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床に、コップが落ちてジュースが零れ落ちるー

尻餅をついてしまっている母親ー


ラバースーツ姿の直幸は、絶望の2文字が頭の中に浮かんだー。


「--あ、、あ、、、あ、、、あなた、、、え…」

母親は完全に戸惑った様子で、ラバースーツ姿の直幸を見つめているー


「---え…」

直幸も戸惑うー


”今、変身を解除するところを、見られたー?”


もし、見られていたら終わりだー。

大学の意中の相手・絵美里に、変身薬で変身して

色々楽しもうとしていた直幸ー。


そのために、両親と妹の奈緒子が、祖父母の家に遊びに行く日を

見計らって、入念に準備を行ってきたー。

それなのにー

それなのにーー

どうしてー?

どうしてこうなったー?


「--あ、あなた…なんで、そんな格好ー」

母親の言葉に、直幸は、闇の中に光を見たー。


”そんな格好ー”

つまり、ラバースーツ姿の直幸のことを言っているー。


”ってことはー”

直幸は、すぐに頭をフル回転させたー。


もしも、絵美里から直幸の姿に戻る場面を見られていたとすればー

母親の第1声は、

”ラバースーツを着ていること”ではないはずだー。

絵美里の姿から、直幸の姿に戻ったことについて、聞いてくるはずー。


だがー、

今、母親は”直幸がラバースーツ姿で立っていること”について

疑問を口にしているー


ならばー

”変身を解除する瞬間”は見られていない、と考えられるー。


「---あ、、あは、あははは 見られちゃったかぁ~」

直幸は頭を掻きながら、母親に向かって

「ジュース落とすぐらい、驚かないでくれよ~」と笑うー。


「---そ、、そ、、その格好はーー

 さ、、さっき、彼女さんが着ていた服、、、よね?」

母親は直幸の方を唖然とした表情で見つめているー。


絵美里に変身した直幸は、

咄嗟に”直幸の彼女”だと説明したー

さっき、ラバースーツ姿で外出したり、帰宅するのを見られているー


直幸の母親は

”直幸が彼女の服を勝手に着ている”

そう思っているのだー


「ん?あ、いや、違うよ。

 これはさ、来月の文化祭で劇をやる予定なんだけど、

 その衣装でさー。


 俺と絵美里…あ、いや、幸恵は暴走族役だから、

 その練習を今日してたんだよ」


絵美里に変身していた直幸は

変身を解除後にトラブルにならないよう

絵美里姿の状態で、両親と妹の前では、”幸恵”と偽名を

名乗っていたー。


”絵美里”と本名を名乗っても良かったのだが、

もしも家族が”本物の絵美里”と今後出くわすようなことが

あれば、厄介なことになるー

だから、”絵美里の姿”だが、絵美里とは名乗らずに

幸恵と偽名を名乗ったのだー。


一瞬、つい、”絵美里”と言ってしまったが

すぐに名前を言い換えたー。


「---そ、、そ、、そうなの」

母親が”腑に落ちない”という感じの表情を浮かべながらも

なんとか納得するー


「で、幸恵さんは?」

今、直幸は変身を解いたー

”絵美里姿の直幸”はもう、この場にはいないー


「--あぁ、さっき急用が出来て帰ったよ」

直幸が苦笑いをしながら言うと、

母親は首を傾げていたものの、なんとか納得した様子だったー


「--セーフ」

母親が立ち去ったのを見て、直幸は、ドキドキする心臓に

手を触れたー


危なかったー

本当に、終わるところだったー


「あとはーー」

直幸は、ラバースーツから、手早く自分の普段の私服に

着替えると、そのまま妹の奈緒子が帰宅するのを待ったー


タイミング悪く、奈緒子と足を運んだコンビニに、

”本物の絵美里”が、やってきて、

奈緒子が絵美里に気づいてしまったー。


当然、兄が絵美里の姿に変身していた、なんて夢にも

思っていなかった奈緒子は、本物の絵美里に普通に

声をかけてしまい、本物の絵美里は戸惑っていたー。


あのあと、どうなっただろうかー。


「---大丈夫だ、落ち着け、俺」

直幸は深呼吸しながら奈緒子の帰りを待つー。


本物の絵美里と、どんな会話をしたのだろうかー。

まさか、本物の絵美里と意気投合して、

奈緒子と絵美里がここまでやってくることはないはずー


絵美里は”人違いだと思いますけど”みたいなことを

言っていたし、奈緒子もきっとー


そんな風に考えていると、奈緒子が帰宅したー。


コンビニで買ったお菓子を持っている奈緒子ー


「あ、お兄ちゃん!いつの間に帰ってたの?

 探したんだよ~!

 彼女さんと一緒に!」

奈緒子が頬を膨らませながら言うー


「ははは、悪い悪い」

直幸はドキドキしながらそう言うと、

奈緒子が「あ、そうだ!さっきコンビニで、幸恵さん

そっくりの人がいたよ~!」と笑うー。


「ははは、マジか~」

直幸は笑いながら背を向けるー


”本物の絵美里”のことを言っているのだろうー


「でもね~、人違いだったみたい!悪いことしちゃった!」

奈緒子の言葉に、

直幸は「ふ~~~」と、ほっと、胸を撫でおろしたー


これでー


これで、なんとか、家族に対して誤魔化すことができたはずだー。


「幸恵さんは~?」

奈緒子が笑いながら聞くー


「ん?あ、あぁ、もう帰ったよ」

直幸がそう言うと、奈緒子は「え~~~~!そんなぁ~」と呟くー


「もっとお話したかったのにぃ~」

奈緒子の言葉に、直幸は

「ま、今度また遊びに来てくれるよ」と笑ったー


”もう、二度と来ないけどなー”

直幸は内心でそう呟くー


もう、こんなことごめんだー。

大学の同級生に変身して

あんなことやこんなことをしようとしていた、なんて

家族に知られるわけにはいかないー。


あとはー

タイミングを見計らって、絵美里姿で着ようとしていた

エッチな衣装を捨てて、メイク用品を捨てれば

”完璧”のはずだー。


”幸恵とは別れた”と言えば、なんとかなるだろうー。


「--ふぅぅ~~~あぶなかったぁ~~」

部屋に戻った直幸は、へとへとな様子で、そう呟いたー。


「--実家暮らしのうちは、他人に変身して

 遊ぶなんて、するもんじゃないな…」

直幸はどこか寂しそうにそう呟くー


もしも、両親と妹がそのまま祖父母の家に

予定通り、遊びに行って、宿泊していたのであればー

今頃、絵美里の姿で、コスプレしたり、

エッチしたり、お風呂に入ったり、

自撮りを楽しんだり、色々な言葉を口にさせて

それを録音したりー


たっぷりと楽しめていたはずなのにー。


そう思ってしまうと、どうしても、

”祖父が風邪を引いてしまって、ドタキャン”に

なってしまった状態に”運が悪すぎるだろ”と

思わずにはいられなかったー。


けれどー

最悪の事態は免れることができたー。


家族に、”同級生の女子に変身して、エッチなことをしようとしていた”

なんてばれたら、もう最悪だー。


「--この服は、捨てよう」

メイド服やチャイナドレス、ラバースーツを袋に詰めて

自分の部屋の押し入れの中に放り込むと、

直幸は寂しそうにそう呟いたー。


・・・・・・・・・・・・・・・・


翌日ー


直幸が大学の食堂で昼食を食べていると、

絵美里が近づいてきた。


「--ちょっと、いいかな?」

絵美里の言葉に、「あ、、うん」と、直幸は

昼食を済ませて、人の気配のない場所に移動したー


絵美里とは、恋愛関係には全くないものの

高校時代からの間柄で、それなりに話す間柄ではあるー。


「---田宮くんの、妹さんに昨日、コンビニで会ったんだけど…」

妹とは、奈緒子のことだー。

直幸は少しドキッとしながら絵美里の方を見るー


「ーーなんか、わたしのこと”幸恵さん”と呼んできたりー 

 ”お兄ちゃんの彼女さん”って言ってきたりしてたんだけど…」

絵美里が戸惑った様子で直幸を見つめるー。


「---…え…あ、、妹はほら、ちょっとドジだから」

直幸が苦しい言い訳をすると、絵美里は表情を歪めたー。


「---わたしのこと、勝手に彼女扱いしてるの?」

絵美里が不満そうに呟くー


「え、、い、、いやいや、そんなことしてないよ!」

直幸は戸惑いながら答えるー。


「-だって、妹さん、わたしのこと、完全に田宮君の

 彼女だと思い込んでたよ?


 普段、わたしの写真見せながら「これ俺の彼女なんだ~!」

 とかやってるんじゃないの?」


絵美里が少し怒りっぽい口調で言うー


「そ、、そ、、そんなこと、しないよ!」

直幸は引きつった笑顔で答えるー。


”そんなことはしてない”

それは、事実だー。


だが、もっとヤバいことをしていたー

勝手に変身薬で絵美里の姿に変身して、

あんなことやこんなことをしようとしていたー


「--そういうの、やめてよね。

 田宮君の彼女になるとか、マジでありえないから」


絵美里はそれだけ言って立ち去っていくー


”ついでにハッキリ振られたー”


直幸の片思いの夢は、どさくさに紛れて、終わったー。


・・・・・・・・・・・・・・・・


悲しそうな表情で帰宅した直幸ー


「ただいま」

直幸が元気なく呟くとー

そこに家族の姿はなかったー


「ん?」

首を傾げる直幸。


今度こそ、祖父母の家にでも出かけたのだろうかー。


そんな風に思いながら、自分の部屋に戻るとー

そこには、両親と妹の奈緒子がいたー。


「--え」

目を点にする直幸ー


部屋にメイド服とチャイナドレス、ラバースーツ、

バニーガール衣装、巫女服ー

メイク用品が並べられているー


「いっ!?!?!??!?!」

直幸は思わず変な声を出してしまったー


しかもーーー

机にしまってあった”変身薬”の残りや

変身を解除するための”吸引機”ー


さらには、印刷していた”やりたいことリスト”までー


「--あ、、、ぅ…あ?」

直幸は、過酷な現実に表情を歪めたー。


「--お兄ちゃん、変態!」

奈緒子が、軽蔑の眼差しで直幸を見つめるー


「--直幸、、こ、、これ、どういうことなの?」

戸惑う母親ー


「--直幸、ちゃんと説明しなさい」

父親が強い口調で言うー


「--あ、い、、いや、それは、、幸恵が

 勝手に置いて行ったやつでー」


”絵美里姿の自分”の時に名乗った偽名を口にするー


”俺の彼女が勝手に置いていったんだ”と叫ぶー。


「---変身薬」

妹の奈緒子が呟くー


「昨日ここにいた”彼女”さんってー

 もしかしてお兄ちゃん!?」

奈緒子がハッとした様子で言うー


「コンビニでわたしが出会った絵美里さんって人が本物で

 お兄ちゃんが勝手にあの人に変身して

 ここに置いてある「やりたいことリスト」のこと

 やろうとしてたんじゃないの!?」


妙な推理力を発揮した妹の奈緒子に絶望する直幸ー


「--ひっ!?違う!俺は、、俺は、何も、知らない!」


サスペンスドラマで追い詰められた犯人のような

無様な醜態をさらす直幸ー


「---俺は、、知らない!」

直幸は部屋から逃げ出そうとするー


しかしー


「ひぃっ!?」

直幸は尻餅をついたー


そこに、絵美里がいたからだー。


「--な、な、、なんで、、ここにぃ!?」

直幸が叫ぶと、妹の奈緒子が言ったー


「昨日、コンビニで連絡先交換したのー。」

とー。


絵美里が言うー。


コンビニで会った奈緒子が、絵美里のことを

”お兄ちゃんの彼女”と思い込んでいたため、

絵美里が事情を聞いて、奈緒子は、”絵美里姿に変身していた直幸”との

出来事を全て話したー。

この時点で、奈緒子は、”お兄ちゃんが変身している”などと

夢にも思っていなかったものの、

話の食い違いを不審に思った絵美里と奈緒子は、連絡先を交換、

奈緒子が”お兄ちゃんの部屋、わたしが調べてみる!”と

約束してー


今日ーー

直幸が大学に行っている間に、奈緒子が直幸の部屋を

調べてしまったのだー

そして、変身薬を見つけ、奈緒子が、絵美里に連絡して

絵美里を呼び出したー


「--その変身薬で、わたしの姿に変身してー

 そこのリストに書かれてること、やろうとしてたって、こと?」

絵美里が低い声で呟くー


直幸は、観念したー


「----はぃ です」

もはや、言い訳もできないー


「--馬鹿!!!!!!!!!!!変態!」

絵美里の怒声と、ビンタの音が部屋に響き渡ったー


怒りの形相の両親ー

軽蔑の眼差しの奈緒子ー

泣き出してしまう絵美里ー


おわったー

直幸はこう思ったー


そして、天井を向きながら、静かに呟いたー


「実家暮らしで、あんまり変なことしちゃ、ダメだな…」


とー



おわり


・・・・・・・・・・・・・・・・・・


コメント


実家暮らしで、あんなことやこんなことをするときは

注意ですネ~☆笑


お読み下さりありがとうございました!!

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