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「ーーーーーふ~~~久しぶりの実家はやっぱり落ち着くなぁ」

男子大学生の森田 真守(もりた まもる)は、そんな言葉を

口にしながら、実家のイスに腰掛けるー。


「ーふふー、今日ぐらいはゆっくりしていってねー」

母親の和江(かずえ)がそんな言葉を口にすると、

真守は「ありがとうー」と、穏やかに笑うー。


真守は、来年から社会人となる男子大学生ー。

既に企業からも内定も貰っていて、今は残りの大学生活を

堪能しているー、そんな状態だー。


そして、今日は久しぶりに実家に帰ってきているー。


大学2年目の頃に一人暮らしを始めて、それからは数か月に1度ほど

実家に帰ってのんびりするー…

それが、真守の日課だったー。


「そういえば、美彩(みさ)も時々、俺みたいに帰ってきたりしてるのか?」

真守がそんなことを母の和江に聞くとー、

「美彩は忙しいみたいだから、年末年始とお盆ぐらいかなぁ」と、

和江は笑うー。


「ははは、そっかー」


”美彩”とは、ひとつ年下の妹のことで、

現在は真守とは別の場所で一人暮らしをしているー。


美彩は大学に入学したのを契機に一人暮らしを始めたためー、

”大学2年目の時に”一人暮らしを始めた兄・真守とほぼ同時期に

実家を出たことになるー。


「ーー俺が頻繁に実家帰りしすぎなのかなぁ」

真守はスマホをいじりながら、そんな風に苦笑いをすると、

「ううんー。ここは真守と美彩の家でもあるんだからー

 帰りたいときは帰って来ればいいし、

 逆に忙しいときは無理しなくてもいいしー、

 気を遣う必要なんてないわよ」と、母・和江は笑いながら答えるー。


「ーーーじゃあ、これからもお言葉に甘えて」

真守はふざけた調子でそう言うと、

「よし!じゃ~、久しぶりに自分の部屋で少しのんびりしてくるわ」と、

母・和江に伝えて、階段を上り出すー。


「は~い!あ、そうそう、いつものように夜は食べていくんだよね?」

母・和江のそんな言葉に、

真守は「もちろんー。いつも通り、明日の昼ぐらいに帰るよ」と、

返事をして、そのまま再び歩き出したー。


2階の廊下にやってきた真守は

「なんだか懐かしいなぁ」と、一人、微笑むー。


横並びになっている自分の部屋と、妹・美彩の部屋ー。

小さい頃は仲良しでー、そのあと、思春期になった妹からは

無視されるようになったけれどー、

美彩が高校生になって少ししたあとぐらいだっただろうかー。


また、美彩は突然、昔のように”お兄ちゃん!”と懐いてくれるようになって、

今に至るー。


「ーーー妹心は難しいなー」

”そんな言葉あるのか?”と、自分で自分にツッコミを入れながら、

真守は自分の部屋に入るー。


自分の部屋の様子は、家を出た2年半ほど前と、あまり変わらないー。

ここに来れば、いつでも”懐かしい”気持ちになることができる


「ーーーーあ」

真守は、ふと自分の机のペン立てに立っていた

少し可愛らしいボールペンを見つめるー。


「やべ…これ、夏休みのとき、美彩から借りっぱなしだったー」


最後に妹の美彩と直接会ったのは、

この前の夏休みの時ー。


二人とも、夏休みと言うことで、同じタイミングで実家に帰ってきて、

数日間、久しぶりに家族4人で過ごしたのだー。


その時、美彩からボールペンを借りたまま、自分の部屋に

置きっぱなしにしていたー。


「ーーー…美彩はいないしー、仕方ない。返しておくか」

そんな風に言葉を口にしながら立ち上がると、

真守は美彩の部屋に入り、そのまま美彩の部屋のペン立てに

それを立てたー。


そしてー、そのまま美彩の部屋から立ち去ろうとするー。


がーーー

ふと、机の汚れが目に入りー、

「少し、掃除しておいてやるか」と、ため息をつきながら、

真守は、美彩の机を簡単に掃除し始めるー。


別に、何も下心があるわけじゃないしー、

何も、見るつもりはなかったー。


しかしー、掃除をしているうちに、机が置かれている場所と

壁のわずかな隙間の中に1冊のノートが落ちていることに気付いたー。


机を動かす機会は基本的にないし、

こんな隙間は滅多に掃除もしないー。

いつ落ちたのか分からないが、机と壁の隙間にノートが落ちて

ずっと、そのままになっていたようだー。


そう思いながら、自分の部屋から棒を取ってくると、

それで、机と壁の隙間に落ちていたノートを回収するー


「なんだ、これー?」

随分と古びたノートだ。

学習机を動かす機会なんてなかったし、

ずっと昔から、机と壁の隙間に入り込んでいたのかもしれないー。


そんなことを思いながら、

少しパラパラとページをめくるー。


「ーあぁ…美彩が高校に入ったころの日記かー」

真守は記述されている年月日から、美彩が高校に入ったころの日記ー…

およそ5年ほど前の日記であることを知り、少しだけ微笑むー。


「そういや、美彩が高校生になったばかりの頃は、

 ”うざい!”とか言われたり、普通に無視されたりしてたよなー」


そんなことを思い出しながら、真守は日記をパラパラとめくるー。


特に、内容をじっくり読んでいるわけではないー。

他人の日記を覗く趣味は、真守には、ないー。


そのまま最後のページまで、パラパラとめくって、

そのまま日記を、”引き出しにでもしまっておいてやるか”と、

考えながら閉じようとした真守ー。


だがーー


「ーー!?」

真守はふと、日記の最後の方のページを、

もう一度見直すー。


”ーーーお兄ちゃんーーたすけてー”


そう、書かれているのが一瞬、目に入ったのだー。


「ーーーーーーー…こ、これはー?」

真守は、不安そうに表情を歪めるー。


ノートは、”最後のページ”まで使われておらず、

あと6ページほど残っている状態で、それ以上は

何も書かれていないー。


つまり、”次のノート”に進んだのではなく

日記を書くのを”この日にやめた”可能性が高いー。


そしてー

最後のページに書かれていたのがーーー


”お兄ちゃん、たすけてーーー”


と、いう文章だったのだー


「ーーーーー…」


”7月5日”ー


「ーーーーー…」

真守は、5年前の、その日付を見つめるー。


「ーーー……」

そして、不安になって、少しページを逆戻りしながら、

表情を歪めるー。


そのノートの”最初の方”に書かれた、5月や6月前半の分の日記の

内容には、特に異変は見られないー。

兄である真守への悪口も大量に書かれていて、

真守は思わず苦笑いしてしまうー。


だがー…

問題は6月中旬に入ってからだったー。


美彩が、学校の帰りに

”生き物”を拾ったことが書かれていてー、

その日から、徐々に日記の内容に異変が見られるようになったー。


”可愛い!2足で歩く版の小さいウーパールーパーみたいな子を拾った!”


6月の中旬に、そんな記述があるー。

それが、始まりー。


そしてー…


”あの子、すごい!人間に変身できるみたい!”


”ーなんか、最近、ちょっと怖いー”


”あまりにも、わたしに似ているー。”


”わたしの方が、美彩ちゃんより、美彩ちゃんになれるよって

 どういうことー??

 何言ってんの?”


”ちょっと!あの子、勝手にわたしの電話で友達に電話してた!”


”ーーーなんかー、昨日から、身体の調子がー…”


”ーーー”わたしが美彩になるから、安心してねー”ってーなに?

 ーーふざけないで!”


”どうしようー…どうしたらいいのー?”


日に日に”何か”によって、悪化していく状況がそこに書かれているー。


そして、

最後ー


7月5日に

”お兄ちゃん、助けてー”との記述を最後に、日記は途切れていたー。


その前日には

”うざいとか言ってごめんなさいー

 わたしがこんなだから、きっと罰が当たったんだねー”と、

かなり乱れた文字で書かれていたー


”本当はーうざいなんてー…”


そんな文字を見つめながら、真守は震えるー。


妹が、”5年前”に書いた日記を見る限りー、

”謎の生物を拾い、その生物が妹に成り代わっている”という

内容にも思えるー。


だが、一方で、”そんなこと現実に起きるはずがない”とも、思うー。

妹の美彩は今も元気にしてるしー、

夏に実家に帰って来た際にも、元気そうにしていたー。


「ーーーー…」

真守は表情を歪めるー。


”何か、ふざけて書いたんだろうなー”

そんな風に解釈する真守ー。


しかしーーーー


「ーーーー」

妹の美彩には、確かに”ウザがられている”時期があった。

ちょうどこのぐらいの時期だー。


だが、ある時を境に、また”お兄ちゃん”と呼んでくれるようになりー、

今はとても仲良しだー。


そのーーー

”急に仲良しに戻った時期”がー、

確か、真守が高2のーー暑い季節だった気がするー。


そうー、

ちょうど、妹の美彩の日記のこの時期だー。


”急に、美彩が優しくなったー”


その時期と、この日記の時期が、一致するー。


「ーーーーーー」

真守は、困惑の表情を浮かべながら、

そのまま日記を手に、自分の部屋へと戻って行ったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


それから数か月ー。


妹の美彩とは、電話やLINEで話をする機会はあれど、

直接話をする機会はないまま、

年末を迎えてしまったー。


ずっとずっと、このことが気になりつつも

”次に直接会った時に聞こう”と、聞けずに、

数か月が経過していたー。


だがーー

今日ーーー


年末と言うことで、同じタイミングで実家に帰って来た

真守と美彩ー。


真守は、いつも通り、楽しそうに両親と話をしている美彩を見ながらー

「ちょっと、ご飯食べ終わったら、話、いいかな?」と、

緊張した表情で美彩に声を掛けるー


「え?うんーいいよ~!

 まさか、お兄ちゃん、彼女さんできたとか?」

美彩が揶揄うような言葉を口にするー


「ははー」

少しだけ笑う真守ー。


そしてーーー

晩御飯が終わり、美彩と共に2階に上るとー、

真守は、自分の部屋に美彩を読んでー、

数か月前、実家に戻って来た時に”回収”した

美彩の日記を手にしたー。


「ーーーー…これ」

真守が言うと、美彩は「え?なにそれ?」と、

首を傾げるー。


「ーーーーー…これーーーさ…、

 この前、実家に帰って来たときーーー」


真守は、美彩の部屋にボールペンを返しに行ったときに、

偶然、机と壁の隙間にあったこのノートを見つけたことを

説明するー。


そしてーー


「ーここに書かれてることー…ーーー」

と、真守は、美彩に”日記の内容”について確認したー。


美彩はきょとんとした表情を浮かべながら

日記を見つめるー。


しばらくして、日記を確認し終えると、

美彩は少し間を置いてから「ーあはは」と、笑うー。


「ーも~!お兄ちゃんってば、これが演劇部のシナリオを

 考える時に、作ったシナリオの原案だよ~」


美彩がそんな言葉を口にするー。


だがーーー

真守はーーー

キッと、鋭い目つきで、美彩を見つめたー


「きみは一体、誰なんだー?」


正直なところ、美彩の”演劇部のシナリオの原案”という言葉を、

真守は信じていたー。


だが、半分冗談でそんな言葉を口にしたー。

真守の中では90%以上、もう疑念は晴れていたー。


”きみは一体、誰なんだー?”と、鋭い目つきで

”冗談”を口にしたのだー。


がーーー


美彩の反応が明らかに変わったー


「ーーーお兄ちゃんーこれ以上は、ダメ」

少し低い声で呟く美彩ー


「え…」

真守は表情を歪めるー。


”美彩”は、真守の冗談半分の言葉を間に受けてー、

”気づかれた”と察したのか、そんな言葉を口にしてしまったー


「ーーわたしも、お兄ちゃんも、お父さんもお母さんも、

 わたしたちの身の回りにいる人もー

 ”これ以上”進んだら不幸になるー。


 だから、これ以上はダメー。」


”美彩”がそれだけ言い放つー


「え…ど、どういう意味だよー…?」

真守が震えながら言うー。


「ー全部、忘れて。

 それが、わたしたちのためー。

 わたしは、誰も傷つけるつもりはないー。

 だから、それ以上は、やめて」


美彩が真顔で言うー。


「ーーい…いや… え?」

真守は、ゾクッとしたー。


恐怖心からだー。


まさか、美彩は本当にーーー…


そう思った瞬間、真守は声をあげたー


「ーま、まさかーー

 き、君はーーー…」


真守の言葉に、美彩は表情を歪めるー


「美彩じゃないのかー…?」


その言葉に、美彩は

「最後の忠告ー」と、悲しそうな表情で言葉を口にするー


「ーそれ以上何も言わず、いつものお兄ちゃんに戻ってー。

 そしたら今日のこの会話はわたしも忘れるー


 お願いー。

 これ以上、進まないでー。

 これ以上、進ませないで」


美彩のそんな言葉に、真守は一瞬だけ揺らいだー。


だがーーー

目の前にいる”美彩”が美彩じゃないならーー


「ーーー…それってー…きみーー…いや、お前…

 美彩じゃないってことだよな!?」


真守が声をあげると、

美彩は「みんな不幸になる。お願いだからやめて」と、真守を睨みつけるー


美彩はー

こんな表情はしないー


真守はカッとなって、「み…美彩を返せ!」と、声を荒げたー


「ーーーーーー」

美彩は、残念そうに首を横に振るとー

「みんな、不幸になるよーお兄ちゃん」

と、心底残念そうに言葉を口にしたー



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


5年以上も妹の異変に気付けなかったお兄ちゃんー…!


”追求”してしまったことが、良い方向に向かうのか、

絶望に向かうのか、

それは次回のお楽しみデス~!!

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