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また、1日が始まったー


昨夜の晩御飯の食器を片付けながらー

散らかった部屋を見つめるー。


”ちょっとお父さん~!

 ちゃんと片づけてよね~”


そんな、声が聞こえるー

いいやー聞こえる、気がしたー。


いいやー。

もう、”その声”が聞こえることは、永遠にないー。


煙草に火をつけてー

写真を見つめるー。


そこには、最愛の妻と、娘の姿ー


”--君は地獄を見たことがあるか?”


”今、私が見せてやろうー

 ”地獄”をー”


悪魔の言葉を思いだしながら、

モルティング対策班のひとり・矢神明信は、

煙草の煙を、吐き出したー。


・・・・・・・・・・・・・・


登場人物


長瀬 治夫(ながせ はるお)

若き警察官。”皮”にまつわる事件に巻き込まれていく


松永 亜香里(まつなが あかり)

治夫の彼女。現在同居中。


長瀬 聡美(ながせ さとみ)

治夫の妹。亜香里に激しいライバル心を燃やしている。


目黒 圭吾(めぐろ けいご)

警視正。計算高い性格の持ち主で、出世欲も強い。


矢神 明信 / 堂林 幸成 / 三枝 真綾 / 剛

目黒警視正率いる「モルティング対策班」のメンバー。


黒崎 陣矢(くろさき じんや)

指名手配中の凶悪犯罪者。”モルティング”のひとり。


臼井 隼人/中曽根 佳純

”人を皮にする凶悪犯”通称・モルティングたち。


泉谷 聖一(いずみや せいいち)

治夫の中学時代の恩師。モルティングたちに”皮にする力”を与えた黒幕。


・・・・・・・・・・・・・・


「--黒崎陣矢には、逃げられましたか」

目黒警視正が、いつものように穏やかな笑みを浮かべるー


「--申し訳ありません」

治夫が頭を下げるー。


女子大生・鈴の皮を着た黒崎陣矢を追い詰めながらも

逃げられてしまったー


「た、、たすけて…!たすけて…!

 痴漢、、痴漢~~~!」


「--”女の身体”ってーー

 こういう使い道もあるんだぜ?」


女子大生の身体を”悪用”した

黒崎陣矢の前に、治夫は、黒崎陣矢をなすすべもなく

取り逃がしてしまったー


結局、鈴と共に治夫を襲ったガラの悪い若者たちは、

治夫を助けに駆け付けた幸成によって、全員逮捕されたものの、

鈴の皮を着た黒崎陣矢に身体で誘惑されて、

利用されていただけであり、”モルティング”たちの

情報は、何も得られなかったー。


「構いませんよ。奴らが動けば動くほど

 我々はモルティングの背後にいる”黒幕”に近づくことができます」

目黒警視正が、それだけ言うと、

アウトロー風の刑事・明信が、呟いたー


「--まぁ、お前みたいな餓鬼には、それが限界だろ。

 誰もお前になんざ、期待してねぇよ」

明信がガムを噛みながら言うー。


モルティング対策班に加わった当初から、

この明信はやたらと治夫に突っかかって来るー


「--お言葉ですが、俺だって必死にやってるんです」

治夫がムッとして明信の方を睨むー


明信がガムを噛みながら治夫を睨み返すー。


「-ーーそうやってすぐムキになるところも、餓鬼だな。

 お前みたいなやつは、交番勤務に戻って

 同居中の彼女と家でイチャイチャしてろ」


「--矢神さん」

好青年風の幸成が、明信に対して”言い過ぎですよ”と、

言葉を続けるー。


「--やがみんってば、辛辣~!」

ギャル風の真綾は笑いながら、明信の方を見つめるー。


「--私はあなたに期待していますよ。

 それに、皆さんにも」

目黒警視正は、そう言って笑みを浮かべたー。


その笑みは、まるで”すべてを見通した”かのような、

無気味な笑みだったー


・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


”モルティング対策班”のメンバーは交代で

”非番”の日が与えられていたー。


今日は、そんな休日を利用して、

治夫はある場所へとやってきていたー。


「-----」

その場所はー

片桐 由愛の墓ー。


交番勤務時代、不良に絡まれていたところを

治夫が助けたことにより、

それ以降、交番前で挨拶するような間柄になっていた

女子高生だー。


「--由愛ちゃん…ごめんな…」

治夫が手を合わせながら呟くー。


”由愛ちゃんを守ることができなかったー”


黒崎陣矢に皮にされて、散々悪事に利用された挙句、

最後には、命まで奪われてしまったー。


治夫は悔しそうに、由愛の墓を見つめると、

「--俺、絶対に、由愛ちゃんの仇を取るからー」と、呟くー


仇を取るためー。

そして、人々を守るためー

治夫は、黒崎陣矢たちとの戦いを続けなくては、ならないー。


「---!」

治夫が、由愛の墓から視線をずらすと、

花束を持った見覚えのある男がちょうど、墓場にやってきていたー。


「---!矢神さん…」

治夫が言うと、アウトロー風の刑事・明信が「お前…」と、

表情を歪めたー。


「--どうして、ここに?」

治夫が言うと、明信は「お前こそ、何でここに?」と

不快そうに呟くー。


「---俺は、由愛ちゃんの墓参りにー」

治夫はそう言いながら”矢神さんも由愛ちゃんの墓に?”と

一瞬思ったが、すぐに違うことに気づくー。


明信は、少し離れた場所の別の墓の方に

歩いていき、そこに花束を添えたー。


「---…」

治夫は、その墓に近づいていき、

ハッとしたー。


「--お前は、家族を目の前で殺されたことはあるか?」

以前、明信にそう言われたことを思い出すー。


墓にはー

”矢神 由美子”

”矢神 葵”

と、名前が刻まれているー。


「--矢神さん…それってー」


「---お前には関係ない」

明信はそれだけ呟くと、墓の前で手を合わせるー。


「------」

すごく、悲しそうな顔ー


治夫は、そう思いながら、明信を見つめるー。


しばらくして、明信が立ち上がると、

治夫は、頭を下げてから、

”矢神 由美子”

”矢神 葵”と

書かれている墓の前で両手を合わせて、目を閉じたー。


「---……」

明信は、煙草に火をつけて、近くの木に寄り掛かると、

静かに語り始めたー


「--俺の娘と妻だー。

 もうすぐ、1年になるかー」


とー


・・・・・・・・・・・・・・・・・


およそ1年前ー

矢神 明信は、当時、所属していた部署で、

”裏社会の天才詐欺師”の異名を持つ

臼井 隼人の捜査を行っていたー。


この時点の臼井隼人は、まだ泉谷と出会っておらずー

”人を皮にする力”は持っていなかったー。


徹底した捜査で、臼井隼人を追い詰めていく明信ー。


「---臼井、お前が黒蛇工業(くろへびこうぎょう)と繋がっているのは

 既に分かっているー

 観念しろ」


臼井隼人は当時、”不動産会社”と偽り、怪しげなオフィスを拠点に

活動していたー

そして、黒蛇工業という裏社会の組織と結託し、暗躍していたー。


「-お言葉ですが刑事さんー

 証拠は何かあるのかな?」


白い縦縞模様のスーツを身に着け、

整った身なりの臼井隼人が笑うー。


「--…」

明信は隼人を睨むー


隼人は”余裕”の表情で明信を見つめるー。


”天才詐欺師”

臼井隼人は”逮捕につながる証拠”を掴ませない術に長けていたー。


確実に”黒”だー。

だが、その決め手がないー。


そんなある日のことだったー。


臼井隼人が、”人を皮にする力”を手に入れてしまったのはー。

モルティングの黒幕である泉谷と出会ってしまったのはー。


「---ただいま」

いつものように、明信が帰宅するとーー

娘の葵が、机に足を乗せた状態で、煙草を吸っていたー。


「---…あ、、葵!?」

驚く明信ー。

娘の葵は、高校生ー。

まだ、煙草を吸うような年齢じゃないー


「--おかえりなさい、刑事さん♡」

娘の葵は邪悪な笑みを浮かべているー。


「--な、、な…何をしてるんだ?」

戸惑う明信に対して、葵は笑みを浮かべたー。


「--あんたは調子に乗りすぎたー。」

煙草の火を消して、葵は、笑いながら、足を机から降ろすと、

父親であるはずの明信を見下すようなまなざしで見つめたー。


「--あ、、葵…?」

何が起きているか分からず、明信は困惑するー


「---お父さん、臼井隼人って人を

 し~~~~つこく追ってるでしょ?

 ちょっと調子に乗りすぎじゃな~~~い?」


笑いながら葵が、明信の周りを歩き回るー。


「--そんなお父さんには、お仕置きーー」

クスッと笑う葵がーー

”浴室”の方を指さすー。


「---……あ、、葵…?」

明信は意味が分からず、困惑するー


イヤな予感がしたー


娘の葵の姿しかなくー

妻の由美子の姿が見当たらないー


明信は、イヤな予感を払拭するかのように、走ったー。

浴室に向かってー


そしてーー


「な、、なんだこれは……!?!?」

明信は悲鳴を上げたー


浴槽にーー

”ペラペラになった”妻・由美子が横たわっていたー


「あ~~~~あ~~~~~」

葵が背後から声を掛けてくるーーー


「-お父さんさぁ…

 調子に乗りすぎるから、こうなっちゃうんだよ」


「--な、、、何を言ってるんだ!!!葵!!!」

明信は泣き叫ぶようにして娘を見つめたー。


「--お前が、、お前がやったのか!!!!!」

明信が叫ぶとー

葵は「--くくくくくくく」と、笑うー。


そしてーー

信じられないことに、葵の後頭部がぱっくりと割れてーーー


中からーーー

臼井隼人が姿を現したのだー。


娘の葵が、まるで脱ぎ捨てられた服のように、

床に横たわるー


「--う、、う、、臼井隼人!」

明信が叫ぶと、隼人は笑みを浮かべたー。


「刑事さんー

 この世には、決して触れてはならない”闇”があるー


 私は、その”闇”にたどり着いたよー。

 見たまえー」


皮になった葵を乱暴に掴むと、隼人は、葵を

ぶらぶらと揺らしながら笑みを浮かべたー


「--人を皮にする力、だー。

 素晴らしいだろう?」

隼人の言葉に、明信は震えながら

”信じられない”という表情を浮かべたー


目の前で起きていることが、現実とは思えなかったー。


「--な、、、なんだ、、、これはーー」


目の前で、葵が皮にされているー

浴室では、妻の由美子が皮にされているー。


臼井隼人は、笑みを浮かべてー

「刑事さんにも、見せてあげよう」

と、呟いてから、今度はーー

妻・由美子の皮を着たー


まるで、洋服のようにー。


由美子の皮を着た隼人は、

由美子の声でー

由美子の姿でー

笑みを浮かべたー。


「-どんな人間も、まるで洋服のように着ることが出来るー。

 夢のような力だと、思わないか?」


妻・由美子とは思えないような邪悪な笑みー


「--き、、き、、貴様ぁぁあ!!」

明信は叫ぶー。


由美子の姿で、葵の皮を掴むと、

由美子は不気味に笑ったー


注射器を手にー

由美子は言うー。


「この注射器を打てば、元の姿に戻すことも、出来るー。


 そこで、取引だー。

 

 どうかね?

 今度、私には”一切かかわらない”と誓えばー

 妻と娘を助けてやってもいいー。」


笑う由美子ー


明信は、「ふざけるな…」と苦悶の表情を浮かべるー。


「---いいのかな?

 妻と、娘がーー

 死んでもーー????」


由美子の言葉に、

明信は歯ぎしりをしながらーーーー


「----分かった…」

と、呟くー。


由美子の皮を着た隼人は、土下座を要求したーー。


明信は唇をかみしめながらー

隼人の言う通りーーー

その場で土下座をしたー


妻と、娘を救うためー


しかしーーー

土下座して、床を見つめていた明信の目に入ったのはーーー


”謎の切れ端”だったーーー


顔を上げるとーーーー


笑みを浮かべた由美子がーー

”皮になった娘・葵”をーーー

”ハサミ”で切り刻んでいたー


”謎の切れ端”は、

皮にされたまま、ハサミで切り刻まれていく、娘の切れ端ーー


「うあああああああああああああああああああ!!!!」

明信は悲鳴にも似た叫び声をあげたー。


「--君は地獄を見たことがあるか?」

隼人に乗っ取られた由美子は、ハサミで娘を切り刻みながら、笑っていたー


「今、私が見せてやろうー

 ”地獄”をー”」

狂った笑みを浮かべながらー

由美子は、皮になった娘・葵をハサミでバラバラに切り刻んだー


バラバラになった葵の”皮”を紙吹雪のように、捨てる由美子ー


「これが、地獄だー」

由美子がペロリと唇を舐めるー。


明信は雄たけびをあげて、由美子の胸倉をつかんだー


しかしー


「いいのか?

 傷つくのは、私じゃなく、君の妻だー」


由美子が笑うー

臼井隼人に乗っ取られた、由美子が邪悪に、笑うー。


手出しできずに膝をつく明信を見てー

そのまま立ち去っていく由美子ー


放心状態の明信ー。


後日ー

”切り刻まれた由美子の皮”が、

着払いで送られてきたー


品名には”皮”とだけ書かれていたー


明信はーーー

その日を境にー

復讐鬼になったー。


程なくして、目黒警視正から”スカウト”されて

モルティング対策班の一員となりー

それから1年間、戦いを続けてきたのだー。


・・・・・・・・・・・・・・・・


「ーーー」

アウトロー風の刑事・明信の話を聞き終えた治夫は、

今一度、明信の妻と娘が眠る墓に向かって

手を合わせたー


「---お前みたいに、安っぽい正義感でーー」

明信が、治夫に嫌味を言おうとして言葉を止めたー


治夫はー

会ったこともないはずの、明信の家族の墓の前でー

涙を流していたー。


「----……」

明信は、表情を歪めるー。

治夫は、すぐに涙をふくと、明信の前で頭を下げたー。


「--すみませんでした」

とー。


「--あん?」

明信がガムを噛みながら治夫の方を見るー。


「---俺、正直…

 矢神さんのこと、嫌味で不真面目な人だと思ってましたー。

 手段も択ばない、冷たい人だとー


 でもーー

 俺の誤解でした」


治夫が頭を下げるー


「-そんなことがあったなんて、知らずに、

 申し訳ありませんでしたー」


「------」

頭を下げる治夫を前に、明信はしばらく黙っていたが、

やがて口を開いたー


「---…………悪いことは言わない。手を引けー」

明信は、治夫にそう言い放つー。


「---俺みたいになりたいか?

 今の俺は、朝起きてから寝るまでー

 復讐することしか考えていないー。

 

 そんな奴に、なりたくねぇだろ?


 臼井や黒崎に、”常識”は通用しないー


 目黒警視正から聞いたー。

 お前、彼女と同居してるんだろ?

 

 これ以上関われば、その彼女だってーー」


明信の言葉に、治夫は首を振ったー。


「--ー俺はーーーー

 人を助けたい一心でーーー

 刑事になったんですー


 由愛ちゃんや、矢神さんのご家族もー

 今、黒崎に乗っ取られている子もー

 俺は、この手が届く範囲の人を、救いたいんですー。


 黒崎や臼井のような奴らがいるのに、

 それを放っておくことなんて、できません」


治夫のまっすぐな瞳ー


恩師・泉谷からの言葉

”自分の信じた道”をー

治夫は突き進んでいるー


「---その結果が、これなんだ。」

明信は歯ぎしりをしたー


自分も、前はそう思っていたー

だからこそ、臼井隼人を徹底的に追い詰めようとしたー


その結果ー

妻と娘を失ったー


「-----」

「-----」

治夫と明信が視線を合わせると、

明信は、口を開いたー


「---なら、死ぬ気で守れ」

明信が治夫を鋭い目つきで見つめたー


「--お前の大切な人を、死ぬ気で守れー。

 絶対に、手を離すなー


 俺のような思いをする奴は、

 俺以外にはいらないー。


 いいな?

 死ぬ気で彼女を守れー。

 絶対に奴らに手を出させるな」


明信の言葉に、治夫は

「--分かってますー

 亜香里と、妹は、絶対に、守りますー」

と、強い言葉で返事をしたー。


治夫は、頭を下げて墓場から立ち去っていくー


一人残された明信は、ガムを噛みながらー

写真を取り出したー。


穏やかな表情の明信と、娘と妻の写真ー


「------」

この時は、ガムなんて噛まなかったー


でも、今は噛まずにはいられないー


何かしてないとーー

心が、壊れてしまいそうだからー


怒りと、悲しみー

叫びたくなる気持ちをー

必死にかみ砕いてー

心の中に抑え込んでいるからー


「---ーーー」

明信は、家族の写真を見つめながら少しだけ微笑むと、

墓場から外に向かって歩き出したー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


テレビでニュースが報じられているー。


”速報ですー。

 先日のアイドル殺害事件の

 容疑者が逮捕されましたー。


 当初、警察の隠蔽を指摘する動画を配信した直後に

 遺体となって発見されたことから、

 ネット上などを中心に、警察による口封じであると、

 警察に対する批判や誹謗中傷が相次いでいましたがー

 今回、神田容疑者が逮捕されたことによりーーー”


テレビが消されるー


モルティング・臼井隼人が仕組んだ罠による

警察へのバッシングは、”収束”したー。


臼井隼人は、

アイドル・美桜を乗っ取り、”警察が人を皮にする凶悪犯を隠蔽している”と

動画配信を行い、その直後に乗っ取ったまま、美桜を”自殺”させー。

まるで、警察に消されたように演出したー


その結果、ネットを中心に、警察へのバッシングが始まったー

それは瞬く間に拡大したー。


しかしー

目黒警視正は、苦労してきた過去を持つ女性刑事の自殺ー

そして、”美桜を殺害した設定の犯人”を仕立て上げてー


警察へのバッシングを”消滅”させたー。


バッシングにより、若い女性刑事が自殺したー

その事実は、世論の攻撃を”誹謗中傷”に向けさせー


”美桜を殺したと供述する犯人”が出現したことにより、

世論は”美桜の死は、警察とは関係なかった”と、

すっかり、警察へのバッシングをやめー

臼井隼人の仕組んだ罠は、あっという間に鎮静化したのだったー


「--やはり”剛”を使ったかー」


モルティングの黒幕・泉谷は、意味深な言葉を呟いたー


「ーーーー警察へのバッシングは沈静化ー。

 これで良かったのか?」

天才詐欺師・臼井隼人が呟くー


泉谷は、答えないー。


そこに、ボサボサ頭の女子大生・鈴がやってくるー。

鈴は、凶悪犯・黒崎陣矢に乗っ取られたままだー


すっかり、元の面影のない、凶悪な表情になってしまっているー。


「---君に着られた子は、災難だな」

隼人が、ボサボサ頭の乱れた鈴を見て失笑すると、

鈴は「美を汚すのも、一つの芸術だぜ」と、汚らしい笑みを浮かべたー。


「---これでいいー」

消えたテレビを見つめながら、泉谷は、無気味に笑ったー


警察へのバッシングが起きれば、強引な手で、警察がそれを消すのは

分かっていたー


”あの時”のようにー

”剛”を使ってくるのは、分かっていたー


「---」

泉谷は、この時を待っていたー。


「--ーー長瀬ー」

泉谷が、教師であったころの教え子である

長瀬治夫ー。


治夫の写真を見つめながら、泉谷聖一は静かに呟いたー


「-ーお前は”警察”の本当の姿を知らないー。」


泉谷はーー

治夫を”モルティング”側に引き込もうと考えていたー。


邪悪な笑みを浮かべて、

泉谷は、静かに夜空を見上げたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「---例の件、”剛”を使って処理しましたー」


目黒警視正が、薄暗いオフィスで、一人、誰かと電話で話をしていたー。


目黒警視正は”剛”を使い、

汚職の女性刑事に”取引”を持ち掛け、自殺に追い込みー

その自殺を”ネットの誹謗中傷を苦にした自殺”として演出し、

世間の警察に対するバッシングを打ち消しー、


さらには”剛”を使いー、

犯罪歴のある裏組織の幹部と”取引”をし、

アイドル・美桜を自分が殺したと証言する犯人”を作り出したー。


目黒警視正は、完璧に”警察に対するバッシング”を処理したー


”ご苦労ー。君にはこれからも期待しているよー”

電話相手が呟くー


「--ありがとうございます

 大瀬良(おおせら)長官ー」


目黒警視正がそう答えると、

電話は切れるー


「------」

目黒警視正は、電話を机に置くと、

一人静かに笑みを浮かべたー


「--私は必ずー

 ”モルティング”をー


 そしてーーーー

 

 ”剛”

 をー


 葬り去りますー。


 それが、秩序と平和を守るためー」


そう呟く目黒警視正の瞳にはー

”深淵”の色が浮かんでいたー。



⑬へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


今月最初のモルティングでした~!


次回は再び”皮”を着こんだ凶悪犯の襲撃…!

そして、恩師との対面も…!?


ぜひお楽しみくださいネ~!


今日もありがとうございました!!

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