前のことだったー。

”男”のことなど忘れー、”女”として充実した生活を送っていた希海ー。


少し前から、メイドカフェでのバイトも始めてー、

ネットで配信活動などもやりながら、

”女”としての生活を堪能していたー。


趣味のコスプレを楽しみー、”かわいい”と言われることに

喜びを感じー、

その勢いでメイドカフェでの仕事もはじめー、

”欲望”を楽しむ日々ー。


帰宅すると”自分好みのメイド”ー

つまり、”わたし自身”を独り占めして、たっぷりその身体を

弄ぶー。

そんな、夢のような日々ー。


けれどー、この男の来訪によって、そんな希海の

”夢のような欲望ライフ”は終わったー。


♪~~~

インターホンが鳴り、「はいー」と、応答する希海ー。


そんな希海に対しー、

男はインターホンのカメラに顔を近づけるとー、

”どうもー。若林(わかばやし)ですー。と、

そんな言葉を口にしたのだー


「ーーーー!!!」

希海は、その男に見覚えがあったー。


がー、

咄嗟に”とぼけた”ー。


「ーはい?どちら様でしょうかー?」

動揺を悟られないように、完璧に応対できたと思うー。


しかしー、その男、若林は続けたー


”とっくにその”皮”の返却期限は過ぎているんですがねー?

 そろそろ、返してもらいましょうかー?”


若林がそんな言葉を口にしたー


(う、嘘だろー…?ど、どうしてー…)

戸惑う希海ー。


そうー、”希海”は、いやー”彼女”を着ている男ー、

吉岡 慎平(よしおか しんぺい)は、

数か月前に”身体貸し”から、この女性の”皮”を借りて、

着ている人間ー…

しかし、彼は”返却期限”を過ぎても、借りた皮を返さずに

逃亡ー、今に至っていたー。


数分前のことを思い出しながら、

インターホンが連打される音が聞こえないように

耳を塞ぐ希海ー


「知らないー。知らない知らない知らない知らないー

 わたしはー、わたしは清水希海ー わたしは清水希海ー」

ガクガク震えながらそう呟くー。


が、もう逃げ場がないのは明らかだったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


数か月前ー。


吉岡 慎平は、”身体貸し”の噂を聞いて、

それに興味を抱いていたー。


”皮”にした人間を貸し出してくれるサービス。


”皮”とは、実在の人間を皮にしたもので、

その”皮にされた人間”を着ることによって、その身体を乗っ取り、

まるで自分の身体として利用することができるー

と、いう夢のようなものだったー。


あまりにも現実離れしたその話を、世間で信じるものは

ほとんどいないー。


しかし、慎平は藁にもすがる思いで、

”身体貸し”事務所を訪れたー。


大学卒業後に就職したものの、仕事が上手く行かずに退職ー。

実家でニート生活を続けていたものの、

ついに父親が激怒ー、家から追い出されそうになり、

行き場を失っていた慎平ー。


そんな慎平は”別人”になって、また一から人生をやり直したい、と

そう考えていたのだー。


そしてー、訪れた”身体貸し”の事務所で応対したのが、

若林という男だったー。

夏目漱石のような感じにも見える、うさん臭い付け髭が特徴的な怪しい男ー。


しかし、対応は丁寧で、

若林は、とても親切に”身体貸し"のシステムを説明してくれたー。


「ー試しに、美人の姿で説明してあげましょうかー。

 その方が、あなたも嬉しいでしょう?」

そう言いながら、若林が美人秘書のような雰囲気の”皮”を、

慎平の前で着て見せたー。


「ーーえっ…す、すごいー」

思わず驚く慎平ー。


「ーふふふ そうでしょうー?

 この通り、皮を着れば、身体も、声もー

 こんな風に”その人のもの”を使うことができるんですー」

美女の皮を着た若林がそう説明するー。


「ーー例えばこの声で”この身体は俺のものだー”とか、

 そういうことも言えちゃうわけですよー」

邪悪な笑みを浮かべる美女ー。


思わずドキッとしながら、「へぇ~~~~…」と、

感心した様子の慎平。


そんな慎平を見て、美女姿の若林は笑うー。


「ー例えばこの身体で、こんなことをしたりー

 こんなことをしたりー」


そう言いながら、自分の胸を揉みー、

さらにはスカートをめくってみせる美女ー。


「ーーう、うわっ…す、すごいー」

顔を真っ赤にしながら慎平がそう言うと、

「ーぼ、僕でも、美女になれるってことですかー!?」と、

続けて叫んだー


「ははー。男の皮もありますからー、

 美女でもイケメンでも、何でもお好きなように

 1か月間、体験することができるんですー」


美女の皮を着たまま、若林がそう説明すると、

「そうそう、説明の続きでしたねー

 こんなことも、できるんですー」と、

今度は慎平に向かってキスをしてみせたー


「ーー~~~~」

ドキッとして真っ赤になる慎平ー。


やがて、若林は”美女”の皮を脱ぐと、

慎平は”皮選び”、そして、手続きに入ったー。


「ここにある”皮”は、全て合法の範囲内で集められた皮でしてねー。」

若林は、そう説明するー。


どうやら”皮”にされている人は

罪を犯して逮捕された人間、病気などで余命宣告を受けた人間、

自ら命を捨てることを希望している人間などー

そういった人間が集められているようだー。


「ーーまぁ、それと大きな”皮の仕入れ源”となっているのがー…」

若林はそこまで言うと、「あぁ、いや、失礼ー」と、

それ以上は言わずに、記入を終えた紙を見つめたー。


慎平は、数多くある皮の中から

”女子大生・美香(みか)”の皮を選びー、

その皮を早速、その場で着てみることにしたー。


「ーうわああ…す、すげぇ…ゆ、夢みたいですー!」

美香の姿でそう叫ぶ慎平ー。


担当の若林は笑いながら「お似合いですよー」と、微笑むー。


「ー”返却”は今日から1か月後のこの日までー。

 期限を守れない方には、相応の”ペナルティ”があるのでご注意くださいー」


その言葉に、美香を着た慎平は「はいー、分かりましたー」と

嬉しそうに微笑むー。


「ーーそれにしても、すごいー…

 僕がー、僕が本当に女になってるー」

スカートの上から、身体を触ったりー、

髪を触ったり、胸を揉んだりして”女”になっていることを

改めてその身で実感しー、興奮する慎平ー。


「ーははは、気に入って貰えて何よりでございますー。

 それでは、レンタル料のお支払のほうをお願いいたしますー」


若林はそう言葉を口にしたー。


”ーーーーー”

美香を着た慎平は、再び重ねた”借金”で用意したお金を手に、

それを支払うー。


「それでは、良い1ヵ月をー」

胡散臭い付け髭の男・若林はそう呟くと静かに微笑んだー。



この時の慎平は、”美香”として1か月間を存分に堪能したら、

”美香”の皮を返却するつもりだったー。

家から消えても、両親は心配する様子すらなかったー。

もうとっくに見放されているのだろうー。


がー、そんなことも気にせず、1か月間

”美香”として欲望の限りを尽くしたー。


しかしー…

1か月間”女”として過ごした慎平はー、思ったー。


「ーー…僕…

 明日からまた、”僕”に戻るのかー…


 明日から、またあんな惨めなー…」


表情を歪める慎平ー。

借金もさらに増えてー、1か月間姿を消していたことで

恐らく両親にもまた何かを言われてーー、

地獄のようなー、惨めな生活に戻るのだー。


「ーーー………い…いやだー…僕はー 僕は

 あんな生活に戻ってたまるか!」


美香の皮を着た慎平は、そう呟くと

「ぼ、僕は吉岡慎平なんかじゃないー。

 そんな奴知らないー」と、

綺麗な黒髪を掻きむしりながら、そう呟くー。


「ー吉岡慎平なんて知らないー

 僕は女ー 僕は女女女女女ー

 僕は、僕じゃないー

 わたしは、わたしは女よ!」


自分に言い聞かせるかのようにそう叫んだ

美香を着た慎平は、”やってはならないこと”に手を染めたー。


”返却期限”を無視して、そのまま”女”で居続けることを選んだのだー。


もちろんー、”そのまま”生活していれば、

すぐに見つかるかもしれないー。


そう思った”美香”を着た慎平は、その日のうちに

美容院に行き、髪型のイメージをガラリと変えて、髪を茶髪に変えー、

さらには服も一新して、メイクのイメージを180度変えて、

別人のような風貌に大変身したー。


「ーーふ…ふへへ…すごいーホントに別人みたいだー」

”生まれ変わった美香”の姿を鏡で見つめながら

ゾクゾクと興奮するとー、

慎平は、その日のうちに、行方を晦ましたー。


地方に渡りー、”清水 希海”という偽名を名乗りー、

身体を駆使して金を稼ぎー、

さらには、審査がユルユルのアパートを見つけ出しー、

”清水 希海”の名でアパートを借りることに成功したー。


そこからは”悠々自適”に、女としての

新しい人生を送り始めて居たー。

美貌を生かして配信者として活動しー、

さらには、メイドカフェでのバイトも始めたー。


返却日を無視して、”女”としての人生を送り始めてから

数か月ー。

”もうー”身体貸し”からは逃れたと、そう思い込んでいたー。


がー…甘かった。

身体貸しの業者である若林は、慎平を見つけ、

この遠く離れた地までやって来たのだー。


「ーーー…ーーー」

インターホンが連打されるー。


しかし、それを無視する希海ー。


「ーへ…へへー

 若い女の部屋のインターホンを連打する胡散臭い付け髭男ー…

 ーーー…社会で信用されるのは、僕のほうだー」


怯えた様子で耳を塞いでいた希海は、そんなことを

思いながら笑みを浮かべるー。


この”皮”の名前は”美香”だし、

自分の本当の名前は”慎平”だが、

今はあくまでも”希海”だと言い張る慎平ー。


”ーーーあぁ、あぁ、困りましたねー。

 借りたものは、ちゃんと返さないとー

 親に教わりませんでしたか?”


若林がため息をつきながら、そう呟くー。


「ーー…ーー」

それでも、無視を貫く希海ー。


「(しつこい奴だなー…でも、これ以上騒いだら

  近所の住人も出て来るぞー?”)」


震えながらも、希海はそんなことを思うー。


がーーー


”ーーいい加減舐めてんじゃねぇぞクソ野郎!

 とっとと出てきやがれ!”


若林が態度を豹変させたー。


それまでの穏やかな口調ではなく、

聞くだけで震えあがってしまうような声ー…


”ーー借りたもんは返すのが筋だろうが!

 あぁ!? テメェ、この俺を舐めてんのか?おぉ??”


若林のそんな恐ろしい声に震えながらも、

希海は”無視”を貫くー


がーーー…

ついに、扉を破壊するような音が聞こえ始めて、

希海は青ざめるー


「ーう…嘘だろー…?そ、そこまですんのかよー?」

ガクガクと震える希海ー。


いやだー

”元の自分”になんて戻りたくないー。


いやだー

いやだいやだいやだー…


そう思った希海は、ベランダの方に飛び出し、

下を見つめるー


「ーーーーーか、返してたまるかー!」

せっかく、楽しい人生を手に入れたんだー。

この”身体”を返してたまるかー!


そう思いながら、希海は意を決して、ベランダから飛び降りるー。


幸い、2階だったために問題なく下に着地すると、希海は

素足のまま走り始めるー


「ーはぁ…はぁ… くそっ…

 なんでアイツに僕の居場所がバレたんだー…」


名前も、見た目も、何もかも変えたはずなのにー


そう思いながらも、希海は夜の闇へと消えていくー。


「ーーーチッ!」

希海の家の中に侵入した若林はベランダから

逃げられたことに表情を歪めると、

穏やかな笑みを浮かべるー。


「まぁ、いいでしょうー。

 がー、いつまでも逃げられると思ったら、大間違いですよー」


若林はいつものような穏やかな態度に戻ると、

そう呟きながら、笑みを浮かべるー。


がー

その直後のことだったー。


「ーーこいつです!」

アパートの誰かが通報したのだろうー。

警察官が、希海の部屋に入って来るー。


若林は「これはこれはー」と、笑みを浮かべると、

希海と同じようにベランダから飛び降りて、そのまま”逃走”したー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


数日後ー


「ーー…へへー… 僕の勝ちだー」


”メイドカフェの先輩”である、梨沙(りさ)に

”家に変な男が乗り込んで来た”と、事情を説明し、

匿ってもらっていた希海は笑みを浮かべるー。


”ー若林 容疑者”

テレビにそう表示されているー。


希海の家に乗り込んで来たあの日、ベランダから逃亡ー、

止めに入った人間を突き飛ばして大けがをさせたために

若林は指名手配されていたのだー。


「ーーーふふふ… くくー

 これで、これで僕はずっと”希海”でいられるー」

希海は邪悪な笑みを浮かべながら、

”身体貸し”の業者の男が指名手配されたことを

心の底から喜ぶー。


「ーーーへへ…わたしは希海ー… へへへへへっ」

欲望に満ちた笑みを浮かべながら、

”身体貸し”から逃れることができた喜びを、

慎平は噛みしめるのだったー。


それがー…”甘い考え”であるとも知らずにー…。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


今年最初の皮モノですネ~★!


ひとまず、身体貸しから逃げることには成功しましたが、

このまま楽しい日々を…

とは、行かないのデス…★


どうなってしまうのかは、また次回以降を

楽しみにしていて下さいネ~!


今日もありがとうございました~!

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