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「栗山さん、また時間過ぎてるけど」

そう言いながら、ため息をついたのはー、

歯医者の先生だったー。


「ーーすんません…」

予約時間に5分遅れてしまった患者の男ー

栗山 孝也(くりやま たかや)は、頭を掻きながら

そう呟くー。


40代独身の孝也は、小太りな体格で、

最近は、髪の毛が薄くなりつつあることに

少し悩んでいたー。


その一方で、仕事は、安月給ながらも、

自分ひとりで暮らしていくには十分すぎるぐらいの金額で、

両親が既に他界してしまっている孝也は、悠々自適と、生活を続けていたー。


歯医者の先生がもう一度ため息をつくー。


「ーあまり遅刻されちゃうとねぇ。

 うちもほら、時間で動いているからー」


嫌味っぽく言われる孝也ー。

もちろん、遅刻は遅刻だー。

そう言われてしまっても仕方がないと思いながら

孝也は頭を下げるー。


この歯医者の先生は、正直”愛想が悪い”。

何かあるとすぐに小言をネチネチ言い出すし、

孝也を見るといつも面倒臭そうに治療を始めるー。


検診の際に、虫歯が見つかった時には

「君は小学生かな?この前、磨き方の指導をしたよね?」

などと、言われたこともあるー。


だがー

それでも孝也がこの歯医者に通うのは、

単純に”自宅から近いから”という理由と、

先生がこういう性格だからか、それとも手際が良いのか

”空いていて、無駄な待ち時間がない”

ということだったー。


いつも、孝也は診療時間が終わる最終枠の時間帯で予約を

取っているため、自分以外の患者とはほとんど会うこともないー。


「ーーはい、終わったよ」

面倒臭そうにそう呟く歯医者の先生ー


「ーーどうも」

孝也はそう呟くと、会計を済ませて、

次回の予約を取ろうとするー。


「あ~次回さ、いつも君が来てる時間、

 別の人の予約が入っちゃっててさ」


そういわれた孝也は、仕方がなく

来れる時間帯を計算して、いつもとは違う時間に

予約を入れたー。


歯科の外に出た孝也は、歯科の先生・浜崎(はまざき)のことを

思い浮かべながら、

「は~ぁ…いつもうるさいじいさんだな」と、

陰口を叩きながら、そのまま自分の家に向かって歩き始めたー。


”メンタルだけは鉄壁”


メンタルの弱い人間を豆腐メンタルと表現することもあるがー

孝也の場合はその真逆だったー

鋼メンタルと言ってもいいー。


だからこそ、浜崎先生から何を言われても、

気にせず浜崎先生の歯科に通い続けていたのだったー。


だがー


”いつもと違う時間”に、予約を取った孝也は、

”ある光景”を目撃したー。


虫歯の治療のために麻酔を注射して、

麻酔の効果が効き始めるまでに、

浜崎先生は別の患者の対応にあたるー


先生と助手だけで回している歯科では、

待ち時間に別の患者の対応にあたることは

よく見かける光景の一つだー。


「ーー宮原(みやはら)さん、まだ来ませんねー」

助手が呟くー。


”あ~あ、誰だか知らないけど、浜崎先生、またグチグチ言うぞ”

孝也はそんな風に思いながら、

顔も知らない”宮原さん”に同情したー。


いつも、自分も遅刻するたびに、浜崎先生に

ネチネチ言われ続けるー。

これから来るであろう宮原さんとやらも、

おそらくネチネチ言われることになるだろうー。


その時だったー

歯科医院の入口の扉が開く音がして、

助手の女性が、そのまま受付の方に向かうー。


「すみません…遅れてしまって…」


受付の方から声だけ聞こえるー。

孝也は、聞こえてくる声から、

”宮原さん”は、若めの女性だと判断するー。


”あ~あ…浜崎先生にネチネチ言われちゃうんだろうなぁ

 かわいそうに”

麻酔が効くのを待っている孝也はそんな風に思うと、

入ってきた”宮原さん”の姿を確認したー


女子高生のようで、高校の制服のまま、

診療室に入ってきたー。

おそらく、学校の授業が延びたか何かで、

遅れてしまったのだろうー。


制服のまま、少し息を荒くしていることから、

学校が終わって慌てて駆け付けたことがわかるー。


「ーーすみませんでした…」

”宮原さん”がそう頭を下げるとー


「ーーははは、仕方ないよ。」

と、浜崎先生は笑ったー。


”あれ?怒らないのかよ…”

孝也は、浜崎先生と宮原さんの会話を聞きながら、

心の中で不満を覚えるー。


自分も、仕事が延びて遅刻することもあるが、

それでも”なら、そういう日に予約取らないでもらえるかな”と

怒られたことが何度もあるー。


”……まぁ、俺は何度も遅刻してるから…か”

孝也はそんな風に自分で自分を納得させようとしたー。


だがー

”宮原さん”が浜崎先生に向かって言葉を口にするー。


「ーごめんなさい…毎週のように少し遅れてしまってー」

申し訳なさそうに言う宮原さんに対し、

浜崎先生は、孝也が見たこともないような笑顔で、

「ーいいんだいいんだ。いつも学校、お疲れさま」と

優しく微笑んだー。


”おい!じいさん!俺の時と態度が全然違うじゃん!”

心の中で突っ込みを入れる孝也ー。


浜崎先生や、女子高生の患者・”宮原さん”と

雑談をしながら治療を続けているー。


「あ~ここ、また虫歯になっちゃったね」

浜崎先生が呟くー


”お!ついに怒られるぞ!”

隣の診療台で会話を聞いている孝也は、

内心、少しニヤニヤしたー。


一度治療した歯が虫歯になってしまった時には、

浜崎先生から”君は小学生か?”などと、嫌味を言われたこともあるー。

この”宮原さん”とやらも、きっとー。


「ーー人間、どんなに気を付けていても、

 虫歯になっちゃうこともあるから。

 

 患者さんの虫歯を治すことが、先生の仕事だからね」


浜崎先生が優しく言うー。


”このじいさん…殴ったろうか”

孝也は、そんな風に思ったー。

実際にそんなことはしないが、心の中でそう思うのは自由だー。


”俺のときと態度がまるで違う”

そんな不満を抱きながらー

しかも、麻酔が効いてきたのに、完全に放置されること数十分ー。


ようやく”宮原さん”の治療が終わり、

宮原さんのお会計が終わると、

浜崎先生は面倒臭そうに、孝也の方に戻ってきたー。


散々放置されたのに、何も言わず治療を始める浜崎先生ー


「ーー先生…」

孝也は思わず呟くー。


「ん?」

浜崎先生が、面倒臭そうに孝也の方を見つめるー。


”ー態度が全然違うじゃん”

思わずそう突っ込みそうになったが、

そんなことを言えば、また浜崎先生の小言が始まるだけだと思い、

「いや、なんでもないです」と、そのまま目を逸らしたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・


帰宅した孝也は、浜崎先生の態度に不満を抱いていたー


愛想が悪いのも、

態度が良くないのも、

別に今までは何とも思わなかったが、

女子高生の患者を前にした時の態度を見て、

孝也はムカついてしまったー。


人によってある程度態度が違うのは、人間誰にでもあることー。

そんなことは分かっているー。


だが、違いすぎるー。

女子高生の遅刻は許されて、自分のようなおっさんの遅刻は許されないー。


女子高生相手の時は、

”人間、頑張っていても虫歯になってしまうことはあるから”と

言っているのに、

自分のようなおっさん相手の時は

”一度治療したところをまた虫歯にするなんて、小学生か?”と

いう嫌味が返ってくるー。


人によって、考え方まで変わるのは、許せないー。

孝也はそう思ったー。


今までにも、容姿に恵まれないことで

”異なる扱い”を受けてきた過去を持つ孝也は、

浜崎先生に対して、激しい怒りを感じると共にー


”ちょっと、仕返ししてやるかー”

と、静かに笑みを浮かべたー。


もちろん、浜崎先生を殴ったりとか、

そういうことをするつもりはないー。


ちょっとした、仕返しをしたいのだー。


そんな風に思いながら、

翌日、仕事から帰宅しようとしていた孝也は、

帰り道に”お悩み相談所”と書かれているテントを見つけたー


”無料”と書かれているー。


「ーーーはは」

孝也は思わず笑うと「どうせ暇だし、相談してみるか」と、

そのテントの中に入っていったー。


ぼったくり系の奴かもしれないがー、

まぁ、金はあるし、どうにでもなるー。


そんな風に思いながら、中にいた怪しげな老人に

歯医者での出来事を愚痴るー。

老人は、頷くだけで、死んでいるのか生きているのかも

分からないレベルの反応をしながら、孝也の話を黙って聞いていたー。


孝也は「どうにか、あの先生にちょっとした仕返しする方法は

ないですかね?」と、最後に質問したー。


まぁ、無料の相談所だー。

答えは別に期待していないー。


だがー


「ーーある」

老人はそう答えたー。


浜崎先生に”ちょっとした仕返しをする方法”が、ある、とー。


「ーーえ?」

その言葉に、孝也は少しだけ驚きながら、老人の方を見るとー


老人は

”憑依薬”なるものを、孝也に手渡したー。


”この薬を使って、その女子高生に憑依して、

 その先生を揶揄ってあげなさいー”


怪しげな相談所の老人の”答え”はそれだったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


帰宅した孝也は、それから数日間ー

毎日のように、そのことを考えたー。


患者の女子高生”宮原さん”は来週も同じ時間に

予約を入れていたー。

最後に受付で次回の予約を取っているのが

聞こえたからだー。


「ーーーー…」


だがー

怪しげな老人から貰った”自称・憑依薬”なんて

怪しすぎるー。

下手をすれば毒が入っているかもしれないー。


そんな風に思う孝也ー。


一方で、孝也は特に守るべきものもなく、

生きることにもあまり執着はしていないタイプで、

”もし、毒だったら、その時はその時だ”という考えもあったー。


そしてー

孝也は”宮原さん”に憑依して、浜崎先生を揶揄うことに決めたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・・


”宮原さん”が予約を入れた当日がやってきたー。


孝也は近くにスマホを用意して、憑依薬を飲み干すー。

スマホを近くに憑依したのは、万が一これが毒だった場合、

自分が意識を失う前に救急車を呼ぶためだったー。


生きることに強い執着はないが

”助かるなら”死ぬつもりもなかったー。


「ーーー!」

しかしー

孝也の心配は”杞憂”だったー。


憑依薬は本物だったのだー


「すげぇ…!あの今にも死にそうな相談所のじいさん、何者だ!?」

そんなことを呟きながらー

さっそく歯医者の前まで、自分の幽体を移動させるー。


この前の女子高生が歯医者の前にやってくるのを待つ孝也ー。


そしてー

”宮原さん”はやってきたー。


”君には恨みはないけど…ちょっとだけ、身体を借りるよ”

孝也はそう言うと、ひと思いに、宮原さんの身体に、

自分の霊体を突入させたー


「ーーひっ!?!?」

”宮原さん”が、声をあげて、ビクンと震えるー。


「ーーーっ…」

”宮原さん”が周囲を見渡すー


「っぶねぇ~…なんて声出すんだ…」

”宮原さん”に憑依した孝也は「やべぇ…本当に女子高生になってる…」と

呟きながらも、そのまま歯科医院の中に足を踏み入れるー。


「ーーーー」

受付に診察券を出す際に、

憑依した”宮原さん”のフルネームを確認したー。


”宮原 茜(みやはら あかね)”


「茜ちゃん、か」

そんな風に呟いていると、助手の女性が

「あ、宮原さんこんにちは~」と、受付の方にやってきたー


「こ、こんにちは」

女子高生の手ー

女子高生の髪ー

制服の感触ー

胸ー

足ー


あらゆる部分が自分のものになっていることを

自覚すると同時に、孝也は激しく興奮したー。

この場で胸を揉みたい衝動に駆られたが、

それを打ち消したのはー


浜崎先生の「どうぞ」の言葉だったー


そうだー

俺は、このじいさんに仕返しをしに来たんだー


「ーーふふ」

茜の身体で悪い笑みを浮かべた孝也は、

そのまま診察室に入るー。


「ーー遅刻して、すみません」

茜は今日も5分ほど遅れていたー


浜崎先生は「いいよいいよ、大丈夫」と、笑顔で答えるー。


その言葉にー

茜はクスッと笑いながら呟いたー


「ー先生、わたしにだけは優しいですよね」

とー。


「ーーえ」

顔を赤らめる浜崎先生ー


”わかりやすいじいさんだなー。

 そうかそうか、そういうことか”


JK相手に鼻の下を伸ばしているー

そういうことなのだろうー。


「ーーー茜、うれしい♡」

わざと、下の名前を一人称にして、そのまま診察台に横たわると、

顔を赤くした浜崎先生を横目で見つめながらー


”じいさんー

 いつも俺に小言を言ってる仕返しをしてやるぜー”


と、茜が悪そうな笑みを浮かべたー



②へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


ちょっとした仕返し憑依…!

果たしてどうなってしまうのでしょうか~?

続きはまた次回デス~!☆


虫歯には私も気を付けないと、ですネ~笑

(私も、前に一度だけ虫歯になったことがあります~☆)

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