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「ーーーーーー」

綺麗な爪をかじりながら、

アパートの明かりのついた一室を見つめる女ー


何度も何度も指を口元にあてては、

その部屋を見つめるー


女が見つめているのはー

治夫の彼女である亜香里が治夫の帰りを待つ部屋ー


「ーーークククククー」

人を着る凶悪犯”モルティング”の一人である黒崎陣矢に着られ、

支配されている西園寺 梓は不気味な笑い声をあげるー。


「ーー大好きな彼氏を殺しちまう可愛い彼女ーー

 最高にゾクゾクする芸術だぜー」


梓が口元を歪めるー。


学生時代にー

妹を目の前で犯罪者に殺された黒崎陣矢はー

狂気の殺人鬼と化したー。


もしも、黒崎陣矢の妹が生きていたのであればー

黒崎を止めることができたかもしれないー。


だがー

妹はもういないー。

黒崎陣矢は、止まらないー。


「ーーーーーチッ」


治夫の部屋の周りには

目黒警視正が派遣した捜査官・大門ら数名が

警護を続けているー。


大門らは”手練れ”だー。

黒崎陣矢と言えども、突破するのは難しいー。


「ーーチッ…

 今日も”黒崎 亜香里”の誕生はお預けか?」


そう舌打ちしながら、黒崎陣矢に乗っ取られている梓は

静かに舌打ちを繰り返したー。


・・・・・・・・・・・・・


登場人物


長瀬 治夫(ながせ はるお)

若き警察官。”皮”にまつわる事件に巻き込まれていく


松永 亜香里(まつなが あかり)

治夫の彼女。現在同居中。


目黒 圭吾(めぐろ けいご)

警視正。計算高い性格の持ち主で、出世欲も強い。


黒崎 陣矢(くろさき じんや)

指名手配中の凶悪犯罪者。”モルティング”のひとり。


ジェームズ・結城(ゆうき)

モルティングの一人。裏社会で暗躍するヒットマン。


泉谷 聖一(いずみや せいいち)

治夫の中学時代の恩師。モルティングたちに”皮にする力”を与えた黒幕。


大門 久志(だいもん ひさし)

目黒警視正が亜香里を警護するため派遣した捜査官。


・・・・・・・・・・・・・・


★あらすじ★


長瀬治夫は、恩師でありモルティングの黒幕である

泉谷聖一と対峙したー。

戦いに、決着をつけるためー。


一方、モルティングたちの生き残り

”黒崎陣矢”は、治夫の彼女・亜香里を”皮”にして

支配しようと暗躍を続けるー。


だがー、亜香里の周辺には治夫から依頼を受けて

目黒警視正が派遣した捜査官・大門らが控えており、

黒崎陣矢でも手出しをすることは不可能だったー。


別の場所では、ジェームズ・結城が国外逃亡を試みるー。


それぞれの想いが交錯する中、

夜は、さらに深まっていくー…。


★前回はこちら↓★

<皮>モルティング~人を着る凶悪犯~㉛”運命の日”

”運命の日”の朝がやってきたー。 ”人を着る凶悪犯”=モルティングとの戦いの始まりは いつからだっただろうかー。 思えば、長い戦いになった気がするー。 ついこの間までー 交番勤務の若き警察官に過ぎなかった長瀬治夫は、 ”深淵”に足を踏み入れたー もう、後戻りすることはできないー 陰謀が交錯する中ー 長瀬治夫は、...

・・・・・・・・・・・・・・


埠頭前の倉庫ー


夜が深まりー

穏やかな水の流れる音が聞こえる中ー

モルティングの親玉・泉谷聖一は、治夫のほうを見つめたー。


「”天誅”は終わったー」

警察組織の闇を暴く”天誅”は終わったー


泉谷は、煙草を吸いながら、険しい表情を浮かべる治夫の

周りを歩くー。


「ーーー俺は”家族”のように大切にしていた教え子を

 警察庁長官の息子に殺されー、

 その罪を隠蔽しようとした警察を追求しようとしていたところー

 ”剛”を名乗る警察の刺客によって命を狙われーーー

 奇跡的に生き延びたー。


 …これは、前に話したな?」


泉谷の言葉に、治夫は「ーーはい」と答えるー。


「俺は、殺された教え子ー雄作の仇を取るため、

 そして、警察の隠蔽体質によって、悲しい思いをする人間を

 これ以上生み出さないために、警察組織の”闇”を

 明るみに出そうとしたー」


泉谷は立ち止まるー。

治夫は「それも、以前ー聞きましたー」とー。


「ーー長瀬ー。

 ”人を皮にする力”を俺がどうやって手に入れたと思うー?


 この力は、俺が作ったものではないー

 警察が密かに開発していたものだー」


”人を皮にする注射器”を持ちながら呟く泉谷ー。


「ーー…」

確かに、”人を皮にする力”は警察が作り出したのは事実だったー。

”警察の闇”の中心人物である西園寺長官が実際に

”潜入捜査のため”に開発・実用化を目指していると治夫に語っていたー。


「ーーどうして…?」

治夫は表情を歪めるー


泉谷は、中学教師だー。

中学教師が、警察内部の”機密中の機密”であるはずのものを

手に入れられるはずがないー。


治夫は、そう思いながら問いかけるー。


「ー俺は当初、”別の方法”で、西園寺らの悪事をー

 警察の闇を暴こうとしていたー。

 

 まぁーー

 成功確率の低そうな陳腐な方法だー。


 だが、そのための準備をしている俺の前に

 ある人物が姿を現してー

 ”これ”を俺に提供してくれたんだー」


泉谷の言葉に、

埠頭のオレンジ色の明かりに照らされながらー

治夫が目を細めるー。


「ーーーーーその男は”剛”を名乗っていたー」

泉谷は言うー。


”剛”とは、

特定の人物を示す名前ではなくー

警察内部の闇に携わる人間が

”公にできない都合の悪いこと”をする際に名乗る”偽名”

その名前を騙る人物が泉谷に”人を皮にする注射器”を

渡したのであればー

おそらくは西園寺長官の関係者かー

警察内部の闇を知る人間の仕業だー。


「警察の関係者がーー…

 先生に、”人を皮にする力”を渡したって言うんですか?」


治夫は険しい表情を浮かべるー。


「ーーー長瀬ー」

泉谷は、煙草の煙を吐き出しながら呟くー


「ーー”闇”は想像以上に深いー。

 だからこそ、俺は”闇”に”天誅”を与えたー」


泉谷は言うー。


警察内部の”闇”に携わる人間を全員排除しー

教え子・雄作の仇でもあった西園寺長官の息子ー

そして、警察組織の闇の中心点でもあった西園寺警察庁長官を

排除した今ー

泉谷の目的は達成されたのだとー。


しかしー

目黒警視正は”車が爆破された”際に死を偽装しているだけで、

まだ、生きているー

泉谷がそれを知っているのか、それとも知らないのかは

治夫には分からなかったがー、

それを伝えるべきか一瞬迷ったー。


だがー

治夫は”目黒警視正はまだ生きています”という言葉を飲み込むー


それを伝えればー

目黒警視正が危険に晒されるかもしれないー。

そしてー

”モルティングたち”によって、さらに犠牲者が生まれる可能性もあるー


治夫はもう、これ以上ー

誰の命も奪わせたくなかったー。


代わりに、他の言葉を口にするー。


「ーーー中曽根佳純から聞きましたー」

治夫は険しい表情のまま、泉谷のほうを見つめるー。


「あの人の”天誅”を支えてー

 すべてが終わったら、わたしも、泉谷さんもー

 ”死”を受け入れるー」


泉谷は、天誅が終わったら、中曽根佳純の持っていた

”安楽死の薬”で死ぬつもりだったのだと、治夫はそう聞いたー。


「ーーー目的を達成したということはー

 先生はーー…死ぬつもりなのですか?」

治夫が言うと、泉谷は、埠頭の外ー

海のほうを見つめたー。


「ーーー先生…!答えて下さいー!」

治夫が泉谷のほうを見て叫ぶー。


泉谷聖一は、モルティングの親玉ー

これまでの数多くの犠牲者を生み出した”元凶”ー


「ーーーあぁ、そうだー。

 だから最後に、こうしてお前を呼んだー。

 ”家族”のように愛していた教え子の、お前をー」


泉谷は、煙草を吸い終えると、静かに治夫のほうを見るー。


”義手”を見つめながら

「俺は既に、一度死んでいるーー」と、静かに呟くー


実際に死んだ、という意味ではないー

西園寺長官の息子に教え子を轢き殺され、追及を続けていた

泉谷は、警察の闇が送り込んだ刺客によって殺されかけてー

その際に、片手を失っているー。

以前、泉谷と対峙にした際に、治夫もそのことを聞かされているー。


「ーーー長瀬ー。」

泉谷は、埠頭の端の方まで歩いていくと、

その近くにあった手すりのようなものに腰を掛けー

「ーー知りたいことがあれば、何でも答えようー」

と呟くー。


治夫は警戒しながらも、泉谷のほうを見つめるー。


夜の埠頭のオレンジ色のライトが二人を照らすー。


泉谷の意図が分からないー

本当にただ、話をしたいだけなのかー

それともー…


だがー

泉谷の表情は、以前、黒崎陣矢・臼井隼人の二人と共に

治夫と対峙したときとは違いー

穏やかだったー。


”教え子の仇”

”警察内部の闇の抹殺”

その目的を果たしー

”やり切った”という表情を浮かべていたー。


治夫はため息をつくとー、

静かに泉谷に向かって”疑問”を投げかけたー。


「ーー黒崎陣矢とジェームズ結城ー

 あの二人は今、どこにー?」


治夫が言うー。


臼井隼人ー、中曽根佳純ー、班目順太郎ー、春山正義ー、

何人もの”モルティング”を倒してきたー。

だが、まだ”黒崎陣矢”と”ジェームズ結城”が残っているー


「ー”解散”したー。

 当初の予定通りだー

 ”天誅”が終わった今、俺も、あいつらも、互いにもう、用はないー」


泉谷はそう答えるー。

2人がどこに向かったのかは、泉谷も知らないのだというー。


治夫は、その二人の行方に不安を抱きながらも、

「ーどうして犯罪者と手を組んだのですか?」と、問いかけるー。


「ーー犯罪者たちと組めば、無関係の人が犠牲になることは

 先生にだって想像できたはずですー」

治夫が言うー。


黒崎陣矢や、春山正義ー

モルティングの中でも快楽に生きる者たちによって

一般人の犠牲者も多く出たー。


「ーーそうだなー…それはすまなかったと思っているー。

 だがなー長瀬。

 俺はー”自分の信じた道”を進んだんだー。


 どんな手を使っても、西園寺のような薄汚い奴らを

 抹殺しなければー…

 俺の教え子ー雄作のような…、悲劇が生まれるー


 多少の犠牲はーやむを得ないー」


泉谷の言葉に、

治夫は悲しそうに「ーー先生…」と呟くー。


”多少の犠牲”などと、切り捨てられてしまう一般人の犠牲ー。

泉谷先生は変わってしまったー

そう思わずにはいられなかったー。


「ーー犯罪者を仲間にしたのはー

 ”人を皮にして着る”という行動に躊躇がないからだー。

 まともな人間には、耐えられないー。

 だからーーそうならないヤツらを選んだー。


 ああいう奴らは”Win-Win”で動くからなー。

 こちらが”メリット”を提供し続けている限りー

 俺も、奴らもお互いに”利用し合う関係”になれて

 裏切られる心配も少ないー


 それにー

 万が一俺が途中で、警察に消されてもー

 奴らのような犯罪者が”人を皮にする力”を持っていればー

 ”暴走”は止まらないー

 

 そうなればー

 西園寺はボロを出し、万が一俺が死んだ場合でも、

 失脚するか、誰かに消されるかするー…

 そう思って、犯罪者たちを仲間にしたんだー。」


”結果的に、俺が殺されることなく、

 ”天誅”は完了したがなー


泉谷はそこまで言うと、治夫のほうを鋭い目つきで見つめるー。


「ーーー1年間、時間を費やしていたのはどうしてですか?」


治夫が続けて問いかけるー。


”モルティング”が出現してから、およそ1年ー

治夫が目黒警視正率いるモルティング対策班と合流する以前からー

モルティングたちとの戦いは続いていたー。

その間、泉谷は”直接的な手段”を用いず、

黒崎や臼井らに、各地で”人を皮にする力”を使って

小規模な犯罪を起こさせていたー。

その気になれば、最初からジェームズ結城のような人間を使って

関係者を手早く”抹殺”することもできたはずだー。


泉谷は、少しだけ自虐的に笑うとー


「ーー先生の”血”がそうさせたんだろうなー」

と、呟くー。


義手をもう片方の手で握りしめながらー


「どんな落ちこぼれでも、先生が諦めてしまったら、そこで終わりだー。

 死んだ雄作ー…俺の教え子も、そうだったー。

 どんな悪でも、どんな不良でもー

 教師が諦めてしまったら、そこで終わりだー。


 どんな奴にも”猶予”を与える必要があるー

 俺はそう思って教師を続けてきたー


 だから、だろうなー」


泉谷は、海のほうを見つめて目を細めたー


”1年”待ったのは”猶予”ー

人を皮にする力が盗み出されて、それが悪用されて

事件が起きていると知れば

警察はー、西園寺長官はー

”自分たちの闇”を認め、変わっていくのではないかー

全てを公表して謝罪するのではないかー

そういう期待も、どこかであったー。


だが、結果的に、1年間、黒崎らが細かい事件を

起こし続けても、西園寺はー、警察は全てを隠蔽したー。


だから”天誅”を実行したー。


「ーーーお前の言う通りー

 最初から全員始末してればーー…

 良かったのかもなー」


泉谷がそこまで言うと、

治夫は寂しそうに泉谷先生のほうを見つめるー


会話をしながらー

時々見せる”昔の顔”ー

”先生”としての

尊敬する泉谷先生の表情ー


それを見るたびにー

治夫は今の現状をイヤでも思い出さされて

切ない気持ちになったー。


泉谷聖一は、根っからの悪人ではなかったはずだー

”優しすぎた”のだー

”正義感”が強すぎたのだー


優しさと怒りはー

表裏一体なのかもしれないー。


そんな風に思いながら、治夫は呟くー。


「ーーどうしてー

 俺やーーー教え子のためにーー

 そこまでするんですかー?」


治夫が言うー。


中学時代も、治夫はそう思っていたー


”どうして、先生はこんなに良くしてくれるのか”

とー。


泉谷はその言葉に、腰かけていた手すりから

立ち上がるとー

昔のようにー優しく微笑んだー


「ーー俺はーー

 妻と娘を事故で失ったー

 ちょうど娘は、中学生でなー…

 ”教え子”のお前たちと同じぐらいの歳だったー


 だからー

 俺はお前たち教え子を”家族”のように思って

 接してきたー


 ”教え子が殺されたー”

 俺にとって、それはー

 ”家族が殺された”のと同じなんだー。」


泉谷は、目から涙をこぼしたー。


治夫は「先生ー…」と呟くー。


「ーーー長瀬」

泉谷はそう言うと、”銃”を取り出して治夫の方に向けたー


「ーーーー!」

埠頭前の倉庫前に立つ二人ー

言葉は失われ、静寂に包まれるー。


泉谷に銃を向けられて沈黙する治夫に、泉谷は静かに呟いたー


「ーー”天誅”の仕上げだー」


とー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


19:45-


”そろそろか”

主婦・真紀を皮にして”着ている”ジェームズ結城は

海外に移動するための飛行機に乗り込む準備を始めていたー。


この身体であれば、目立つことなく海外に移動することができるー。


元々、海外を拠点に活動しているジェームズ・結城にとって、

泉谷からの依頼を終えた今、ここに留まる必要はないー。


”自分の姿”で国外に移動するとなればどうしても目立つし、

モルティング対策班の生き残りに突き止められる可能性もあるー


だから、こうしてー

見ず知らずの女を乗っ取ったのだー


家族持ちの主婦を乗っ取るのは、家族が”帰ってこないことを心配する”

リスクなどもあったがー

どのみち、すぐに海外に移動するしー、

パスポートを持っていることを確認する必要もありー、

これ以上、時間を掛けるわけにはいかなかったー。


”長瀬治夫ー”

あんな若造に何ができるとも思えないがー

万が一、ということもあるー。

泉谷から受けた暗殺の依頼を全てこなした今ー、

早めに立ち去るのが上策なのだー。


「ーーー」

普段の優しい”母親”の顔を失い、冷徹な目つきで

歩き出す真紀ー。

目的地に移動したら、海外で真紀の皮を”破棄”し、

ジェームズ結城は次の”仕事”に移るつもりだー。


それが、裏社会のヒットマンとして生きる

ジェームズ結城の生き方ー。


「ーーーーーー」

コツ、コツとヒールの音を立てながら、

サングラスの下から鋭い目つきで、搭乗口に向かって

通路を歩く真紀ー。


ちょうど、人目に付かない場所に入ったところでー

反対側から、航空会社の女性が歩いてくるー。


「ーーーーーーー」

真紀を着ているジェームズ結城は、何も気にせず、

そのまますれ違おうとしたー。


しかしー


「ーーーー!」

真紀は表情を歪めたー。

首に激痛を感じてー

振り返ろうとしたー


だがー

振り返ることができないまま、

ジェームズ結城は、真紀の皮を着たまま、

その場に倒れ込んだー。


目を見開いている真紀ー

既に、空港の床に倒れ込んだときにはー

ジェームズ結城は絶命していたー


「ーーーーー」

ジェームズ結城とすれ違った際に、

中曽根佳純が使っていた”安楽死の薬”と同種のものを使った

航空会社の女は笑みを浮かべたー


「ーー”人を皮に”できるのはー

 人を着ることができるのはー

 あなたたちだけではありませんよー」


カメラに映らない範囲内で、”航空会社の女”の皮を脱ぎー

皮にされた人間を元に戻す注射器を打ち込むとー

その男はすぐにその場から離れて、

空港側に止めてあった車に乗り込むー


その男ー

目黒警視正は、車を走らせると、

空港の光に照らされながら、静かに笑みを浮かべたー


「ーー”深淵”を覗いた者は、一人残らず闇に消えていただきますー」


目黒警視正の”目的”の成就まであと少しー

警察内部の闇を全て闇に葬り去りー

モルティングたちも闇に葬り去るー。


「ーこの世の秩序を保つためー

 警察内部の闇を明るみに出してはならないのですー

 絶対にー。」


ジェームズ結城が”警察内部の闇”などに興味があるとは思えなかったしー

海外を拠点にしている彼は放置しておいても良かったがー

”不安要素”は全て取り除いておかねばならないー。


人を皮にする力や、

警察内部の闇について知ってしまった

ジェームズ結城は、始末しておく必要があったー。


「ーーー」

車の時計を見つめる目黒警視正ー。


目黒警視正は、近くに車を止めると、

夜景が見えるその場所で、街を見つめたー


”何も知らずに、今日も街は輝いているー”


この世はー

”深淵”に蓋をして平和を謳歌しているー。

世間が”深淵”をー”闇”を知る必要など、ないー


全て、闇に葬り去るー

それが、目黒警視正の使命ー


「ーーー」

電話を手にする目黒警視正はー

亜香里の警護を行っている部下の捜査官・大門に電話をかけたー。


「ーー私です」

目黒警視正が静かに呟くー


長瀬治夫は、泉谷聖一と対峙しているー。

これまでの情報から、おそらく泉谷は、ここで”死ぬ”だろうー。


そうなればー

残る関係者は、長瀬治夫と、黒崎陣矢のみー。


「ーー松永亜香里さんの警護ー

 ご苦労様でしたー

 警護は終了ですー

 引き上げて下さい」


目黒警視正が大門にそう指示をするー


”ー!? しかし…”

捜査官の大門が戸惑った声で返事をするー


まだ、亜香里は黒崎陣矢に狙われているー

大門たちの”撤収”は、

黒崎陣矢に”どうぞ好きにして下さい”と

言っているようなものだー


「構いません。それとも、私の指示が聞けませんか?」

目黒警視正が微笑みながら言うと

大門は”いえ…すぐに撤収いたします”と返事をして、

通話を終了させたー。


通話を終えた目黒警視正は、光を見つめながら

静かに微笑んだー


「ーーー治夫くん…ここまでの活躍感謝しますー。

 あなたの青臭い正義感のおかげで、

 私はここまでこれたー。 

 西園寺長官ら警察の闇を一掃できたのは、あなたのおかげです」


亜香里の身に何かあれば、

治夫が戦意を喪失したりー

乗っ取られた亜香里に治夫が殺されてしまう危険性があったー


”だから”

目黒警視正は、亜香里の警護に部下を派遣していたー


だがー

もう、”その必要”はなくなったー。


目黒警視正は、そのまま車に乗り込み、対策本部の方に向かうー。


”深淵を覗いたものは、全て消さなくてはいけないー


 治夫くんー

 役目を終えた”あなた”も含めてー”


目黒警視正はそう囁くと、夜の闇の中で静かに笑みを浮かべたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・


「ー撤収だ」


治夫と亜香里の住むアパートの周辺に展開していた

捜査官・大門らが突然撤収したー


「ーーーーー!?」

亜香里を”皮”にしようと、様子を伺っていた

黒崎陣矢に着られた西園寺梓が笑みを表情を歪めるー


”なんだ?

 捜査官共が撤収していく…?”


意味不明な行動に首をかしげる梓ー。


だがー

治夫の彼女である松永亜香里を”支配”するにはー

最高のチャンスと言えたー。


「ーーーククククククク」

目を見開いて、狂気的な笑みを浮かべる梓は、

すぐに立ち上がりー

アパートの階段を登るー


そしてーーー

長瀬治夫と、松永亜香里の住むアパートのインターホンを鳴らしたー


「ーーこんばんは お届けモノですー」

事前に盗んでおいた運送会社の制服を身に着けた梓が静かに笑みを浮かべるー


”あ、はい、ちょっとお待ちください~”

亜香里が応答しー

玄関の扉を開けるー


梓は狂気の笑みを浮かべたー


”さァーーー

 長瀬治夫ー

 お前の彼女は今から

 ”黒崎”亜香里になるんだぜー


 最高の芸術品ー

 黒崎亜香里の誕生だーーーー”


黒崎陣矢の”芸術”は、今、成就の時を迎えようとしていたー


㉝へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


近付きつつある最終回…★

最後までたっぷり楽しんでくださいネ~!

今日もありがとうございました~!


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