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20XX年ー

世界は、崩壊したー。


世界中に溢れる生ける屍・ゾンビー。


ゾンビにより犠牲になっていく人々ー。

ゾンビの持つ特殊な細菌に感染して、ゾンビになっていく人々ー

生存者同士の争いにより、命を落としていく人々ー。


もはや、この世界がかつてのような社会に戻ることは

”不可能”と言えたー。


だがー

それでも、そんな世界で”まだ”生き残っている人間はいたー。


「ーーくそっ! くそっくそっ!くそっ!!!」

血を流しながら、ふらふらと走る男ー。


「ーー俺は…俺は1秒でも長く生き残ってやるー…!

 腐れゾンビどもめ!」


追って来るゾンビを蹴り飛ばし、近くに落ちていた鉄パイプを

投げつけるー。


しかしー

ここまで生き延びて来た彼も、既に万事休すと言えるような、

そんな状態であることは明らかだったー。


腹部から出血しー

腕には噛まれた痕ー。


ゾンビに噛まれた人間はー

その傷口から、ゾンビの持つ細菌が”感染”し、

やがて自らもゾンビと化すー。


発端はー

”深海”から発見された謎の生命体だったー。


それが、”何”だったのかは分からないー


元々深海にいた生命体だったのかー、

宇宙から持ち込まれた侵略者のようなものだったのかー、

それとも海洋の汚染で生まれてしまった怪物だったのかー。


今となっては分かりようがないー。


だが、その引き上げられた謎の生命体が、

”未知の細菌”を宿しておりー、

研究者たちがそれに”感染”してしまったー。


感染してしまった研究者たちは、次第に異様な行動を取るようになりー、

最後には生ける屍ー

そう、”ゾンビ”と言えるような状態になってしまったー。


政府が、危機を察知した時にはもう手遅れだったー。


謎の海洋生物の引き上げ後からー

”正気を失うまで”の間、研究者たちは”細菌”を身近な人間に

意図せずして広めてしまっていたのだー。


恋人とキスをして広めてしまったものー

同じ食器で食べ物を食べて広めてしまったものー


その理由は様々ー。


あらゆる場所で人々が”ゾンビ”になりはじめー、

そのゾンビに、また別の人が噛まれてゾンビになるー。

社会は大パニックを起こし、各国の政府は対応することもままならないままー

あっという間に世界は”崩壊”したー。


しかしー何十億と存在する人間はー

そう簡単には絶滅しなかったー。


今”何人”の人間が残っているのかは不明だったがー、

生き残っている人間は、確かにいたー。


彼も、その一人ー


「あぁっ…くそっ!」

ゾンビを振り切ると、自分の”腕”を確認するー


腕は青白くなっていて、明らかに状態は悪いー


”くそっーこの身体も感染したなー”

彼はそんな風に思いながら、ズルズルと身体を動かすー


腹部の傷も、かなり重症だー。

だが、それでも死ぬわけにはいかないー。


「ーー俺はー…死ねないー」

彼は、そう呟きながら、

”ある人物”のことを思い出すー


”ー絶対ー…迎えに来てね!”


1年前ー

ゾンビによる社会の崩壊が始まったころー


彼は恋人である、峰里 萌々香(みねさと ももか)を

先に避難所に向かわせるため、避難所行きの電車に乗せー、

後から合流することを約束して、自分はその場に残ったー。


理由は一つー。

”電車”に乗ることができない人間が一緒にいたからだったー。


それが、”妹”だったー。

彼の妹・菜緒(なお)は、共に逃げる最中にゾンビに襲われて負傷ー

”負傷している人間は感染防止のため避難所行きの電車に乗ることはできない”

と、言われー、菜緒を置いていくことはできず、

萌々香を先に避難所に向かわせて、自分は菜緒と共にその場に残ったー


「ーーーお兄ちゃんー…わたし、あんな風になりたくないよー」

菜緒が悲しそうにそう呟くー。


だがーー

この世界に神様などいないと思い知らされたー。


3日後ー、

菜緒は”ゾンビ”になったー。


「ーーー俺だ!菜緒…!俺だ!」

必死にそう呼びかける彼。


けれど、もうー

目の前にいたのは”菜緒”ではなく、”菜緒の形をしたゾンビ”でしかなかったー。


菜緒に引導を渡し、

すぐに避難所に駆け付けた彼。


しかしー

彼がたどり着いた時ー、

避難所はゾンビの一団に襲撃されていて、

警備に当たっていた警察隊もろとも、壊滅状態に陥っていたー


「萌々香!!萌々香!!!くそっ!」

泣き叫びながら萌々香を探す彼。


それでもー、萌々香は見つからずー

それっきりだったー


”もうとっくに死んでいるのかもしれない”

”もう、ゾンビになっているのかもしれない”


あれから1年ー。

必死に生き抜いてきた彼ー、

木下 優吾(きのした ゆうご)は、表情を歪めたー


「あぁ…くそっ…」

そんな優吾はー、

明らかに”もう助からない”状態ー


彼が1年間も生きて来れたのはー何故だろうかー。

優吾はごく普通の男子大学生だったー。

スポーツ万能なわけでもなく、特別なスキルがあるわけでもないー

本当に、普通の大学生だったー。


それなのにー

彼は、生き抜いてきたー


”この力”ひとつでー。


「ーーーだ、大丈夫ですかー?」

しばらくすると、声が聞こえて来たー。


銃を手に、駆け寄ってきたポニーテールの少女ー

高校生ぐらいだろうかー。


もし、この世界がこんな風になってなければ

今頃、この子も青春を楽しんでいたはずー。


「ーーあ、ありがとうー…」

優吾が立ち上がるー。


しかし、お礼の言葉を口にした

優吾は、次の瞬間ー、信じられない行動に出たー。


突然、その自分を助けてくれた少女に抱き着いたのだー。


「ーーー”チェンジ”」


彼がー

”優吾”が、ここまで生き抜いてこれたのはー


”この力”が、あったからこそー


「ーーえ…!?」

優吾が”今まで使っていた身体”になった少女が呆然とするー


「ーーありがとうー」

少女と身体を入れ替えた優吾は、可愛らしい笑みを浮かべるとー

”元・自分の身体”に向かって銃を放ったー


「ーーーー華奢だけどー…まぁいいかー」

優吾は、持っていたボロボロの学生証を確認すると、

この子の名前”聡美(さとみ)”であることを確認して、

そのまま走り出すー。


”1秒でも長く生き残るー”

聡美になった優吾は、そう思いながら走り出すー。


「俺は…俺は死ぬわけにはいかないー」


木下 優吾ー

彼は、”入れ替わり”の力で

これまで何百回もの入れ替わりを行いー、

こうして生きて来たー


”自分の身体”はとうの昔に”死んで”いるー。

ゾンビに囲まれてー奮戦虚しくゾンビに噛まれてー、

そして、その場に倒れ込んだ優吾は、

”俺は死んだ”と、そう思ったー。


所詮、自分はヒーローでもなんでもないし、

ただの”大学生”ー。

もしこれが映画の世界であれば、自分は主人公たちが

逃げる背後で、ゾンビにあっさりと食われているモブキャラだろうー。


だから、俺はここで死ぬのだとー

そう思ったー。


だがー”奇跡”は起きたー。

ボロボロの状態だった優吾を助けに来てくれた

救助隊員ー。


「俺はー…俺はまだ…死ねないー」

「まだ、死ぬわけにはいかないー」


”強い生への執着”ー。

もう、どうにもならないことは分かっていたー。

自分の怪我は”もう助からない”レベルであることは何となく

分かってしまったし、自分は”感染した”ことも分かっていたー。

このまま死ぬか、あるいはゾンビになるかー。


がーーー


「ーー俺は、死ぬわけにはいかないー」

そんな”自分の声”が、ハッキリと明確に聞こえ始めて来たのだー。


気付けば、自分の身体が軽くなっているー。

気付けば、自分の身体の感覚を失うほどの痛みが消えているー


気付けばーーー


「ーーーえ」

優吾は、驚きの表情で、

苦しそうにこちらを見ている”自分”の方に目を合わせたー。


その時ー

優吾が初めて”入れ替わった”ー。

救助隊員の身体になった優吾は、

優吾の身体になった救助隊員を見て、呆然とするー


「ーーこ…これは…?」

驚いた様子なのは、彼も同じだったー。


「ーーーーーー」

しばらく目を見合わせる二人ー。


「ーーーーーーー助けてくれて、ありがとうございますー」

やがて、救助隊員(優吾)はそう言葉を口にするとー

”瀕死の状態の自分の身体”をー


捨てたー。


その場でドサッと、”元自分”を振り払いー、

困惑の声をあげる優吾(救助隊員)を無視して、

走り出したー。


その後”優吾”の身体がどうなったのか、見たわけではないがー

まだネットが機能を停止する前にー

友人の一人がSNSで「優吾もやられた」と発言していたためー、

自分は死んだのだと思うー。


どうして、そのような力に目覚めたのかは分からないー。


だがー、相手に”抱き着く”ことで、

身体を入れ替えることが、優吾はできるようになったのだー。


”何の変哲もない男子大学生”でしかなかった優吾が、

ここまで生き抜いてこれたのはー、

この力のおかげー。


聞けば”ゾンビ”が蔓延するようになってから

優吾のように”不思議な力”に目覚める人間が、少数ながら

他にも存在しているらしいー。


その具体的な理由は不明だがー、

”未知の細菌への感染”が引き金になって、おかしな力が発現する人間がいるー

と、聞いたー。


優吾も確かに、あの時ゾンビに噛まれたあと、

救助隊員と入れ替わったし、その”説”は正しいのかもしれないー。


だが、理由はどうあれ、

優吾は今、こうして身体を次々と入れ替えて生きているー。


”綺麗事じゃ生き抜けない”

それが、今、この世界だー。


「俺は…生き延びるー絶対に…!1秒でも長く生き延びてやるー!」

奪った聡美の身体でそう叫んだ優吾は、

ゾンビたちから身を隠しながら、自分がアジトにしている

洞窟へと逃げ込んだー。


この辺りには、ゾンビが少なくー

入口付近にちょっとした細工をしてあることで、

”ゾンビの知能”では、この洞窟に気付くことが出来ないー。


「ーーーーへへ…♡ へへへへ…♡」

聡美(優吾)は、だらしない格好で自分の胸を揉みながら

ニヤニヤと笑みを浮かべるー


”ゾンビから逃げて、ただ生きるだけの世界”


そんな状況に、娯楽などほとんどないー

女の身体を奪った時には、こうして自分の身体で楽しむー。

それが、数少ない娯楽だー。


優吾が元々変態だったわけではないー

こうでもしないと、この辛いー狂った世界では

自分の正気を保つこともできないからー。


「ーーーはぁっ…♡ はぁ…♡ 女はやっぱすげぇや…♡」


こんな状況でも、

イク瞬間には、最高の快楽を味合わせてくれるー


絶頂を迎えた快感に浸りながら、聡美(優吾)は、

ニヤニヤと笑みを浮かべー、

しばらくその余韻に浸るー。


”ー絶対ー…迎えに来てね!”


彼女の萌々香のことを思い出すー。

避難所は、無残にもゾンビの餌食になっていたー。


萌々香のペンダントが、あの場所に落ちていたー。


でも、萌々香の死体はなかったし、

萌々香のゾンビとも遭遇しなかったー。


萌々香は今もきっとー…

きっと、どこかで生きているー。

そう信じてー、

優吾は今日も、生きているー。


「ーーー…」

聡美の身体を触りながら

「でもー…こんなに手を汚した俺を見たらー

 萌々香は何て言うだろうなー」

と、悲しそうに呟くー。


やがて、立ち上がった聡美(優吾)は、

今日、回収してきた食料を使って、簡単な食事を済ませるー。


「それにしても、この子もよく、今まで生きて来れたなー」


あれから1年ー

ゾンビだらけの世界で1年間生き延びることは

とてもきついことだっただろうー。


今でも、生存者は”それなりには”いるー。


もちろん、世界人口はもう、相当減っているだろうがー

正確な数は把握できないし、

元々溢れんばかりの数、人類は存在していた以上、

そう簡単には”0”にはならないー。


今も、それぞれが、それぞれの場所で生きているー。


「ーーーーー」

聡美(優吾)は、”食料、そろそろまたまとめて手に入れないとな”と、

洞窟に蓄えている食料を見つめるー。


”食料の確保”も、もはや命懸けだー。


”入れ替わり”ができるとは言え、

例えば今、聡美(優吾)が、頭を撃ちぬかれて即死すれば

それでおしまいだー。

無敵なわけではないー。


これまでにも何度も危機はあったー。


一番危なかったのは、ゾンビに喉を食い破られた時だったー

あの時ばかりは死ぬと思ったがー、

当時、一緒に行動していた仲間に薄れゆく意識の中抱き着いて

必死に”入れ替われ!”と願ったー


その結果、ギリギリで入れ替わってー、

入れ替わった相手はその数秒後に死んだー


危なかったー。

あの時は、しばらくの間、”死の恐怖”に怯えたー


だがー

今もこうして、なんとか生きているー。


「ーーー…奪うしかないなー」

聡美(優吾)は、食料を他の生存者から奪うことを決意して、

翌朝ー、洞窟の外へと向かうー。


”綺麗事では生き抜けない”

それが、この世界だー。


聡美(優吾)は意を決して、武器を手に、

他の生存者を探し始めたー


②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


崩壊した世界を入れ替わりで生き抜く…!

そんな入れ替わりモノデス~!


過酷なサバイバルとその結末を

ぜひ見届けて下さいネ~!


続きはまた次回デス~!

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