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ふざけるなー。

長瀬治夫は、怒りに震えていたー。


少し前に、彼女の亜香里と話したことを思い出すー。


「ーーー……亜香里ー」


「ーこの事件を解決できたらさー

 ーーー」


治夫は、”モルティング”たちとの戦いを終えたらー

この事件を解決したらー

同居している彼女・松永亜香里と”その先”に進もうとしていたー。


「ーー今はだめ!」


「ー”この戦いが終わったら結婚するんだー”って、

 どっちかが死んじゃうやつだよ!」


あの時ー

亜香里は、そんなことを言っていたー。


「ーだからー

 今はまだ、その言葉、言っちゃだめー」


「ーーじゃあ…”終わらせてから”言うよー。必ずー」


二人で笑い合ったあの日を思い出すー。


”ふざけるなー”

治夫は、今一度歯ぎしりをするー。


黒崎陣矢に皮にされ、乗っ取られた亜香里は今ー、

コルセット風のランジェリーを身に着けて、

治夫への長髪を繰り返しているー。


”ふざけるなーーー

 俺と亜香里に死亡フラグが立ってるって言うならー”


治夫は、乗っ取られている亜香里のほうを睨みつけたー。


そんなフラグー

へし折ってやるー。


・・・・・・・・・・・・・


登場人物


長瀬 治夫(ながせ はるお)

若き警察官。”皮”にまつわる事件に巻き込まれていく


松永 亜香里(まつなが あかり)

治夫の彼女。黒崎陣矢に乗っ取られてしまった。


長瀬 聡美(ながせ さとみ)

治夫の妹。かつて臼井隼人に皮にされた件で、現在入院中。


目黒 圭吾(めぐろ けいご)

警視正。計算高い性格の持ち主で、出世欲も強い。


黒崎 陣矢(くろさき じんや)

指名手配中の凶悪犯罪者。”モルティング”のひとり。


泉谷 聖一(いずみや せいいち)

治夫の中学時代の恩師。モルティングたちに”皮にする力”を与えた黒幕。


大門 久志(だいもん ひさし)

目黒警視正が亜香里を警護するため派遣した捜査官。


・・・・・・・・・・・・・・


★あらすじ★


嫌な予感を感じつつ、帰宅した治夫を待ち構えていたのは、

人を皮にする凶悪犯・黒崎陣矢に乗っ取られた

彼女・亜香里の姿だったー。


亜香里に拘束された治夫は、

目の前で、挑発的な言動や行動を繰り返す亜香里にー

いや、黒崎陣矢に怒りの眼差しを向けるー。


どうすることもできない中ー

治夫は、黒崎陣矢が、机の上に置いたままにした

”人を皮にする注射器”と”元に戻す注射器”に視線を向けるー。


”あれを亜香里に打ち込むことができればー”


希望は、消えていないー。

まだーー

希望は、あるー。


一方、そのころ、病院では

入院中だった治夫の妹・長瀬聡美が病室から姿を消していたー。


★前回はこちら↓★

<皮>モルティング~人を着る凶悪犯~㉟”光と闇”

「ーーご苦労様でしたー」 目黒警視正が、電話を終えて、その電話を切るー。 ニュースでは、先ほどの火災の続報が伝えられているー。 警察内部の闇ー 西園寺警察庁長官を中心とする”暗部”は、警察内部に深く、 根付いていたー。 それを排除するためー 目黒警視正は、あらゆる手段を尽くしたー。 そして、今、それが終わ...

・・・・・・・・・・・・・・


亜香里が、部屋に飾られている写真を手にすると

笑みを浮かべるー


亜香里が今、浮かべている笑みは、優しい笑みなどではないー。

黒崎陣矢の歪んだ欲望に乗っ取られてー

”黒崎陣矢の笑み”を、亜香里が浮かべているー。


いやらしい服装に身を包んだ亜香里が、

写真を見つめながら笑うー。


治夫と亜香里が楽しそうに笑っている写真をビリッと破くとー

亜香里は、笑みを浮かべながら治夫のほうを見つめるー。


「ーーくくく、俺が憎いか?」

亜香里が笑いながら言うー。


「ー大好きな彼女をー

 お前の最愛の人をー

 こんな姿にしている俺が憎いか?」

亜香里が、顔を治夫に近付けながら、狂ったように笑みを浮かべるー。


治夫はそんな亜香里を睨みつけながら呟くー


「ーー亜香里を開放しろー…!

 亜香里は、無関係のはずだー」

治夫が言うと、亜香里は「そう!」と、手をポンと叩きながら笑うー


「ーわたしは無関係!でもね、治夫ー」

亜香里の口調を真似ながら、黒崎陣矢に乗っ取られた亜香里は笑うー。


「ーーでも、あんたの大切な人ってだけでー

 わたし、こうして狙われちゃったの!

 わたしは、あんたの巻き添えで、今、こうして

 こ~んな風に好き放題されちゃってるの!」


亜香里が挑発的に笑うー。


亜香里の意思じゃないー

そんなことは、百も承知だー。

亜香里は、そんなこと思っていないー


けれどー

”結果”だけ見れば、治夫が亜香里を巻き込んでしまったことは、事実ー。

治夫と一緒にいなければ、亜香里は、こんな目に遭うことはー

なかったのだからー


それにー

”亜香里の口調”を真似されると、どうしても、

”亜香里に言われている”ような気がしてしまうー。


もちろん、分かっているー

亜香里は黒崎陣矢に乗っ取られていて、

黒崎陣矢に”言わされている”だけだとー


分かっているのにー

亜香里の姿ー

亜香里の声ー

亜香里の口調で言われるとー

脳が、反射的に”亜香里に言われている”と、錯覚してしまうー。


「ーーぜ~んぶ、あんたのせいよ!治夫!」

亜香里が治夫のほうを見ながら叫ぶー


「ーあんたのせいで、わたし、こ~んな格好させられて!

 こ~んな風に胸を揉まされてるの!

 あはっ!!あはははははははははっ♡」


亜香里のイカれた笑い声に、治夫は「もう…もうやめろ!!」と

大声で叫ぶー


「ーーゃ~めないよ!わたし、治夫のこと、憎んでるんだもん!」

亜香里が目を見開いて笑うー


「ー心の底から、治夫!あんたを恨んでるの!

 だって、そうでしょ?わたし、こんなひどい目に遭ってるの!

 それなのに治夫は、わたしを守ってくれなかった!

 

 どうせ黒崎陣矢に言わされてるって思ってるんでしょ?

 

 ふふふふ…違うの!

 これが、わたしの本心なの!


 長瀬治夫ー

 わたしは、あんたを一生許さないー」


亜香里の口調で、治夫を睨みつける黒崎陣矢ー


「ーーくっ…く、、、う、、うぐぐぐぐぐぐぐ」

治夫は怒り狂った表情で、亜香里のほうを見つめるー。


”そうだー

 もっと怒れー

 お前の、限界まで燃え上がる怒りを

 見せてみろー”


亜香里は、そう思いながらペロリと唇を舐めるー


”長瀬治夫ー

 俺は、邪魔をされればされるほど、

 燃えてくるんだよー…

 お前には、最高の地獄を見せてー

 そして、ぶち殺してやるー”


「ーーそこにーーー」

亜香里は小声で呟くと、笑みを浮かべるー


「俺の望む、最高の芸術があるー」



亜香里ー


治夫は、そんな風に思いながら、自分の手を拘束している

ロープを、必死にほどこうとしていたー。

乗っ取られている亜香里に、気づかれないようにー。


手さえ自由になればー

足のロープもなんとかー。


亜香里が挑発的な言葉を叫んでいるー

治夫は、それに我を失って怒っている反応をしながらー

机の上を横目で見つめるー


”2本の注射器”

そのうち一つは、皮にされた人間を元に戻す注射器だー。


(あれを使って、亜香里をー)


亜香里と初めて出会った小さいころを思い出すー

公園で出会った”別の学校に通う子”

男兄弟に囲まれて育ったという亜香里は、まるで男の子のような子でー

治夫は、しばらく男だと思っていたー


高校時代に偶然再会して、すっかり”女の子”になっていた

亜香里に、最初は全く気付かずー

亜香里だけが一方的に治夫を覚えていた状態で、

治夫は”妙になれなれしい子だな”などと思っていたー。


そこからー

さらに親しくなってー


これからー

さらに、その先に進もうとしていたのにー


治夫は、目を閉じるー


「-ーでも、男っぽい亜香里もまた見てみたいような気がするなぁ」


「-もう、わたしが男みたいに振舞うことはないと思うよ~」


「--はは、そうだよなぁ~」


少し前に、亜香里と昔のことを話したときの会話を思い出すー


”わたしが男みたいに振る舞うことはないと思うよ~”


「ーーーーー」

治夫は、目を開いて、”黒崎陣矢”に乗っ取られて

男口調で治夫を挑発している亜香里を見つめるー。


「ーーーー”フラグ”になっちゃったなー」

治夫は、少しだけ悲しそうにそう呟くとー


でもーーー

「ーー亜香里ーーー、今、助けるからな!」

治夫は、手の縄をほどき、足の縄も素早い動きでほどいていたー


「ーー!」

亜香里が目を見開くー


”死亡フラグが立ったならーへし折ればいいんだ!”


治夫が、机の方に向かうー。


亜香里が「テメェ!」と叫びながら、

隠し持っていたナイフを治夫に向かって振るうー


「ーごめん…亜香里!」

治夫はそう叫ぶと、亜香里の足を引っかけて、亜香里を転倒させるー


髪を振り乱しながら「ぐえっ!」と声を上げた亜香里にー

”怪我…しないでくれよー”と、心の中で願いながら、

治夫は、机の上から”元に戻す注射器”のほうを手にするー


「ーーー黒崎陣矢ー…!

 亜香里から、出ていけ!」


治夫が逃げようとする亜香里を押さえて、

そのまま首筋に”元に戻す注射器”を打ち込んだー


「う、、う、、う、、、あぁあああああああああ…あっ!」

悲鳴を上げる亜香里ー。


「ーーあぁああああああ…ぐ、、、あ、、…あーーーーっ!」


”亜香里ー”

治夫は、亜香里が助かることを心の底から願いながらー

亜香里の中から出てくるであろう、黒崎陣矢を迎え撃つ心の準備をするー


しかしー


「ぁ~~~~ぁっ…あ~~ な~んちゃって」

亜香里が舌を出しながら、ニヤリと笑みを浮かべると、

治夫をグーで殴りつけたー。


「ーーぐあっ!」

倒れ込む治夫ー


少し乱れた髪を触りながら、亜香里はさっきまで

使っていた鞭を手にすると、治夫を何度も何度も殴りつけたー。


「ーークククー

 長瀬治夫ー

 彼女を救うために必死なそのザマー

 最高の芸術だよ!」


亜香里は鞭を放り投げると、倒れた治夫に近付いて、

治夫の胸倉を掴むー。


「でもな、残念だったなー

 その注射器ー」


亜香里が、目で床に落ちた”皮にされた人間を元に戻す注射器”の

ほうを示すー。


「ーー”脱がれてる状態”じゃないとー

 効果ねぇんだよ」


亜香里が絶望的な言葉を呟くー


「思い出してみろ?

 俺が使ったときー

 他のやつらが使ったときー

 いつもー”誰かに着られてる状態”じゃなくて、

 ”脱ぎ捨てられてる状態”だっただろー?」


亜香里の言葉に、治夫は今までのことを思い出すー


そうー

”皮”にされた人間を元に戻す注射はー

”着られている状態”では意味がないのだー。


「ーー俺が着てる限りー

 この女はー

 いいや、わ・た・しは、”黒崎”亜香里のままー

 ふふふふふふふ」


亜香里は治夫の胸倉を掴みながら

とても嬉しそうに笑うー


「ははははっ!あははははははっー」


治夫を乱暴に投げ飛ばすと

「ねぇ、治夫ー?」と、亜香里の口調で黒崎陣矢が語り掛けてくるー


「ーわたしのこと、憎いでしょ?」

亜香里が邪悪な笑みを浮かべるー。


「ーーー憎いのはーー

 亜香里じゃないーーー!

 黒崎陣矢、お前だー!」

治夫は倒れながらも、まだ闘志を失っていなかったー


「ーふ~ん」

亜香里はそう言うと、

「ー治夫なんて、大っ嫌いー」

と、治夫を睨みつけながら低い声で呟くー。


「ーーやめろ…!」

治夫は苦しそうに呟くー


「治夫なんて、大っ嫌いー」

「治夫なんて、大っ嫌いー」

「治夫なんて、大っ嫌いーーー」


亜香里に何度も何度も”嫌い”と言われてー

頭ではわかっていてもー

治夫はひどく心を揺さぶられるー


好きな人の顔ー、身体ー、声ー

分かっているのにー


「ーー治夫なんて、死んじゃえばいいのにー」

亜香里がニヤリと笑うー


「ーー治夫なんて、死んじゃえー」

「ーー死ねよー治夫ー」


”クククー

 怒り狂えー!

 この女を殺そうと襲い掛かってこいー”


亜香里は内心で笑うー。


”彼氏に殺されそうになった可哀そうな”黒崎”亜香里ちゃんはー

 彼氏を返り討ちにしてしまいーーー

 大好きだった彼氏と、永遠に別れることに

 なってしまいましたー

 めでたし めでたしー”


黒崎陣矢は、長瀬治夫にこの上ない苦しみを与えてー

彼独自の”最高の芸術”を表現しー

治夫を葬ろうとしていたー。


それがー

自分を邪魔し続けた長瀬治夫へのー

最高の復讐であり、黒崎陣矢にとっての

最高の、芸術ー。


「ーーいい加減に、しろ!!!!!!!!」

治夫が怒り狂った様子で叫ぶー。


「ーほ~ら!わたしのこと、ムカつくでしょ~?

 ムカつくなら殴れば?ほら、わたしを殺してごらん!

 あっははははははァ」


繰り返される挑発ー


それでも治夫はーー

「ーーームカついてるのは、黒崎陣矢!お前にだけだ!」

と、”亜香里の中”にいる黒崎陣矢にだけ向かって叫ぶー


「ー由愛ちゃんも、塚田先輩もー宮辺さんも!

 みんな、お前に殺されたんだ!」


勤務していた交番の先輩たちー

治夫になついていた女子高生ー

みんな、この黒崎陣矢に命を奪われたー


治夫は、黒崎陣矢を決して許しはしないー


「ーーーへぇ」

 ーだったら、わたし、あんたの両親、殺しちゃおっかな?」

亜香里が笑みを浮かべるー。


「ーーな、なんだってー…?」

治夫が表情を歪めるー


「ー彼女である”わたし”なら、あんたの両親に近付くことだって

 簡単でしょ?

 わたしが、あんたの両親を、切り刻んでー

 殺してあげるー♡」


亜香里の狂った笑みー


「ー治夫の大事なもの、ぜ~んぶ、ぜ~んぶ、壊してあげるー」


その言葉にー

治夫は怒り狂って、亜香里に突進したー


亜香里を押し倒す治夫ー


「ーークククー

 そうだ…!俺をーー

 いいや、わたしを憎めよ!殴れよ!」


亜香里の叫び声ー


「うああああああああああああああ!!!!」

治夫は怒り狂ってーーー


亜香里の、すぐ横の床に拳を叩きつけたー


「ーー黒崎陣矢ー」

はぁ、はぁ、と言いながら治夫は亜香里を睨むー


「ーお前が何を言おうとー

 俺は亜香里を憎んだりしないー!

 俺が憎むのはー

 お前だけだ!」


治夫は歯ぎしりをしながら叫ぶー


どうあってもー

治夫と亜香里の絆を断ち切ることはできないー


「ーーーチッ」

亜香里は舌打ちすると、治夫を足で蹴り飛ばしー

逆に治夫を押し倒して、そのまま倒れた治夫の上に乗ったー。


「ーーじゃあ、仕方ねぇなー

 そろそろ終わりだー長瀬治夫ー」


冷徹な”殺人鬼”の目で、亜香里は治夫を見つめるー


亜香里の綺麗な手がー

治夫の首に添えられるー


「ーーぐっ…」

治夫が苦しそうに亜香里のほうを見つめるー


「ーーーお前の人生の”エンディング”だー」

亜香里は、治夫の首を絞めながら笑うー。


「ーーあ、、かり…目を…覚ましてくれ…」

治夫には、もはや打つ手はなかったー


「ーーーあか…り…」

治夫の目から涙がこぼれるー。


亜香里を行動不能にしてー捕らえるー…

それも、もう、できないー。


どうしても、治夫には、亜香里を苦しめるようなことはー


「ーーー大好きな彼女に絞殺されるんだー

 幸せだろ?クククー

 安心しろよー

 お前の彼女は”黒崎”亜香里として

 極悪女にしてやるからよー


 あの世から”芸術の続き”をしっかり拝みなー」


亜香里は今までで一番、表情を歪めながら叫んだー


「ー長瀬治夫!ゲームオーバーァァァァァ!」


治夫の意識が遠のくー


”あか…りーーー”


全ては無に帰すー。


治夫が、覚悟を決めたそのときー


「ーーお兄ちゃん!」

玄関の扉が開く音ー

そしてー

妹の聡美の声が聞こえたー


亜香里の手が緩むー。


”死”の1歩手前までー

たどり着いていた治夫は、玄関のほうを苦しみながら見つめるー


「ーーあ、、亜香里さん!や、、やめて!」

聡美が叫ぶー。


「ーーー!!」

亜香里が表情を歪めるー


聡美は、亜香里が、以前

自分が”臼井隼人”という男に乗っ取られたときのようにー

誰かに乗っ取られていることをすぐに悟るー


「ーーお兄ちゃん…!」

泣きながら、聡美は苦しそうに倒れている治夫のほうを見て叫ぶー。


「ーーーーーさ、、聡美…なんでー」

治夫が咳き込みながら言うー。


聡美は、病院で入院中だったはずー


だがーーー

聡美が返事をする前にー

亜香里が、不気味な笑みを浮かべたー


「ーーーやっとーーーーー

 やっとーーー」


狂ったように笑いながらー

そう呟く亜香里ー。


その言葉の意味を理解する前にー

亜香里はーー

亜香里を乗っ取っている黒崎陣矢は”次の言葉”を発したー



㊲へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


次回、最終回☆!

モルティングの終着点をぜひ、見届けて下さい☆!!


今日もありがとうございました~!

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