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「ーーー…儂は、間違っていたというのかー」


江戸時代ー。

とある地方の城主・結城 辰喜(ゆうき たつよし)は、

表情を歪めながら、炎に包まれた城の中にいたー。


「ーーーーー…」

もう、逃げることはできないー。

城は包囲され、城は炎に包まれたー。


彼、結城辰喜の命運はもはや決まったと言っても良いー。


辰喜は”暴君”で、横暴の限りを尽くしたー。

民に重税を課し、街の視察と称して町人たちをいじめたり、

悪徳商人と結託して私服を肥やしたりもしたー。

そして、気に入った町娘を見かけては、無理やり城に連れ帰りー、

逆らうものがいれば、斬り捨てたー。


完全なる”やりたい放題の暴君”と、呼ぶにふさわしい存在だったー。


だが、そんなことをしていれば、いつかは”爆発”するー。


ついに、結城辰喜が統治する地域で、民たちの反乱が起きー、

元々家臣たちからの信望も薄く、遊び呆けていた辰喜はー

あっという間に武装した民に城を包囲され、

火を放たれー、

ここで、”炎”に包まれて死ぬほかないー、という

状態に追い込まれてしまっていたー。


今になって、辰喜は”己の所業”を悔いたー。


「儂が…間違っていたのだ」

思わず、小声でそう呟きながら

城の外を見つめる辰喜ー。


火の粉が舞い上がる中でも、夜空はいつもと同じように

綺麗に輝いているー。


月も、夜空もー。

たった今、命運が尽きる結城辰喜のことなど、

何も興味がないと言わんばかりにー

いつも通り、光り輝いていたー。


「ーーーもう一度、チャンスが欲しいかー?」


ーー!?


辰喜が驚いて振り返るー。


既に、天守には誰も残っていないはずー。


そう思いながら振り返った先には、

全身を装束で覆い隠した忍のような男が立っていたー


「ーーーき…貴様はー?」

辰喜が驚いて問い返すと、

「ーー己の行いを悔い改め、もう一度やり直せるとしたら、

 貴様はどうする?」

と、謎の男が辰喜に確認したー。


「ーそ…それはどういう?」

辰喜が困惑しながら言う。


しかし、謎の男は、辰喜の言葉など聞いていないかのように、

「ー答えよー。」と、周囲の炎を示しながら低い声で言い放ったー


「ーー…も…もちろんー、今一度やり直せると言うのであればー」

辰喜がそう答えると、忍は静かに頷いたー。


「よかろう」と、言葉を口にしながらー。


指を立てて、何やら呪文を唱える忍ー。

忍装束に覆われて、わずかに隙間から見える”目”は

とてつもなく鋭いー


「ーはっ!」

呪文を唱え終えるとー、

何やら衝撃のようなものを感じてー、

辰喜は驚きに表情を歪めるー。


「ーーなっ…!?こ、これはー…!?」

みるみると、自分の身体が変化していくー。


炎に包まれた城の中、今から死ぬであろう状況も

忘れてしまうほどの驚きを覚える辰喜ー


「ど…どういうことだー?」

辰喜は困惑したー。


武士のような格好のままー

華奢な町娘のような姿になってしまったからだー


「ー”やり直す”には、そのままのお前では、無理であろう?」

忍がそう呟くー。


”結城 辰喜”は、民から憎まれる存在ー。


確かに、もしも城から逃げ出すことが出来ても、

すぐに殺されるだろうし、

仮に土下座して謝罪しても、誰も信じないだろうし、

やはり、殺されるだろうー。


「ーーーで、でもー…な、何故女の身体にー?」

忍の術により、”女体化”した辰喜が叫ぶと、

「ーー今の己と正反対の存在となりー、

 一から全てをやり直すのだー。結城辰喜ー」と、

忍はそう言い放ったー


そしてーーー


「ーー話は終わりだー。

 このまま焼け死ぬかー、

 町娘として、生きるかー。

 道は、二つにひとつー」


忍の言葉に、女体化した辰喜は「ーーわ、わかったー」と、

叫ぶと、「儂を助けてくれ!」と、女の声で叫んだー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


あれからー

半月ー…


女になった辰喜は、菊(きく)と名乗り、

”自らが統治していた町”で暮らし始めたー。


それほど大きな領地ではなかったが、

それなりに多くの町人が暮らしているー。


だがー

江戸の中心部のように、大規模に栄えているわけでもないためにー、

江戸の華々しさとはまた違うー、

”小さい規模の町だからこそ”住人たちの繋がりは強いー、

そんな地域だったー。


「ー菊ちゃんー。もう、ここでの暮らしには慣れたかい?」


女体化した辰喜は、あの日、

気付いた時には、燃え盛る城の近くで意識を失っていたー


意識を取り戻した時には、自分の服装がいつの間にか

着物姿になっていてー、

そして、あの謎の忍も姿を消していたー。


炎上した城から離れようと、よろよろとその場から歩き出した

女体化した辰喜は、少し離れて意識を失ってしまいー、

次に目を覚ました時には”自分が苦しめて来た”町に存在する

食事処に運び込まれー、安静にしている状態だったのだー。


目を覚ました女体化した辰喜は、

町人たちから心配される中、自分のことを咄嗟に”菊”と名乗り、

城に捕らわれていたところ、炎上した混乱に乗じて

逃げ出したものの、城の近くで力尽きて意識を失っていたー、と

説明したー。


暴君とは言え、仮にも一地方の主でもあった辰喜は、

そういう頭の回転は速かったー。


”身寄りのない可哀そうな女”として、

この町で暮らすことになった女体化した辰喜=菊は、

自分を助けてくれた食事処で、今日も働いていたー。


「ーーはい、本当に、ありがとうございますー」

”菊”として、礼儀正しい町娘を演じる辰喜ー。


あの日ー

自分が”虫けら共”と見下していた町人たちに反乱を

起こされて、あっという間に城を制圧されたときのことを

思い出すー。


”儂のやり方が間違っていたー”


死を覚悟したあの日ー、

辰喜はようやくそのことに気付いたー。


だからこそ、”この与えられたチャンス”を生かそうと、

”菊”として、辰喜は別人のように振る舞っていたー。


「ーー儂がこのようなことをすることになるとはー」

店の掃除をしながら、不満そうに呟く”菊”ー。


だがー

「あ、菊ちゃん!おはよう!」

町人の男がやってくると、”菊”として女体化した辰喜は

「あ、おはようございます」と、穏やかな笑みを

浮かべながら頭を下げるー。


”人から感謝をされるー”

”菊”として初めて、それを経験したー。


辰喜が辰喜であったころには、”権力”という名の力はあれど、

心から人に頼りにされたり、心から感謝をされたり、

そういったことは、無かったと言ってもいいー。


だからこそ、今のこの状況は、辰喜にとって、

”別の意味での快感”となっていたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「それにしても、あの殿様がくたばってから、

 ホント、変わったよなぁ~」


「そうよねぇ…代行でやってきた殿様は

 いい感じだし」


「あいつが全ての元凶だったってことだ」


”結城辰喜”は、炎上した城の中で死亡したー。

町の住人たちは、そう思っているー。


実際にはー

女体化して”菊”として、すぐ近くにいるのにー



ギリッー…


不愉快そうに歯ぎしりをする菊ー。


「ーー…お?菊ちゃんー…どうしたんだい?」

食事処の女将が、菊が不快そうな表情をしたことに気付くー。


”自分”が町人たちに散々言われているのを

”菊”として町で暮らし始めてから、イヤというほど聞いてきたー。


確かにー、自分は間違っていたのかもしれないー。


しかしー

”虫けら共に儂がバカにされる筋合いはないー”と、

心の中では、激しい怒りを感じていたー


「ーーいえ、なんでもありませんー」

けれど、今はもう”結城辰喜”ではない。

自分は”菊”だー。


激しい怒りを抑えながらも、彼は、”菊”として

いつしか町中の人間から、可愛がられる、そんな存在に

なりつつあったー。


・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーへへへへへ…へへへへへ♡」


女遊びも好きだった辰喜は、

今は”自分の身体”で楽しんでいるー。


周囲の人間に見られないよう、隠れてコソコソと

楽しむ毎日ー


「儂が、自らの身体で楽しめるなんてー

 予想もしなかったな」


”菊”はそう呟くと、

十分に身体を満足させてから、

今日も1日を終えて眠りにつくー。


来る日も、来る日も、”菊”として、

女体化した辰喜は”町人側の暮らし”を堪能していくー。


「ーーーー………」


”一人の町娘”として、町の人々と共に暮らした今なら分かるー。


”自分のしていたこと”が、

この者たちにとって、どれほど苦しいことであったかをー。

この町の人々が、どれほど”結城辰喜”を憎んでいたかをー。


「ーーー」

”もっと早く気づいていれば”

あのように、民たちの反乱により、

全てを失う必要はなかったのかもしれないー。


結城辰喜は、女体化してー

”菊”として、町娘として、

”死の間際に得たチャンス”で新たな人生を謳歌するー


そんな、はずだったー



だがー

ある日ー。


「ーーーあっ…!」

”菊”として、仕事を続けていた女体化した義龍が

声を上げるー。


この食事処の主人が大事にしている陶器を

うっかりと落として、破壊してしまったのだったー。


「ーーー! ーーー!!!」


女将は優しいおばさんだが、

主人は厳格な厳しい男で、

”菊”も、他の人間が激しく叱責されているのを見たことがあるー


「ーーわ…儂のせいじゃない」

女体化した辰喜はそう呟きながらー

周囲を見渡しー


そしてー

破損した陶器をそのまま棚の上に置くと、

何食わぬ顔でその場を立ち去ったー。


”元々虫けらだった町人たちに怒られる”

そのようなことは、

結城辰喜としてのプライドが許さなかったー。


まだー

彼の中には”暴君”としての考えが

染みついていて、

女体化して、町の人々から受け入れられた今でも

”心の底から優しい町娘”になることはできていなかったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーお、俺は何も知りませんー」


見習いの男・茂吉(もきち)が叫ぶー。


案の定ー

主人が破損した陶器に気付き、

”菊”をはじめ、この食事処に関係する人間が

集められていたー。


「ーーー誰が壊したのだ?答えよ!」

主人が怒りの声を上げるー


「ーーーその時間は、菊ちゃんが店番をしていた時間帯だねぇ…」

食事処の女将がそう呟くー。


悪気があったわけではなく、単純に事実を口にしただけだー。


しかしー

”菊”…女体化した辰喜は

”儂が疑いを掛けられている”と、焦り、咄嗟に、

「ーわ…わたし…見ましたー」と、声を上げるー


見習いの男・茂吉を指さしながら

「茂吉さんがー……その陶器を落としているのを」

と、呟く”菊”ー


「ーなっ!?お、俺…?

 き、菊ちゃんー!何を言ってるんだ!俺じゃねぇよ!」


見習いの男・茂吉が焦った様子で叫ぶー。


「ー往生際が悪いぞ。茂吉」

主人が鋭い目で、茂吉を睨むー。


「ー嘘をつくなんて、酷いじゃないかー」

女将もあきれ顔で呟くー


「違う!嘘じゃない!違う!」

茂吉は必死に叫ぶー。


当たり前だー。

陶器を壊したのは、茂吉ではなく、女体化した辰喜だー。


だがー、

”菊”は、茂吉にその罪をなすりつけたー。


普段ー

真面目に振る舞っている”菊”のことを疑う人間はおらずー

茂吉はその日のうちに、見習いもクビになり、

”追放”されてしまったー。



「ーごめんね 菊ちゃんー

 みっともないところを見せてー」


菊が世話になっている食事処の女将が呟くー。


「ーーー悪かったな。いつも感謝してるぞ」

主人がそう呟くー。


他の町人たちも”菊”のことを心配したりー、

褒めたりー

誰一人として”菊”を疑う人間はいなかったー



「ーーふふふふ…ははははははははっ!」

女体化した辰喜=菊は、この日の手伝いを終えると、

笑いながら一人、町の人々が用意してくれた

小さな住処へと帰ってくるー。


「ーーやはり、あやつらなど、ただの虫けらよ」

”菊”としての振る舞いをやめて、本性を現す”菊”ー


「ーーそうだー

 この身体を使えばー この姿を使えばー

 権力や富など無くともー

 虫けら共を自由に操ることができるー」


悪人顔を浮かべる”菊”ー


女体化して、町娘としてやり直すはずだった辰喜はー

”みんなに可愛がられる町娘”という立場を利用すればー

”虫けら”どもを意のままに操ることができるのではないかー


と、いう考えに到達してしまったー


”元暴君”の町娘は、

再び異なる形で”暴君”に戻ろうとしていたー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


今後執筆予定の作品には入れてなかった作品ですが、

新連載の女体化モノデス~!

(書くことは決まっていても、色々な理由で

 未発表の作品も時々あります~!)


②で完結のコンパクトなお話ですが、

次回もぜひ楽しみにしていて下さい~!


今日もありがとうございました~!

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