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わたしは今、屋上から飛び降りようとしている。

しかも、他人の身体でー。


見知らぬ男性の身体で、このビルの屋上から飛び降りて

わたしは、生を終えようとしているー。


誰だかは知らない。

でもー。

わたしはどうせ死ぬのだから。


もう、こんな人生疲れた。

もう、こんな世界に居たくない。

そう思うなら勝手に死ね、と世間はわたしに言うだろう。

えぇ、そうさせてもらうわ。

わたしは、勝手に死ぬ。

他人の、身体でー。


「---」

わたしは揺るがぬ決意を胸に、目を閉じた。

わたしは女だ。

でも、今、わたしは男の身体。

誰の身体だろうと関係ない。

わたしは、この世界から只々、去りたい。

死んだあとの世界があるのかどうかは分からない。


もしもー

何も無かったとしてもー

もしも、わたしの行きつく先が地獄であったとしても、

私は全然構わない。

何故ならー

”この世界こそ”

地獄なのだからー


「---待ってくれ!」

背後から”わたし”の声がするー。


待たないー。

わたしは、死ぬー。


・・・・・・・・・・・・・・


1時間前ー


横川 亮真(よこかわ りょうま)は

楽しい大学生活を送っていた。

就職も決まり、あとは、

残りの大学生活を楽しむのみ。


今日も愉快そうな表情で

亮真は家へと向かっている。


一人暮らしの亮真は、

帰ると、自分の好きなように

プライベートの時間を楽しんだ。

彼女はいないが、それでも、趣味は

日々の疲れを癒してくれる。

同性の友達は多いから、寂しいと感じることもないし

学校も、将来も、友人も、趣味も

充実していたー


しかしー


前から物凄い勢いで走ってきた同じぐらいの年齢の

女性がーー

亮真の目の前まで迫っていた。


「え…!」

「あ…!」

亮真が気付いたときには、もう手遅れだったー。


その女性と亮真は激しくぶつかり、

そして、吹き飛ばされたー


・・・・・・・・・・


「--う…」

亮真が目を覚ます。

あまり人通りのない場所だったから

倒れたままになっていたようだ。


亮真が起きあがって

周囲を見渡すー


すると、目の前にー

”自分が倒れていた”


「--!?」

亮真は思わず驚いてしまう。


え?まさか、俺、死んだの?

そんな風に亮真は思う。


倒れている自分の身体を見つめるー

そんな話をどこかで聞いたことがある。

これは、自分が死んだことに気付いていないで

幽霊になって、倒れている自分を見つめている

パターンだ。

亮真はそんな風に思った。


だがー

「--うっ!?」

亮真は身体を身震いさせた。

北風が吹いて、足がひんやりと冷えたのだ。


「な、、えぇっ!?」

亮真は思わず驚いた。

自分の目線の先には、

綺麗な生足と可愛らしいスカート。


しかも、自分の口から出たのは

自分の声ではなく、女性の声。


「はっ…はぅぅぅ!?」

思わずスカートの上から自分の股間を

触る亮真。


「ね…ねぇええええええ!?」

亮真は自分のアレがないことに気付き

女性の声でそのまま叫んだ。


そうこうしているうちにー

倒れていた自分が目を覚ました。


亮真は思う。

まさか、まさかこの展開は…


”入れ替わり”かー?

と。


そんな映画やアニメを見たことがある。

”編入生”や”お前の名は”という作品だ。


「う、、嘘だろ…」

自分が幽霊になってしまっている展開でも

十分驚きだったが

まさか自分が女性と入れ替わって

女になってしまうなんて…


「えっ…!?!?」

亮真になった女性が周囲をキョロキョロ見回す。


「ひっ!?!?わ、わたしがもう一人!?」

亮真(女性)が呟く。


「--わ、、お、、落ち着いて」

女性(亮真)が慌ててそう告げて

混乱する亮磨(女性)に向かって叫んだ


「ど、どうやら、入れ替わってしまったみたいです!」

とー。


「---え…え…??」

戸惑っている亮磨(女性)。

自分の身体の方を見つめ、胸や髪のあたりを

手で確認している。


「どうやら…ぶつかった時に

 入れ替わってしまったみたいで…

 すみません」

スカートの見え方を気にせず、

男っぽい歩きで、亮磨(女性)の方に近づいていく。


「あ、俺は亮真です…」

女性の身体になってしまった亮磨が言うと、

亮真の身体になった女性は

元気のない表情で、

「あ、、わ、、わたしは香里(かおり)です」と

呟いた。


とても小さな声。

入れ替わってしまったことに心底

ショックを受けているようにも見える。


確かにー

こんなに可愛い女性が、俺のような男と

入れ替わってしまったらーと、

亮真は心の中で自虐的に笑う。

亮真は”ごく普通”の容姿の持ち主だからだ。


まぁー

女性になってしまった亮磨は思う。


こうなってしまったからにはー

”元に戻る方法を2人で探していく”しかない。

亮真は、これまで生まれてから何度も

入れ替わりの作品を見たことがあったが

”2人でお互いに成りすましながら協力していき

最後には元に戻る”というのが多かった。


まさか現実でこんなことになるとは

夢にも思わなかったけどー

こうなったら二人でー


「…とにかく、まずは元に戻る方法を探しましょう」

香里(亮真)が言うと、

亮真(香里)は普段亮真が浮かべないような

儚い表情で呟いた


「いいです…」

とー。


「へ?」

思わず香里(亮真)は聞き返した。


「わたし、これから自殺するんで、別にいいです」

そう呟くと亮真(香里)は立ち上がった。


「は??へ??」

香里(亮真)は間抜けな顔を浮かべて

自分の身体の方を見つめる。


「わたし、これからあのビルの屋上に行くところだったんです」

亮真(香里)が言う。


「お、屋上、??な、何をしに…?」

香里(亮真)が困惑しながら言うと

”さっき言いましたよね?飛び降りて自殺すんです”と

真顔で亮真(香里)が答えた。


「--その身体は好きに使ってください。

 わたし、急いでるんで」

そう言うと、亮磨(香里)はそのまま

女の子っぽい歩き方をしながら

立ち去ってしまう。


しばらく呆然としている香里(亮真)。

香里の身体の胸を見つめるー


「え…お、俺、この身体、好きにしていいの?」


ゴクリー

亮真は興奮して、

香里の身体も亮真の意識に従って

ゾクゾクしている。


いやいやいやいやいや!

香里(亮真)は首を振る。


「って、俺の身体で勝手に自殺するなぁ!」

香里(亮真)は可愛い声で叫ぶと、

慌てて自分の身体が立ち去った方向に

向かって行くー


人の身体で勝手に自殺されちゃ

たまったもんじゃない。


それにー

香里の身体でちょっと遊んでみたい気持ちはあるが

亮真は自分の身体が大事だー


「おおおおおおおおい!その自殺、待ってくれ~!」

香里(亮真)は大声で叫びながら

スカートがめくれあがることも気にせず

猛ダッシュした。


女性らしくない走り方に

通行人たちがびっくりして香里(亮真)の方を見る。


しかし、香里(亮真)にそんなこと構っているヒマはなかった。

このままでは、自分の身体で自殺されてしまうー


そうなった場合ー

下手をすると”本体が死んだ”ことによって亮真自身が

消える可能性も十分にあるし、

もしこのままだったとしても

自分の身体に戻ることは永遠にできなくなってしまう。


「うおおおおおおおお!俺の身体ァ~!」

香里(亮真)は鬼のような形相で

両手を激しく振って猛ダッシュする。


髪を振り乱して

スカートをふわふわさせて走る

香里の姿を見て

通行人たちは驚きの表情を浮かべていたー


・・・・・・・・・・・・・・・


亮真の身体になった香里が

指をさしていたビルに到着した香里(亮真)


「たしか、ここだったよな…」

雑居ビルのようだが、確かに屋上への

出入りは自由に見える。


ここから飛び降りて、彼女は

自殺するつもりだったのだろうー。


「はぁ…はぁ…」

疲れて綺麗な生足を晒しながら

がに股のポーズになって荒い息をする香里(亮真)


エレベーターのボタンを連打するが、

なかなかエレベーターがやってこない。


「---はぁ…」

ふと、香里の持っていたピンクのスマホが目に入る。


そこには、たくさんの友人からLINEが

届いていた。


香里がー

”みんな、ばいばい”とLINEを1時間前に

送信していて、それを見た友人たちが

香里にメッセージを送っていたー


”だいじょうぶ?”だとか

”変な気起こしちゃダメだからね”だとか

”話なら聞くよ”だとか

心配するメッセージが並んでいる。


香里(亮真)はさらにメッセージを

確認すると、

どうやらこの香里という女性は

自分と同じ大学生で、就職活動が

上手く行っていないだけでなく

2年以上付き合ってた彼氏に浮気された挙句

罵倒され、さらにはタイミング悪く

母親も病気で倒れたことから、激しく落ち込んでいたようだ。


「---くそっ!」

エレベーターが来ない。

香里(亮真)は階段を上って行く決意をする。


物凄い形相で階段を駆け上がって行く香里。


途中で子連れの親子とすれ違う。


「-ーわ!?何あのお姉ちゃん!?」

子供の声が聞こえる。


無視して階段を駆け上がりながら

香里(亮真)は叫ぶ。


「俺は女じゃねぇ!」と。

見た目も声もどう見ても女なのに

そう叫ばれた親子は「?」という

表情を浮かべたー


ようやく階段を駆け上がった香里(亮真)

ぜぇぜぇと荒い息をしながら

香里(亮真)は屋上への扉を開ける。


さっき、確かに香里はこの建物を指さしていたはず。

だがー

もしも違っていたら

あの香里とかいう女に、自分の身体ごと

自殺されてしまう。


そんなことは、阻止しないといけない。


屋上にはーーー

”自分”がいた。

屋上の端の方に立ち、

今にも飛び降りようとしている。


「---待ってくれ!」

香里(亮真)は大声で叫んだ。


「----」

亮真(香里)は泣きそうな顔で

振り返る。


俺にそんな顔させないでくれ…と

香里の身体の亮真は思いながら

声をかける。


「お、、俺の身体で勝手に死なないでくれ!」

香里(亮真)が女の声で必死に叫ぶ。


「-----…

 巻き込んでごめんなさい。

 でも、その身体、あげますから」

亮真(香里)はそれだけ言うと、

再びビルの下を見つめた。


「いやいやいやいや、やめてくれよ!

 俺は男として生きたいんだよ! 

 俺の身体を返してくれよ!」

香里(亮真)が言う。


それでも、亮磨(香里)は

振り返らない。


「---や、、やめてくれ!マジでやめてくれ」

香里(亮真)は叫ぶ。


冗談じゃないー

現実に入れ替わりなんてことが起きてしまうだけで

びっくりなのに、

相手がこれから自殺しようとしている女性だなんて

冗談じゃない。


「--こ、、そ、、そのまま死んだら…

 こ、、この身体で、、、

 エッチなことしまくっちゃうぞ!

 街中で裸になっちゃうぞ!」

香里(亮真)は叫んだ。


とにかく、どんな手を使ってでも、

止めなくてはー


その言葉に

亮真(香里)は再び振り返った。


お、反応した!

なんとか説得をー


しかし、亮磨(香里)は微笑んだ。


「好きにしてください」

とー


その言葉に、香里(亮真)は絶望したー


”この女、絶対に死ぬつもりだー”


と。


②へ続く


・・・・・・・・・・・・・


コメント


FANBOX限定で「入れ替わりモノ」が初登場デス~!

とんでもない題材の入れ替わりを書いてみました!


入れ替わった相手がたまたま自殺直前…

皆様だったらどうしますか~?(汗)


お読み下さりありがとうございました!

続きも、楽しみにしていてくださいネ☆!

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