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「ーーーお、明菜(あきな)おかえりー」

大学生の兄・杉本 忠雄(すぎもと ただお)が

帰宅した高校の妹・明奈に対してそう声を掛けたー


「ーーーーーーー」

だがー妹の明菜は、そんな兄・忠雄に返事をすることもなく、

スマホをいじりながら玄関から家の奥の方に向かっていくー。


「ー……はは」

忠雄は苦笑いするー。


そう、これは別に特別な光景ではないー

”いつもの光景”なのだー


明菜が冷蔵庫から冷やしておいた飲み物を取り出し、

スマホをいじりながら、それをストローで飲みだすー。


兄の忠雄など”家の中に最初から存在していないかのように”

完全に”無視”だー。


「ーーあ、そうだ。さっき母さんから連絡があって

 今日は仕事が遅くなるって言ってたから

 父さんと母さん、二人とも今日は遅くなるみたいだなー」


忠雄が明菜にそう伝えてもー

明菜は完全に無視ー。

まるで聞こえていないかのようにスマホをいじり続けるー。


兄・忠雄と妹・明奈は

”仲が非常に悪い”ー


いや、正しく言うのであれば、明菜が一方的に忠雄のことを

嫌っているー。

そういう、状況だー。


忠雄は、友達が少なく、趣味に没頭するタイプでー

昔から、美少女系のアニメを見たり、フィギュアを集めたりするのが

好きなタイプー。

彼女はいたことがないし、彼女を必要ともしていないー


一方の妹・明奈は非常におしゃれなタイプでー

友達は非常に多く、彼氏もいるー。

兄の忠雄とは良くも悪くも全く正反対なタイプでー

最近では兄・忠雄のことを”キモイ”と断言し、

一切関わろうとしないー。


妹をほめるなんて、シスコンだとかなんとか言われるかも

しれないが、正直かわいいと忠雄は思っているー。

ただ、性格はキツイ感じで、忠雄も何かと妹の明菜には

遠慮気味な日々を送っているー


「ーーあ、明菜~…」

返事を全くしてくれないことで、

”話が伝わったかどうか”も分からず、

困惑した忠雄は、妹の明菜の名前を再び呼ぶー。


それでも反応がないため、仕方がなく

今一度”母親の帰りが遅くなる”ということを伝えると、

明菜は「同じこと2回も言ってうるさい!」と、声を荒げたー


「ーい、いや、だって…そのー」

妹の怒鳴り声にビクッとして、挙動不審な動きをする忠雄ー。


そんな忠雄に対して明菜は「キモいから早く部屋に行ってよ!」と、

言い放つー。


忠雄は少しムッとして、「そ、そこまで言わなくてもー」と

やっとの思いで言い返すとー

「いいから部屋に引きこもってて!この童貞!」と、

明菜は叫んだー


「ど、ど、ど、童貞の何が悪いんだ!」

忠雄はそう捨て台詞を叫びながらも妹の明菜との

口喧嘩には勝てないため、そそくさと逃げるようにして

自分の部屋の方に向かっていくー


我ながら情けないが、明菜の方が元々活発な性格で、

こうして結局はいつも、忠雄が逃げるようにして退散していくー。


「ーーっていうか、別にそんなことどうでもよくね?」


忠雄は、部屋に戻ると、ふとそんなことを呟いたー。

ヤッたとかヤらないとか、正直、忠雄自身あまり興味はなかったー


ほどほどの友人がいてー

ほどほどに楽しいことがあってー

ほどほどに学校生活も送ることができているー


将来的に、ほどほどの仕事が出来れば何も文句はないし、

それで十分だー。

忠雄は、そんな風に思っていたー


”まぁー明菜からすりゃ、俺みたいな生き方は

 全く理解できないんだろうなぁ”


今の人生の唯一の不満点は

”妹である明奈との関係が上手くいかないこと”ー

それ以外は、忠雄自身は別に何とも思っていないー。


「ーどうして、あんなに嫌われたかなぁ…」

今までの明菜との関係を思い出してみるー。


特別、”何かきっかけ”があったようには思えないー。

これが、”思春期”というやつなのだろうかー。


「昔はお兄ちゃんお兄ちゃん言ってたのにー」


今では”お前” ”あんた” 呼びだー。

一度”貴様”と呼ばれたこともあるー。


「ーーーま……仕方ないなー」


いつの日か、妹の明菜とまた、昔のように

仲良くすることができる日が来るのだろうかー。


いやー

来ないかもしれないー。


そう思いながら、忠雄は少し寂しそうにため息をついたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーあ!お兄ちゃん!おかえりなさい~!」


だがー

翌日ー

信じられない出来事が起きたー。


「ーーーーーは?」

大学から帰宅した忠雄は、思わず表情を歪めたー。


兄・忠雄の帰宅を知ると同時に、

妹の明菜がわざわざ2階から降りて来て、

忠雄に笑顔で”お兄ちゃんおかえりなさい”と

言い放ったのだー


「ーーーーー……………ーーー」

忠雄はしばらくじっと妹の明菜のほうを見つめると、

明菜はニコニコしたまま忠雄のほうを見つめ返しているー


「ーーん… んっと… な、何か悪だくみ?」

忠雄は思わずそんな、訳の分からない返事をしてしまったー


「ーわ、悪だくみってー

 何でそんな考えになるの?」

苦笑いする明奈ー。


「ーお兄ちゃんが帰ってきたから”おかえりなさい”って

 言っただけなのにー」

笑う明菜を見て、忠雄は「い、いや…そのー」と、

逆に気味の悪さを感じながら、家の中へと上がっていくー


”あ、明菜のやつー

 いきなりどういう風の吹き回しだー?”


手を洗ってうがいをしながら、

忠雄は頭をフル回転させるー。


絶対に何かを企んでいるに違いないー。


だってー

この2年間、明菜はほとんど口を利いてくれなかったのだー。


それがいきなり”お兄ちゃんおかえりなさい”だとー?


いやー

もちろん、こういう風になってほしいーという想い

昔のように、また明菜とせめて普通に話せるようになりたい、という想いは

もちろんあったー。


でも、いきなりこんなー……


「ーー明奈ー」

忠雄は、手洗いとうがいを終えると、

明菜の方に寄って行って、

「熱でもあるのか?」と、明菜の額を触ったー


しかしー

熱はなかったー

むしろ、冷たいぐらいー


「ーーーー~~~」

不気味なモノを見る目で妹の明菜のほうを見つめながら

首を傾げる忠雄を見て、

「ーお兄ちゃん~!そんな顔しないでよ~!」と、明菜は微笑むー。


「ーーーい、いや、す、するだろー…

 明奈、高校生になったぐらいから俺と全く口を利いてくれなかったのにー

 な、なんで急にー?」


忠雄の疑問は最もだったー。


その言葉を聞いた明菜は「うんーえっと、あのねー」と、

”学校で友達に怒られてしまった”ことを説明したー。


明菜の幼馴染の詩織(しおり)という子が、

明菜の兄に対する態度を見かねて、説教してきた、というのだー


「あ~…詩織ちゃんかー。最近元気にしてるのか?」

明菜が小さいころ、兄である忠雄も何度か”詩織ちゃん”とは

遊んであげたことがあるー。


「ーー詩織に怒られて、わたし、気づいたのー

 お兄ちゃんに申し訳ないことしちゃったなーって」


明菜の言葉に、忠雄は「い…いやー…いいんだよ」と、

苦笑いしながら、照れくさそうに目を逸らすー


「今日からいままでお兄ちゃんに酷いことしちゃった分、

 い~っぱいお兄ちゃんと仲良くするからね!」


明菜の満面の笑みー


「ーーーあ、あぁ…そ、そっかー」

忠雄はそう言いながらもー

心の中では”怖ぇえええええええ…!”と、そう思っていたー


とりあえず部屋に戻る忠雄ー

部屋に戻った忠雄はー

”お、女の子って友達に注意されただけで1年半以上無視してた

 兄貴と急にペラペラしゃべるようになるもんなのか?”

と、美少女キャラの抱き枕を抱えながら、身体を震わせるー


「こ、これが女心ってやつなのかー?

 わかんねぇ…俺にはわかんねぇ…!」

一人でぶつぶつと呟きながら、忠雄は

妹の”良い方向への豹変”に、晩御飯の時間までずっと、

一人で震え続けたー


「ーーーーーー」

”お兄ちゃん”の部屋の方向を見つめながら

妹の明菜はクスッと呟いてー


”これから”よろしくねー…お兄ちゃんー

と、静かに囁いたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


晩御飯の時間ー


「はい!お兄ちゃん!あ~ん!」

明菜が、スプーンに食べ物を置いて

隣にいる兄の忠雄にそんな言葉を投げかけるー


「ひぇ」

忠雄は情けない声を出しながら、妹の明菜から

ご飯を食べさせてもらうー


父・宗次郎(そうじろう)と、母・真那子(まなこ)が

その様子を見つめながら苦笑いしたー。


「ーーどうしたの急に~?

 明奈、あんなに忠雄のこと、嫌ってたのに」

母の真那子の言葉に、明菜は兄の忠雄に説明したことと

同じことを繰り返すー。


親友の詩織から、明菜の兄に対する態度を指摘された、とー。


「そうなんだ~」

ほんわかとした雰囲気の母・真那子は、

そんな娘の説明ににこにこしながら、忠雄に対して

「よかったねぇ~」と、微笑むー。


「ーあ、あぁ…まぁ」

忠雄は照れくさそうに、

隣でニコニコと忠雄のほうを見つめている明菜を見るー。


「ーーなんか、調子狂うなぁ…」

顔を赤らめながら目を逸らす忠雄ー。


いや、まぁー

いつかはこんな風にまた、妹の明菜と仲良くなれる日が来ればー、

と、そう思ってはいたけれどー。


「ーーーあ、そうだ、お父さんー」

明菜は続けて父親の宗次郎に声を掛けると、

「ん?あぁ」と、戸惑った様子の宗次郎が、

少しだけ照れくさそうに応じるー。


学校関係の話題の相談をしているようだったがー

ここ最近、明菜は父の宗次郎に対しても

やはり、ほぼ無視状態で、嫌なムードが家庭内に

漂っていたー。


「ーー(俺だけじゃなくて、急に父さんにも愛想よくなってー)」


まるで、昔の明菜に戻ったかのようだー。

そんな風に思いながらも

「ーー明奈、やっぱ熱でもあるんじゃないか?」と

笑いながら熱がないかどうかを確認すると、

やはり、熱はなかったー


「も~!だから~!これからはちゃんと仲良くするの~!」

明菜はそんな風に言うと、

「お兄ちゃんのほうこそ、熱でもあるんじゃないの~?」と

仕返しと言わんばかりに熱を確認してきたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


部屋に戻ると、忠雄は

少しだけ嬉しそうにニヤニヤしながら

「ーー急にどうしたんだろうな?」と呟くー


(友達から説教されただけであんなー…

 こんなあっさり元通りの仲良しな兄妹に戻れるんだったら

 詩織ちゃんには、もっと早く明菜のこと 

 説教してほしかったなー)


そんな冗談じみたことを心の中で思うと、

妹の明菜のことを思い出しながら

ホッ、とした様子でため息をつくー。


正直なところ”顔を合わせるたびに”

あんな辛辣な対応をされていた忠雄は、

日によっては”妹の明菜と会いたくない”と思ったり、

まるでいじめっ子から隠れるかのようにコソコソと家の中を移動したり、

明菜に必要以上に気を使うこともあったー


そういったことをもうしなくていいと考えるとー

なんだか、一気に肩の荷が下りたような、そんな感覚になるー。


(明日になったら、元に戻ってたりしないよな?)

ちょっとだけそんな心配をしながらー

忠雄は、”今日は色々な意味で体力を使ったなー”と思いながら

そのまま眠りについたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーーあぁ…あぁ、心配するなー

 あぁ、”依頼”通り、ちゃんと”杉本 明奈”を演じるからー

 心配すんなー」


夜ー

明菜は自分の部屋で、偉そうに足を組んで椅子に座りながら

スマホで誰かと会話していたー。


”本当に、ありがとうございますー…

 よろしくお願いしますー”


相手の言葉に、明菜は「これが、俺の仕事だからなー」と、

笑みを浮かべると、そのまま電話を切ったー。


「ーーふ~~~~~」

髪を少しかき分けるような仕草をするとー

明菜が突然、ペロリと皮が剥けるようにして、崩れ落ちー

中から、鋭い目つきの男が姿を現したー


”闇の代行人”の異名を持つ謎の男ー

明菜は彼に”皮”にされて乗っ取られていたー



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


皮モノの新作品のスタートデス~!

乗っ取られて悪い子になるパターンではなくて、

逆に乗っ取られて良い子になってしまった妹…☆!


どうなっていくのかは、今後のお楽しみデス~!

今日もありがとうございました~!

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