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「私は……亜優美…」

亜優美は一人、誰もいない家で呟いていた。


亜優美に憑依している男の家だ。

家の照明はほとんどが消され、暗闇に包まれている


その中で、亜優美は一人、しっかりとした口調で言う。


「私は亜優美…

 お父さんは、あの人の大切なモノを奪った人間のクズ…」


亜優美は一言、一言かみしめるようにして言う。


男が使った緑色の液体、

憑依シロップと名付けられている薬品には

もう一つの効力があった。


その効力とは、

時間はかかるものの、憑依している間に、

あることを強く念じることによって、

憑依された人間自身の記憶や思考にも

少しずつ影響を与えていく… というものだった。


憑依されている間に、憑依している人間の

思考が、徐々に、その肉体の記憶や思考にまで

影響していくのだ。


「…私はお父さんを許さない」

「…私はお父さんを許さない」


何度も、何度も、

亜優美の体で、亜優美の声でそう呟いた。


刻み込むようにー。


あいつの最愛の娘でもある、

亜優美を変えていくー。

父親を憎む娘にー。


おれが、そうさせている。

その事実に、亜優美は興奮しながら

自分を抱きしめる。


そして一人笑う


「お父さん、急がないと…

 わたし、本当に変わっちゃうよ…?

 ウフフフフ…」


その笑顔はーー

優しい亜優美のものなどではなく、、

悪魔の微笑みのようだったーー。


♪~


亜優美のいる部屋のインターホンがなる。


部屋に入ってきたのは

ニット帽をかぶった男ー。


「二宮(にのみや)…」

亜優美はそう呟くと、

ニット帽の男を部屋に招き入れる。


「…ふふふ…悪そうな顔になっちゃって」

ニット帽の男が笑みを浮かべると

亜優美は悪い笑みを浮かべて呟いた。


「んふふふふ…

 憑依して無理やりこういう表情をさせている…

 ゾクゾクするよ」

亜優美は自分の顔を指でなぞりながら

クスクスと笑い始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


…娘が憑依されてから1日。


妻にも話すことができず、

父・竜二は

交渉は順調に進んでいるから大丈夫だと

妻にそう伝えた。


「…本当に、大丈夫なの?」

妻は心配そうに言う。


竜二にもわからないー。

だが、”娘が憑依された”などと伝えるわけにはいかない。

妻はそれこそ倒れてしまうだろう。


高校には体調不良だと連絡を入れた。

警察にも相談できない。


人質ーー

と、いうよりは娘そのものが奪われている状態ではーー

うかつなことはできない。。


だが、長引かせるわけにはいかない。

亜優美の意思に関係なく、身体を動かされているのだとすれば

何をさせるか分からない


極端な話ー

”そのまま死ぬことだって”できるかもしれないー。


亜優美の黒く染まった笑顔を思い出す。

そして、優しい本来の笑みを思い出す。


「亜優美ーーー」


竜二は涙をこらえて頭を抱えたーーー

自分に恨みがある人間の仕業かー?


会社を拡大するために、竜二は確かに多くの

人間を傷つけたかもしれないーー


だがーーー。


思い当たる人物は、何人かいる。

それでも、誰の仕業だか分からないし、

そもそも恨みによるものかどうかも

確実ではない。


ーーー電話が鳴った。

その音は、まるで死のサイレンかのようだった。


電話に出ると、

聞きなれた声が聞こえてきた。


「--おとうさん!

 亜優美だよ~!

 今日も私と会いたい?」


亜優美の元気な声が聞こえる。

かけがえのない存在ーー


けれどもーー

竜二の手は今の亜優美には届かない。


最愛の娘の声が、

今は、”悪魔の声”のようにも聞こえる。


「場所は?」

竜二が聞くと、亜優美が笑った。


「私ね~

 今日は西区の公園にいるの!


 学校サボってね!

 ウフフ…

 どう、おとうさん~?

 私、悪い子になっちゃった!あは!」


竜二は受話器を握りしめた。

そのまま受話器が砕けるのではないかと

思うぐらいに、力強くーーー。

受話器がギシギシと音を立てて…


絶対に許さない。

亜優美に憑依しているヤツを、

必ず引きずり出してやる。


竜二は指定された公園へと向かった。


・・・・・・・・・・・・・


「--亜優美、休むなんて珍しいね?」

亜優美の親友・美月が言うと、

同じく亜優美の友人の由恵も「そうね…」と

誰も座っていない机を見つめた。


「………」

由恵は亜優美の机をじーっと見つめる。


「---どうしたの?」

美月が尋ねると、由恵は「なんでもない」と

ぼそっと呟いて自分の座席へと戻って行く。


いつも元気な亜優美が風邪ー。

まぁ、誰だって風邪を引くことはあるかもしれない。


それでもー


美月は、スマホを見つめる。

亜優美にLINEを送っても返事が来ない。

既読はつくのだが、返事が来ないのだ。


「---…」

美月は不安そうにスマホを見つめた。


「------」

もう一人の友人・由恵もスマホを見ているー


由恵の画面には

”亜優美とのLINEのやり取り”が

表示されているー


そこにはー

”亜優美からのメッセージ”が表示されていたー


美月にはない、

”亜優美からの返信”が、

由恵の画面には表示されていたー。


・・・・・・・・・・・・


ーー夕方。

人の気配のないひっそりとした公園

そこにやってきた竜二は

周囲を見渡す。


「---お父さん!」

背後から亜優美の声がした。


「---あーーー、、」

名前を呼びかけて竜二は言葉を失った。


亜優美は胸元を強調したブラウスに

今にも見えてしまいそうなぐらい短い、

赤いミニスカートという派手な格好で

こちらを見ていた


「貴様ーー亜優美になんて格好させるんだ!」


竜二は思わず声を荒げた。


亜優美はー控えめな子だ。

いつも優しく、真面目でーー


その亜優美がこんな男を誘うような格好を

させられている。


それだけでーー

竜二の中の”殺意”は最高潮に達した。


拳を握りしめる。


だがーーー


「え~?可愛いでしょ!

  今日もさっきから、男の人が結構

 亜優美のこと見てるの!

 なんだか快感!」


亜優美がそう言うと、竜二に近づいてきた。


「見られる快感ってやつ?

 うふふ、わたし、目覚めちゃいそう!」


挑発的に笑う亜優美。

明らかに竜二を煽っている。


「私とお話しするなら、

 100万円よ?

 おと~さん!」


そう言って無邪気に手を差し出す。

綺麗な亜優美の手ー

その手も、亜優美の優しい心も、

今は、得体のしれないやつに憑依されている。


亜優美の真似をして、

馬鹿にしたような態度をとるコイツが

にくい!


今この場でぶん殴ってやりたい。

だが、殴っても傷つくのは亜優美だ。

憑依しているヤツじゃない。


竜二がお金を渡すと、亜優美が

「バカなおとうさん♪」と笑いながら

ひったくるようにしてお金を受け取った。


「じゃあおとうさん、、

 まずは~私の靴を舐めなきゃね?」


そう言うと、綺麗な足をこちらに差し出した。


今日はハイヒールを穿いている。


「貴様…」

竜二は亜優美を睨んだ。


早く舐めろ、と言わんばかりに

亜優美は見下すようにして竜二の方を見つめる。

実の父を見つめる目じゃないー

完全に、何者かに支配されている。


竜二は怒りに震える。

だが、今日言うとおりにしなければ、

亜優美はさらに汚されてしまう。


竜二は目をつぶって

亜優美のハイヒールを舐めた。


地面に這いつくばって、

プライドを捨てて…


「あはははははは!

 お父さん、そんなに私のことが大事なんだ!

 うれしい~!」


亜優美が大笑いする。

父親にこんなことをさせているー

優しいこの娘にこんなことをさせているー


憑依している人物は、そう思うだけでも

ゾクゾクしたー

そして、乗っ取られている亜優美の身体は

男のゾクゾクにしたがって興奮し、

火照り始めていたー。


「ホラ!もっと舐めなさい!

 もっともっと!あはは!あははははは!」


周囲の公園の利用客が異常なモノを

見るようにして竜二を見ている


「あ~~~傑作!

 はい~~~合格~♡」


そう言うと、亜優美は足を下げた。


「はぁ~本当に私って可愛いよね。

 こんなに大胆に足を出しちゃって…

 …男の人に声をかけられるのも

 時間の問題かな~」


亜優美がうっとりとした顔で言う。


「くっ・・・・・・靴は舐めた!

 亜優美を解放しろ!」


竜二が言うと、

亜優美がバカにした笑みを浮かべてこちらを見た


「……おとうさんさ、

 タバコ吸ってるよねいつも?

 今、持ってる?」


亜優美がそう言った


「…持ってはいる。

 だが、そんなこと関係ないだろ!

 亜優美を返せ…」


そう言うと、亜優美が手を差し出した。


「1本 私にくれる?」


竜二は凍りついた。

亜優美は17だー。

まだ、たばこを吸う年齢じゃない。


「---ねぇ、早く!」

亜優美がいらだった様子で言う。


亜優美が声を荒げている。


竜二は震えた。

娘に喫煙させろと言うのかーー?

ーーと。


ふざけるなーー

そんなことーーー


竜二が黙り込んでいると亜優美が冷たい声で言った。


「ねぇ、おとうさん。

 私ね、こんな風に全部、好きにされちゃってるけど、

 本当はこんなことしたくないのー。


 今も本当の私は心の奥底で泣き叫んでる。

 わかる?


 こんなことやりたくない、

 こんなことしたくない! ってね♪


 でも、今の私はしちゃうの!

 だって操り人形なんだもん!


 この体でい~~っぱい遊んで、

 真面目な亜優美を

 どんどん壊していっちゃうの!


 うふふふ…

 真面目な私がどんどん変わっていく。

 興奮しない?」


亜優美は顔を赤らめて笑みを浮かべる。

亜優美がーー

とんでもない事を口にしながら

興奮しているー


いいや、

興奮させられているー。


亜優美ーーー

亜優美ーーーー!

許してくれ!


竜二はそう叫びながら、

タバコとライターを差し出した


「最初から、そうしなさいよ」

亜優美が乱暴にタバコを取り上げると、

ライターで火をつけ、美味しそうに煙草を吸い始めた。


可愛い娘がーー

嬉しそうに煙草を吸っている。


「--あ~美味しい~。

 あ~あ、また一つ、私、悪い子になっちゃった♪

 どうする、お父さん?」


竜二は無言で亜優美を睨みつけた。


「…こわ~い!

 怒ってるの~?」


…竜二は答えない。

挑発に乗るまいとして、

沈黙しているのだ。


「あ、私の太もも見てるの?それとも胸?

 やだ~お父さんたら、下心丸出しじゃない!

 娘の私の体が、そんなに好きなの~~


 プっフフフ…気持ち悪い~!」


なおも亜優美が挑発を繰り返す。


「ふっ…ふざけるな!!

 亜優美で遊ぶな!

 貴様!ぶっ殺すぞ!」


竜二は怒りのあまり物騒な言葉を

口走った。


周囲の公園の利用客の

視線がさらに集まる。


「---じゃあ、殴りなよ?

 私、悪い子だもんね。

 悪い子にはしつけが必要でしょ?


 ホラ!早く!思いっきり私を殴ってよ!」


ーー殴れ。

これが次のヤツの要求なのだろうか。。


だがーー

それだけはできないーー

娘を自分の手で傷つけることなんてーー


竜二が震えながら沈黙した。


「殴れないっていうの?

 お父さんが怒らないと~

 私、もっと悪い子になっちゃうよ?」


そう言うと、亜優美は煙草を乱暴に投げ捨て、

吸い殻をヒールで踏みつぶして竜二の方に

近づいてきた。


「ホラ…」


亜優美が竜二の手をつかみ、自分の胸に押し付けた。

亜優美の表情はー

本人が絶対に浮かべるはずのないー

妖艶な表情だった。


「街中で…こんな風に、エッチなこと、

 しちゃうよ…?」


竜二の手が亜優美によって

亜優美の胸に押し付けられている。


「はぁぁ…うふふ…♡

 気持ちイイ 感じてきちゃった…♡」


亜優美ははぁはぁと色っぽい声を

出しながら興奮している。


竜二は耐え切れず必死に亜優美の手を振りほどいた。


「--ーあ、、亜優美…」

涙ぐむ竜二。


どうすることもできない無力感ーー

壊されていく娘ーーー


「ーーー終了~~~!」

亜優美が満面の笑みで言う。


終了…?


「5分経っちゃった!えへ!

 今日はこれまで!

 あ~あ、お父さんがたすけてくれないから、

 私、もっと悪い子になっちゃう!


 本当はなりたくないのに

 悪い子になっちゃう!

 あははは!あははは!」


亜優美は笑うと、公園の出口に向かって歩き始めた。


「---亜優美!待ってくれ!」

竜二がすがるように呼ぶと亜優美は振り返った


「---亜優美、これから”面接”があるの。

 だから、バイバイ、お父さん♪」

そう言うと亜優美は足早に立ち去ってしまった。


ーー無力だ。

その場で竜二は膝を折った。


そして、地面に手をつき、

涙をこぼした。


「亜優美ーー

 必ず助けるからーーー


 必ずーーー…」


竜二の涙はーーー

止まることなく、流れ続けた。


・・・・・・・・・・・・・・・


「-----…」

公園から出た亜優美は、

立ち止まってスマホを手にする。


亜優美の可愛らしいスマホー。


そこにはー

この身体ー

亜優美の友人である”由恵”からのLINEが

表示されていた。


それを見て、

亜優美は不気味な笑みを浮かべたー。


③へ続く


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コメント


「ムスメの身代金」リメイクの第2回でした!

リメイクするにあたって

視点を変えたり、台詞を変えたり増やしたり

展開を追加したりしています!

原作とは異なる新展開もぜひ楽しんでくださいネ!

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