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「なんだよこれ…」

七雄が部屋の中で呟くー


「なんだよこれ…ふざけるなよ…!」

可愛い声で、自分の膨らんだ胸を力強く押すー。


けれど、そんなことをしても、胸が無くなるはずもなくー、

七雄はただ、戸惑うことしかできないー。


「--くそっ…くそっ…いらないんだよお前…!」

自分の胸に対して、憎しみの言葉を吐き捨てる七雄ー。


「なんでこんなに膨らんでるんだよ!!くそっ」

七雄はそう吐き捨てるようにして言うと、不愉快そうに

自分の机を蹴り飛ばしたー


「俺は男だ…

 俺は、、俺は…!」

無理矢理低い声を出そうとするー

けれど、どんなに意識をして低い声を出そうとしても、

やはり、七雄の口から出て来るのは

”可愛らしい女の子の声”


ごまかしきれない、現実ー。

どうすることもできない、現実がそこにあるー。


「---なんだよ…なんなんだよ!」

アソコのあたりに手を触れて、

アレがないことにいら立つ七雄ー。


身体が女子になろうとも、自分は男子だー。

少なくとも、七雄はそう思っているし、

そう振るまっているー。


周囲のみんなも”今まで通り”普通に接してくれれば

それでいいー

そんな風に思っていたー。


身体が女子になったからって、特別接し方を

変えたりしていないし、女子であるということを

意識させるようなことや、

女を武器に誘惑するようなことも、していないー


”普通”


ただー

そんな日常があれば、満足だったのにー


現実は、厳しかったー。

”それじゃ”ダメだったー。


日に日に、周囲のクラスメイトたちの接し方が変わって行くー。


”同性”ではなく”異性”に対する接し方にー。


男子トイレを使うこともできなくなりー

体育の授業前に同じ部屋で着替えることもできなくなりー

挙句の果てに、親友の照也に襲われてしまったー。


「--照也…すまねぇ…」

可愛い声でそう呟く七雄ー


照也が七雄を襲ったのは

七雄が”身体が女子になったのに男子として振舞っていた”せいだとー

つまり、自分自身のせいだと、七雄は考えていたー


平気で男子の前で着替えたりー

平気で今まで通り接したりー

そんな、自分の行動が、親友である照也の理性を壊してしまったのだとー。


照也は今、自分のせいで停学処分になってしまったのだと、

七雄は、そう思っていたー


”男子として、自分は今まで通り普通に振舞うし、

 みんなも気にせず、今まで通り普通に接してほしいー”


そんなことはーー

”無理”だったのだー。


「--俺は……どうすりゃいいんだよ…」

七雄はそう呟くと、しばらく”自分のこれから”を考えたー。


「---------」


クラスメイトたちの顔が浮かぶー。

親友の照也の顔が浮かぶー。


照也に襲われた際に、

七雄は”男子”に対して恐怖を抱いてしまったー


女子になった自分の身体ではーー

照也に抵抗することができなかったのだー


次第に、自分が、”男子校”に行くことに恐怖を

抱いてしまっていることにも、気づいていたー。


「----」

七雄は、鏡を見つめながら立ち上がるー。


そして、父・功と母・丸江に”話があるんだ”と言うと、

七雄は、今までの学校での出来事を話し始めたー


自分としては普通に男子として扱ってほしかったことー

だから、今まで通り普通に振舞っていたことー

けれど、日に日に周囲の反応が”異性”に接する反応に変わったことー

親友の照也のことー。


「--俺…自分が元に戻れる可能性があるのか、知りたい」

七雄の言葉に、父・功は表情を歪めるー。


「--俺、病院で診察を受けたいー。

 自分の身体に、何が起こってるのかー」


七雄が真剣な表情でそう言い放つと、

母の丸江は、父・功の方を見つめるー。


功は少し考えてから、口を開いたー


”朝、起きたら女になっていました”

そんなことを病院で言っても、頭のおかしなやつだと

思われるだけで、まともに取りあってもらうことは出来ないー。

父・功はそう判断して、七雄が病院に行くことに

反対していたー。


当初、七雄本人も病院に行くつもりはなく、

前向きに考えていたために、それでよいと思っていたー。


だがー

今の七雄は違うー

自分が女になってしまったことを、本気で悩んでいるー。


「俺、知りたいんだー

 自分が男に戻れるのか、それとも、戻れないのかー。

 そして、その上で自分の未来を考えたいー」

七雄のまっすぐな視線を見つめてー

功は頷いたー


「わかったー…

 なんとか、お前の身体を見てくれる先生を見つけてみる」


いきなり病院に行っても”おかしなやつ”扱いされるのは

目に見えているー。


だからー…

事前に調べる必要があったー。


「--ありがとう、父さん」

七雄はそう言うと、

「俺、どうなるのかなぁ」と少し寂し気に呟いたー


・・・・・・・・・・・・・・・・・


七雄は、すっかり”自分が女子”であるかのような

振る舞いを高校でするようになったー


周囲を避けるような感じにもなったー


”性的な対象として見られるこの身体”

”男子に力で制圧されたらどうにもならないこの身体”


その状況が、怖かったのだー


自分がどんなに男子として振舞っても、

周囲は、そう見てはくれないー。

それどころか”女の身体で男子として振舞う”ことで、

親友の照也のような”暴走”を招いてしまうー。


数日後ー


照也が停学から復帰したー。


照也に呼び出された七雄は、

空き教室ではなく、正門前を指定したー


照也は少し考えてから

「そっか…怖いもんな」とだけ、呟いたー。


正門前にやってくると、

照也は「本当にすまなかった」と、頭を下げたー


「--お前はお前だって分かってるんだけど… 

 でもさ、、身体はどう見ても女子だし…


 いや、女子だったら襲うとかそんなことはねぇんだけど…

 お前が男として振舞ってるし、

 お前は親友だし…


 なんかもう、頭が、、頭がバグっちゃって、、俺…」


そんな照也に、七雄は「俺のほうこそ、ごめんな」と

呟いたー。


「---」

照也が七雄の方をみるー


「--中身は俺でもーー

 そうだよな…こんな声だし、胸もあるし、肌も…

 ここにアレもついてねぇ…


 無理があるよな…

 俺、”自分がいつも通り振舞ってれば”

 みんなもいつも通りだって、そう思ってたー


 でも、無理だよなー

 俺の方こそ、ごめん」


どんなに男子として振舞っても

”身体は女子”の七雄が男子トイレに入ってきたり

同じ部屋で平気で胸を晒して体操着に着替えたりしていれば

周囲の頭が混乱してしまうのは、無理もないー。


七雄も、それを自覚することができたー。


「--ごめんな。照也」

七雄がそれだけ言うと、照也は

「そんな…そんなこと言われると、また俺の頭がバグりそうだ…」と

苦笑いしたー



そして、数日後ー。

七雄の身体を診察してくれる病院が見つかったー


表沙汰にはなっていないものの、過去にも”数例”

七雄と同じような人間がいて、

その診察経験もある先生が見つかったのだー。


田上医院という、隣県にある診療所で、

そこの先生、田上凛子(たがみりんこ)先生が、

診てくれるのだというー。


早速、土曜日を利用して、

父親の功は有給を取得し、一緒に田上医院へと足を運んだー


色々な身体の検査をされてーー

田上先生は首を振ったー


「結論から言うと、身体の構造は完全に”女性”のモノに変異していますー。

 おそらく、もう、元には戻れないでしょう」

田上先生が言うー。


「--で、でも、俺、急にこうなったのでー

 また、急にーー」


「----その可能性は、低いです」

田上先生が呟くー


「--朝起きたら急に性別が変わっていたー

 そういう状況になる人間は”ほぼ”いませんー。

 可能性としては0.1以下…

 いえ、本当に、ほぼ0の確率です。


 あなたが、もう一度”朝、急に起きたら男になっていた”という

 状況になる確率は、ほとんどないー

 ということです。」


田上先生は言うー

”朝起きたら性別が変わる”原因は不明ー


けれど、何億人にひとりー

いや、もっと低い確率でその現象が起きる人間がいる、

とー。


”何億人にひとり”レベルの確率の出来事が、もう一度、七雄に起きる

可能性は、ほぼ0に等しいー

つまり、戻れないと考えるのが現実的でしょう、と

田上先生は付け加えたー


「----…じゃあ俺…”女”として生きていくしかないってことですか?」


その言葉に、田上先生は言葉を詰まらせたー


だが、七雄は既に覚悟はしていたー


「-大丈夫です。本当のことを、はっきりと、教えてくださいー」

七雄の言葉に、

父・功も、戸惑いながら田上先生の方を見つめたー


田上先生は少しだけ微笑むと、

はっきりと断言したー


「--そうです」

とー。


そして、田上先生は、七雄の方を見て、

小声で呟いたー


「---わたしも、あなたと同じーー」

とー。


「--え?」

七雄が驚いて聞き返すと、

田上先生は、もうそれ以上何も答えなかったー。


・・・・・・・・・・・・・・・


「---今日から、新生活か」

父・功が呟くー


「---あぁ」

七雄がうなずくー


七雄は学校の制服に着替えー

そして、鏡を見つめるー



あれから1カ月半ー


七雄の髪は再び、伸びていたー。

綺麗に整えられた黒髪ー


程よいメイクをしてー

七雄が身に着けていたのは、女子高生の制服だったー


スカートを見つめながら

「まだ慣れないけど…」と苦笑いする七雄ー。


「--でも、俺、頑張るよ」

七雄の言葉に、父・功は、頷いたー。


七雄はーー

男子校を退学したー。


”俺、もう、みんなと一緒にはいられないー”


最後の日ー

みんなの前で七雄はそう言い放ったー。


”俺はみんなと一緒にいたいー

 でも、この身体で、ここにいれば、

 俺はみんなを壊してしまうー”


とー


そして、七雄は自分の運命を受け入れてー

”女”として生きていくことを決めたと言い放ったー


「女になりたかったわけじゃないー

 でも、別に俺は性別とか、あんまりこだわりもないからさー。

 

 もう、、なんかほら、吹っ切れたからー

 ラッキーって思うことにしたんだー」


きょとんとするクラスメイトたちに、七雄は言い放ったー


「普通は「男」か「女」どっちかしか、味わえないだろ?

 でも、俺は1回の人生で両方知ることができるんだー


 だから、なんか、ラッキーなのかなって…

 前向きに、さ」


七雄は、笑顔だったー


最後にクラスメイトに、七雄はこう言い放ったー


「--将来、もしどこかで再会したらー

 その時は、お前たちが惚れるぐらいの女になっててやるぜ」


と、笑いながらー


・・・・・・・・・・・・・・・


そして、今日ー


七雄は、女子高に転入したのだー。


照也の件から、男子に対する恐怖心が

まだ残っている七雄は、女子高を選択したー


決して、下心からではないー。


田上先生のサポートも得て、

七雄は、菜々緒(ななお)という名前を手に入れて、

名実共に、女子として生きていく道を手に入れたー


新しい高校の教室入った彼ー

いや、彼女は、

笑顔を新しい同級生たちに振りまいたー。


「---今日からお世話になる

 杉原 菜々緒ですー

 よろしくお願いしますー」



数年後ーーーー


「---」

大学生になっていた照也は

学園祭の海上を歩いていたー


その時だったー。


「---久しぶり」

背後から女に声を掛けられた、七雄の親友・照也は振り返るー


とても綺麗な女性が微笑んでいるー


「--え?」

照也は”人違い?”と思い、「え…どちら様ですか?」と

首を傾げると、

その女性は口を開いたー。


「--ーーふふ、わたし、すっかり女らしくなったでしょ?」

とー。


その言葉に、照也は「お前もしかして…」と

顔を赤くしながら呟いたー


おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


男子校の男子高校生が女体化してしまうお話でした~!


色々壁にぶつかることもありそうですが、

本人が前向きなので、ハッピーエンド…ですネ~!たぶん…!


お読み下さり、ありがとうございました~~!

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