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「ーーお疲れ様~!」


生徒会室ー。

2週間後に迫った文化祭の話し合いのため、

今日は放課後に生徒会の話し合いが行われていたー。


ちょうど、1時間ちょっとの話し合いが終わり、

生徒会書記の一人、響 祥吾(ひびき しょうご)は

少し眠たそうにしながらも、「ーあ、お疲れ」と、

先に生徒会室から外に出る後輩の男子に向かって、

そう言い放つー。


「ーーさて、とー」

文化祭の話し合いのプリントをクリアファイルにしまうと、

鞄の中にクリアファイルを入れて、祥吾も立ち上がるー。


「ーー副会長は、今日は部活だったっけ?」

祥吾が笑いながら言うー。


「うんー。このあとは美術部のー

 って、ーーもう!その呼び方はやめてよ~」

苦笑いする可愛らしい雰囲気の女子生徒はー

生徒会副会長の松原 樹奈(まつばら きな)ー。


樹奈は祥吾と同じクラスで、去年の冬から

彼氏彼女としての付き合いを続けているー。


だがー

”生徒会活動の時”ー

祥吾は何故か樹奈のことを”副会長”と呼ぶのだー。


”樹奈を揶揄っているのか”

”後輩や先輩の前で仲良く見せるのが恥ずかしいのか”

”公私混同をしないようにしているのか”


それは、よく分からないー。


「ーーはははー」

笑う祥吾ー。


「ーーじゃあ、今日は先に帰ってるよー。

 あんまり、無理するなよー」

祥吾がそう言うと、樹奈は「うん。ありがと」と、微笑むー。


樹奈は生徒会副会長として活動しながら、

美術部の部長としても活動していて、

文化祭が間近に迫った今、美術部の準備も、生徒会としての準備も

両方こなしていて、とても忙しそうだー。


「ーー生徒会室の戸締りはやっておこうか?」

祥吾が去り際に言うと、樹奈は首を横に振るー


「このあと、職員室にいる顧問の先生に話もあるからー、

 大丈夫」


その言葉に、祥吾は「そっか」と頷くと、

そのまま生徒会室を後にしたー。


「ーーー」

暗くなりつつある廊下を歩きながら

”に、しても樹奈ー、忙しそうで大変だなー”

と、祥吾は少し心配そうに樹奈のことを考えるー。


”生徒会長、骨折してしばらく学校来れないしなー”


数日前に、生徒会長が自宅の階段で転んで骨折したため、

この忙しい時期に、実質上樹奈が生徒会長代理のような状態に

なってしまい、より忙しくなっているー。


「しっかしー…会長もドジだよなぁ…」

生徒会長の千代田 梓(ちよだ あずさ)は、

まるで小学生のように小柄な少女で、真面目なのだが、

とんでもなくドジな子だー。


背が小さいために、よく図書室の上段の方の本が取れずに、

図書室に行くと、ぴょんぴょん飛び跳ねている場面を

目撃することもできるー。


一度、祥吾は「先輩ー…取りましょうか?」などと

声を掛けたこともあったのだが、

「ーーこのぐらい、一人で取れるもん!」と言われて、

拒まれてしまったこともあるー。


その後も、5分以上ずっとぴょんぴょんしていたのは

今でもよく覚えているー。


「ーーってー」

そんなことを考えていた祥吾は、生徒会室に

忘れ物をしてしまったことを思い出し、

「ーーやべっ…!スマホ置いてきた…」と、

Uターンして、再び生徒会室に向かうー。


一瞬、職員室に向かおうかとも思ったが、

まだそんなに時間は立っていないし、

彼女の樹奈が生徒会室にまだいるかもしれない、と

直接生徒会室の方に向かったー。


生徒会室の周囲は、普段あまり使われない教室が多く、

放課後は特に人通りが少ないために、

不気味な気配が漂うー。


”頼むー…まだ、生徒会室にいてくれよー”

生徒会室と職員室は全く反対の方向ー。


もし、既に樹奈が生徒会室から立ち去ったあとだった場合、

祥吾は、生徒会室から反対側の職員室まで鍵を取りに行きー、

また生徒会室に戻らないといけないー。


”どうか樹奈がまだ生徒会室の戸締りを終えてませんようにー”

そんな、些細なことを考えながら、

生徒会室前の廊下にたどり着いたその時だったー。


「ーーーた…助けてー…!」

生徒会室から、そんな声が聞こえたー


”えっ…?”

祥吾は表情を歪めるー。

”助けてー”という声は、紛れもなく

彼女である樹奈の声だったからだー。


「ーーー!」

生徒会室の入口の扉の窓からー

中を見つめるとー

壁に押し付けられて、廊下側に背を向けている樹奈とー

樹奈を壁に押し付けて、同じく廊下側に背を向けている男の

姿が見えたー。


「ーーーな、なにをー…!」

祥吾は”何をやってるんだ!”と叫びながら

樹奈と、樹奈を襲っている男がいる生徒会室に乱入しようとしたー。


しかしー。

”信じられない光景”が目の前に広がり、

祥吾は、手を止めて、あまりの衝撃に声も出せなくなってしまったー。


壁際に追い込まれていた樹奈の後頭部をーー

男が真っ二つに引き裂いたのだーー


「ーーあ…ぁ… ぁぁっ… ぁ」

この世のものとは思えないような光景にー

苦しそうな樹奈の声が聞こえてくるー


”助けないとー”

”助けないとーー”

”動け!俺の身体ーーー”


祥吾は何度も何度も、自分の身体に向かって、

そう叫んだー。


けれどー

あまりの衝撃に、身体は動かずー

声も出すことができなかったー。


人間ー”真の恐怖”を感じてしまうと何もできなくなるー、

…と、いうような話を聞いたことがあるー。


もしも本当にそんな状況があるならー

それは、今だー


樹奈の身体が頭から、首ー、胴体まで

”真っ二つ”に引き裂かれてー

まるで、布になったかのように、床に崩れ落ちるー。


”樹奈が殺されたー”


祥吾は、殺人現場を目撃してしまった、と

そう思ったー。


しかしー

急に妙に冷静な”疑問”が頭の中に浮かんだー。


”ーーー血が…出てないー?”

とー。


生徒会室の中で男に”真っ二つ”に引き裂かれた樹奈ー

普通ー、人間が真っ二つに引き裂かれればー

恐ろしい量の血が吹き飛ぶはずだー。


樹奈はロボットじゃないはずだし、

身体の中には”血”が流れているはずだー。


なのにー

何故、血が一滴も出ていないー?


そんな風に祥吾が思っているとー

廊下側に背を向けたまま、樹奈を引き裂いた男が、

腰の下あたりまで、真っ二つにされた樹奈を掴んだー


そして、次の瞬間ー


”えっー…?”

彼女が真っ二つにされた光景を見た直後にー

さらに驚かされる光景を見るとは、思わなかったー


樹奈がまるで”着ぐるみ”のようにペラペラとした

状態で、男に掴まれているー


あのたるみかたはー、

とても”人間の身体”ではなく、

まるで”洋服”や”着ぐるみ”かのようだー。


”ど…どういうことだー?”

祥吾は、身動きが取れないまま、必死に頭の中の考えを整理しようとするー


訳が分からないー

一体、何が起きているー?


恐怖とパニックに押しつぶされそうになった祥吾はー

混乱する頭の中で、一つの答えをはじき出したー。


”ーーあ…文化祭に使う、樹奈そっくりの着ぐるみー?”


そんなわけないのにー

そんな考えにたどり着いてしまったー


「ーーー!?!?!?!?!?」


衝撃の光景に、衝撃の光景が続くー。

衝撃の光景のオンパレードに、祥吾の身体は震えだすー。


真っ二つにされた樹奈を掴んだ男は、

ペラペラになった樹奈を、

まるで”洋服でも着るかのようにー”

身に着けていくー。


”え…な、何やってんだよ……えっ…?”

祥吾は心の中でそう思いながら、

部屋の中の光景を見つめるー


やがてー

男の姿は消えー

”樹奈を着た”男ー…

いや、外から見れば樹奈にしか見えない存在が、

手を握ったり、開いたりー、

足を振ったりー


まるでー

”身体がちゃんと動くかどうか”を確かめるような

素振りを見せるー。


「ーークククククククー」

生徒会室で一人笑い出す樹奈ー。


完全に”樹奈の声”だったー。


祥吾は、

あまりに現実離れした光景を連続で見せられて

もはや思考停止のような状態に陥っていたー


映画やアニメとかで、あまりの光景を前に、

声も出なくなって震えるー…みたいなシーンを見るたびに

”こんな風になることなんてないだろ…はははっ!”なんて

思っていた祥吾だったがー


今、自分がそんな状況に直面しているー


生徒会室で彼女の樹奈が何者かに襲われてー

目の前で男に真っ二つにされてー

真っ二つにされた樹奈からなぜか血が出ず、着ぐるみのような感じになりー

それを、男が着てー

男が、樹奈になったー?


意味が、分からないー。

祥吾がそんな風に思っているとー

生徒会室の中にいる樹奈が「やべぇ…気持ちイイ」と言いながら

笑っているのが聞こえてきたー


入口側に樹奈が背中を向けている状態のため、

何をしているのかハッキリとは分からなかったが

手の位置から、胸を揉んでいるように見えたー。


「ーー今日から俺が松原 樹奈だぜー」

生徒会室の中にいる樹奈の言葉に、祥吾は衝撃を受けるー。


何度か咳をしてから、樹奈は

「わたしは…樹奈ー」と、嬉しそうに何度も何度も

呟き始めるー


そして、ようやく満足したのか、樹奈は

生徒会室の戸締りを再開すると、そのまま生徒会室の外に出て、

職員室の方角へと歩いて行ったー。


生徒会室の戸締りを再開した樹奈を見て

咄嗟に物陰に隠れた祥吾は、口の中が完全に乾ききってしまうほどに

恐怖を感じー、

その場から、しばらく動くことができなかったー


何分ー

いや、10分以上経過しただろうかー

ようやく「す…スマホー…!」と、生徒会室の中に忘れたスマホの

存在を思い出した祥吾は、結局、反対側にある職員室に行きー、

また反対側の生徒会室に戻ってきて、

その後反対側の職員室に鍵を返しに行くー


と、いう無駄な往復をする羽目にはってしまったー


・・・・・・・・・・・・・・・・


帰宅した祥吾は、彼女の樹奈が”着られた”光景を思い出すー。


しかもー

その後の”今日から俺が松原 樹奈”という言葉を思い出すー


樹奈は”俺”とは、普段は言わないー

一人の時は知らないが、少なくとも祥吾は聞いたことがないー


それにー

あの生徒会室で見た光景を総合するとー


”男が樹奈を着ぐるみのような状態に変えて、

 その樹奈を着て、男が樹奈を乗っ取ったー”

ように見えるー


「そんなこと、あるものかー」

祥吾は、険しい表情を浮かべながら、

どうしても樹奈の状況が気がかりになってしまい、

樹奈にスマホでメッセージを送るー。


”今日もお疲れ様ー”

いつも通りの調子でメッセージを送ってみるー。


返事が来るまでの間ー

心臓が飛び出しそうなほど、緊張したー。


だがー…

数分後に戻ってきた返事はー


”うん!祥吾もお疲れ様~!”という

いつも通りの返事だったー


てっきり、”お前、誰だ?”とか、

”お前、こいつの彼氏か”とか、

変なメッセージが戻ってくると想像していたためー

拍子抜けしたものの、

少し平常心を取り戻して、メッセージのやり取りを続けるー。


”話の内容”は、

いつも通りの樹奈だー。


文章の様子がいつもと違うようなこともないし、

話もかみ合っているー


もし、もしも他人が樹奈に成りすましていたり、

樹奈を乗っ取っているならー

こんな自然に会話できるはずがないー


第1、樹奈と祥吾しか知らないはずの話まで

普通にやり取りしているー。


”この前、口約束したこと”についての話も

メッセージのやり取りに出てきているー。


祥吾は”そうだよなー…何もなかったよなー”と

自分に何度も何度も言い聞かせると、

そのまま、疲れ果てて、じきに眠りにつくのだったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


「ーーあ、祥吾!おはよ~!」

樹奈が背後から声を掛けてくるー


一瞬ビクッ!としながらも、祥吾が「お、おはようー」と、

昨日の光景を思い出しながら言うー。


いつもと同じ雰囲気の樹奈ー

何も、いつもと違わないー


「ーどうしたの?わたしの顔をじーっと見て」

笑う樹奈ー


「あ、いや、なんでもないよ!」

祥吾が顔を赤らめながらそう言葉を口にすると、

樹奈は「も~!」と、いつも通り微笑みながら、

教室に向かって歩き出すー。


祥吾は”昨日の光景…何かの勘違いだよなー”と、思いながら

”いつも通りに見える樹奈”の後を追って歩き出したー


「ーーーーー(女子高生の記憶が一気に流れ込んできてー

 二人分の記憶と人生が俺の中にある感覚ー最高だぜー)」


前を歩く樹奈がそんなことを考えながら

ペロリと唇を舐めたことに、

背後を歩く祥吾は、気づかなかったー


②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


不穏な空気の漂う皮モノのスタートデス…!

果たしてどうなってしまうのでしょうか~?


次回もお楽しみに~!

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