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大学に通う女子大生・望月 柚香(もちづき ゆずか)は、

絶望していたー。


「ーーど…どういうこと…?」

大人しい性格の柚香は、大学に入ってから、初めて彼氏ができたー。


彼氏の名前は、同じ大学に通う、一つ年上の先輩、

柿原 啓二(かきはら けいじ)ー。

大学内で忘れ物をして困っていたところ、親切にしてくれたことを

きっかけに、交流が生まれー、付き合い始めたのだー。


しかしー

啓二は、一部男子から”浮気王子”と呼ばれるほど、

女癖の悪い男だったー。


柚香は、啓二にとって、本命の彼女ではなく”遊び”ー。


偶然、浮気現場を目撃してしまった柚香は震えていたー。

異性との恋愛経験など、啓二と付き合うまで全くなかった柚香に

とって、”浮気現場の目撃”という”修羅場”を前に、

どう反応していいのかもわからなくなってしまったー


「ーなんだよ柚香~…へへ、そんな顔すんなって」

啓二が笑うー。


柚香が驚いていたのはー

”啓二の浮気”に対してだけではなかったー。


啓二と、部屋で抱き合っていたのはー

大人しい柚香の数少ない親友で、幼馴染でもある、

茂森 麻理恵(しげもり まりえ)だったのだー。


麻理恵とは、彼氏の啓二いついて、色々相談にも乗って貰っていたし、

麻理恵も”応援”してくれていたはずだったー。


しかしー

影ではこうして、親友・麻理恵と、彼氏・啓二が、付き合っていてー、

柚香のことをあざ笑っていたのだー。


啓二が柚香の肩を叩くー。


「ーお前みたいな”身体”しか魅力がないような女と

 本気で付き合うわけねぇだろ?」


啓二は、浮気がバレても、一切反省する姿勢を見せなかったー


柚香は唖然としながら啓二と、浮気相手の麻理恵を見つめたー。


麻理恵は啓二の”本命”の彼女なのだと言うー。


「ーーま…麻理恵…ちゃんー」

柚香が震えながらようやく言葉を振り絞るー。


だがー

麻理恵は、柚香に対して言い放ったー


「ーーこれからもわたしの人生の”踏み台”として

 よろしくね?」

微笑む麻理恵ー。


麻理恵はー

”自分よりも劣る”柚香と一緒にいることで、

いつも”優越感”を感じていたー。

親しくしているー、と柚香が思っていたのは

友情などではなくー

”麻理恵の踏み台として”だったのだー。


絶望した柚香は、何も言えずに、

その場から立ち去ったー。


何もー

何も、言えなかったー。


「ーーーーーーーーーーーーーー」

公園で、一人ブランコに乗って放心状態になっているとー


「ーー柚香ちゃんー」

と、聞き覚えのある声がしたー。


柚香が目に涙を浮かべながら顔を上げると、

そこにはー

小さいころからよく一緒に遊んでくれていたー

近所の男の子ー


いやー

今はもう、男の子、という年齢ではなく、

柚香より少し年上の吉影は既に社会人ー


柚香にとっては"男女”の枠を超えたー

大切な存在である、

島崎 吉影(しまざき よしかげ)の姿があったー


「ーー大丈夫かい?」

吉影が、心配そうに呟くー。


「ーーー島崎くんー」

吉影の方が年上なのだが、柚香は吉影のことを

小さいころから”島崎くん”と呼んでいるー。


吉影も柚香もまだ、実家暮らしであるためにー

小さいころと同じように、こうして近所で顔を合わせることはよくあるー。


スーツ姿の吉影を見て、

「やっぱ…スーツ…似合わないー」と、

ボソッと毒を吐くと、

吉影は「ははは」と笑いながら、柚香の隣のブランコに腰かけたー。


吉影が「話、聞くよ?」と柚香に対して優しく呟くー。


柚香は「ありがとうー」と、呟きながら、

彼氏に浮気されていたことー

親友に裏切られたことを伝えたー。


「そっかー」

吉影は、それだけ言うと、柚香の頭を優しく撫でたー。


「ーーーこの世はー、色々、辛いもんなー」

吉影はため息をつきながら、空を見上げるー。


社会人になった吉影にも、色々苦労があるのだろうー。


「ーーまずは、ほら、リラックスしないとー」

優しく微笑む吉影ー


吉影から差し出されたペットボトルのお茶を受け取りー

「ーー島崎くんには、昔からお世話になりっぱなしー」と、

柚香は、申し訳なさそうに言葉を口にしたー。


「ーーいやいや、そんなことないよー。

 僕だって、柚香ちゃんがいたからこそ、

 こうして今も、頑張れてるんだからさー」


ペットボトルのお茶を飲み、ようやく心を少し落ち着けた柚香は、

吉影と昔話をするー。


「ーーおっと、もうこんな時間かー」

辺りはすっかりと暗くなっているー。

吉影が腕時計を確認すると、「送っていこうか?」と

柚香のほうを見て笑うー。


柚香は「ううんー大丈夫。お話聞いてくれて、ありがとうー」と

丁寧に頭を下げると、

吉影は笑いながら「いやいや、いいさー」と、微笑むー。


吉影は、小さいときから、ずっとずっと、柚香を

支えてくれているー

柚香からしてみれば”お兄ちゃん”のような存在でもあり、

何でも話すことのできる”家族”のような存在だー。


彼氏ができて、啓二と付き合いだすことを報告したときも、

心から応援してくれてー

暖かい言葉を投げかけてくれたー。


どんな時でも、柚香にとって、吉影は心強い味方なのだー。


「ーじゃ、またー。

 何かあれば、いつでも力になるからー」


スマホを持ちながら吉影はそう言うと、

そのまま立ち去って行ったー。


「ーーありがとうー」


彼氏に裏切られー

親友にも裏切られー

”絶望”していた柚香はー

吉影のおかげで、何とか立ち直れたのだったー


”ーー啓二も、麻理恵も、もう知らないー”

そんな風に思いながらー

柚香は、家の近くまでやってきたー。


だがー

”この世界”は、冷たかったーー

あまりにもーー


「ーーーーー」

玄関から、レインコートを被った知らない女が出てくるー


「ーーーえ?」

母か、父の知り合いだろうかー。


「ーーー!?」

柚香の家から出てきたその女は、柚香を見るなり、

ニヤリと口元を歪めたー。


すれ違いざまに口元を歪めて笑ったレインコートの女は、

そのまま柚香と言葉を交わすことなく、立ち去っていくー


「ーーーえ…?」

振り返って声を掛けようとする柚香ー。


しかしー

”開いたままの玄関の扉”を見て、柚香は猛烈に嫌な予感を感じたー


”何なの、今のー!?”

そう思いながらー

柚香が家の中に駆け付けるとー…


そこにはー

首を吊った父親とー

包丁を自分に刺して息絶えている母親の姿があったー。


「ーーーーー!!!!!!!!」

柚香は、悲鳴すら上げることができないままー

そのまま、その場に膝を折ったー。


「ーーーえ…なん…で…?」

絶望する柚香ー。


昨日まで、ごく普通の平穏な日々を送っていたはずなのにー


どうしてーー?


柚香はーー

この日、たった1日で、

彼氏に裏切られ、親友に裏切られー

両親を失ったー


しかもーーー


「ーー無理心中、ですね」

警察官は、そう断定したー。


話を聞いてもらえなかったー。

両親が、自殺なんてするはずはないー


それにー

謎のレインコートの女ー


”自殺じゃありませんー”

どんなに叫んでもー警察は聞き入れてくれずー、

柚香は”精神的に錯乱している”と決めつけられてしまったー。


両親の死は自殺じゃないー

そう主張を続ける柚香は、親族からも孤立しー

やがて、バイト先でもミスが目立つようになり、クビにされー

最後には、大学に行くお金も無くなりー、

”退学”となったー。


誰もー


誰もー


助けてくれないー


柚香は、絶望の表情でーーー

ほぼ空っぽになった自宅で、一人、体育座りをしていたー。


その顔には、もはや生気など、ないー。


”こんな偶然、あるのー?”

そう、思ってしまうぐらいに、連続して不幸に見舞われた柚香ー。


まるで、自分が世界から嫌われているかのようにー

世界は、冷たかったー。


こんな立場になってみて、初めてわかったー


”この世界は、冷たい”

とー。


柚香は体育座りをしながら呟くー

「こんな世界、壊れちゃえー」

「こんな世界、壊れちゃえー」

「ーこんな世界、壊れちゃえーー…」

何度も何度も、クスクスと笑いながら呟くー。


柚香はーー

度重なるショックで、壊れてしまっていたー。


「ーー壊したい?」


「ーー!?」

ふと、声がした柚香が顔を上げると、

そこにはレインコートの女がいたー。


「ーーあ、、あなたはーー」

家族が”自殺”に見せかけられて殺されたあの日ー

家から出てきたレインコートの女ー。


「ーこの世界が、憎いー?」

レインコートの女の言葉に、柚香は怒りの言葉を呟くー。


「憎いー…憎いー…憎い…!」

とー。


「ーーーだったら、”力”をあげるー」

レインコートの女が微笑むー。


「ーーえ」

柚香が泣きながらレインコートの女のほうを見ると、

レインコートの女は、静かに囁いたー。


「ーー世界を壊す”力”をー」


そう呟くと、レインコートの女は、何かを

座り込んでいる柚香の方に投げ込んだー。


それはー

禍々しい色のペンダントだったー。


「それを身に着ければー

 あなたは、人を自由に洗脳して、操ることができるようになるわー」


レインコートの女が微笑むー。


「ーその力を使えばー

 あなたは”世界”を壊すことができるー」


その言葉に、柚香は、思わず笑ってしまうー。


狂っているー

この世界は、何もかもー。


ペンダントを手にしてー

それを身に着けると、

柚香は涙を流しながら笑うー。


「そんなこと、できるわけないでしょ?」

とー。


「ーわたしのお父さんとお母さんを殺しておきながらー

 わたしをどこまで揶揄えば気が住むのー!?」


怒りの形相で、柚香は叫ぶー。


「ー信じるも、信じないも、あなた次第ー」

レインコートの女は微笑むー。


”相手”を見つめながら、命令すればー

全ての人間は、あなたの思いのままー。


強くー

強く、念じるのー


囁くようにして言うレインコートの女ー。


柚香は怒りの形相でレインコートの女を睨みつけるー。


「ーーだったら、死んでー」

柚香はそう呟いたー


「ーーー人を操ることができるって言うならー

 まずは、あんたよ!

 今、この場ですぐに死んで!」


叫ぶ柚香ー


レインコートの女が、少しだけ驚いた表情を浮かべるとー

台所の方に、操り人形のように向かっていき、包丁を手にするー


「ーーどうせ演出でしょ!?わたしを馬鹿にしないで!

 本当に操られているっていうんなら、今すぐ死になさいよ!

 死んで!死んで!死ね!!!」


怒りのあまり、柚香は口調を荒げるとーー


次の瞬間ー

レインコートの女は、自分を刺したー。


「ーーーぁ」

苦しそうに倒れ込むレインコートの女ー


「ーー!?!?!?え…」

柚香は唖然とするー

そしてすぐに「ちょ、ちょっと!?本当に刺すなんてー!?」と、

レインコートの女に駆け寄るとー、

レインコートの女は、既に呼吸を止めていたー。


「ーー!?!?!?!?!?」

思わず、「ひっ!?」と声を漏らしてしまう柚香ー。


”人を洗脳する謎の力”

それを柚香に授けた女の死はー

柚香に衝撃を与えたー。


それと同時にー

「ーーもしかして…本当にー?」


レインコートの女の死はー

柚香に”洗脳”の力を信じさせるには、十分すぎる出来事だったー。


”相手を見つめながら命じればー”

相手は、思いのままー。


家から飛び出した柚香はー

偶然目に入った、女子高生二人組のうちの一人を見つめながらー


”その場で奇妙なダンスを踊りなさいー”

と、囁いてみるー。


するとー

ツインテールの子が、突然、変なダンスを踊り始めるー


「えー!?朝子?何してんの!?え!?ちょっと!?」

もう一人の女子高生が叫ぶー。


朝子と呼ばれた少女が、”明らかに異常”なダンスを

髪や制服を振り乱しながら踊っているー


”すごいー”

柚香は思わず笑みを浮かべたー


そして、もう一人にも命じるー


”その場で大声で奇声を発しなさいー”


柚香が小声でそう遠くから命じるとー

突然、その子は

「ーあああああああああああああああああああ!!!!!」

と、喉が壊れてしまいそうな大声で叫び始めたー


「ーーこれ、本物ーーーー」

柚香の表情が歪むー


洗脳の力は、本物ー


そう確信した柚香はー

静かに呟いたー


「壊さなくちゃ…この世界ー」


とー。



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


ダークな洗脳モノの第1話でした~!

突然、人を洗脳する力を手に入れた彼女の暴走は…

次回のお楽しみ(?)デス~!


ちゃんと、色々な出来事に理由があるので、

そのあたりも楽しみにしていてくださいネ~!


お読みくださりありがとうございました~!

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