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ずっと”復讐”だけを考えて奴を追い続けて来たー。


今でも、毎日のように、夢に見るー

”あの日の悪夢”をー。


どんなに後悔してもー

どんなに願ってもー


もう、玄関の扉を開けた先にー

最愛の娘は、いないー。


由美子と、葵ー。


天才詐欺師・臼井隼人に”皮”にされて

大切な家族は、無残にも殺されたー。


奴だけは、許さないー

どんなことがあろうともー。


彼の生きる源は”復讐”-

ただ、それだけー。


・・・・・・・・・・・・・ 登場人物 長瀬 治夫(ながせ はるお) 若き警察官。”皮”にまつわる事件に巻き込まれていく 松永 亜香里(まつなが あかり) 治夫の彼女。現在同居中。 長瀬 聡美(ながせ さとみ) 治夫の妹。亜香里に激しいライバル心を燃やしている。 目黒 圭吾(めぐろ けいご) 警視正。計算高い性格の持ち主で、出世欲も強い。 矢神 明信 / 堂林 幸成 / 三枝 真綾 / 剛 目黒警視正率いる「モルティング対策班」のメンバー。 黒崎 陣矢(くろさき じんや) 指名手配中の凶悪犯罪者。”モルティング”のひとり。 臼井 隼人/中曽根 佳純/春山 正義 ”人を皮にする凶悪犯”通称・モルティングたち。 泉谷 聖一(いずみや せいいち) 治夫の中学時代の恩師。モルティングたちに”皮にする力”を与えた黒幕。 ・・・・・・・・・・・・・・ ★あらすじ★


人を着る凶悪犯・モルティングの一人である

天才詐欺師・臼井隼人は、若き警察官・長瀬治夫を危険視していたー。


”私なら確実に奴を始末できる”

そう豪語する臼井隼人は、治夫の妹・聡美に目をつけたー。


ちょうど、兄・治夫の家から実家に帰宅最中だった聡美を”皮”にして

乗っ取った臼井隼人は、聡美の姿で

モルティング対策班に動画でメッセージを送りつけたー。


偶然、治夫が不在だった対策班本部では目黒警視正が

”必要な犠牲”として、聡美を見捨てる決断を下すー。


しかし、対策班メンバーの一人であったアウトロー風の刑事・

矢神明信は、その目黒警視正の考えに反対ー、

治夫に連絡を入れた上で、単身、

臼井隼人に乗っ取られた聡美が待つ、第6倉庫”へと向かうのだったー。


・・・・・・・・・・・・・・


激しい銃声が第6倉庫に響き渡るー


「チィッ…」

ガムを噛みながら、物影に隠れるアウトロー風の刑事・明信ー。


天才詐欺師・臼井隼人に”皮”にされて乗っ取られた聡美が、

倉庫の上部の手すりに手を置いて、笑みを浮かべながら

こちらを見ているー。


臼井隼人と、前から結託している”黒蛇工業”の構成員たちが

明信に迫るー


明信は物影から、銃を放ち、構成員を1名始末すると、

すぐに激しい銃弾の中をかいくぐり、別の柱の陰に隠れたー。


「---くくく…”お兄ちゃん”はどうした?」

聡美が笑いながら言うー。


「---…臼井隼人…」

明信が物影から少しだけ顔を出しながら聡美を睨むー


「ーーどうして君がここに来たのかは、知らないがー

 見たまえー」


聡美は可愛らしい声でそう叫ぶと、

両手を広げて、自分の身体を自慢するかのように

ゆっくりと回転してみせたー。


「-”お兄ちゃん思い”の可愛い妹が、

 ご覧の通りー

 今はその”お兄ちゃん”を殺すために、ここに立っているー」


聡美の表情が、邪悪に歪むー。


「--君の家族もそうだったよな?

 クククー

 すばらしい力だろう?」


聡美が、ははははははっ!、と笑うー。


この前ー

治夫の家を訪れた際に、聡美と一度会っている明信はー

聡美の”豹変”に心を痛めるー。


”-あの野郎がここに来たらー

 絶対に何もできないまま殺されるー”


明信は、乗っ取られている聡美の姿を物影から見つめながら

そう考えるー


治夫が到着してもー

妹の聡美を撃ったり、攻撃したりすることは、絶対に出来ないー。


明信だって、そうだったー。

皮にされた家族を前に、何もできなかったー。


臼井隼人は、それを理解していてー

治夫を始末するため、治夫の妹・聡美を皮にして、乗っ取ったー。


「--俺が、どうにかしなくちゃな」

物影から飛び出して、黒蛇工業の構成員2名に銃を放つー。


激しい銃声の中、別の遮蔽物の後ろに身を隠した明信は、

2丁持っている銃のうちの一つを、リロードするー。


その間に、もう1丁の銃を手に、威嚇射撃を行いー

黒蛇工業の構成員が近づいてこないようにするー。


「(あいつは、俺が班目を殺したことを覚えているはずだー)」

明信は、リロードしながら、聡美を救う方法を考えるー。


班目 順太郎ー

かつて、治夫が罠にはめられた際に

駆け付けた明信が、モルティングの一人を、

順太郎に着られていた女子高生・由愛ごと射殺しているー。


臼井隼人は、当然そのことを知っているー。

と、なれば、チャンスはあるー。


「---ククククー」

黒蛇工業の構成員と戦っている明信の様子を、倉庫の2階部分から

見つめながら笑みを浮かべる聡美ー。


その横に置かれていた聡美のスマホに着信が入るー


そこにはー

”お兄ちゃん”と表示されているー。


「--お兄ちゃん」

聡美が、邪悪な笑みを浮かべると、

近くに置いてあったイスに、足を組んで座りー

スマホを耳に当てたー。


”聡美!大丈夫か!?聡美!”

電話に出ると、治夫の声が聞こえたー


無表情で冷たい目をした聡美がー

スマホから聞こえてくる兄の声を、淡々と聞いているー


”聡美!!頼む!返事をしてくれ!聡美!”

治夫の声ー。


聡美は、ニヤッと笑うとー

「-お兄ちゃんのせいで、わたし、乗っ取られちゃった」

と、冷たい声で囁いたー


”さ、、聡美…”

絶望の声が聞こえるー。


「--ククク…わたしね、今、拳銃を左手に持ってるの。

 ふふ、凄いでしょ?」


”ふざけるな!!貴様!!妹を返せ!”

治夫の怒りの声ー


「--きさまぁ~?妹を貴様って呼ぶの?

 ひっどいお兄ちゃん」


聡美は、治夫を揶揄おうとして、そう呟くー


”聡美のふりをするな!今すぐ聡美から、出ていけ!”


「--ククク…

 いやだね…


 妹を助けたければ、早く第6倉庫に来いー」


聡美の言葉に、治夫は


”今、向かってる!お前を八つ裂きにしてやる!”と叫ぶー。


「ククククククク

 お兄ちゃんってば、こっわ~~~い!


 安心してー

 お兄ちゃんは、わたしがぶっ殺してあげるからー」


聡美に悪魔のような言葉をつぶやかせると、

聡美を乗っ取っている臼井隼人は、

”精神攻撃”も兼ねて、冷たい声で囁いたー


「お兄ちゃんなんて、大っ嫌いー」

とー。


プッー


スマホの電源を切り、スマホを床に叩きつけると、

それを踏みにじる聡美ー。


「--さて…長瀬治夫が到着する前に、あいつを始末してー

 そのあとは、長瀬治夫だー」


聡美はそう呟くと、黒蛇工業の構成員の方を見て、

”行け”と、目で合図をしたー。


銃声が響きわたるー


「--チッ…数が多いー」

明信は表情を歪めるー。


迫りくる黒蛇工業の構成員を、高い身体能力と

隙のない立ち回りで倒していくー。


”モルティング対策班”は、

モルティングに関係する人物の”射殺許可”も特別に出ているー。


目黒警視正によれば”上”から許可は出ているとのことでー

実際に、明信も、これまでに、モルティングを何人か葬っているし、

実際にそれが”表”に出たことはないー


「--警視正は警視正で、何かを隠していてー

 うさん臭いんだよなー」

明信は、そう呟いてボサボサの髪を掻きむしると、

迫って来た黒蛇工業の構成員をまた一人、倒したー。


銃をリロードする明信ー。


「---あの子は、2階かー」

乗っ取られた聡美は、倉庫の2階部分にいるー。


明信が”接近”すればー、

聡美を助け出すことが出来るかもしれないー


そしてー

家族を奪った”臼井隼人”に引導を渡すこともー


再び黒蛇工業の構成員が集まって来るー。


周囲を見渡すー

機材などが置かれているこの倉庫ー

1階と2階は吹き抜けになっていて、2階の様子も一部、1階から

見えるが、臼井に乗っ取られた聡美の姿は、見当たらないー。


2階に上るための階段はー

広い倉庫内の西側と東側に存在するー


”ここからなら…あっちの階段の方が近いな”


明信は、倉庫2階部分への西側階段を目指しながら

銃を放ち、銃弾の中をかいくぐるー


「チィッ」

階段に近い遮蔽物に身を隠す明信ー。


明信の肩からは血が流れているー。


「流れ弾に当たったか…」

明信は表情を歪めながらも、倉庫の2階への階段を駆け巡るー。


「--臼井!!!!!」

明信は、姿の見えない臼井隼人に向かって叫ぶー。


”ククク…そんなに私が憎いか?”

聡美の声が、倉庫内に響き渡るー


「--出てこい!臼井!」

黒蛇工業の構成員と銃撃戦を繰り広げながら叫ぶ明信ー。


2階に上がったすぐ先にいた二人を倒すとー

明信は物影に隠れるー。


”しぶといな…だが私を殺そうとする、ということはー

 この女も殺すということー

 それを忘れるなー”


聡美の声が再び響きわたるー。


明信は、物影に隠れたまま、頭をフル回転させたー。


”あの子を救い出すためにはー”


明信は、これまで”他人を皮にして支配している凶悪犯”を

被害者ごと何人か葬っているー。

治夫がかつて不良に絡まれていたところを助けた女子高生・由愛が

皮にされた時もそうだー。

明信は、着られた由愛ごと、中にいた班目順太郎を葬り去ったー。


”狼狽えるだけ相手の思うつぼー”

”皮にされた人間は、もう助からない”

そう、心を鬼にしてモルティングと戦ってきたからだー。


だがー

今回ばかりは、助けたいと思ったー。


”長瀬治夫に俺のようになってほしくない”という思いー

”治夫の妹・聡美に自分の娘の面影を重ねた”ことー


そしてー


「--臼井隼人…テメェだけは許さねぇ…」


徹底的に臼井隼人をぶちのめして葬り去るためー。

何一つとして、あいつの思い通りには、させないー。


明信は、さらに奥に進むー。


臼井隼人は”計算高い”人間だー

黒崎陣矢のように、己の欲望と快楽のまま動くタイプではないー。

非常に厄介な相手だー


だがー


「--臼井…お前のその計算高さが、墓穴を掘ることになるんだー」

明信は小声で呟くと倉庫内で叫んだー。


「--臼井隼人ー

 誰の姿になっていようが、俺には通用しねぇー。

 その子ごと、頭に穴を開けてやるから、覚悟しておけー」


とー。


明信は、聡美を救い出すつもりだったー。

もし”長瀬聡美”を乗っ取られたままでは、手出しが出来ないー。


しかしー

臼井隼人は知っているー。


矢神明信は”乗っ取られた人間ごとでも、モルティングを射殺する”

ということをー。


それがーー”仇”となるー。


パァン!パァン!パァン!

激しい銃撃ー


明信は慌てて物影に隠れるー。


「--刑事さんー

 これ以上調子に乗られちゃ、困りますねぇ」


黒蛇工業の会長が、構成員たちと共に姿を現すー。


大人数ー。


「--チッ」

明信は深呼吸をするー。


黒蛇工業の会長とも、明信は因縁があるー。

かつて、家族を奪われる前に、明信は黒蛇工業を追っていたからだー。

その際に、何度も顔を合わせた相手だー。


「---へへへへ 刑事さんー

 チェックメイトってやつだなぁ」


黒蛇工業会長が不気味な笑みを浮かべながら

構成員たちと共に、明信が隠れている場所に向かって、

ゆっくりと歩き出したー。



「--------」

倉庫2階中央部分に存在する小部屋で、明信の言葉を聞いていた聡美は

舌打ちをしたー


聡美は椅子に座り、倉庫内に声を放送するための

マイクの電源を切るー。


聡美を乗っ取っている臼井隼人は、いつも通り、

冷静に、頭脳をフル回転させたー。


臼井隼人が他人を”皮”にするのは、

己が”武器”とするためー。

黒崎陣矢のように”欲望”や”快楽”のためではないー。

利用価値があれば皮を着るー

利用価値がなければ脱ぐー

それだけだー。


聡美は険しい表情を浮かべるー。


”班目順太郎”も、明信に皮ごと射殺されたー。


”恐らく、矢神明信は、この女ごと、容赦なく私を殺すだろうー”


聡美は、先ほど治夫と電話で通話した際の、

治夫の位置情報を確認したー。


”ここに到達するまで、早く見積もっても、あと10分ー”

聡美は、笑みを浮かべたー


「-正直、この身体は運動能力が私の身体より低いし、

 動きにくいからなー」


聡美の後頭部がぱっくりと割れたー。

笑みを浮かべたまま、真っ二つになった聡美の中から

聡美を脱いだ臼井隼人が姿を現すー


「--長瀬治夫が到着する前に、矢神明信を始末しー

 長瀬治夫は”妹”の皮を着て、始末するとしようー」


聡美の皮を、小部屋のイスに置いてー

臼井隼人は持っていた銃の弾を確認すると、笑みを浮かべるー。


”誰の皮を着ていようが動じない”やつを相手にする場合はー

動き慣れている自分の身体のほうが、遥かにやりやすいー。


そして、治夫の到着まで計算すると、早く見積もっても、

あと10分はかかるー。


矢神明信が聡美の皮を着ていても動じないのであれば、

皮を脱いで、戦った方が確実ー。


臼井隼人の、いつも通りな、合理的な判断だったー。


小部屋から出て、明信がいる西側の方に歩みを進めようとする

臼井隼人ー。


その時だったー


「--臼井隼人!」

背後から声がしたー。


「--!!」

臼井は、すぐに振り返って銃を放ったー


だがーー

銃は外れーー


「---貴様…長瀬治夫…!」

臼井は、そう叫んだー


倉庫東側の階段からー

治夫が姿を現したのだー


”さっきの電話で通話したときの位置情報からー

 この場所まで到着するのは、まだ不可能なはずーー”


臼井隼人は、そう心の中で叫ぶー。


「---聡美はどこだ!」

治夫が叫ぶー。


臼井隼人が返事をせずに、再び銃を撃とうとするー


しかしー


パァン!!


「---!」

臼井隼人は表情を歪めたー

自分のスーツにぽっかりと穴が開きー

そこから血が噴き出すー


普段銃を撃つ機会などない治夫自身も驚きながらー

臼井隼人に反撃される前に、

もう一度引き金を引いたー


臼井隼人の胸のあたりに銃弾が直撃し、

臼井隼人は後ろに吹き飛ばされて、そのまま動かなくなったー。


治夫はー

ここまで、サイレンを鳴らして”爆走”してきたのだー

妹の聡美を助けるため、

スピード違反も無視して、命懸けで爆走してきたのだー。


それ故にー

臼井隼人の想定よりも、遥かに早くー

ここにたどり着いたー。


「---!」

治夫は、臼井のいた小部屋に入るー


そこには、聡美の皮と

2本の注射器が置かれていたー


「これはーー…」

治夫は、それに見覚えがあったー。


”人を皮にする注射器”と、

”皮にした人間を元に戻す注射器”だー。


すぐにそれを聡美の皮に打ち込むとー

聡美は、人間の姿に戻ったー


「---……う…」

聡美が目を覚ますー。


「----おにいちゃん…」

聡美が弱弱しく呟くー。


治夫は「もう大丈夫だからなー聡美ー」と、

優しく聡美を抱きしめると、銃声が、倉庫の西側の方から

聞こえたことに気づき、

「ここで待ってて。すぐ戻るから」と、

聡美に向かって言い放ったー。


不安そうに頷く聡美ー。


走る治夫ーーー


「くくくくくーー

 あの世でゆっくり眠りなー」


黒蛇工業の会長らが、明信の隠れている場所に

一斉射撃を加えようとしている光景が、目に入るー。


反対側からやってきた治夫は、

黒蛇工業の構成員らに向かって発砲したー。


数名が倒れるー


「--!」

黒蛇工業の会長と構成員らが戸惑うー。


その隙を、明信は見逃さなかったー


「うおおおおおおおおおおおおおお!!」

遮蔽物から飛び出すと、明信は、

黒蛇工業会長の頭を撃ち抜きー


驚く構成員たちを治夫と共に、

一掃したーーー


「--はぁ…はぁ…」

治夫は震えていたー。

銃をこんなに撃ったのはーー

人生で初めてだったー。


「--おせぇよー

 大事なものは絶対に守れって言ったろうがー」


肩から少し血を流しながら明信が言うと、

治夫は「すみませんー」と頭を下げるー。


「ーーお兄ちゃん!」

治夫の背後から、聡美も後を追ってやってくるー。


明信はその姿を見て、ホッとした様子で微笑んだー


「--よかった。無事だったみたいだな」

とー。


「-ーーお兄ちゃん…わたし…怖かったー…」

聡美が、泣きながら治夫に抱き着くとー

治夫は「もう大丈夫ー。大丈夫だよー」と、

優しく聡美の頭を撫でたー。


しばらくして聡美が泣き止むと、

明信が治夫の方に近づくー

治夫が、臼井隼人を射殺したことを告げるー

家族の仇をこの手で葬れなかったことに、

明信は少しだけ複雑そうな表情を浮かべたー。


聡美が「-矢神さん、やっぱり本当に刑事さんだったんですねー」と、

明信を見てほほ笑むー。


明信は「おい!俺は偽物だと思われてたのか!?」と、

聡美に向かってツッコミを入れると「--本物の刑事だよ」と、

苦笑いしながら聡美に言い放ったー


「--……本当に、ありがとうございますー」

聡美が深々と頭を下げるー

明信は「いいんだよ」と、少し照れ臭そうに笑ったー


「--矢神さんー

 俺からもーーありがとうございましたー」

治夫が頭を下げると、

明信は「-俺じゃなきゃ、あの子を救えなかったからなー」と、

少し離れた場所にいる聡美を指さしたー。


「--え」

治夫の言葉に、明信は

「-俺が来たから、臼井隼人はあの子を”脱いだ”-

 たぶんやつは、俺があの子ごとでも、撃ってくると思ったんだろー」

と、呟いたー


確かに、聡美は”着られて”いたー。

治夫がもし、ここに先に来ていたらー

”何もできずに”殺されていただろうー。


「---矢神さん…

 本当に、何とお礼を言っていいかー」


治夫がそう呟くと、

明信は「いいんだよ礼なんかー。俺は、妻と娘を奪った臼井を

葬りたかっただけだしよ!」と、照れくささを隠すかのように

言い放ったー


「--ははは…でも、ありがとうございますー」

治夫の言葉に、

明信は治夫の方を見てー

ほほ笑みーーー


「-----あぶねぇ!!!」

明信が、急に大声を出したー


治夫の背後にー

死んだはずの臼井隼人が姿を現していたーー


銃を、治夫の背中に向けてーーー


パァン!!!


銃声が響いたー


「---!」

聡美が驚くーー


「---!!!」

治夫が驚くー


「-----っっ…」

治夫を庇うようにして、撃たれた明信はー

自分の胸のあたりから、血が流れているのを確認したー


臼井隼人は、血を流しながらニヤリと笑みを浮かべるー。

治夫に撃たれた臼井だったがー

完全には、死んでいなかったのだー


「---うああああああああああああああああああああ!」

明信が、鬼のような形相で、臼井隼人の方に向かって行くー


「矢神さん!」

治夫が叫ぶー


激しい銃声が何発も響き渡りー

やがて、臼井隼人が血を吐いて、その場に座り込んだー


「--はぁ…はぁ…はぁ…」

明信も、何発か撃たれて、ふらふらになって

座り込んだ臼井隼人に近づくーー


臼井隼人は、明信の方を見上げるー。


「--く、、、くくく…矢神明信ー

 君が来るのを……先に地獄で待ってるよー」

臼井隼人の言葉に、

明信は、銃を向けたー。


「ーーーあぁ、待ってろー。

 地獄でも、お前を見つけ出して、殺してやるー」

明信はそれだけ言うと、臼井隼人の頭を撃ち抜いたー。


臼井隼人が動かなくなるのを確認すると、

明信もその場に崩れ落ちるようにして倒れるー。


「--矢神さん!」

治夫が叫ぶー


「え…え…し、、しっかりしてください!」

聡美が泣きながら駆け寄るー。


「---…はぁ………

 これで俺もようやく、妻と娘のところにーーー」

明信はそう呟くとー

治夫と聡美の方を見てー


「--兄妹ー

 仲良くしろよー」


と、弱弱しく呟いたー。


「--聡美!救急車を!」

治夫がスマホを聡美に渡すと、聡美は泣きながら頷いて、

少し離れた場所で救急車を呼び始めるー


「---長瀬ー」

明信は、苦しそうに息をしながら呟いたー。


「--はい」

治夫が涙ぐみながら明信を見つめるー。


「---モルティングだけでなくーー

 対策班のやつらにも、気をつけろー」

明信の言葉に、治夫は

「目黒警視正のことですか?」と、聞き返すー


明信は、苦しそうに咳き込んでからー

「ーーーいやーーー”全員”だーーー」と、告げるー。


「--全員!?」

治夫は、対策本部の

目黒警視正ー

好青年風の堂林幸成ー

ギャル風の三枝真綾ー

目黒警視正としか会わない”剛”のことを浮かべるー。


「ど、どういう意味ですか!」

治夫が叫ぶと、明信は少しだけ微笑んだー


「--守れよー

 大切な人をー」


明信は、その言葉を最後に、動かなくなったー。


「----矢神さんー」

治夫は、悔しそうに動かなくなった矢神明信の亡骸に

言葉をかけたー



⑲へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


長編第18話でした~!


乗っ取られた大切な人と直接対決してほしかった!

という人もいるかもですが、

それは”今後”に期待していてくださいネ~笑

(今回、それをやっちゃうと、主人公が殺されちゃうので、

 最初からこうなる予定でした~☆)


まだまだ気を抜けない展開が続きます!

次回もぜひ楽しんでくださいネ~!

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