<他者変身>マスターの秘策は他者変身②~遭遇~(完) (Pixiv Fanbox)
Content
男を誘惑するような小悪魔なファッションで
店先に立っていた少女は苦笑いを浮かべた。
「い…いらっしゃいませ~…!」
店先で男を誘惑し、経営破綻直前のカフェを
盛り立ててきた女性・由美は、
このカフェのマスターである義久が変身した姿だー。
見ず知らずの女子大生に変身して
その姿を勝手に使って
愛嬌や時には色目を振りまき、
カフェの売上を伸ばすことに躍起になっていたのだった。
がー
”終わった…”
義久はそう思った。
何故なら、お店に”本人”が現れてしまったからだ。
義久が変身するターゲットにした女子大生本人・
雅美がお店にやってきてしまったのだ。
「--ま、雅美が、ふたり…?」
この前、一度別の大学の友人と共に
このカフェにやってきていた富貴恵は
驚きの表情を浮かべる。
自分の隣には、確かに友人の雅美がいる。
しかし、カフェの店内には
小悪魔のような格好をした、ちょっぴりエッチな
雅美がいる。
「ーーふたご?」
富貴恵は、雅美と、雅美の姿を借りた義久を
指さしながら言う。
「ーー…え、、えっと、はじめまして」
義久が雅美の姿のまま言う。
雅美は、困り果てた表情で
自分と同じ姿をしている義久の方を見る。
「あ…あの…どういうことなんですか?」
雅美が言う。
怒っているーというよりも
戸惑った声だ。
「--わ、、わたしそっくりですねぇ~
ぐ、偶然かな~うふふふふふ」
義久はなおも誤魔化した。
他人に変身できる薬が存在するなんて
思う人は少ないだろう。
ここは”他人の空似”として処理するのが一番いい。
「え、、でも…?」
雅美が自分の姿をした義久を見つめる。
顔の雰囲気も全く同じー
手の一か所にあるほくろも全く同じ―。
「---…え…え…」
雅美はただただ戸惑っている。
まさか”自分の姿に変身されて
勝手に姿を使われている”などとは思わないだろう。
常連客の男は、その成り行きを
黙って見守っている。
「ーーあ、、ど、どうぞ!わたしそっくりの人に
出会えるなんて不思議だなー!
偶然ってすごいですねー!」
あくまでも”由美”として振る舞う義久。
元々、雅美の姿に変身して、名前も知らないまま
来てしまったから咄嗟に名乗った名前が由美だが、
義久はなんとなく気に入ってはいた。
「ーーあのさ」
雅美の隣にいた友人の富貴恵が口を開く。
「---え、、え~っと、
うん…そ、、そうよ。雅美だけど…
あの、その、なんというか…
ここでは由美っていうか…」
ーーーー「って、この前言ってたよね」
富貴恵は怒りの口調だ。
「ギクッ」
雅美の姿に変身している義久が
ひやひやしながら富貴恵の方を見る。
「どういうこと?ちゃんと説明しなさいよ」
富貴恵に詰め寄られて、
”由美”を名乗る義久は困惑している。
「え、、えと…そ、それはその…」
なんとか、
なんとかこの状況を乗り切る方法はないか!
何か、
何でもいい!
義久は必死に頭をフル回転させるー。
けれど、有効的な方法は見つからない。
「雅美、大学で
エロかったなぁ、とか
太もものサービスとか、
そういうこと言われて傷ついてるんだよ?
あんた一体何者なの?」
富貴恵が、雅美のことを思って
さらに激しい口調で言い放った。
「他人の空似とかいうレベルじゃないよね?
あんた、雅美と全く同じ姿だよ?
どういうことなの!
雅美、あんたに勝手に姿を使われて
傷ついてるんだよ!」
富貴恵が叫ぶと、
店内は沈黙したー
店内BGMのバッハのクラシック音楽だけが
響き渡っている。
「……わ、、、わ、、わたしにもわかんな~い!」
雅美の姿をした義久は、ぶりっ子のようなポーズを取ると
混乱したまま、カウンターの奥へと引っ込もうとする。
動揺しているのか女の子っぽい歩き方をするのも忘れて
どしどしと歩きながら、頭をむしゃむしゃと掻き毟る。
「--わ、、わたしは、由美ですよぉ!
おほほほほほほほ!」
無理があるー
明らかに声が裏返っている。
動揺していることが、
雅美にも、友人の富貴恵にも
常連客の男にもよくわかった。
「なぁ、もうやめようや」
商連客の男が口を開く。
「えー」
雅美の姿のまま、義久が呟く。
「--あんた、マスターだろ?
もう、やめようや。
おやじさんのアレ、使ったんだろ?」
常連客の男の言葉に
義久は焦る。
「わ、、わたしは、、わたしは由美なの!!」
この店を潰されるわけにはいかないー
この店はー
「バカ野郎!勝手に人の姿を使われている子の
身にもなってみやがれ!」
常連客の男が突然怒鳴り声をあげた。
「ひっ!?!?」
雅美の姿のまま、義久はびっくりして飛び上がる。
ふと、ホンモノの雅美の方を見るー。
雅美は、泣いていたー
自分の姿を勝手に使われて
大学内で勝手に変な噂が立っている。
それは、どれほど怖いことだろうー
「……す、、、すみませんでした」
義久はついに観念した。
小悪魔ファッションのまま床に土下座すると、
雅美と富貴恵の方に向かって
何度も何度も、すみませんでした、を繰り返した。
・・・・・・・・・・・・・
義久は、雅美の姿への変身を解いた。
そして、全てを打ち明けた。
自分のお店が廃業直前であること、
父親が残した変身するための薬を使って
大学前で適当な可愛い子を見つけて変身したこと、
それが偶然雅美だったこと、
名前が分からないから由美と名乗って
ここでお店を切り盛りしていたこと…
全てを打ち明けた。
「ーー……本当に、すみませんでした」
義久が頭を下げる。
雅美も、富貴恵も、
常連客も、そんな義久の方を見つめている。
「俺さ、親父さんから変身について
ちょっと聞かされてたんだよ。
だからさ、最初はまさかと思ったけど
由美ちゃん、いいや、あんたの態度が
あまりにも男っぽかったから、
あぁ、そういうことかってな」
常連客の男が言う。
義久は、ただ、お詫びの言葉を
何度も口にするだけだった。
「---…最低」
富貴恵が呟く。
「--…あぁ…分かってる…分かってる」
義久は頭を下げながら呟いた。
「俺は最低だ…
お店ももう廃業するし、
償えることなら何でも償う」
義久は叫ぶ。
もう、終わりだ
店も何もかも。
「ーーせっかくお店はいいところだと思うのに
なんで?」
富貴恵が呆れたように言う。
義久は
”いいお店ってだけじゃ、お店はやっていけないんだ”と
苦しそうに叫んだ。
「はぁ…」
富貴恵は呆れている。
どんなにお店が苦しいからって
こんなこと許されない。
「---…それで、わたしの姿を勝手に?」
雅美の言葉に
義久は「すまなかった…!」と震えながら叫ぶ。
謝って済む問題じゃないことぐらいは分かっている。
彼女の、名誉を傷つけてしまった。
だからー
「---」
沈黙する3人。
義久はなおも、謝罪の言葉を口にしている。
「----…わたし、とても怖かったです」
雅美が口を開く。
本来の雅美は大人しく、心優しい女子大生。
「ーー知らないうちに、わたしがバイトしてることに
なってて
ここに来たらわたしがもう一人いて、、
とっても怖かった」
雅美が震えながら言う。
義久はそんな雅美の姿を見ながら
”自分はなんてことしてしまったんだ”と
嘆くー。
自分のことしか考えてなかった。
「ーー…これからは絶対に、勝手に
そういうこと、しないでもらえますか?」
雅美が言う。
穏やかだが、強い口調。
「あ、、あぁ…約束する」
変身の力は、もう使わない。絶対に。
義久は心の中で誓う。
「それとー…
どうしてもわたしの姿が必要なら…
偽物じゃなくて、ホンモノを…
ホンモノをちゃんと使ってください」
雅美はそう言い放った。
「え?」
横にいた友人の富貴恵が驚く。
「ちょうどわたし、お金が必要で
ちょっとしたアルバイトを探してたんです。
…週1回ぐらいしか来れませんし
そういう格好もしませんし
なんというか、、男の人が喜ぶようなことも
しませんけど…
それでもいいなら、わたし、ここで働いてもいいですよ」
雅美の提案に
義久も驚く。
「い、、いや、でも、それは」
義久がそう言うと、
雅美は少しだけ笑った。
「お店は素敵だと思いますしー」
とー。
「-雅美…お人よしが過ぎない?」
富貴恵が呟くと
雅美は「う~ん、そうかな?」と苦笑いする。
雅美は天然なところもあって
富貴恵もそのことはよく理解している。
「--あ、でも、わたしは雅美ですからね!
由美じゃないですからね!
そこは、ちゃんとしないと、その、だめです」
雅美が慌てた様子で言う。
「--こ、、こんな俺を…許してくれるのか…?」
義久が顔を上げて雅美の方を見ると
雅美は呟いた。
「許しませんー
でも、お店はいいところだなって思いましたし
力になれればなって…」
天使だー
義久はそう思った。
「ありがとうー」
そう呟くと、「ちゃんと反省はしなさいよね」と
呟く富貴恵の方を見て、義久は
もう一度頭をふかぶかと下げるのだった。
「--ところで」
常連客の男が言う。
「いい加減、その格好はちょっときついな?」
常連客の男に言われて
義久は自分を見る。
「あー…」
変身しているときに着ていた
小悪魔ファッションのままだと気付いた義久は
苦笑いを浮かべた。
「確かに、気持ち悪いですー」
雅美が笑いながら言う。
その言葉に、義久も富貴恵も
苦笑いをするのだったー
・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後―
カフェでは、義久と共に
バイトとして働く雅美の姿があった。
「いらっしゃいませー」
雅美はよく働いてくれている。
もちろん、常連客には
”全て”を打ち明けた。
お叱りも受けたが
義久はそれらを全て受け入れた上で
再起していくことを約束した。
雅美の効果だろうかー
それとも、義久が心を入れ替えたからだろうかー
お店の売上はこれよりもちょっと伸びた。
”これならなんとかやっていける”
というレベルにー
”大事なのは外見じゃなくて中身”
そんな風に思った義久は
色々なことを実施して、お店を
なんとか継続していこうとしたー
父が自分に変身するための薬を
渡した理由は分からないー
けれど、
もしかしたらー
”大事なのは外見じゃない”と
気付かせるためだったのかもしれないー
「あ、雅美~!頑張ってるね~!」
友達の富貴恵がやってくる
「あ、うん!週1回だけどね」
雅美が照れくさそうに笑う。
「--いらっしゃい」
義久は”マスター”として
雅美の友達を出迎える。
「わたしは、見張りだから」
富貴恵がそう言うと、
義久は苦笑いしながら、
富貴恵たちを歓迎したー
以外なカタチで、再起の道を
歩み始めたカフェは、
この後、裕福ではないながらも
なんとか、しぶとく生き残って行ったのだというー
おわり
・・・・・・・・・・・
コメント
FANBOXで複数話続くお話は
リメイク除くとこの作品が初めてでしたー!
私のサイトの”憑依空間”では憑依メインサイトなので
憑依のお話がとっても多いですが
ここでは憑依以外も私のサイト以上に
色々書いていければな~と思っています!
他者変身はまだまだ不慣れな部分も多いですが
お読み下さりありがとうございました!!