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「ーーーーチッー」

クラスの廊下側の座席で、窓際で騒がしく話す男子生徒たちを

見つめながら、一人の男子生徒が舌打ちをするー。


彼ー、浦野 達彦(うらの たつひこ)は、

自分勝手でワガママな性格故、友達はほとんどおらず、

クラス内でも孤立していたー。

いじめは受けていないー、が、友達もいないー。

そんな状況だー。


普段から、ほとんどクラスメイトと会話することもない達彦ー。


そんな達彦は、いつもクラスメイトたちが騒がしくしているのを

見つめながら、心の中でこう思っていたー


”愚民ども”

とー。


周囲の人間全員を見下しー、

自分は優秀だと思っているー。


だから、自分に友達などいらないー

俺は一匹狼として生きるのだとー。


”今日も、群れることしかできない愚民ども”を

憐れみの目で見つめながら、達彦はその様子を

鼻で笑うとー

視線を黒板側の机の方に映したー。


そこにはー

達彦が”唯一認める”クラスメイトの姿があったー


それがーーー

クラスで成績トップを誇る女子生徒ー、

葉桐 彩菜(はぎり あやな)ー。


彩菜は、

容姿も、性格も、能力も、何もかも、優れていたー。


周囲のクラスメイトを”愚民”と見下している

達彦にとっても、彩菜だけは”別格”


とても可愛らしい容姿でありながら、

性格もとても良くー、

誰も声を掛けようとしない達彦のような生徒にも、

用があれば、イヤそうな顔一つせずに話しかけて来るー。


成績はクラストップで、何でもそつなくこなすー。


彩菜はそんな生徒だったー。


そして、達彦はそんな彩菜のことを、こう思っていたー


”ー俺の女にふさわしいー”

とー。


どこまでもプライドが高く、

自分のことを”何でもできる優秀なオオカミ”だと思っている

達彦は、”彩菜にふさわしいのは、この俺だけだ”と、

そう思っていたのだー。



そんな考えのままー

彼はその数日後”それ”を実行に移したー。


彩菜に”告白”したのだー。


「ーー俺が付き合ってやるよー」

そんな、言い草で、”告白”したー。


しかしー

彩菜は戸惑ったような表情を浮かべると、

「ごめんなさいー」と、頭を下げるー


「ーーーー…え?」

達彦は、”自分が告白すれば、100パーセント彩菜は首を縦に振る”と、

信じて疑っていなかったー。


だからこそ、彩菜の言葉の意味がすぐには理解できなかったー。


「ーわたし、今、生徒会の活動もしてるし、

 部活も、バイトもあって、恋愛はー…考えられない状況だからー

 

 だからそのーー…今は、彼氏を作ったりはできないのー。


 せっかく告白してくれたのにー、

 ごめんなさいー」


申し訳なさそうに理由を説明しながら、彩菜は今一度頭を下げると、

「ーあ、でも、わたし、別に気にしてないからー

 浦野くんも、今日のこと、気にしなくても大丈夫だからねー」と、

優しく微笑みながら、少し戸惑った様子で、言い放ったー


彩菜が告白を断った理由は

本当の理由なのか、社交辞令なのか、それは本人にしか分からないー。


達彦が”プライドの塊で周囲を見下しているような人間”であることは

クラスに友達も多い彩菜であれば知らないはずはないー。


それ故に、達彦からの告白を断った可能性も当然あるし、

彩菜自身が言っていることが真実の可能性もあるー。


だが、どちらにせよー

”告白をした達彦は振られた”のだー。


その事実だけは、彩菜がどう思っていようと、変わらない

たった一つの現実ー。


しかしー


「ーーはははー 遠慮しなくて大丈夫だって」

達彦は笑いながらそう言葉を口にしたー。


「ー俺は確かに頭もいいし、何でもできるし、

 ”わたしなんかでいいの?”って思っちゃうのは分かるよ


 でもさー」


達彦は、振られたことを理解することができていなかったー


”間違った方向に向いたプライドの塊”である達彦は、

自分が振られることなど”絶対にない”と信じて疑わなかったー。


「ーーーえ…」

彩菜は困惑の表情を浮かべるー。


「ーー俺が葉桐さんを好きって気持ちはホンモノだからー。

 だから、付き合おう。

 今日から、葉桐さんは、俺の彼女だー」


達彦は堂々とそう言い放つー。


あまりに無神経ー

あまりに自分勝手ー。


そんな達彦に、誰にでも優しい彩菜も、

普段見せないような表情で「ちょ、ちょっとー…どういう意味?」と、

聞き返すー。


「ーーん?だから、葉桐さんは今日から俺の彼女で、

 俺が葉桐さんの彼氏って意味だよー。


 早速だけどさー、俺たちー」


達彦が”当たり前”と言わんばかりにそう言い放つと、

彩菜は「ーーあ、あの!ちょ、ちょっと待って!」と、

達彦の言葉を遮るー。


「ーわたし、付き合わないって言ったよね?

 

 断り方が良くなかったのかもしれないけどー

 わたし、今、誰に告白されても付き合うことはないし、

 今は”彼氏”は作るつもりないからー」


そんな彩菜の言葉に、達彦は笑うー


「だから照れるなってー」

とー。


「ーー彩菜は今日から、俺の彼女だよ」


達彦はついに、彩菜を下の名前で呼んで

さらに馴れ馴れしそうに彩菜に近付いていくー。


「ーーーだ、だから!!!!!」

流石の彩菜もカチンと来たのか、少しだけ声を荒げたー


「ーー勝手に決めないでってば!

 わたしは、浦野くんとは付き合わないの!!」


そんな彩菜の言葉に、

達彦はきょとんとした表情で彩菜を見つめるー


「ーー…き、急に大きい声出してごめんねー」

深呼吸した彩菜はそう言うと、

「ーとにかく、ごめんなさいー。」と、頭を下げて

そのまま立ち去って行ってしまったー



「ーーーーー…」

一人残された達彦は、10分以上その場に

笑顔を浮かべたまま、表情一つ変えることなくー、

何度も何度も頷き続けていたー


そしてーーーー


「ーー俺が選んでやったのにー…!!!!

 あの女、何様だ!!!!」


突然、笑顔を消して、壁に思いきり拳を叩きつける達彦ー


「ーーー…俺が告白してやったのにー…!

 この俺が、告白してやったのにー!!!」


ようやく”自分が振られた”ことを理解した達彦は

そう呟くと、何度も何度も壁に拳を叩きつけ続けたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


帰宅した達彦は、部屋で一人、怒り狂っていたー。


「俺を振るなんてありえない…!

 アイツだけは、アイツだけは俺と並ぶ優秀な人間だと

 思ってたのに!」


そう言い放つ達彦は、

怒りの形相で歯ぎしりをするー


「アイツも、愚民だー!

 あいつらは全員愚民だ!」


そう叫んでいるとー

部屋の扉が開いたー


「ーんだよ、さっきからうるせぇな」

部屋に入ってきたのはー

大学生の兄・誠一(せいいち)。


「ーー兄貴ー」

達彦がそう言うと、誠一は、

「ー振られたのか?」と、達彦を見つめるー。


「ーな、なんでそれをー」

達彦が困惑しながら言うと、誠一は

「バカでかい声で叫んでりゃ聞こえるよ」と、

呆れた様子で言い放つー。


そんな兄・誠一に対して

達彦は自分の悔しい思いを全て吐き出すー。


”彩菜だけは自分と肩を並べる優秀な女だと思っていたのに

 俺を振るなんてありえないー”

とー。


「あいつだけは、愚民じゃないと思ってたのに!!!」

そう叫ぶ達彦に対してー、

兄の誠一は「お前ほど優秀なやつはいないもんな」と言い放つー。


弟がこれならー

兄もそれなりにイカれているー…

そんな感じの兄弟である誠一と達彦ー。


そして、誠一は、静かに口を開いたー


「ー愚民しかいないならー

 ”お前”にすればいいー」


誠一の言葉に、達彦は「ーーえ?」と顔を上げるー。


謎の紫色のスーパーボールのようなものをポケットから

取り出すと、兄・誠一は不気味な笑みを浮かべたー。


「これに、お前の息を吹きかけて見ろー」

そう呟く誠一。


達彦は意味が分からない、というような表情を浮かべながら

言われた通りにするー


すると、紫色のスーパーボールらしきものに”達彦の顔”が

浮かび上がるー。


「ーそれは俺が作り出した”封玉”ー。

 今、その玉の中には、お前の魂の分身が封じ込められているー」


誠一がそう言うと、

「お前の顔が浮かび上がったそれをー…

 誰かに投げつけるとー

 お前の魂の”分身”を、その相手に憑依させることができるー」

と、封玉について説明したー。


「ーー……そ、そうすると、どうなるんだー?」

達彦が恐る恐る尋ねると、誠一はニヤッと笑ったー


「ーお前の分身を憑依させた相手はー

 ”お前”になるー。


 身体は違えど、思考も行動も、お前そのものになるー。


 お前を振った女が”愚民”だと言うのならー

 優秀なお前そのものにしてしまえばいいー」


兄・誠一の言葉に、

達彦は困惑した様子で、封玉を見つめてからー

やがて、ニヤッと笑みを浮かべたー


「やっぱ兄貴はすげぇやー」


兄・誠一は昔から”謎の研究”をするのが趣味で、

かなりヤバいものも何個も作っているー


これも、その一つなのだろうー。


「俺の息を吹きかけたこれを、

 あの女に投げつければー

 あの女は”俺”になるってことだなー?」


達彦が言うと、誠一は「あぁ」と笑みを浮かべたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


朝ー。

彩菜を”待ち伏せ”していた達彦は、

”自分の顔”が浮かび上がった封玉を手にーー

彩菜を見つけると、背後から彩菜に近付くー


「ーーーおい!愚民!」


達彦がそう叫ぶと、彩菜が振り返るー


「ーーえ…」

彩菜が反応すると同時にーーー

達彦は”自分の分身”が封印された玉を

彩菜に投げつけてー

彩菜に憑依させたー


「ーーーーー…」

ビクンと震えて、虚ろな目になって立ち尽くす彩菜ー。


しかしー、10秒ほどでー

彩菜の目の輝きが戻ってきてー

彩菜は不気味な笑みを浮かべたー


「ーくくくく…愚民女の身体、ゲットぉ~…!

 優秀な俺の告白断るとか、マジでねぇよな」


彩菜がニヤッと笑うと、達彦に向かってそう話しかけて来たー


”信じられないほどの豹変”だー


「ーおいおい、なんて顔してんだよー

 ”俺”と”俺”の仲だろ?」

彩菜はそう言いながら、達彦の腕を掴むとー

「まだ始業まで時間があるー…分かるよな?」と

小声でニヤニヤと囁くー


「ーへ…へへ、さすが俺ー…」

達彦はそう呟くと、すぐに彩菜を空き教室に連れ込んでー

そのまま、不気味な笑みを浮かべるー。


「ーー早速、”彼女”になってくれるんだよな?」

達彦がニヤニヤしながら言うと、

彩菜は「決まってんだろ? ”俺”同士なんだから、

考えることは同じさー この女はー いいやー

”わたし”にふさわしいのは、あなただけー」と、

不気味な笑みを浮かべるー。


「ふ…ククク…すげぇ…!本当にすげぇや!」

達彦が興奮した様子で喜びの表情を浮かべると、

彩菜は「へへへへ…すげぇよな!最高だぜ!」と、

彩菜とは思えないようなー

”達彦が浮かべるような下品な笑み”を浮かべたー


「ほ、本当にー

 本当に俺なんだよなー…?」

達彦がニヤニヤしながら言うと、彩菜は「もちろん」と、頷くと、

達彦の個人情報をペラペラと口にし始めてー

昨日食べたものや、達彦しか知らないようなことまで

あらゆることを口にしたー。


「ーーす、すげぇ…マジで俺だー」

達彦が言うと、彩菜は「ーくくく…だろ?」と

嬉しそうに言い放つー。


「ーそれだけじゃないぜー」

彩菜はそう言うと、今度は”彩菜”の個人情報を

ペラペラと話し始めるー。


本人が言いたくないであろうことまで、

当たり前のように、次々と言い放つ彩菜ー。


「へへへっ…葉桐さんのー

 そいつの記憶まであるってのかー?」

達彦がそう言うと、

彩菜は「へへへーこの女の記憶は”ここ”にあるからなー」と、

自分の頭を指さすー。


「そして、俺の記憶は魂にー」

彩菜はそう言うと、クスクスと笑い、

達彦と”同じような笑み”を浮かべながら向き合うと、

彩菜は「ー流石に今、ヤッちまうのはまずいだろうしー」と、

呟くと、唇を指さして、イヤらしい笑みを浮かべたー


「ーキス…したいだろ?」

彩菜の言葉に、達彦は「も、もちろん!」と、

我慢できない!という勢いで、彩菜にキスを始めたー


「ーうぉっ!さ、さすが俺ー…下心丸出しだなぁ!」

彩菜はニヤニヤしながら、達彦のキスを受け入れたー。


そしてーーー

激しいキスを繰り返しているうちに、

朝の学活5分前を知らせるチャイムが鳴るとー、

彩菜は「そろそろ教室に行かないとな」と、笑みを浮かべるー


「ーー教室では、どうする?」

達彦がそう言うと、彩菜は「俺には彩菜の記憶があるからー

普段は、この女として振る舞ってるさー。色々面倒だろ?」と、笑うー。


「ーへへ…まぁそうだなー。さすがは俺ー。

 でー…俺たちが付き合いだしたこと、いつ愚民どもに知らせるよ?」


達彦がそう言うと、彩菜は「へへ…そうだなぁー…」と、

ニヤニヤしながら考え始めたー。


達彦と彩菜は、談笑をしながらそのまま教室に向かうー。


”彩菜本人”は、達彦に対して”怖い”という感情を抱いていたことも、

彩菜に憑依した達彦の分身の口から聞かされたー


「ー俺を怖がるとか、やっぱその女も愚民だったんだな」

達彦が言うと、彩菜は「ーーへへ お、そろそろ教室だぞ」と、

何度か咳払いをしてから、いつもの彩菜らしい声の雰囲気に

変えると、そのまま教室の方に入って行ったー。


教室に入った達彦は、いつものように”一人”になるー。


彩菜としてクラスメイト達と雑談している”分身”を見てー

達彦は少しだけ、”不満”を覚えたー。


「ーケッー…葉桐さんのフリなんかする必要、あんのかよ」

達彦が小声でそう呟くー。


だがーーー

達彦の分身に憑依された彩菜は、

クラスメイトたちと雑談しながらー

チラッと”達彦”のほうを見つめてー


「ーケッー…葉桐さんのフリなんかする必要、あんのかよ

 ーーって、思ってんだろー?」


と、呟いたー。


「ーーーククククーさすがは”俺”ー

 下らねぇ嫉妬だぜー」


彩菜は低い声でそう呟くとー

ぺろりと唇を舐めて、言葉を続けたー


”こんなに可愛い身体と立場を手に入れた”俺”はー

 お前なんかよりももっと優秀な”俺”なんだぜー?”


彩菜に憑依した分身はー

達彦の性格をそっくりそのまま模した分身はー

”自分”のことですら、心の中で見下し始めていたー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


美少女の身体を手に入れた”自分”が、

自分の身体のままでいることしかできない”自分(本体)”を

馬鹿にし始める…

そんなお話デス~!


次回以降もぜひ楽しんでくださいネ~!

今日もありがとうございました~!

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