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「ダメだ…このままでは…」

とあるカフェを経営する男・神崎 義久(かんざき よしひさ)は

途方に暮れていた。


彼は3年前にカフェをオープンしたものの、

経営状態が非常に苦しく、

廃業直前にまで追い込まれていた。


「--おっさん一人じゃなぁ」

常連客で顔なじみの男がそう言った。


「--いやいや、人を雇うお金なんてありませんよ。」

マスターが笑いながら返事をする。


「でもさぁ、ホラ、可愛い子目当てで

 常連になってくれる人とかもいるだろ? 

 なんかアテはないのかよ?」

常連の男の言葉に、マスターの義久は

苦笑いする。


そんなアテはない。

そもそも義久は独身だから、

娘に手伝ってもらうようなこともできない。


・・・・・・・・・・


夜ー


「はぁ…そろそろ店じまいかな」

”優しいマスター”として

そこそこ人気もある義久。

だが、それだけではやってはいけない。

これが、この世の中の厳しい現実。


義久は、”店じまいをしよう”と

決断しようとしたー


が…


「あ…」

そういえば、と義久は

机の中に置いてあった

”ある錠剤”を見つめた。


これを飲むと”他人に変身できる力を手に入れられる”。

このお店をオープンしたときに

オープン記念に父がくれたものだ。


その父は、それからまもなくして

病気で亡くなった。


「はは…」

ビニールに入った古びた錠剤を見つめて

義久は自虐的に笑う。


”他の人に変身できる”なんて

あり得るはずがない

当時、父は既にボケていたし、

恐らくはただの風邪薬か何かか、

最悪の場合、毒の可能性もある。


だからー

義久は”父の形見”として

その変身の薬を机にしまっておいたのだ。


すっかり、忘れていたー


「でもさぁ、ホラ、可愛い子目当てで

 常連になってくれる人とかもいるだろ? 

 なんかアテはないのかよ?」


常連客の言葉を思い出す。


待てよ…?

このまま閉店を迎えるぐらいなら…。


「----」

義久は、そのまま古びたポリ袋に入った

錠剤を袋から取り出すと

ひと思いにそれを飲み込んだ。


・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


「まさか、本当だったとはな…」

義久は呟く。


父が生前にくれた”他者に変身する力を手に入れられる薬”は

本物だったー。

近所の子供を見つめながら、変身するイメージを

頭に浮かべたところー

なんと、その子供に変身できたのだ。

そして、元の姿に戻るイメージを浮かべたら

元の姿に戻ることもできた。


最初、自分が幻覚を見ているのかと思い、

近所を徘徊して試してみたが

どうやら、本当に変身できているようだった。


”この力があれば、逆転できるかもしれない”


義久は、店から少し離れた場所の大学の側に来ていた。


可愛らしい女子大生を物色している。

これじゃ、まるで、

”変質者”だー

と思いながら…。


でも、自分は誰かに危害を加えるつもりはない。

その姿に、変身させてもらうだけだー。


店から離れた大学を選んだのはそのため。

変身した子の知り合いが来たりすると

面倒だからだー。


「--!!」

女子大生物色をしていた義久は

目の色を変えた。


「いたー…!あの子だー!」

大人しそうで、”清楚”というイメージが似合う

ロングスカートの女子大生がそこにはいたー。


”物静かな美人”という感じだ。


「あの子だー…」

カフェにはちょうど良い顔立ち。

そして、ああいう大人しい子の姿で

明るく振る舞うのは、ギャップ萌えも

狙えるかもしれない。


「---君の姿、借りるよ…」

遠目からそう呟いた義久は

頭の中で念じて、

その女子大生の姿に”変身”したー。


・・・・・・・・・・・・


「いらっしゃいませ~♡」

1週間後ー


義久のカフェは大繁盛していた。

可愛らしい女子大生バイトが

新しく入ったからだー。


元々話術に長けていたマスターは

女子大生の姿を使って、

人々を魅了した。


「はい~!おじさん、体調崩しちゃって」

微笑む彼女。


見知らぬ女子大生に変身した義久は、

翌日から、その姿でこの店に

立ち始めた。

だがー、

常連客の一人に

「かわいいね。名前は?」と聞かれて

言葉に詰まってしまった。


この女子大生の名前を

義久は知らないのだー。


咄嗟にその場で、由美(ゆみ)と

名乗ってしまったので

とりあえず今も由美と名乗り続けている。


そしてー

当然、「マスターは?」と聞く客も多かったので

”マスターの親戚”という設定にし

自分は体調不良で寝込んでおり、

その代わりに働いている、ということにした。


「--由美ちゃん~!こっちもお願い!」

客の一人が言う。


由美は「は~い♡」と可愛らしく微笑む。


由美に変身した日の夜、

色々な可愛らしい仕草を必死に自分の部屋で

練習した。

女子大生の姿をしたおっさんが一人で

かわいいポーズを取ることに、義久は

抵抗を感じたが

”いや、今はどこからどうみても女子大生だ”と

自分に言い聞かせて可愛い仕草を

身に着けたのだった。


「--いらっしゃいませ~♡」

”由美ちゃん”目当てにやってくるお客さんは増えたー

若い男もやってくるようになったー。


”由美ちゃん”として

メイド服姿でお店に出たり、ウェイトレスの姿をしたり

バニーガールやチャイナドレスでお店に出たりー

人々の心を義久は巧みにつかんでいき、

1か月後には、お店の経営状態は

嘘のように回復したー。

服は、稼いだお金でネットで注文しているー。


「はぁ~」

お客さんが途切れ

一息つく由美。


今日は、メイド服姿で

お店に出ていた。


「ふ~」

煙草を吸う由美。


「--俺の目指してる店とは

 違うケド、これはこれで仕方ないな」

女子大生の姿に変身している義久は

煙草を吸いながら呟く。


なんだか、”可愛い子目当て”の客が

増えてきたし、尻を触られたりもするが

それでも、自分が生きて行くためだからーと

義久は自分に言い聞かせる。


自分は”由美ちゃん”として生きて行くしかない。


入り口が開く。


「いらっしゃいませ~♡」

煙草を慌てて隠して”由美ちゃん”として

笑顔を浮かべる。


大学生グループで

男女2人ずつのペアだ。


「--…」

大学生グループがぽかんと口を開けている。


カフェに入ったらメイドが

飛び出してきたから驚いたのだろうか。


「--あ、え~っと、何に致しますか~?」

落ち着いた雰囲気に切り替える由美。

甘い感じがダメそうな客には

こうして使い分けているのだ。

本来、この女子大生はとても大人しそうな顔立ちだし

こっちの方が容姿には似合っているのかもしれない。


注文を確認すると、

大学生グループの女子のひとりが

苦笑いしながら口を開いた。


「雅美…(まさみ)、バイトしてたんだ?」


とー。


「へ、雅美…?」

”由美”は表情を歪めた。


「---雅美でしょ??

 雅美もそんな格好するなんてびっくりだなぁ~」

女子が言う。


「普段、あんなに大人しい感じなのに

 意外と大胆なんだな~!」

男子の一人も言った。


「ふ、、、ふぉぉぉぉぉぉぉぉ!?

 わ、わたしのお知り合いでしょうかぁぁ?」

”由美”はびっくりして飛び上がった。


「何言ってるのよ~

 同じ大学の仲間でしょ?」

女子大生のひとりが、呟いたー。


「-----」

”しまった”と、女子大生に変身している

義久は思うー


わざわざ1時間以上かけて遠い大学の

女子大生の姿に変身したのに

まさか知り合いが来てしまうとは。


「---え、、え~っと、

 うん…そ、、そうよ。雅美だけど…

 あの、その、なんというか…

 ここでは由美っていうか…」


顔を赤らめながら言うと

男子の一人が

「雅美ちゃんのメイド姿かわいいなぁ~」と

ニヤニヤしながらその姿を見つめたー


「わ、、わ、、わたしがここでバイト

 してるってこと内緒にしておいて

 もらえます…じゃない、もらえるかな?」


そう言うと、

「--え?隠さないといけない事情があるの~?」と

女子の一人が聞き返した。


「うん…」

とりあえず誤魔化すしかない。

義久は、そう考えながら、返事をしたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


1週間後ー


「雅美ちゃんのチャイナドレス姿

 エロかったなぁ~」


「え~俺が行った日は

 ゴスロリファッションだったぜー?」


「--?」

女子大生・雅美は

男子たちの会話に首をかしげた。


チャイナドレスに

ゴスロリ?

自分とは全く縁のない服装だ。


「--…」

雅美は”雅美なんて名前、たくさんいるもんね”と

自分の中で納得しながら

別の雅美の話をしているのだろうと

気にするのをやめて歩き出した。


しかしー


「あ、雅美ちゃん!昨日はありがとう!」

チャイナドレス姿で興奮していた男子生徒が言う。


「--え?」

雅美は思わず首をかしげた。


「いや、ほら!太もものサービスだよ!

 最高だったよ!」

男子が言う。


「ふ、、太もも…?

 い、いきなり何のこと?」

雅美がそう言うと、

その隣の男子が呟いた。


「ほら、やめとけ。

 雅美ちゃん、あの店では由美なんだから。

 学校でその話はやめよう」


ゴスロリ雅美に興奮していた男子が言うと、

チャイナドレス雅美に興奮していた男子が

頷いた。


「また行くから!じゃ」

そう言って、二人の男子生徒が立ち去って行く。


「・・・??」

雅美は、訳が分からず

その場に立ち尽くした。


「え…ど、どういうこと??」


・・・・・・・・・・・・・・・・


昼ー。


雅美は大学内の食堂で

昼ごはんを食べていた。


友達の富貴恵(ふきえ)と一緒だ。


「あ、そういえばさ~ 

 雅美、だいじょうぶなの?」

富貴恵が言う。


「え?なにが?」

雅美が返事を返すと

富貴恵は呟いた。


「ほら、おばあちゃんの介護で色々

 大変って言ってたでしょ?

 家の手伝いもしてるのに

 バイトなんか始めて大丈夫?

 無理してない?」

富貴恵の言葉ー。


富貴恵は、雅美の姿に変身した義久のカフェを

訪れた大学生グループの一人。


あの店で言われた通り、

誰にもバイトのことは話していないが

ふと不安になったのだった。


「--バイト?してないけど?」

雅美が言う。


富貴恵は苦笑いする。


「も~!わたしと雅美の仲でしょ? 

 誰にも言わないって!」


その言葉に、雅美は

得体の知れない恐怖を感じた。


「え…??どういうこと?」

雅美の表情を見て、

富貴恵も”雅美がとぼけてるのではない”ことを

感じとり、真剣な表情になって

口を開いた。


「カフェで…由美って名前でバイトしてるでしょ…?」


「--!?」

雅美は、あまりの驚きで、コップの水を

こぼしてしまう。


「な、、何それ…?」


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


義久は、同じ大学の人間が

何人か店にやってきて姿を見られてしまったことを

まずいなぁ、と思いつつも

利益を稼ぐために

雅美の姿に変身している状態から

抜け出すことはしなかった。


今も”由美”として店で働いている。


「いやぁ…由美ちゃんも偉いなぁ」

”常連の男”が言う。


「いえ、おじさん、まだ体調が

 悪いみたいなので」


そう言うと、常連客は

”そっか”と苦笑いした。


今日の”由美”は

小悪魔っぽい黒を基調とした

ミニスカート姿。


「それにしてもさぁ~

 由美ちゃんって…」

常連客がそう言いかけた時、

扉が開いた。


「ほら!あれ!」


「--!!」

”由美”として振る舞う義久は

表情を歪めたー


入ってきたのはー

この前の大学生グループのひとりだった

女子大生・富貴恵とーーー

変身している自分自身と同じ姿のーー

雅美だったー


「---わ、、わたしが…もう一人…?」

カフェに入ってきた雅美が驚いて

その場に立ち尽くすー。


小悪魔ファッションでコップを運んでいた

雅美の姿をした”由美”こと義久は

驚いて、運んでいたものを落としてしまったー


同じ顔の女子大生ふたりが

お互いにびっくりしながら

見つめ合っているー


そして…


②へ続く


・・・・・・・・・・・・


コメント


まだまだあまり執筆経験のない

他者変身モノを書いてみました~!

続きは近日中に!



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