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「じゃあ、ここで待ってるよ」

デパートで休日を楽しんでいた大学生カップルの彼氏が

穏やかな笑みを浮かべるー


彼女が、微笑みを返して、デパートのお手洗い入るー。


お手洗いに入って鏡を見つめる女子大生ー。

鏡にちょうど個室から出て来た老婆の姿が映るー。


女子大生は、特に何も警戒しなかったー。

”ごく普通のおばあさん”にしか見えなかったからだー。


しかしー


「--!?」

彼女が気づいたときには、手遅れだったー


突然、下品な笑みを浮かべる老婆に、トイレの個室に

引きずり込まれる女子大生ー


「ひっ…!?」

驚いて老婆の方を振り返るとー

老婆の顔面がぱっくりと割れてー

その中から、指名手配中の凶悪犯・黒崎陣矢が

姿を現したー。


「--へへへ…今からお前は俺の洋服になるんだぜ」

黒崎陣矢の言葉に、女子大生は悲鳴を上げようとしたがー

謎の注射器を打ち込まれて、その場に崩れ落ちるー。


「--くくくく」

颯爽と、女子大生の皮を着こんだ黒崎陣矢は、

綺麗な手で、綺麗な顔の位置を調整して、

頬のあたりを引っ張りー

”皮”をちゃんと着ることができたことを確認するー。


「-このババアの皮は、もういらねぇな」


治夫の前にも姿を現したことのある”老婆”の皮を、

ぐしゃぐしゃにして、トイレの中に無理やり放り込むと

「じゃあな、ババア!」と

黒崎陣矢に乗っ取られた女子大生は凶悪な笑みを浮かべながら叫んだー。



「---お待たせ」

彼氏の元に戻る女子大生ー。


彼氏は「遅かったな、鈴(すず)ー」

と、微笑み、歩き出すー。


黒崎陣矢に乗っ取られた女子大生・鈴は

「え~~?そんなことないよ~」と言いながら、

邪悪な笑みを浮かべたー。


・・・・・・・・・・・・・・


登場人物


長瀬 治夫(ながせ はるお)

若き警察官。”皮”にまつわる事件に巻き込まれていく


松永 亜香里(まつなが あかり)

治夫の彼女。現在同居中。


長瀬 聡美(ながせ さとみ)

治夫の妹。亜香里に激しいライバル心を燃やしている。


目黒 圭吾(めぐろ けいご)

警視正。計算高い性格の持ち主で、出世欲も強い。


矢神 明信 / 堂林 幸成 / 三枝 真綾 / 剛

目黒警視正率いる「モルティング対策班」のメンバー。


黒崎 陣矢(くろさき じんや)

指名手配中の凶悪犯罪者。”モルティング”のひとり。


臼井 隼人/中曽根 佳純

”人を皮にする凶悪犯”通称・モルティングたち。


・・・・・・・・・・・・・・


”女子大生アイドル惨殺体で発見ー

 警察の隠蔽か?”


”人を皮にする凶悪犯”・モルティングのひとり

臼井隼人が、人気アイドルを皮にして、

動画を配信、その後に”警察に消された”風を装い、

人気アイドルを自殺させたことで、

世間は警察をバッシングし始めていたー。


「--あはは!マジ、炎上状態じゃん!どうすんの?これ?」

対策班のひとり、ギャル風の真綾が言うと、

目黒警視正は「問題ありません。これも想定内です」と、

いつものように余裕の表情を浮かべたー


「--臼井隼人とは、どんな男なんですか?」

治夫が言うと、アウトロー風の明信がガムを噛みながら口を開いたー


「いけすかねぇ野郎だよ。

 ”裏社会の天才詐欺師”とか呼ばれてる野郎で、

 数々の詐欺をこなしてきたやつだー。


 お前が目の敵にしてる黒崎陣矢とタイプは違うが、

 こいつも十分危険な奴であることには違いねぇ」


明信の言葉に、治夫が表情を曇らせながら

ホワイトボードに貼られた「臼井隼人」の顔を見つめるー。


目黒警視正によれば、

臼井隼人は、元々は裏社会の天才詐欺師として暗躍

しているだけだったが、1年ほど前に”黒幕”と接触、

人を皮にする力を手に入れて暗躍しているのだというー。


その臼井隼人が、世間のバッシングを警察に向けさせる”罠”を

仕掛けてきたのだー。


テレビでは、繰り返し、アイドル・美桜の最後の動画の映像が

報道されているー。


「---やっほ~~!今日ね、美桜から大事な報告があるのー!


 実はね、知ってる?最近、

 ”人を皮にして着る”犯罪者がいるのー!

 着られた人間はね~乗っ取られて

 身も心も思いのままにされちゃう!」


 --でもね、警察はそれを隠してる?

 どうしてかなぁ…?

 ”人を皮にする凶悪犯”モルティングー

 警察が必死に隠したがってる凶悪犯ー


 あ、こんなこと言っちゃうと、やばいかも!

 わたし、消されちゃう!

 ファンのみんな、もしもわたしが、死体で見つかったりしたら、

 わたし、警察に消されちゃったってことだから、

 その時はよろしくね!」


美桜が”皮”にされて乗っ取られていたことも知らずー

世間は警察の隠蔽だと、騒いでいるー。


「---しかし、何か行動しないとまずいのでは?」

好青年風の幸成が言うと、

目黒警視正は、すぐに返答したー。


「--矢神くんと、三枝くんは、臼井隼人をー

 治夫くんと、堂林くんは、黒崎陣矢の行方をー

 それぞれ追ってくださいー。


 警察へのバッシングの件は、私と剛で対処します」


”剛”-

目黒警視正としか会わない、対策本部所属の謎の人物ー。


指示を聞いて、アウトロー風の明信と、ギャル風の真綾は

すぐに対策本部の外に出ていくー


目黒警視正も、対策本部の部屋から出て行こうとするー。


「--あ、あのっ!」

治夫が、目黒警視正を呼び止め、

ホワイトボードを指さすー。


”人を皮にする凶悪犯”の顔写真が貼られているホワイトボード…


黒崎陣矢ー

臼井隼人ー

班目順太郎ー

中曽根佳純ー。


このうち、班目は、先日、女子高生・由愛に潜んでいたところを

アウトロー風の明信が射殺しているー


だがー

治夫は、目黒警視正らがほとんど話題に出さない

”中曽根佳純”という人物のことが気にかかっていたのだー


「-その中曽根という女は、探さなくていいのですか?」

治夫が言うと、

目黒警視正は「えぇ」と呟いたー。


「彼女は半年前、その存在が確認されて以降、

 一度も姿を見せていませんー。

 現在は完全に消息不明の状態ですー。


 生きているか死んでいるか分からない”中曽根佳純”を

 探すよりも、現在進行形で行動しているモルティングー

 黒崎陣矢か臼井隼人を追う方が”黒幕”に早くたどり着けるー

 それだけのことです」


それだけ言うと、立ち去っていく目黒警視正ー


「-----」

好青年風の幸成が、”中曽根佳純”の写真をじっと見つめているのに

気づいた治夫が、「堂林さん?」と声を掛けると、

幸成は「あぁ、いや…、さぁ、一緒に黒崎の行方を突き止めよう」

と、いつも通りの笑顔を浮かべたー。


・・・・・・・・・・・・・・・


街はずれの倉庫ー。


薄暗い場所に、裏社会の天才詐欺師・臼井隼人がやって来るー。

一見すると、穏やかそうな小奇麗なスーツを着た男だー。


「--ご苦労だったな、臼井ー」

倉庫の奥のイスに座っている男ー

”人を皮にする力”を黒崎や臼井に与えた”黒幕”がそう呟くと

臼井隼人は頭を下げたー。


「--しかし、警察へのバッシングはすさまじいー

 これでは警察もただでは済まないでしょうな」

隼人が言うと、黒幕の男は笑みを浮かべるー


「いやーー

 数日内にうまく”処理”されるだろうー。

 ”警察”とは、そういう組織だー。」


黒幕の男は、憎しみに満ちた目でそう呟くー


そして、さらに口を開いたー


「--だが、それでいいー。

 ”警察の闇”を、今一度、確認しておきたいだけだー。


 奴らは必ずー

 今回の件を強引な手段で片づけるー。


 必ずー」


黒幕の男と臼井が話しているのを横で聞いていた女子大生が

口を開くー


「--くくく、難しい話はどうでもいいけどよ、

 俺は今度こそ奴をぶっ殺すぜ…!この新しい”洋服”でな」


綺麗な手を握ったり開いたりしながら笑みを浮かべる

女子大生の鈴ー。

黒崎陣矢にデパートで乗っ取られた女だー。


「--君も、物好きだな」

臼井隼人が言うと、鈴はペロリと手を舐めたー


「-この綺麗な手を、血で汚すのに、芸術性を感じるんだよ 俺はー

 さっき、この女の彼氏をぶっ殺した時も

 最高にこの女の身体、ゾクゾクしたぜぇ?」


可愛い声で表情を歪めながら呟く鈴に対しー

臼井隼人は「下品な男だ」と、見下すような目で呟いたー。


「---へっ!芸術を理解できない堅物野郎が」

鈴はそう叫ぶと、

「こういう綺麗な、芸術品のような女をさぁ、

 自分の意のままに動かして、この手をどんどん汚していくー」

と、興奮した様子で呟いたー


「-ふん」

隼人が目を逸らすと、鈴は「まぁいいさ」と、呟き、

黒幕の男の方を見つめたー


「-この新しい”洋服”で、あの生意気な若造を

 血祭りにあげてやるぜ


 …構わねぇよな?」


鈴の言葉に、黒幕の男は、目を閉じて頷いたー。


長瀬 治夫ー

若き交番勤務の警察官ー


黒崎陣矢は、その治夫に何度も邪魔されたことで、

治夫を目の敵にしていたー。


「---くくく」

ナイフを手に、ペロリとそれを舐めると、

鈴は、倉庫の外へと出ていくー


「--------」

臼井隼人は、鈴が出ていくのを確認すると、

静かに呟いたー。


「---”内通者”からの情報はー?」

とー。


隼人の言葉に、黒幕の男は

”モルティング対策班に忍び込ませている内通者”からの

情報を、臼井隼人に対して呟いたー


・・・・・・・・・・・・・・・・


「--ーーーえぇ、はい、問題ありません」


暗い部屋で、目黒警視正がイスに座っている男と話をしているー。


「--例の件は”剛”を使って処理をするー

 それでよろしいでしょうか?」

目黒警視正の言葉に、相手の男は頷いたー。


「--わかりましたー。では、そのようにいたします」

目黒警視正は不敵な笑みを浮かべながら頭を下げると、

そのまま礼儀正しく部屋の外へと退出したー


「-----」

残された男は、窓の外に広がる夜景を見つめながら、

目を細めたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


結局、黒崎の手がかりはなしー。


「----」

治夫は、帰宅すると、机に飾ってある中学時代の卒業写真を見つめるー。


 ”自分の信じた道を進め

 信じた道を進めなくなった時、未来への扉は閉ざされる”


泉谷先生に”あの時”言われた言葉を思い出すー。

中学時代の恩師・泉谷先生から言われた大切な言葉ー


「自分の信じた道…

 これでいいんですよね?」


治夫が、泉谷先生の写る写真に向かってそう呟くと、


「お兄ちゃん~~!」と、数日前から遊びに来ている妹の聡美が

部屋に飛び込んで来たー


「--また泉谷先生に語り掛けてたの~!?

 お兄ちゃん、泉谷先生好きすぎ~!!」


聡美が笑いながら言うと、

「はは、ごめんごめん」と、治夫がテーブルの方に向かうー。


「いただきま~す!」

彼女の亜香里が用意した晩御飯を口に運ぶ3人ー


「-わたしのほうが~もうちょっと美味しく作れますけどねぇ~」

妹の聡美が、亜香里にライバル心をむき出しにしているー


「え~?ほんとに~?じゃあ、今度食べてみたいなぁ~」

亜香里はにこにこしながらも、目は笑っていないように見えたー


「(女の闘いには関わらないでおこう)」

治夫はそんな風に思いながら、ご飯を黙々と食べているとー


「そういえば、泉谷先生のこと、どうしてそんなに

 尊敬してるの?」

亜香里が不思議そうに言うー。


中学時代は、別々の学校だったため、亜香里は”泉谷先生”を知らないー。

治夫が”泉谷先生”を尊敬しているのは知っているのだが

詳しく話を聞いたことはなかったー。


「あぁ…泉谷先生は俺の中学時代の担任でさ…」


治夫は語り出すー。


当時ー

クラスでいじめを受けている男子生徒がいたー。

当時から正義感の強かった治夫は、迷わずその男子を助けー

いじめっ子を撃退したのだー。


しかし、そのいじめっ子の兄ー

年が少し離れた大学生の兄は”地元でもちょっとした有名人”な

ワルで、後日、治夫が、”いじめっ子の兄”と、その友人らー

不良に拉致されてしまったことがあったー。


その時に、担任の先生だった泉谷先生は、

不良のアジトで会ったゲームセンターまで乗り込んできてー

不良らを撃退ー、治夫を救出したのだったー。


治夫は、身の危険を呈してまで、不良から自分を助けてくれた

泉谷先生に感謝したー。


しかしー

泉谷先生は、怪我をしただけではなく、

不良と暴力沙汰を起こしたことで、しばらく停職処分になってしまったー


治夫はそれを”自分のせいだ”と感じて、

停職明けの泉谷先生に謝るため、職員室に向かって頭を下げたー。


しかしー

泉谷先生は笑いながら言ったー。


”どんなことがあっても、教え子を守るー

 それが、俺の仕事だからな

 気にするな”


とー。


「---でも、先生ー」

”申し訳ない”

そんな気持ちでいっぱいになっていた治夫が言うと、

泉谷先生は「お前は、いじめられている友達を助けたんだ。

お前は正義のヒーローだ。何も悪いところなんてない」

と笑いながら答えたー


そして、治夫の方をまっすぐ見つめて言い放ったのだー


「いいか、長瀬ー

 ”自分の信じた道を進め

 信じた道を進めなくなった時、未来への扉は閉ざされる”」


とー


「--え…ど、どういう意味ですかー?」

当時、中学生の治夫は首を傾げたー


泉谷先生は、そんな治夫を見つめながら笑うとー


「俺の信じた道は、”自分の教え子を守ること”

 だからー俺は、お前を救ったー


 お前もいつか見つけるんだー

 自分の信念をー。


 そして、自分の信じた道を、進むんだー」


と、優しく治夫に言い放ったー



「---ふ~ん、学園ドラマみたいな先生ね」

過去の話を聞き終えた亜香里がにっこりと笑うと、

「泉谷先生、本当に生徒思いでさ~」

と、懐かしそうに治夫が言うー。


「俺が”悪いやつらを捕まえて、みんなを助けたい”って

 警察官目指し始めたのも

 泉谷先生がいたからこそだし、さ」

と、治夫は笑ったー


「---んん~~~~」

隣にいる妹の聡美がうなるー。


「--ど、どした?」

治夫が戸惑いながら言うと、

聡美は「お兄ちゃんにそんなに好かれてるなんて、

嫉妬しちゃうううう~~~~~!」と、

怒りの形相で叫んだー


”お兄ちゃん大好きっ子”の妹・聡美ー。


そんな聡美を見て

治夫と亜香里は苦笑いしたー



夜まで、楽しいひと時は続くー


亜香里と、聡美が部屋の中で

楽しそうに雑談しているー


「--お兄ちゃんは、わたしのものですからねっ!」


「--も~…分かってるってば~」


治夫の妹・聡美は彼女の亜香里に嫉妬しー

亜香里は困惑しながらも、聡美を妹のように可愛がっているー。


「---ははは」

治夫は、そう呟きながらアパートのベランダで星空を見つめたー。


警察官は、神ではないー

人間だー。

全ての人々を守る、なんてことは幻想でー

実際には守れない人も大勢いるー


でもー


治夫は、聡美と亜香里が楽しそうにしている

部屋の中を見つめるー。


自分の手の届く範囲内の人だけでもー

守ることは、出来るー。


「----」

空を見上げながら、

死んでしまった由愛や、交番の先輩、塚田総司、宮辺奈々子のことを

思い出すー。


「--もう、これ以上ー

 これ以上、絶対に、何も奪わせないー」


治夫は、夜空を見上げながらー


「これが俺の信じる道ですー

 泉谷先生ー」


と、中学時代の恩師のことを思い出しながら、そう呟いたー



同じ星空を見上げながら、別の場所で”黒幕”の男が呟いたー


人を皮にする力を、犯罪者たちに提供しー

”何か”を目論む男ー。


「----」

いつも肌身離さず持っている小さな写真を見つめるー


そこにはー

”教え子”が写っているー。

”殺された”教え子の写真がー。


「--長瀬 治夫ー」

黒幕の男は、静かにその名前を呟くー


「お前は今でも、自分の信じた道を進んでいるのかー?」

懐かしそうに、そう呟くと、黒幕の男は、

少しだけ笑みを浮かべてから、続けて呟いたー


「--これが、俺の信じた道だー。

 誰にも邪魔はさせないー

 たとえ、お前であってもー、な」

 

”人を皮にする凶悪犯”の背後に潜む黒幕ー

泉谷 聖一(いずみや せいいち)は、

星空から背を向けると、そのままアジトにしている倉庫の中へと

歩き出したー



⑪へ続く


・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


長編の第10話でした~!

もう10話…!あっという間ですネ…!


次回は、女子大生を皮にした凶悪犯・黒崎が

襲来します☆


今日もお読み下さりありがとうございました~!

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